ウイリーの風/剣屋
白い夜霧が山に漂っている。素晴らしい風が吹いている。それらの全ては単車に跨る三人のために存在していた。キリコ、ゼロ、ナナメの三人は夜であり、山であり、風であり、単車だった。三人は福岡市城南区の南端に位置する標高597メートルの油山でワインディング――いわゆる峠攻めをしていた。
清々しい汗をかきながらつづら折りの山道や吊り橋を走り終えて、頂上に辿りつく。福岡随一の夜景スポットと呼ばれる場所なのだが、今日はいくらか空いているようだ。少数の、夏姿の若い男女たちの人影が闇に溶け込んでいる。ひそやかな囁き声がちらほら聞こえる。九州全域は冷夏であるにも関わらず、ここは熱っぽい淡紅色の夏になっている。
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