田島オスカーのおすすめリスト 2006年7月3日16時16分から2008年11月15日23時29分まで ---------------------------- [自由詩]レモン水/カンチェルスキス[2006年7月3日16時16分]     歩道橋の真ん中に  枯れた花束があった  しなびて横に傾いていた  錆びついた階段を  とにかくのぼって  誰かが飛び降りた  歩道橋の下の  アスファルトには  何の痕跡もなかった  曇天の空を  映しこんだような沈黙と  白々しさ  いつものように  赤信号の車を  整列させ  あるいは  青信号のバスを行かせた  果物屋の陳列された  トマトの皮が  外気に触れて  乾きはじめた  昼過ぎには暇になる  近くのラーメン屋から  出てきた客の向こうで  バイトの高校生が  店主に話す   昔、兄弟ゲンカで壊れた眼鏡を  月に五度は  直しにいっていたことがある、  と  交差点のそばには  ラブホテルの看板があって  宿泊5980〜  休憩2980〜という  派手なイラスト文字に導かれ  ベッドのそばの  クズ籠に  行き場をなくした  避妊具の中の精液    歩道橋にのぼらず  その下を横断して  痴漢にあったときの様子を  身振り手振りで  再現する女子高生たちが  駅へと歩く  近くの焼肉バイキングに  向かう外国人の団体を  客待ちのタクシー運転手が  物珍しそうに  眺めていた    寡黙なのか  何なのか  騒ぎとはべつのところで  中心が  鉄球のように  重く鈍い    小さなたこ焼き屋は  月曜日だけが  定休日だった  違法駐輪の自転車の後輪が  タバコの浮かんだ  水たまりを中断させる  ペット美化区域の看板が  そこらにあった  そのうちのいくつかの近くには  昨日の雨で湿った  何日も前の犬の糞が  転がっていた      むき出しのエスカレーターは  悩みを抱えない  買い物袋を提げた人間を  いつでもまっすぐに  上下に運んだ  駅前の宝くじ売り場は  今日も  当選者を出すことなく  一日の営業を終えた    歩道橋の真ん中には  新しい花束があった  前より小ぶりな  だが色はあざやかな  錆びついた階段を  とにかくのぼって  誰かが  そこまで来て  新しい花束に代えた ---------------------------- [自由詩]溺れていく夏の/たもつ[2006年7月18日19時41分] 魚類図鑑を開き 少年は魚になった自分を 想像する エラ呼吸の仕方が わからないので いつも溺れてしまう 遺書は 鳥類図鑑に挟まれている 夏空の飛び方なら 誰よりも詳しく 知っているのだ ---------------------------- [自由詩]体の暦/A道化[2006年7月18日22時27分] 夜のアスファルトと それに密着してゆく夏と雨とへ 車の落とす赤が付着しては ひゅっ、と 離れてゆく一秒一秒、その風に 肌寒くなれる体の、少女である体の、わたしが 最初に深くうなずくとき くちびると瞳の曖昧な位置づけが 既に胸まで達していた夏へ、浸る あ 高い位置で結わえていた髪を放とう その髪の暗い水底で落とし物のように密かに火照る くちびると瞳で、雨へ行こう すべて濡れたって構わない、(何も濡れなくたって構わない) 固体、のち、液体の過程のように 快いときというものは必ず何かを諦めているものだから 永遠でなくたって構わない 液体、のち、 まもなくわたしは全身でひゅっと消えてそれ以降 ああ、それ以降こそ完全に快い、 (液体、のち、)気体であるわたしになって (永遠だって、構わない) 2006.7.18. ※暦=(こよみ) ---------------------------- [自由詩]冷たい カーテンコールの下/砂木[2006年8月6日22時02分] ビンが 薄いレモン色に 枯れていく 花というものを 残せない 屈折の返る 生真面目な黙殺は 水辺リに 傾けられて寄り添った 青雲への 憧れに空域をなくす 満たされぬ受け口の 外にだけ 摘み飽きぬうち 繰り返された 一輪の花の 喜びと 影火 ---------------------------- [自由詩]赤い車いす/かのこ[2006年8月7日17時09分] よく晴れた日 五月 赤い車いすの 青年 「コンニチハ」、と 