蜩の夕刻/山人
 
一日の縁を、刷毛でなぞるように
蜩はかなしく、ひたすらに鳴いて
いたずらに夏は強度を増し
暑さはまるで言葉を持たなかった

川魚は消え入るような息で
わずかばかりの小さな淵にうずくまっている

風は腐敗し、重く深いため息のように
すこしだけ動いた

巨大な夏の塊の中の空白の日
酷使した体を沼の中に沈ませるように私は
やわらかくなった体を横たえていた

曇天は終日続き
明日から再び綴られる日記帳のために
乾いた声の
蜩の夕刻を過ごしていた




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