真夏の雪、地蔵骨峠の夢/はるな
真夏だが雪の降る日である。こんな日に足湯へゆこうと誰ともなく言い出すのはしごく真っ当、ふだんは気難しい祖母までもが電話を寄越して「足湯かねこんな日は」とめずらしく意見をそろえてきている。
「冬の靴下はまだまだ底にあるわね」
朝いちばんに起きだして、母は靴下を探すために床を剥がしている。妹が免許証を胸のポケットへ入れ、姉が仕事を休むために電話をかけている。
「お前、用意はいいのか」
あかるい黄色のアロハシャツを着た父がそわそわと話しかけてくる。うわの空の私の理由は、はるか遠い場所にありちらちらと見え隠れしている。
「夫を呼んでから合流しようかしら」
と言うと、父親がにやりと笑って「じつは
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