片手を上手にあげて 僕に挨拶してくれた 横断歩道 信号の青は 鮮やか過ぎた 心 渡っていく 盲導犬 みぎヒダリ、確認したらば 手を引いて 導いて 僕を 導いて 骨の見える 足首 鉄のように 強く 太陽の光もはね返す 熱を帯びた  赤錆 可愛い 可愛い 君もほんとうは 人懐っこい仔犬 僕の足をあげるから こっちへおいで 空の青には 高らかに響く 赤いサイレン 赤い車いすの 車輪の軋む音 仔犬の鳴き声 ---------------------------- [自由詩]ちくわ/カンチェルスキス[2006年8月7日18時04分]       ちくわ  が好きだとしても  ぼくを獅子丸あつかいしないで  水でっぽうから  ミサイルを発射しても  ぶっしゅだとは思わないで  ぼくは下駄をはいて  まっすぐ歩く  冬の日  偶然のセンチメンタルを  たどり  行き止まりの港から  ちくわの穴の向こう  花火があがった  ちくわの匂いがした ---------------------------- [自由詩]星雲巡航/砂木[2006年9月10日20時15分] 草のしないだ後が 私の靴後 手の中にある と思うものだけ 鍵だから いつまでも開かない ふさぐ風だけ 私を知ってる つぶれない 心の輪 とじない宇宙 弾く ひくく 触れさせて ひそやかに 塵と 悲しみについて語る その細い唇に流れる オルゴール 巡視艇が まざらずに 走る くべられ続ける 永遠 汽笛は 後ろ姿ばかり 裸足で咲く星の 滅びる前の微笑み つたのように 涙にさえほどかせない 水と火の 契り 褪せた足の鈴が チリィン と鳴る つぶやく光の 奥に深まる銀河の誘い 髪に したたり流れる 古い 竪琴 かき鳴らす星 この眼に やきつく航路が 耳元で渦巻く 月光の奥夜   ---------------------------- [自由詩]「弱アルカリ性のあなたへ」/ベンジャミン[2006年9月11日1時09分] 世の中が あんまり酸性雨だとか騒ぐので 雨が降るたびに身体が溶けてしまいそうな そんな不安に怯えている あなたは 自分の弱さが何であるのかを 知りたいようでいて本当は知りたくない きっと誰もが抱えている 同じような それらが違っていたらどうしようかと ときおり自分の分身を作り出しては 自問自答する 弱アルカリ性のあなたは まるで石鹸の泡粒みたいに儚い命を 弱アルカリ性のあなたは まるで消え入りそうな叫びの中に 弱アルカリ性のあなたは そして何処へ向けるでもないやるせなさを 弱アルカリ性のあなたは そして静かに眠れる日を夢見て 世の中が あんまり酸性雨だとか騒ぐので 雨が降るたびに自分が消えてしまいそうで 一緒になって泣きたくなる あなたは 冷たい世間の荒波に 吹き上げられる泡沫の一つではないのに 弱アルカリ性のあなたは 自分の弱さよりも本当は 何かを変える可能性を 信じたいと願っているのに         ---------------------------- [自由詩]小さな雲に乗って/プル式[2006年12月11日16時10分] 雨上がりの少しだけ雲のある空に 小鳥が二羽飛んで行きました 近くの電線にすいっと止まると あっという間にまた、すいっと飛んで ぴぴ、ちちぴ と鳴きました 空は青くとても澄み渡っています 私は小さな水溜りにそっと足をつけ そのなかの小さな雲に乗って 世界を夢見ていました。 ---------------------------- [自由詩]骨は私が拾います/朽木 裕[2006年12月11日23時33分] 暗闇に言及したって、いつだって答えはない。 強く息を吸ったら僅かに死臭、が ねぇ、君。 愛していたよ。 すごくすごく。 愛していたよ。 ふわふわの頭持ちながら 死んでいるなんて嘘うそウソ。 昨晩ぎゅっと抱き締めたぬくもりが 此処に在るのにないなんて嘘だ 嘘、だって誰か云って。 ねぇ、 君が居なくなってもう何年なの 寒くなると思い出す。 あぁこんな日だったなって。 思い出すと思う。 あぁ君が居ない日々がもう、 日常になりすましてる。 骨は私が拾いますなんて あぁもう君は思い出以外此の世に居ない。 やさしいぬくもり、私の手のひらに残したまま。 君が居ない日々がもう、日常になりすましてる。 ---------------------------- [自由詩]初めてこの道を通ったとき/ぽえむ君[2006年12月11日23時58分] 初めてこの道を通ったとき 小さな花が咲いていることに 気がつかなかった 初めてこの道を通ったとき 向こうから歩いてくる人が 君だったことに 気がつかなかった 初めてこの道を通ったとき 君を見ているぼくの心が ときめいていることに 気がつかなかった 初めてこの道を通ったとき 冷たい風が吹いていることだけ 不思議と覚えている ---------------------------- [自由詩]銀の輪/石瀬琳々[2006年12月12日16時22分] 銀を光らせて 少年は輪をなげいれた 輪は的中した 傍(かたわ)らに立つ年上の少年は おだやかな黒い眸(め)は 輪をとびこえて はるかな向こうをみていた そして 今初めて遇ったように 華奢な少年の顔をみた 年下の少年は 緑がかった青いひとみをしていた 彼はこの眸(め)が好きだった 海のようだと思った 彼は海をみたことはなかった 父も母も神の顔も知らなかった そこには光があそんでいた 潮騒がうたっていた 時々色を変えながら クリスマスの夜 少年はいってしまった あの時 輪をなげいれたように いともたやすく かくもあざやかに─── 年上の少年は 一度も泣かなかった ただ 小さく ハロウ といった 黙って それから その銀色の輪を 小さな十字架の上に なげいれた ---------------------------- [自由詩]ノート(晨星のうた)/木立 悟[2006年12月12日23時46分] 羽の息をし 羽になり さかしまの空 ひと指とおる 勝ち負け無しの 明るいあやとり 胸からのばし ふたたびしまう 草のとなり ふくよかな闇 波紋をつくらず 落ちる空と葉 飾りなくまたたく こがね伏す手 とどろきよ ひそかな 応えひもとく ひた走るとき 呑みこまれるとき 朝を迎える うた満ちるとき 風が成すことを聴いている 羽は星の前に撒かれ 浮かぶままに 息のままに 閉じた瞳に打ち寄せている ---------------------------- [自由詩]押し問答/山中 烏流[2007年5月6日23時00分] 私のこの やはらかい、とされる部分を 貴方は いとも容易く 貫いてしまったので   365 たまに、プラス1の世界で 私たちはまだ 息をしなくては ならないようです     全てを理解する事には まだ、多少なりとも 時間がかかりますが   手を繋ぐには そんなに時間は かからないでしょう     ぐしゃり、と 握り潰したりはせずに 貫いてしまった 貴方が悪いのです、と   柔く罵る私の 呼吸を止めてしまえたら 幸せと、言う 貴方は。     水晶玉を透して 見える世界が、一番 綺麗なのだよ。と   呟く貴方に 少しだけ 怒りを覚えてしまうのは   秘密であり、     (世界に、嫉妬など)   (御法度でしょうに。)     そうして私が 言葉を磨いておりますと 貴方は既に やはらかい部分を 失くされた、と申すので   私の 鋭利に尖らせた 思いを募らせた言葉は 一体何処へ 行けば良いのか。     残念がる私を尻目に 貴方は、いけしゃあしゃあと   最初から貴女に 貫かれていたのです、と 申しますから   また、柔く罵る事も 出来なくなってしまうのです     嗚呼、世界が   至極 透明に近づいて。 ---------------------------- [自由詩]死の果実/なかがわひろか[2007年5月7日0時28分] 果実を齧る あなたの首筋には 薄紫の線が浮かぶ 私はその首筋に かぶりつきたい衝動を抑えて おいしいかいと あなたに聞く あなたは 貪り尽くすように 果実を食べる あなたの口から 果実の汁が少し垂れて 私はついつい それに見とれてしまう ねえおいしいのかい 私がもう一度聞くと あなたは少し垂れた汁を 骨のような手首で拭いながら こくんと頷く もう一度だけ あなたを私の中に戻すことができるのなら 青白い首筋も 薄い唇も 骨のような手も もっと良い物に 取り替えられるのに 私は 私は ごめんねという言葉を飲み込んで あなたをそっと抱く (「死の果実」) ---------------------------- [自由詩]きみどりを知ってる/弓束[2007年5月7日1時04分]    あのひとは淡いきみどりに似ていた  