キクチのおすすめリスト 2010年7月31日3時19分から2011年12月17日23時36分まで ---------------------------- [自由詩]日常エラー/薬指[2010年7月31日3時19分] 信号が全部赤だから どこにも行けないと少年が言う じゃあ全部青だったら どこに連れてってくれるのと少女が言う 乗客のいないタクシーは 相模湖まで走り次々に沈んだ 地下鉄が瞬く間に水没して 七色に光るアロワナが泳いだ 俺はガスコンロに咲いた向日葵と 冷蔵庫を貫いた竹とを見比べている 板の間を大粒の雨が打つ正午 屋根があったはずなのにと悔しがっている 景色は至るところで裂けて ひび割れから青い眼が覗いているエラー 信号が一つでも青になったら どこかへ行こうと少年が言う あなたは信号がなかったら きっとどこへも行けないと少女が言う 幾重にも重なり合った自転車が 隅田川を完全にせき止めていた 埼京線の線路を行くインド象の群れは 終点を見ることなく果てていった どこへ行くのと尋ねる女の片眼だけ 俺を静かに刺すように見ている 降り続く雨が止んでいない未明 頭の奥で誰か笑っている やっとのことでそこに辿り着いた俺は ここはどこだろうと呟いているエラー ---------------------------- [自由詩]地下街の柔らかなリズム/ブライアン[2010年8月4日20時30分] 暑い日の地下街、 ジャケットまで着込んだ、汗だらけの中年男性が 足音を立てている。 無数の出口に続く階段を通り過ぎて、 額の汗をぬぐい、隣の同僚に話しかける。 その足音は軽やかで、無駄がない。 踵を引きずるその音まで鮮明に聞こえる。 反響した足音が、 雑踏に消えるまでの間、 天井から差し込まれる日の光が、 彼の体を熱する。 改札口、 彼を飲み込む人ごみがやってくる。 彼はその間をすり抜ける。 額の汗をぬぐう。 人ごみもまた、 足音を立てる。無数の、柔らかなリズム。 脱水症状気味のリズム。 目の前の大きな改札口。 彼の買った切符は、惰性になった行為の繰り返し。 大きな改札口に気を止めるものはいない。 何かの間違いだろ、きっと。 場内アナウンスが流れる。 ただいま、機械の不備により改札が大きくなりました、と。 そうだろ、と彼は同僚に微笑む。 けれどその顔は青ざめている。 柔らかなリズムが肌に感じる。 世の中なんてそんなものなんだよ。 たいていの違和感は、不備による出来事。 気にしてちゃ身が持たないよ。 ため息を吐く彼をよそに、 周囲は騒々しい。 携帯電話、大声。駆け出す足音。 地下街。 音は響くのだ。 気にしてちゃ、どうにも身が持たないよ。 ---------------------------- [自由詩]オセロオ/非在の虹[2010年8月4日21時39分]  怒り           怒りは死を招く  怒り           怒りは死までを招く  わたしの怒りはあなたを奪う  わたしの怒りはわたしじしんを砕く  疑う           わたしの嫉妬をどうしたらいい  疑う           わたしの嫉妬は火山口より熱い  疑いはわたしの喉を絞める  疑いはあなたの喉を絞める 喉を絞める その女の喉を こうしなければ  というせっぱ詰った感情がおれの手にこもり 喉を視ているが 女の顔は分からない 胴から下はさらに心もとない ちゅうちょは出来ない 始めてしまったものは そう考えて あらためて力を込めると 瞬間に全身から冷汗が噴き出した 手の中に喉がない  「わたしという夫がありながら、あなたは他の男と寝たね  それもわたしの部下とあなたは寝たんだ」  あなたは                 寝たんだ  あなたは                 寝たんだ  寝たんだ                 わたしは  妬んだ                  妬んだ  妬んだ妬んだ妬んだ妬んだ妬んだ妬んだ妬んだ妬んだ  妬んだ妬んだ妬んだ妬んだ妬んだ妬んだ妬んだ妬んだ 足もとを見る 誰も倒れてはいない 辺りを見まわす たいまつの照らす所に石壁があるだけだ ハンカチは? あの女の持っていたハンカチは? あれがおれの行動の一切のわけを知っているのだ  「妻は白人だ。