背中/はるな
正しくはないとしりながら、あの背中にもう一度触れなければ詩を詠むことができない気持ちがする。脂肪の薄い、汗ばんだ背中。皮膚の内側にとじこめられた熱、その裏側にある動物みたいな匂い。
数えるほどしか抱き合っていないのに、わたしはそこに閉じ込められている。終わらなければならなかった。それができなくて、いまも閉じ込められている。わたしは熱を信じる。でもだからって、どこへも行けない。
油で汚れた、働き者の手をしていた。右手のほうが左手より荒れていた。いつもきちんと熱くて、すぐに汗ばんでいた。そのくせ触れるときにはすこしひやりとして。腕も足も長くてのびやかだった。恋人のからだとは全然ちがっていた
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