露悪/秋津一二三
{引用=「すぱげてぃ」
腹を空かせた男がレストランの前を通りかかった。
陳列ケースに並ぶサンプルのスパゲティーが湯気を立てんばかりに輝いていて、その香りまでガラスを越えて届くかのようだった。
男はポケットの中の日銭を確かめた。膝の擦れたズボンを穿いた自分が場違いな存在だということは重々と承知してはいたが、いつもの小料理屋や一杯飲み屋ばかりに行かねばならぬという法もない、と意を決した。
席に着いた男は差し出されたメニューに目を通した。外で見たスパゲティーと寸分違わぬ写真があった。それでも男は心配になりウェイトレスにこれはあるべか、と訊いた。
男がいつも行く店とは
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