わたしは黒人だ  そんなことが負い目になるか  黒い夫 白い妻 男と女 雄と雌 馬鹿と利口 黒と白   黒と白 悪と善?」 すべてがおれの周囲から消えたらしい いくぶんの安堵と背後からつき刺さる後悔 喉元へせり上がる感覚に ベッドの下に向かって思い切り吐こうとしたとき ムーア人の従者の声だ 足もとから冷たい血がいっきょに逆流した 歩みよって来る者は彼方から来るもの  つかの間おれの背後に立った者は 彼方より来たって地べたからわきあがる者か  その顔を見ることができない 喉に巻きつく手が殺意か愛情か 今のおれには判断が付かない        2009年初稿 2010年弐稿 ---------------------------- [自由詩]ハンゲショウ/日雇いくん◆hiyatQ6h0c[2010年8月4日23時31分] 雨が降ってる半夏生 近所では 買い込んできたらしい 蛸を煮た匂いがする 田植えはとっくに済んでいて スーパーのイベントに 体よく使われるだけ のそんな日 一人暮らしには関係ないらしい 夕立だけが続く日々 そういえば梅雨入りしたんだっけ 梅雨ってこんなだったかな 見上げる空はぼんやり 思うこともぼんやり ぼくもぼんやり みんなぼんやり ---------------------------- [自由詩]明星/はるな[2010年8月16日23時09分] おわらない憂鬱を笑うように朝がきて 継ぎ目のない昨日をなくしていく 夜の隅っこに取り残されて 君がついたため息を飾ろう 裏切るようにうつくしい陽がさして 安心な夜を洗い流していく 洗礼を逃れた罪人の気持ちで 君がついいたため息を盗もう おわらない憂鬱を笑うように朝がきて 行き場のない夢に残される 君のため息を盗みだして 溶け残った星にひとつ飾ろう 君が今日に愛されるように あのいちばんはかなくひかる星を盗んで 君のため息を全部飾ろう ---------------------------- [自由詩]鼓動/光井 新[2010年8月19日14時21分]  二丁拳銃前に突き出しドアを蹴破る。  ナイフの風が吹く。二の腕、頬を切り刻む。  赤い光が目に刺さり、黒から白へ、警報が鳴る。  天井から落ちる滴が水溜まりを走る。  心臓は腐っていた。 ---------------------------- [自由詩]追いかける声/乾 加津也[2010年8月28日15時42分] もう見慣れたものさ のんだくれの青空ベッドなんて 誰も起こしたりしないよ シャツの下ボタン肌けて仰向けに 観音菩薩の表情(かお)はいまも石川さゆりの膝枕なんだろうけど 酒やけで毛穴全開サボテンのような無精ひげが痛いよ   中学生のボクは登校中に呼び止められた   「おじさん帰るバス代がないんだけどくれないか」   こずかい千円すべて渡してあげたのに 一言   「そう、・・・いいことしたね」と母にほめられただけ ここじゃ誰も起こしたりしないよ ネオンと客引き さびれた夜の盛り場だからね 飲み屋の壁は薄黄色 縦じま模様の通りだもんね いまは通勤自転車で毎朝通るだけ ボクはオトナになったんだ あなたと同じ世知辛い世の中ってことばもね どんなに階段降りてったって なにも始まりはしないんだよ どこから見てもあなたには パトラッシュと一緒に少年ネロを囲んでたたえる 天使たちもいないよ ビルの谷間の筋交い通りは階級ネコらのテリトリ 縄張りだってあるんだよ 社会は雨よりしみこんで あなたは自分で背を向けたんだ 朝日であたりがぬくみはじめて 今日も肌着をあたらしくする頃 ボクは風をつくって走ってた でも それから少しだけブレーキを効かせたのは そんなあなたからの声が 聞こえたような気がしたから   傷つけ青年   めいっぱい傷だらけの生き恥もって   こんなオレにも見せてみろ!