タイとイヤホンと/番田
昔何を僕は考えていたというわけでもなく。タイに僕はいた。タオという名の島を小型クルーザーのような船で、目指していた。そして、飛行機で日本を出る時に忘れてきていた売店で買ったイヤホンをしていた。人間であるということを、少しだけ考えていたが、答えは見つかってはいなかった。空港から出た時から夜闇の中を歩き続けていた。実際には近いかと思っていたドミトリーはかなり遠く、たどり着かないのではないかと思ったが、歩き続けた。しかし、脇を通り過ぎていくおびただしい数の車たち。プリントしてきた紙の地図を頼りに明かりの少ない道を歩いた。暗がりの中にある、看板の教えられた角を曲がると、ホテルは確かにそこにあった。犬がいないかと、僕は噛まれると危険だと言われるその姿を、そして、恐れていた。無事に僕はその中に、でも、入った。腹を、とても、そしてすかせていた。すぐに何かを食べに、荷物を放り出して外に出かけたかった。
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