komasen333のおすすめリスト 2012年11月16日20時05分から2014年12月5日16時04分まで ---------------------------- [自由詩]事実/世江[2012年11月16日20時05分] いつもの帰り道。 電車に揺られながらうとうと... 夢現の中、あんたの声が聴こえて ハッと目を覚ます。 でも、居るわけなくて。 普段は絶対聴かないバラードを、 これまた、普段でも有り得ないくらいの大音量で流す。 中身なんか、どうでも良いんだ。 俯いたまま目を瞑り、 ゆっくりと夢の世界に堕ちてゆく。 零れ落ちる雫なんか、気にしない。 ただ、真っ直ぐに、堕ちてゆく。 お決まりの機械音を聞く前に、 電車を降りる。 歩いて、 歩いて、 目的地を目指す。 もう、目の前に光なんかなくて、 あるのは、闇へと続く道...... 真っ暗で、音は見えない。 光りも匂いも、聴こえない。 気づいた時にはもう遅くて、 頭を抱え、しゃがみ込んでいた。 “ここは、何処なんだろう...?” 無機質に響いたその声は、 闇へと消えていく。 時間(とき)だけが流れて、 私の想いだけが、 この場所に取り残されていく。 これが現実であり、 離せないこと。 ---------------------------- [自由詩]木箱と旅先の少年 (夢喰植物)/乾 加津也[2012年11月17日17時28分] 木箱の扉は 下辺が蝶番で、上からゆっくり開き 外に倒れてスロープになる 岸壁づたいに太い蔦 滑車一本で昇降できる ロッジ部屋のような 木箱のつくり + + + 古いブラウン管の前に並ぶ 野生のように毛皮を巻きつけ 缶を抱えた 利発な少年と順番を待っている これから タレント司会者が出題するゲームに挑戦するらしい 司会者はいう 少年の缶の中の石を地面にまいて素手で拾いなさい わたしはもっていた財布を投げだして両手で小石を掬いあげた 少年はわたしより多くの小石を拾いつつ わたしの財布も同時に拾い上げて笑ってそれをわたしに渡した (思い返せば、それは行為的に不自然なことだ) これを見てテレビの司会者はいう おめでとう 拾い上げた小石はすべてきみのものだ 満面の笑みで少年は 白く滑らかな小石の数を 先ほどの缶に ほお張るように詰めこんだ + + + ある市場の人ごみの中で 少年は何かを探している 自分しか知らない 秘密の場所に隠した宝物が思い出せないという しかしそれはいつものことで 彼の祖母がそれを見つけて回るのだとも 市場の中を 少年はどんどん歩き続ける + + + わたしは窮屈な家具屋に入る 家具はどれも人の背丈の2倍ほどある 家具の良さは その正面に寝転んで見上げればわかる すぐに気に入った とある洋服ダンスの前に寝転び 威厳に満ちたそのたたずまいを見上げる 奇妙なのは最上の観音扉だけこちら側に傾斜していることだ 開けば 左右の扉はそれぞれ斜め下に垂れ下がるだろう それでもその凛とした風格は 精緻な装飾もあいまってわたしをすっかり魅了した (そこに少年の姿はない) + + + 帰り際 少年の祖母に会う 木箱の昇降管理人の彼女は、わたしについて この世界に住む資格がある、という ノートのようなものを取りだした わたしが名前と住所を書けるように しかし何度書いても わたしの名前は鏡字になる 戸惑いに気づくと 大丈夫、それでいい 彼女はノートを引き取った 人のようでもあり そうでないようでもある 木箱のなかで 揺らめくまばらな客とともにじっとしている すぐに上昇して、わたしは 元の世界に おりたつ ---------------------------- [自由詩]弱いからこそ。/元親 ミッド[2012年11月17日18時05分] あなたにとって思う、 偉人、英雄、天才ってどんな人? そうね 世界には 数多くの偉人伝が伝わるけど どんなに強くて どんなにすごくて どれだけ天才であっても ホントはね、 みんな、みんな“不安”だってちゃんと抱えてて そうして苦しみながら、もがきながら 時に泣いたり、時に逃げたりして それでも精一杯、強がって、がんばり続けて そうしていつか、偉人だの天才だの英雄だのという 評価を他人がくっつけてきたんだと思う。 だからね 本当に、本当に 最初から強い人なんて いないんだと思うよ。 むしろきっと だれもがみんな “弱い人”なんだよ。 