って   いままで聞いたこともないくらい   太くやさしい大地の声で追いかけてきて   なんか しかられてるような気がしたものだから だからいつか (憶えていてくれてたらでいいけど) あの日の千円かえしてよ ずいぶんたったから利子もつくけど かっこわるくて汗臭い 武勇伝でもいいとおもうよ ---------------------------- [自由詩]空を/森の猫[2010年9月19日9時38分] 公園の緑に ふたり ねころがって ぼーっと 空をみている 風が髪をゆらしてく 小指と小指をからめて お互いの体温を すこしだけ 感じている あたしは コットンボイスで ラブソングをうたう 彼は 目をつぶって 眠っているのか 聞いているのか 風が頬をかすめる しずかに しずかに なんて なごやかな日なんだろう あたしは しあわせすぎて なみだぐんだ ・・・・ 空が わらった気がした ---------------------------- [自由詩]Smoky rain/Akari Chika[2010年10月2日23時18分] 黒塗りの雨が心地良い 静かな夕立 水びたしの街 揺れ惑う灯りだけ ひとりぼっちの僕を見てる 光が洩れた バスルーム 子供の声が はねかえる ファミレスの奥で 語り合う人々 コンビニから出た 手を繋ぐ男女 その幸せを 貸してくれ 仮の幸せで いいからさ ふがいない言葉に 身を委ねたくなる 土砂降りの中で 満月を見つけて 立ち止まる マンションの 最上階 暗闇に 唯一灯された光 それは 鍵穴の空いた胸に ぴたりとはまる光 碇を下ろして 夜を待つよ 水びたしの街 揺れ惑う灯りだけ ひとりぼっちの僕を包む 鉛のように くすぶる空 鳥の叫びに むせかえる 途切れたはずの雨音が ひそやかな闇と 光を結ぶ その幸せを 分けてくれ 端の幸せで いいからさ 忍びない言葉と 泥沼を抜け出して 夜へ漕ぎ出す 水びたしの街へ ---------------------------- [俳句]秋の空/こしごえ[2010年10月16日9時06分] 秋の空宙をみつめる遺影かな ---------------------------- [自由詩]夜の時/番田 [2010年10月21日2時07分] 光は輝く 夢の中で 私の虚無を 眠り続ける 人々の意味を 思い続ける 音楽を奏でる お前になる 夢の果てに 明日はあると 立ち止まった 私の彼方に 不安など ページに無くした 奏で続けた その 文字を 明日の 幻影にされたみたいに そこに 太陽は 白く輝いた そこに 太陽は 白く輝いた ライトの中を 私の 煙草の灰に 眠りこけた 家路の 道を 地図に 無くした ラジオが 曲を 奏で続けている 深夜の放送に 聞こえる 君を思い続ける そして 部屋で 消した 音楽を 目から この先に島はあると 霧の幻に 見つめる * 体を ページから 無くした 奏で続けている すべての 言葉を 否定された 人形の 体として 祈っている すべての失敗に 目的地は 時の彼方に あるのだと ---------------------------- [自由詩]たぶん、悲劇的/瀬崎 虎彦[2010年10月21日21時41分] 青空から遠い場所からあなたをみつめている 垂直に光が差すときには世界は希望に満ちる そのわずかな時間だけ僕は人生を謳歌する 引き伸ばしても何にもならない人生かも知れない 覚悟が必要だ よりよい人生を歩むために 僕はそう声に出して自分に言い聞かせる 世界中のカラスの羽を集めたよりも黒く 湿っている世界で生きるための覚悟が必要だ 光が差すときには手紙を書いてみる インクは足元のにごった泥水でいい 出すあてのない手紙なのであて先はない 壁に指を這わせながらいつまでも ハルカに遠い青空を眺めている 夕方ごろ 鼓笛隊のパレードが聴こえた ---------------------------- [自由詩]悲鳴みたいな/亜樹[2010年10月21日22時15分] 飛び散った ブラックベリーの 赤い点々。 咲いて咲いて咲いて 咲きっぱなしの赤い花。 飛び散った ブラックベリーの 赤い点々。 悲鳴みたいな スカートのシミ。 ---------------------------- [自由詩]殻 /服部 剛[2010年11月1日23時19分] 君よ、忘れたもうな  いかなる時もあかい実を包(くる)む  透きとほった  ほおづきの殻のあることを  ---------------------------- [自由詩]明日も 晴れ/いてゆう[2010年11月2日0時39分] 朝が車で 缶詰を運んだ 森のなかで 気にしない エレベーターに乗った 眼が一つだから 海は水平線しかもてない 唇の上を すすむ 潜水艦も 赤くなって ヨーグルトのなかに 木が生えてきた 忘れもしない ポケットのなかに 藤壺がいた 鶏が 缶詰を 卵だと思って 抱いていた 不安の 肺のなかで 山を越えて 蟻がいた エレベーターが女王でなく 王様だったら 明日も 晴れでしょう ---------------------------- [自由詩]息継ぎ/くしゃみ[2010年11月2日20時51分] 息継ぎなんてうまくなりたくなかった。 そうしたらあなたとキスした時に 息ができなくて腕の中で死ねたのに。 ---------------------------- [自由詩]メモリアル/ホロウ・シカエルボク[2010年11月3日17時38分] 影の尾を掴み 痴呆する夕方 ぬるい病みの連続と 意識下の模索の交錯 爪を噛みちぎりながら 肉食の夢に ひとしきり溺れた刹那 見下ろした欠片は 一滴の血液を滲ませることもなく 汚れない生はイミテイションに過ぎない 伝染病にやられる確率と 途切れない睡眠の頻度が一致する気がするのは 運命のどのあたりに留まっているのかと 思案の間に縮む日は消えた ミドリガメが固形餌を静かに喰い尽くして 誰も渡れない ミニチュアの橋の下で眠りにつくみたいに 水槽の中のいきものは 皆死んでるみたいな呼吸をする 呼吸の仕方を学んだり 芸術の仕方を選んだり 溢れすぎて迷い続ける 本当の自由は 目の前に並んだ皿の数ではなく その中のどれが 自分の食せるものなのかを知っているということ 限定メニューや お任せメニューではなく 確かにそれを並べられるかということ 冷たくなる夜の風は どこか目を覚まさせようとしてるみたいで好きだ 臨終の床で 何度も名前を呼んでくれる人に似ている気がして好きだ 「いかないで」でも 「死なないで」でもなく ただただ名前を呼び続けてくれる人みたいで好きだ 近くに逝ってしまった誰かを 深く愛しているかということとはまた別の話で 冷たく冷えた窓の外に 潰して丸めた昨日の死体を転がして 腐敗してゆくさまをずっと見てた、祝日 北風に揺れるさまはなんだか楽しげで ころころとしたいびつな球体にどこかしら妬けてくる、文化の日 いつか朽ち果てるときには 誰かが呼んでくれるかもしれない 自分の名前だけは 心に刻んでおこう ---------------------------- [自由詩]哀切./I/吉岡ペペロ[2010年11月3日19時21分] それはまるで鉄条網のまえで 雨にうたれる哀切なる群衆のようだった おまえとキスをして おたがい探しまわって ふたりして群衆を見つめていた 哀切./i それがまるで鉄条網のまえで 雨にうたれているのはふたりのほうだった 水たまりを無視しながら 晴れかけたむこうに出かけよう エクスタシーな顔をするのはキスのときだけ おまえを犯した親からなんて逃げてしまえ 飛び立つまえのコクピットのガラス窓 ぜんぶ叩き割ってしまえ 暗黒の業火に卒業アルバムが焼かれている 豪雪のしたの秘密の基地を破壊して 黒煙だけ雪原を汚すのを見つめずに走れ 哀切./I これが最期のようになんどもキス つめたくて濡れたおまんこは灼熱で ふたりが交わる場所を待ちわびていた それはまるで鉄条網のまえで 雨にうたれる哀切なる群衆のようだった おまえとキスをして おたがい探しまわって ふたりして群衆を見つめていた 哀切./i それがまるで鉄条網のまえで 雨にうたれているのはふたりのほうだった ---------------------------- [携帯写真+詩]飲めや歌え/番田 [2010年11月20日5時52分] 人が集まり 街が賑わう 楽器のパレード 彩りの人たち 子供は少し 慌て者 大人は少し はにかみ屋 青色の空 虹色の草原 赤色の帽子 黄色の花びら うどんの味 子供の手招き 魚の死体 食するおじさん 夜の強盗 朝の警官 昼のおばさん 昼の失業者 昼のランチ 昼の休憩 昼の求刑 昼のビール 