ピクニックへの餞/道草次郎
かつて健康だった時、責任も余り無かった時、自分の中のどろどろした感情を殆ど感じずに済んでいられた時、ぼくはよくピクニックへ出掛けたものだ。天気が良く、気持ちのいい風が踵を掠めるような土曜の朝などはとくに。
それは、アルルの跳ね橋みたいな橋の下に水色をした不思議な水門がある公園だった。
それは、白地に薄紫の斑が混ざったジャーマンアイリスや橙色の菖蒲の花が咲いている公園だった。
それは、人々がレジャーシートを敷きその上で『西瓜糖の日々』の登場人物のように愉快なお喋りに弾む公園だった。
そんな公園へ、ぼくはぼくを、しずやかに駆り立てたものだ。
その時ぼくの着ていた服には数え切れない
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