街のにおいを少しだけ嗅ぐ/ホロウ・シカエルボク
ハイブリッドタイヤでアスファルトにプレスされた鳩が、赤い薔薇の刺繍のついたスカーフの様になって風になびいていた。眠り過ぎた瞼が熱を持っていて重たかったが、コンピューターでプログラムを書き換えたみたいにすぐになくなった。橋の上から川面を眺めると、雲間から太陽が覗いて小さな波の先端に光の粒を撒いた。住処からそう遠くない小さな本屋に雑誌を買いに行ったんだ…絶望みたいに冷たい風を正面から浴びながらね。本屋の近くに、ずいぶん昔に閉店した飲食店の廃屋があって、年端もいかない連中がしょっちゅうそこに忍び込もうとして窓やら壁やらに穴を開ける。近頃じゃバカでかい板で窓のほとんどを塞いでいる。その都度きちんと
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