君は笑う 君の笑顔 僕は走る 何かが呼ぶ 人が集まり 街が賑わう 楽器のパレード 彩りの人たち 白色の髪 虹色の草原 赤色の帽子 青色の花 子供は少し 慌て者 大人は少し はにかみ屋 つゆの匂い 子供の手招き 魚の死体 吐き出すおばさん 昼のランチ 昼の休憩 昼の求刑 昼のビール 朝の警官 朝の警官 昼のおばさん 夜のアイドル ---------------------------- [自由詩]月が来る、音のない葬送のあとで/ホロウ・シカエルボク[2010年11月24日17時28分] 日没、砂浜に迷い 野良犬の 鼻先真似 ひくつかせ 虚を探り 塩粒の混じる 匂いは 血液を沸き立てる 唾を吐き 熱を冷まし 人ならぬものが さ迷う気配 目を閉じて 取り込まれぬよう ひそんで息をして 踵が沈み込むので 月が空にない 踵が沈み込むので 日没のように 岬の方で いつか死んだ誰かが また、風に流れる 朽ち果てた身を知らず また、見下ろしている 波打ち際 テトラポッドに もたれて 哀しい軌跡を 読んだ ひそひそと いまを忘れて 読んだ 虫のように 砂に混じり どうしたことだろう まだ、時は満ちないのか 今日はもう 満ちぬまたなのか どこから来たのか 美しい痩せた猫が ひょいと 頭上でとびあがる おまえ おまえ 何をしている 海が怖くないのか おれやおまえのようないきものを たらふく飲み込んだこの生命の根元が ぎゃあ、と 猫は鳴いた そして 暗闇に消えた 夜なのだ わずかに覗いた星が 海面で跳ねて あたりはうっすらと 輝きをとり戻し そうしておれは いまだ 来た道を知らず 猫の 小さな足跡をたどると 迷いなく 海中へと続いていた 海からこちらへ 駆け抜ける風からは 異国の血の 臭いがする あいつは心のままに あいつ自身の本能であろうとしたのだ 波が大きく膨らみ おれの爪先を濡らす なにかをねだる子供のように 小さな確かさで おれは 手を合わせる そんなもの あの猫はきっと 喜んだりしないだろうが おれは祈った 言葉を持たず ただ手を合わせた 目をあげると 白樺色の 月が こちらを見下ろして にやりとしていた いまいましいが どうしようもなかった ああ 飲まれちまうな ---------------------------- [自由詩]嗚咽という沈黙/プル式[2010年11月25日20時58分] 海流を眺める 油絵の具を指で擦った様な道 夜の灯りをギラリと跳ね返し いくつもの美しいラインが交差する 背泳ぎを見ている 行く先も見えずにただ進む 後に残る軌跡は直ぐに消える いつか何かに手を触れるのだろうか 人生を思う 広げた両腕と指先に集中する 風と夜の冷たさ以外の物を探す 沈む瞼には美しい太陽が見える それが暁なのか黄昏なのか僕には判らない。 ---------------------------- [自由詩]秋の回旋塔/こしごえ[2011年1月1日6時08分] 即興演奏の融合した空がこのからだで倍音を 発する。満月の銀の弦が冷たく光る。 目を瞑った先に見える映日果が上映される 夕べに伝言する蝙蝠の光子は 舞台裏で旋回し観客には映らない。いつも 遊園地ではのっぺらぼうの笑顔が撮影 されてしまう。理由は誰にも解らないが、写 真機だけは知っている影の行方。素通りする 蟻の行列 翅を失った夜へと 猫の瞳は 新月を む かえる 昨日も亡き朝に、昇る産声を 連峰の胎は切り そろ えた。朝焼けが、 空へ沈むあかあかと。 そして空はみずみずしい青を孕む 限りある砂時計の接点で落ち合う 真砂は抱き合い風は演奏を再開する 岸はひとすじの雲へ湾曲してばかり さかのぼる魚は群れをなし 四季の獣はさまよいはしる (私は無言の眩暈にさらされる)。真っすぐ 円をかく 宙を、ささえむすぶ骨は枯れて土にかえる 、白い縁の窓を。 