ひどくひどくつきおとすような感覚にまみれている  しんそこ愉快そうなわらいごえは  不似合いすぎて、なきそうだよ  いつでもどこでもやさしいひとなんだってもう知ってしまってるの  そらをかくりしていたビルたちが  光をいっせいに放っていたよるの  最終列車のいくつもの音は  わたしの心臓をどうにも揺らしすぎてしまった  こころのなかで共に疾走したの、みちびかれるまま少女だった    生まれたばかりの春を抱きしめるみたいにして  吸い取っていった、あの季節のなまえ  きいろかった夏、甘かった陽光  「暑いな」と一声だけですべてを連れ去ったのは、  いつだってあのひとだったでしょう  きみどりみたいにやさしかった、日々    すべてあのひとがつくっていたのでしょう  気付いていたのよ、(判ってしまったの) ---------------------------- [自由詩]平凡なお別れ/松本 涼[2007年8月2日20時44分] 平凡なお別れをした僕らは やがていずれきっともうすぐ 偶然も必然も届かぬ場所で 二度とその声を聴くことも無くなるのだろう 覆い被さる波のような日々の中で わずかにこの手に掬い上げられるのは 同じ旋律で湿らせたはずの おぼろげな砂の記憶 鈍い日暮れに見上げた雲の残像が それさえも不確かな世界へと 連れていってしまうけれど たったひとつも残さないやり方が お好みならば それは君に任せるよ ---------------------------- [自由詩]戦争よりセックス!/佐々宝砂[2007年8月2日23時09分] 阿久悠が死んだという話が その日の俺には一番の大事件だったのだが 彼女にはそうでもなかったらしく 朝のコーヒーはインスタントだった そういえば今日だけじゃなくて 毎日インスタントなのだがそれはさておき いや、さておくのはやめよう 俺もそろそろ認めた方がいい 朝の平和はかけ声では始まらない もちろん標語でも始まらない 朝の平和には夜の情熱が必要さ、と レット・バトラーの気分になってみようと試みるも 朝になってからではもう遅い 阿久悠が死んだそうだよ 小田実も死んだわ 彼女は正しく「おだまこと」と発音した そういえば以前にもこんなことがあった 俺は植木等が死んだ、と言い 彼女は青島幸男も死んだ、と言い すれ違いながら 俺たちはそれぞれに悲しんだのだ 昭和という括り方を彼女は好まない 俺はそのこだわりを理解できるが 同調しようとは思わない 阿久悠が死んだよと言って俺は悲しみ 彼女はそのこだわりを理解するが 同調する気はさらさらない 今日も朝のコーヒーはインスタントで それでもその黒っぽい液体には きちんと興奮剤が含まれている 朝になってからではもう遅いが 今日も夜がやってきて明日は朝が来る たまにはレット・バトラーの気分になってみよう 朝の平和には夜の情熱が必要さ、と ---------------------------- [自由詩]フェイク/衿野果歩[2007年8月3日1時23分] 差し込む光があまりに淡く 透明な蒼だったので 届く気がしていた 愚かしい錯覚 幸福はいつだって見掛け倒し 裏返せば空白 よく似合うねって言われた 偽物のダイヤみたいに あたしの心も 砕けちゃえばいいのに ---------------------------- [自由詩]ある夏の位相/雨宮 之人[2007年8月3日1時40分] 僕は立方体を 開いていく 中には何にもなくて そして僕は小さく、あくびをした 先生、僕は結局よくわからないままで この中には何にも 見えるものは何もないよね でもあるんだよ、開いていくとわかるんだよ 3次元に、響いている、イノセンスが セミの声と相似形で エーテルが絶える、その残り香を僕はかぐ 虫かごを空へ解き放って 宇宙とのコミュニケートで、それって 僕 早起きしたから、あくびが出て ---------------------------- [自由詩]オーロラを見に旅に出る彼女は -- goodluck goodlove goodbye -- 第一項/じゃんじゃっく[2007年8月3日2時47分] 彼女が旅に出る理由なんて 僕は知らない 仕事に疲れたのかもしれないし 気分転換をしたかったのかもしれない それとも ただオーロラを見たかっただけなのかもしれない 僕には計り知れない何かが 彼女を突き動かしていたのかもしれない 僕はただ 遠い北欧の空に旅立った 彼女を深く思うだけだ 僕に出来ることは 彼女の旅の幸せを祈ること位だ グッドラック。 