ワタナベさん/道草次郎
20代後半の頃、ボランティアをしていた事があった。
それは人生で唯一、サンタクロースの恰好をしてジングルベルを歌うのを自分に許せた季節であり、一銭にもならない仕事の代わりに、食べきれない量のお菓子とお茶を見ず知らずの人からもらった日々であった。
当時働いていた仕事場の事務所が入っているビルの1階が市のボランティアセンターだったこともあり、ぼくは、時々そこへ立ち寄るようになった。
あの頃は非常勤の仕事を終えると、草原へ放たれる羊みたいに街へくり出してどこまでも意味もなく歩くことがよくあった。でも、その日はたまたま、当時主宰していた自助グループの集まりに顔を出さなければならず、数ブロ
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