加害者と被害者/桐ヶ谷忍
 
人は、一生の内に、何度謝るのだろう。
謝罪と、謝礼、どちらの言葉を多く発するのだろう。

皮膚が盛り上がったまま元に戻らない左手首の傷跡を指して
主人が言った。
「君は確かに被害者だったかもしれない。けれど、
今の君は加害者だ。自分の身体を傷つける事によって
親を切っているも同然なんだ」
そして、と続けた。
「君が死にたいと言う度に、俺は愛されていないと
感じるんだ」
そう思わせてしまった事もまた、私が加害を加えて
しまっていた事になる、と申し訳ない気持ちが
沸くと共に、それがどうしたと醒めた自問をしている
自分もいる。

私は、加害者だ
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