蛇つかいたちの行進(1)/吉岡ペペロ
 
 その男をはじめて見たのは、ゴールデンウイークが終わったばかりの頃だった。
 百年に一度の不況のメカニズムは分からないけれど、この四十人ばかりの会社にも、それは充分実感できるのだった。
 上司が煙草を吸いながら耕太ら若い連中に、売上がいきなりこんなに激減したことはなかった、と嬉しそうに語るのは言い訳ではないだろう。
 通勤途中薫るツツジの赤や白がみずみずしくて、そいつと景気のギャップがおかしくて、耕太も笑みがこぼれることがある。
 帰り道には夜のなかに緑が甘く溶けていて、きょう一日の情けないこころに、そういうのが気持ち良かった。

 経営理念の唱和のあと、その男が副社長から紹介された。
[次のページ]
戻る   Point(2)