濁流/within
八月、台風九号は二十二名の命を奪い、太平洋の北洋上で一陣の風となった。嵩の増した泥の粒子を束ねた濁流が財田川を下っていた。よく水神として龍や蛇が奉られるのがわかる気がした。うねる濁流はまるで命をもった一匹の神獣のようで、障れば人など、ひとたまりもなく飲み込んでいくような、恐ろしさがあった。
中洲は影もなく、平生の清流が嘘のように、荒々しく、鋭い爪で抉り取った枝木が、飲み込まれ、吐き出されしながら、流れていた。見上げると空は台風一過の快晴で、もう嵐は過去のものとなり、人々はまた忙しい日常に戻され、慌しさに埋没していた。目に映える空の青さと茶色く濁った川がやけに不釣合いで、もしかし
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