PCを捨てよ 町へ出よう(2)/花形新次
 
 居酒屋『道草』のカウンターでホッケの焼き物と格闘しながら冷酒を飲んでいると、
隣の席に座った、やっぱり常連のキャバ嬢のマユミが、酔っ払って、僕に向かって
話しかけてきた。
 「あんた、目の見えない青年がアメリカの大きなピアノコンクールで優勝した話、
知ってる?」
それぐらいはテレビや新聞をあまり見ない僕でも知っていた。
 「知ってるよ。」
彼女は僕の答えなどはどうでもいい態で、話し続けた。
 「その記者会見でさあ、どっかの記者が一日だけ目が見えるとしたら何が見たいです
かって、その彼に質問してんのよ。」
彼女はコップにまだ半分ぐらいある酒を一気にあおった。
 「そんなのって
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