くじら/α
眠ったくじらは夢を見る。眠ったくじらは夢を見て、星の光が点々として美しい宇宙のどこかを泳ぐ。眠ったくじらは夢を見て、宇宙をどこかへ泳ぐ。
宇宙といえども油断せず、夢といえども油断しないでくじらは泳ぐ。陸のことは陸に行かなければ分からないけど、海にいるものが海について分かる程度には、陸のものは陸について分かるだろうか。鏡に映るくじらの目。夢のくじらは何を見る。
眠ったくじらは夢を見て、銀河の合間をゆったり泳ぎ、ときおりくじらの歌を歌う。星団に照らされたくじらの影はときおり歌う。冷えた宇宙の暗い辺りで、遠いくじらの声を聞き、遠くくじらの声を聞く。冷えた宇宙の暗い辺りは、遠いくじらの声だけ響き、遠くくじらの声だけ届く。
眠ったくじらは夢を見て、宇宙を泳ぎ、泳いでいる間(ま)に星がひとつ死ぬのを見、星がいくつか生まれそうな温かい宇宙を見る。ブラックホールをすりぬけて、眠ったくじらは点々と、星の輝く宇宙を泳ぐ。
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