みずからをまわしまわり続ける私は、 道すがらふし目がちにうつむいて、天高く 天高し(深呼吸すると青く澄み近づいた 貴方と出あえたことを一生忘れません 木の実は よく実り 生きものに食べられ 種を落とし いずれ 空へと 水性の華も めぐります ---------------------------- [短歌]ノート(火と呪い)/木立 悟[2011年1月2日20時58分] 自らの終わり知らぬほど咆哮し余りし皮を刻み喰み吐く 引き摺るを引き摺りてなお引き摺りて男の無能ほとばしりゆく 洗濯機街の道は皆洗濯機洗うふりして光を奪う 道端に何ぶちまけようが知るものかおまえがおまえを表わさぬなら 羽根が折れ次の羽根の血に重なりて旧き狐を絞め殺しゆく きじるしは血を囲まずともきじるしに朝昼夜の外およぎゆく 何もない何もなさの他に何もない手のひらに立つ無のような針 ---------------------------- [自由詩]ふぉとぐらふぃっく (ご利用は計画的に)/乾 加津也[2011年1月4日15時54分] 写真とは 干乾びた 製造工場の正門の 錆びたポストに居つく手紙の重さで 天を劈く煙突の かたちを得たけむりが笑っているようなもの めくれば 白い鍵穴もかすむ季節に 「どこにもいけない」気配だけくらくらしている 太陽はふぇいます IF島をきまぐれに照らすホッピングロード 亜熱帯気分でどんなものにも若葉色を塗りたくるので 分身(じぶん)も分身と思わない なぜ 始めは整列し なぜ 終わりは垂れ流しなのか つかめない  しゅうしゅう雨しゅう・・・  しゅうしゅう緑しゅう・・・  しゅうしゅう暦しゅう・・・ (完璧なしんぼらいず) 太陽が写真に身投げした日 しののめが菜の花ばたけを焼け野原にし 顔中心のおきてが立ちあがったせいか 「太陽のようなあなたから」 わたしは一匹の蟻の黒い啓示をうけ 採光場でひろった遺物を ひっかけて引きずってわたしの部屋まで運びいれ また新しい匂い 奮起し 澱を浚いながら あやしい現像(分身)を楽しむ暮らしぶりそれが狂気 のすたるらしい 写真は息をもどす口蓋をもたず もの憂げな素材もないのに どこかで わたしの小指をしっかりにぎり きしむきおく 注油でまだまだ使える刻限(うつろい)ですから 反りかえって 無くしたちくちくを暴く 痛みがあれば 生きていける うそ(仮想)でも生きる 気になれる 問題は 透過した それが だれ 製造工場は 賞味期限の溢れかえった食物たちの 四角連鎖がまるくはじまり ブラックホールのように自壊したという 写真の記事を握りしめ 立ち尽くしてもふぉとぐらふぃっく ---------------------------- [自由詩]あなたは激しい加速を/乾 加津也[2011年1月11日21時10分] あなたは激しい加速をとり違えた氷のように歩いていた わたしの喪失は人混みにもまれていよいよ遠のいていた あなたの鈴のような耳のひらき わたしはわたしのせいで気がふれてしまいたかった “わたしの知らない、あなたを灯す” 引きちぎられた 黒いボタンの色褪せがゆっくりとはじまっている すでに ことばに触れたものなら にどとは死ねない戦域に “いつまで氷を、生きますか” あなたの俯いた口元からわたしの不在を閉めださないでほしい  記憶の侵食が古巣をさがせとおおいかぶさる  狼の  支配のやいばをふりはらい いちど  吹雪にむきなおる わずかな  眼光 おぼえてはじめて追放をしる けだるい朝に夢はころがり 砕け散ると 黒いボタンは部屋中に香った ---------------------------- [自由詩]8月の日/番田 [2011年1月15日19時10分] 深夜の暴風雨が堤防にまた 吹き寄せる 海風が路面を崩壊させる 漁師たちの現れた時 船が また横波にそこで耐えている 灯台が絶望のような光を押し留め ラジオが そして空に電波を静かに乗せる 食料がまた 客車でひっそりと運ばれてくる 明日の自分を断ち切るようにして ---------------------------- [自由詩]影/こしごえ[2011年3月1日7時57分] 私は、 有形の門を通りすぎ透けた暗さ 届かぬところへしみる幽かな終止符 行方知れずの墓 墓標は名無しの波止場 船は無人で行き交う汽笛 宙をつかんだこぶしをひらいて 手をふりつづける 永さ 私の時は、その光にみつめられている 限り無く終わりつらなる ささやきに耳をかたむければ 丸い水平に直立する石造りの 時計台はしろがねの鐘を鳴らす ひんやりとかたい産声の響く晴空へ 黒く大きい蝶がしのびやかに消えていった ふりかえり帰りつくことの出来ない夜空 時は、待ってはくれない。 