彼と彼女の本棚/石田とわ
「ねぇ、この本の表紙知らない?」
彼女は読み終えた本をわたしに見せる。
その顔にはどうしてないのかわからない、不思議でならないと
いった表情がありありと浮かんでいる。
不思議でならないのはわたしのほうだ。
どうしてこうだらしがないのだろう。
片づけられない、物をすぐどこかへ失くすのは
彼女の得意とするところだ。
いつも彼女は読みながら本のカバーを外してしまう。
それはリビングだったり、寝室だったり、キッチンだったり。
外されたカバーはそのまま放置され忘れられる。
「知らない。父さんに怒られるからね。」
本当は知ってるけれど、
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