深い陥穽に墜ちたとは/積 緋露雪00
 
それは何の前触れもなくやってきた。
それは黒子(ほくろ)と呼ぶのが相応しいのかもしれぬが、
この?体に現はれた真っ黒な点は、その底が余りに深かったのだ。

その皮膚上に現はれた黒点は太陽の黒点にも似て、
強力な磁場で俺を揺すぶりながら、
俺の気配を吸ひ込み、
その黒点に墜ちた俺は
尚も俺を探しながら、
「へっへっ」と嗤ひながらまだ、落ち着いてゐたのは余りに楽観的だったのだ。

その黒子が仮に癌であったならば、慌てふためく筈の俺は、
それを承知の上で上っ面では癌であって欲しいと望んでゐて、
しかし、実際にその現実を突き付けられた途端、
魂魄が動揺し、顫動するのは解り
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