「あざらしの島」(2/3)/月乃助
女の暮らしは、毎日打ち寄せてくる波のように、変わる事がなかった。
狭い島の単調な暮らしに飽きそうになると、女は海峡を眺めて夢想した。
海峡の向こう側には、隣国の長く横たわる山脈が夏でも銀嶺の頂と岩肌を見せている。その下をゆっくりと貨物線や客船、ヨットや瀟洒なクルーザーが過ぎていった。ときに海峡に動かずに大きな船がとまっていたが、それはどれも、港からくる水先案内人を待ちながらハンプバックのような鯨の黒い影を見せているのだった。海峡から東にある本土の港までは島の間を縫うように船を走らせなければならない難所だった。
夏の北風の吹く日には、その船が蜃気楼になって不確かな影を見せる。それは、海
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