窓。/田中宏輔
 
学校のトイレの窓ガラスは、むかしから割れていた。 
洗面台の鏡の端っこに 
生乾きの痰汁がへばりついている。 
その鏡に、学校と隣り合わせに建っている整形美容外科医院の 
きれいに磨き抜かれた窓ガラスが写っている。 
トイレのごみ箱のなかには 
いらなくなった鼻や乳房や骨が捨てられている。 
妹は、小さなうなじに犬の毛を移植したい。 
夜遅く帰ると 
電車の窓の外に見える家々の窓たちは 
奇跡に溢れていた。 
宙に浮いて覗いてまわりたい。 
幼い頃 
真っ赤な薔薇の華を 
妹の股の間に挟ませて眺めていたことがある。 
動かすと、棘が引っかかって 
裸のまま立たせた妹
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