でも弱いからこそ 何かの為に強くなる必要があって 弱いからこそ頑張らなくちゃいけなくて 弱いからこそ優しくもなれて 涙の意味を知っているから 人を感動させることもできるんだと思うよ。 いいんだ。 だから弱くたって、いいんだ。 それで普通なんだよ。 誰だって不安にもなるし 誰だって泣いたりすることもあって 誰だって心の内では 弱音も吐いてしまうのさ。 恥じることなんてあるもんか。 “人は弱いからこそ  強くなれるんだ。” ---------------------------- [自由詩]下らない独白/HAL[2012年11月20日20時43分] もう分かっているだろうけど ぼくには詩を詠む才はあると これっぽっちも持っていない ぼくの詩は詩ではない 詩と云うカタチを借りた ひとつの質問だし ひとつの疑問の提示だ それに答えてくれるひとが いるのではないかと細い願いに縋って 言葉を編んでいくけれど どんな言葉を選んでも 結局はこの世界への ささやかな問いかけに過ぎない 抗議文であったり 疑問文であったり 否定文であったり 批判文であったり するだけのものだ そう下らない独白と想ってくれて ぼくは全然構わない反論もしない もちろんこれは言い訳ですらない だからこころに響く 詩なんか期待しないでくれないか ひとをやさしくおだやかに包む 情景描写も心象描写も 求めないでくれないか ぼくは詩人ではないんだ 敗北すると分かっていても 言葉を武器にこのインチキな世界と戦う どの国にも属さない どんな部隊にも属さない たったひとりの臆病な兵士に過ぎない もしほんとうの詩を読みたいのなら 他の方のものを選んで欲しい ここには本物も詩人が数人だけど 確かに存在しているから ---------------------------- [自由詩]50の瞳の輝き/夏美かをる[2012年11月21日15時30分] 毎週火曜日 下の娘のクラスにボランティアとして入っている 私が話すつたない英語でも 一生懸命に聞いてくれる 小学一年生の瞳には 一点の曇りも宿っていない 恐らくその瞳はまだ 本当に醜いものをとらえたことがないのだろう ブルー、グリーン、グレー、ブラウン、アンバー、ヘーゼル… どの色の輝きも皆一様に美しい 娯楽大麻と同性婚が新たに合法化されたこの国で この子達はこれからどのように成長していくのだろう? 私には想像し得ない世界観に向かって この子達はいつか羽ばたいていかなければならない どうかその瞳の輝きをいつまでも失わないように― どうかその翼がしなやかで強くありますように― アメリカという あまりにも大きくて混沌としている国で 移民として生きている私には そう祈ることしかできない “See you next week!”と言って教室を出ようとすると 先生が“Class, say‘Thank you’to Mrs. S!”と声を掛け 50の瞳が一斉に私を見つめた その一つ一つから放たれたまっすぐな光の矢が 脆弱な私の心を次々に射った 半分は日本人としてこの国で生きていく 娘達の瞳の輝きを護るために 私もしなやかで強い翼が欲しい… ぎこちなくなってしまった笑顔で手を振り返しながら 心からそう願った 注)娯楽大麻と同性婚はアメリカのすべての州で合法化されたわけではありません。 ---------------------------- [自由詩]空のような、雲のような。そんな夢さ。/元親 ミッド[2012年11月21日21時55分] 自分の手のひらを見て思うんだ。 僕に、何かが出来ないかなって。 この手で何か、人のために 作ったり 奏でたり 守ったり 描いたり 書いたり 救ったり 拾ったり 何かできないかなって。 そうして 誰かに喜んでもらえたらいいのにな。 誰かに喜んでもらえたら、 きっと僕も嬉しくなるから。 本当に 単純に そう思うんだよ。 誰かのために ほら こんな僕でも役に立てるんだって 思えたらいい。 その自信をもって 更に、たくさん人に喜んでもらえる事ができたら もっといいね。 そんな事が僕の夢です。 漠然としてて、言えば 雲のような空のような そんな夢です。 僕の生涯が、結局どんなものになったとしても 誰かの役に立てて 「ありがとう」って言ってもらえたなら それで十分満足です。 幼いころは 多くのものを、あんなに望んだ僕だったけれど 色んな事があったから 今は多くは望まないよ。 そうね 一つでいいね。 たった一つ、望むものは『意味』です。 その『意味』ってものが 一体なんなのかはまだわかんないんだけど。 