東京タワーで彼女が泣いていた事を僕は知らない/虹村 凌
彼女が電車に乗り込む姿すら見ずに、僕は真っ直ぐに東京駅のホームを歩き出した。たった数秒前に触れていた、細く熱い肩の熱を、空の右手にぶら下げたまま、約束通り、振り返らずに歩いた。中途半端な優しさが、衝動的に振り返らそうとするのを抑えながら、彼女が乗る新幹線の横を歩いた。
僕の進行方向とは逆に向いている階段をひとつやり過ごした。振り返らなければ下りられない階段を使う必要は無い。このまま進めば、振り返らずに下りられる階段がある。振り返らない約束を果たす事で、その夢は終わりを迎えるのだ。夢を見せたなら、最後まで夢を見せなければならない。中途半端は許されない。夢は、夢なのだから。
残った約束は
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