上海から香港へ流れた彼だって 今じゃ何してるのやら いつも約束してはキャンセルを繰り返す奴に 呆れ怒りはしていても何か憎めなかった 忘れていた頃にふらりと連絡を寄越し またふらりと去っていく そういう奴だった 今はどこでまた約束をキャンセルしているだろうか 僕はひどく彼の無事を思うだけだ グッドラック。 京都から東京に流れてきた僕は 今でもこうやって 言葉を刻んで暮らしている 睡眠を削って 魂も削って (それは嘘だ) 頭痛を抱えながら こうやって何かを記している それはまるで墓標のようで 僕が死んだときには 何か刻んでやって欲しい いやそれも嘘だ 墓なんて要らないし 欲しいと思ったことさえない ただ そういうやつがいたなと思い出して欲しい 僕の言葉の一つでも想ってくれれば それで事足りる 十分だろう 画家なら絵を残すだろう 音楽家なら曲を残すだろう 神なら世界を残すだろう 生まれてきたならば この長い歴史に足跡を残すだろう でもそれは大きく立派な足跡じゃなくても 誰にも知られないような 雨に流されほとんど見えないような 足跡になっても 僕らは歩きつづけるだろう 足跡を残すことが目的なのだろうか 足跡を辿って何を感じるか そこから何が生まれるか 誰にもわからない だから何も残さないかも知れない 足跡さえ残さず 君の部屋に入りこみ 心の中をずたずたに引き裂いて さようならだ 僕のシルシをつけよう 僕の傷をつけよう ほらもう忘れない これで 形に残らない何かを探してる 心に残る何かを探してる 君の中に 君の中に何かを探しているのさ 君の中に何かを刻み付けたいのさ 形に残らない何かを探してる 心に残る何かを探してる そんな特別な何かを探している 君の中にそんな何かを見ている 僕の中にそんな何かを求めている 探し続けて 求め続けて 君は長い旅に出る 今 僕の想う度に出る 息 そうか それで僕らは旅に出るんだ グッドラック。 グッドバイ。 いつか君の中に オーロラを見たかったな いつか君と一緒に オ−ロラを見たかったな グッドラヴ。 いつか君と一緒に 笑い合いたかったな グッドラフ。 それで僕らは旅に出るんだ グッドラック。 グッドバイ。 ---------------------------- [自由詩]まっすぐ/佐々宝砂[2007年8月3日2時50分] ぼくはおおむね ぐるぐる車を回すネズミみたいに 生活しているが 好きでやってるわけじゃないんだ 言い訳しているんじゃない 言い訳じみてきこえるだろうけれど 昨日と違うことをやりたいんだ 昨日と違うことをやってのけたいんだ 昨日と違うことをやっちまって 後悔する羽目に陥るだろうってミエミエでもね そう きみの言うとおり 一人で帰る部屋は暗いよ 当たり前だ あかりを点けといたら電気代がもったいない 地球にも優しくない そう そう思ってぼくは 昨日の夜 あっためないでレトルトカレーを食ってみた 電子レンジのチン!はなしだ 電気代はタダだ 地球にも優しい シオラレオネの子どもの食事よりうまいと思うが 冷たいレトルトカレーと半端に温かいメシは ぼくの舌にまずかった それでもそのときぼくは一昨日と違うことをした それでひとまずぼくは満足したんだ で 今日 ぼくはまた昨日と違うことをしようって思い立った 実を言えば今日突然思い立ったわけじゃない ぼくは 待つのが嫌いだが 待たせるのも嫌いだ まっすぐに質問するから まっすぐに答えてくれ 今夜 ぼくと一緒に過ごしてくれるかい? ---------------------------- [自由詩]もうすぐ10時半だった/そらのうらがわ[2008年11月12日22時56分] ねえ、ユキ 最後にユキの足音を聞いたのは、 3週間と4日前の日曜日。 吉祥寺の小道から井の頭通りに出る信号のところだったね 小田急のバス、大勢の人、なにかよくわからない街の音。 もうすぐ10時半だった 月曜日、火曜日、水曜日。 足音が聞こえない都会の真ん中で、 僕は足音を殺していつもの部屋にいる。 第1週、第2週、第3週。 