菌糸/番田 
 

なんでもないこと自体が、君自身を可能なものにするだろうと思った。それは、僕自身ですらもないことだった。何も食べず、欲しがりすらしないことが、もしかしたら生きていこうとすることにほかならないのではないかと。僕という男が、何かを求める存在だったとしても。そうではないこととしての時の流れではない、僕ではないことを感じさせられていく何かに嫉妬させられていたのだといえる。無垢な、純粋な生物としての人間であること。

いや、なんでもないいくつかの休みの日だ。炊飯器の蓋の解放。菌糸の生えた、そんなふうなご飯が手長グモのように、いくつか転がっている。なんということもないのだろうゴキブリがそこに、そんなふうにして姿を現したのは、何週間もキッチンを出さされてからのことなのだ。誰かにそのことの蒸気についてを、胸を張って話そうとしたのだけれどもすることすらない時の流れとしての僕はあるだけの現実にされひとつになっていく。


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