林の陰の道にある 水たまりに映っている影に しずくは落ちて 落ちて 波紋はゆれて ゆれて 予測不能な運命を 進む 影無き影 私は誰か、と問えば うしなわれてしまう 鏡を割る、時間 入り組んだ小道を 冷たい月影は照らす 冷えた小道に落ちる    空の闇に銀糸の道化    はようねむれむかえにくるぞ 白目むきいそぎなさるな、とそよぐすすき みわけみつけられず(己の影とも夜の闇とも あきらめよう、としたとたん ひらきはじめた扉重く 重くきしむ 影独り くぐり ---------------------------- [自由詩]光は赤いのが好き/アオゾラ誤爆[2011年5月13日2時04分] トマトジュースの喉ごし、気に入らないざらついた酸味、砂場まで走っていこうなんて考えていた、朝焼けのうすいひかりは手抜きの水彩みたいだから。もっと冷やして、かたくして!直視する鉄棒の錆、むかし好きだったひとのことを考えながら蛇口をひねる、手首、どうでもいいんだ、手首。じゃばじゃばと落とされていく透明の痕跡が、まるで昨日(或いはあした)なんてなかったかのようにアスファルトを濃くする。排水、排水、公園の片隅、結局読まなかった古本は積まれてちいさな日影をつくっている。まだ薄い、全然薄い、踏み壊してもいい?――ばさばさの髪をかきむしったらまたすこし刺さる、ぷつり、波縫いは得意じゃなかったんだ、すぎていく時間とブレる視界がわずらわしくて、ぷつり、ジッセン、破線、点線のようだな、この信号。ぷつり、刺さる。痛いのとは違っていて、驚くのとも違う、もっとこう直接的な何か、そこに距離なんてものはない、ぷつり、刺さる、赤い。パレットから流れてくる無調整のまぶしさ、光っていうのはつまりはそういうことだったんだろう、赤いのが好き。ひたすら白くて明るいのに目蓋の裏まで塗りつぶされているのはどうしてだろう――鈍行、通過する。橋の向こうへ。くちびるをぬぐう、なにかおかしくて歯を出してわらう。これは傷口じゃないから。まばたきをして、乾いていく、ざあざあと揺れる木々、空気の切っ先は研がれて鋭く。耳障りな風の音、びゅうびゅうと鳴っている時計のした、水のない池に落ちている小石をあつめて、円くきれいに並べる。手厚く葬るように空き缶はその中央に捨てる ---------------------------- [自由詩]恐怖についての推察/相差 遠波[2011年5月25日14時20分] 赤ん坊が 眠りの前にグズるのは 出来かけの『自我』が 眠りによって 消えてしまうのではないか?と、 言葉にする能力もなくただ浮かんでくる 恐怖と不安からではないか? そう最近思う そうすると赤ん坊は 毎晩 毎回 『死』を体験している事になる 何と恐ろしい・・・ 老人が 夜も明けぬうちから目覚めるのは 残り少ない『寿命』が 眠りによって 消えてしまうのではないか?と、 言葉にする事もできずにただ浮かんでくる 恐怖と不安からなのだと 誰かが言っていた そうすると老人も 毎朝 毎回 『死』を目の前にしている事になる 何と恐ろしい・・・ その間である自分は 明日もあたりまえに自分の命や 自我や 愛しい人の命が有ると思えた日々が どんなに大切であったかを 現在 涙を流して感じている 20110525 ---------------------------- [自由詩]絵手紙のこころ /服部 剛[2011年12月17日23時36分] ほんとうの深呼吸をしよう  北国を旅した時に泊まった宿で  火鉢の前で両手を暖めるひと時のように  ほんとうの手紙を書こう  血の通わない文字のメールを 百通送信、するよりも  旅の便りを かけがえのない誰かに、投函するように  僕は今迄、日常に追われながら   どれほどの言葉を  両手からこぼれ落ちる砂のように  無駄にしてきただろう  もっと耳を澄まそう  もっとさりげない言葉を贈ろう  日々、目の前に現れる  あなたの目を  まっすぐに見つめて  ---------------------------- (ファイルの終わり)