足跡も残らない、できそこないの大理石の床の上で 足音を再生して、また、再生して、またまた、再生して、 そして静かな部屋の椅子に腰掛けて、ただ明日の足音を待ってる ねえ、ユキの足音を聞きたいよ ねえ、ユキの足音を聞きたいよ 走ってる足音 怒ってる足音 いらいらしている足音 うろうろしている足音 笑ってる足音 暇つぶししてる足音 どこを歩いていても、ユキの足音が聞こえるよ バスが走っても、山手線がやってきても、 キャバクラの呼び込みも、オペラハウスの正面玄関も。 砂浜に埋もれたり 国道沿いでカモメ? 非常階段、電信柱 ユキの足音を聞かせてくれよ ユキの足音を聞かせておくれよ また一緒に坂道を登ろうよ。 ユキの足音を聞かせておくれよ! ---------------------------- [自由詩]気分だけで/チアーヌ[2008年11月12日22時58分] 計算され尽くした ちょっとした気持ち悪さや 引き気味な感じとか もう犯罪だよね 君 わかってるよ 幸せなんか ちょっとしたことで壊れちゃう そう 気分だけで ---------------------------- [自由詩]夜を歩く/オイタル[2008年11月14日21時53分] 胸まである雑草を分けて歩いた。 蒸し暑い夜だった。 夜だったが妙に明るい。 藪を抜けて 野球場に出た。 グランドに白い照明があたっている。 白いシャツの男達が集まっている。 新しい野球チームを作るらしい。 死んだはずの男が混じっていた。 ずいぶん世話にもなったのに 不義理を重ねた人だった。 やあこれはと元気そうだった。 大きな目で 黒い額で 縮れた髪で 歯の抜けた口を手で隠して ぎょろりと笑っていた。 「あなたは確か死んだはずだが。」 というのもはばかられて 「晩年は苦労もしたそうだが。」 とはいよいよ言えなくて 久しぶりの近況などつきまぜて笑ってもいたのだが (死んだものに近況があるのか、ないのか) やがて 彼が死んだことも忘れていた。 時折こちらを見ながら 男たちは長く話し込んでいた。 明かりの下に 虫たちは雪のように群がった。 名残は惜しかったが いかなければならない。 彼らと別れて バックネット裏の道を通って グランドを離れた。 一塁側のベンチから 笑い声が上がる。 両脇で 背の高い草がゆれる。 右手でとがった葉先を千切り 二、三度振って夜へ捨てた。 空の高いところ 渦巻く闇の岸辺を 沖のほうへ 強い風が吹いた。 ---------------------------- [自由詩]心臓/士狼(銀)[2008年11月15日16時23分] 悲しみを知らない人などきっといません、 同じような顔で同じような服を着て、 量産型が街を歩いているよ、 ねぇ、 おかしいね、 おかしいね、 同じでなければ怖いんだ、 臆病だね、 と鳩たちが笑っているというのに、 知らないふりをして、 忘れたふりをして、 仮面の分厚くなった人たちが、 鏡を前にするとき、 ひび割れた隙間から、 歪んだ自身を見つけたとき、 悲しみは、 いったい何処へゆけばよかったのでしょう、 心臓へ戻ってきた血液の中に、 僅かに忍ばせた全身の悲しみは、 いったい何処へゆけばよかったのでしょう、 かなしみを亡くした彼女は、 もはや笑うしかなかったのかもしれません、 愛していたカナリアが死んだときも、 笑っていました、 涙をなくしたら、 此処においで、 と彼女は笑います、 彼女の笑顔はわたしを悲しくさせるので、 それは確か雨の夜でした、 波紋が共鳴を繰り返す中で、 満月をみたような気がしたのです、 わたしは、 ホットミルクに砂糖を入れて、 スプーン一杯分の毒を忍ばせて、 涙を探すことにしました、 海の色はかなしみの涙の色ではありません。 ---------------------------- [自由詩]さかなのよる/たりぽん(大理 奔)[2008年11月15日23時29分] さかなの星空はいつも 境界線でゆらめくのです 星空を落ち葉がよこぎり 岸辺のすすきも 月明かりに にじみながら手を振って 失ってしまったときに ひとはさかなになる 月だってゆらゆらと ゆらゆらと 夕方が傾いていきます わたしもかたむいていきましょうか ほんとうのさかなになって 息のできないものに満たされて 歩道の端でぱくぱくと さかなの星空は今夜 電気仕掛けでまたたくのです よこぎるものもゆらめき 月明かりもにじんだ 水彩画のような まぶたのうらで ---------------------------- (ファイルの終わり)