自分の手のひらを見て思うんだ。 僕に、何かが出来ないかなって。 そうして 誰かに喜んでもらえたらいいのにな。 誰かに喜んでもらえたら、 きっと僕も嬉しくなるから。 本当に 単純に そう思うんだよ。 ---------------------------- [自由詩]人は仮面をつけているから美しい/イナエ[2012年12月4日21時46分]  昔   会社の中の仮面に疲れた人が   仮面を脱ぎ捨て 本当の自分になろうと  素顔で生きようと 闘争を挑んだ  だが  周りの仮面はそっぽを向いて  会社の素顔から出るむき出しの刃  に素顔を切られ  「空気読めない」とけなされて… 人は仮面をつけて生きているから美しい 毎朝 笑顔で挨拶する隣人 昨夜の焼き肉が匂っていても  鼻をつまむのは仮面の下 いつものように笑顔の仮面で挨拶しよう 子どもの自慢に笑顔で応えた友の言葉に 垣間見えた嫉妬のとげ だからといって お互いに仮面のなかを覗き込み むき出しの心を詮索し合うのはやめよう 気づかぬふりの鈍な仮面で平和な世の中 人中でむき出しになったけもの 長い舌で人の股間をなめ回し などしないよう眠ったふりの仮面をつけて いきり立つこころを押さえつけ 菩薩になって座っていよう 人は仮面をつけているから美しいのだ ---------------------------- [自由詩]日記/空丸ゆらぎ[2012年12月5日19時13分] ○月○日 日記を書いている。 *月*日 日記として、刻まれなかったあの時間、あの日について。 三食きちんと食べ、寝る時間、起きる時間も申し分なし。規則正しい健康的な日々。こんな毎日について、ある日、「特になし」と日記に刻んだ。 #月#日 魂を抉り出し、貼り付ける。私小説でも、芸術でもない。ただの「私的な日記」だからこそ。決して公表してはいけない。だからこそ一切の装飾はない。額縁も楽譜もない。真実だけがある。 △月△日 この日、この地で、この私が、世の浮き沈みの中で、 後世の人類に、あるいは、10年後の私自身に、 といいながら読み返すこともなく、 ---------------------------- [自由詩]人間詩/ただのみきや[2012年12月9日21時43分] 今が 日付を一歩跨いだのか 時が 向かい風のようなのか 昨夜から      今朝へ         光が溢れ 新雪積もって白紙に戻り 一文字人文字人間が 寒い眠いと起き出して ぐうたらしてると思いきや そのうちせかせか歩き出し ぼんやり     ウッカリ         すってんころりん! 憮嘩っ!と来て 我暗 と落ち込み 悲怨 と泣いて 泣いて疲れてヤケクソで 慰っ悲っ非っ否っ 陽被狒狒ヒィー! 今日も今日とて KID(喜怒)I(哀)LUCK(楽) 一文字人文字連なって 突飛なハッピー 捻って抓って お疲れ様ですご苦労さん 今日の一編出来ました 前衛的な作品かって? 二次元人にはそうかもね だけど天から見下ろせば いい塩梅で抒情詩ですよ   「古い叙事詩はもう十分   やっぱり湯気の立つような   焼き立てパンの人間詩」 そうこうしている間もなしに トンネルに入って      また抜けて        白紙の今日が始まります ---------------------------- [自由詩]私を育ててくれているのは、あなた。/元親 ミッド[2012年12月26日20時26分] 私がこうして何かを書けば あなたは“それ”を読んでくれる。 きっと、そんなに面白くもない たぶん、どちらかっていうとつまんない 口語体が多い“それ”を いつか誰かが「詩」と呼んでくれたのだけれど 本当は、ただ単に、体の内にあふれてる 何にぶつけたらよいのかもわからない 「思い」でしかなくて。 だから、書いた本人にとって それを「詩」と呼ぶには随分抵抗がありました。 批判を頂いたこともあります。 私は、聖人ではない、ただのボンクラですので 正直、べっこしへこんでしまいましたが それでも、こうして どうにか、こうにか “それ”を書き続けることができています。 そんなメンタル面で不安要素のある 私がこうして何かを書いてこれたのは あなたが“それ”を読んでくれるから。 へこんで、へたれで どうにも、こうにも その時には“それ”を書けなくなってしまっても “それ”を読んでくださるあなたがいるから 再び立ち上がることもできるのです。 そうして、こうして 私と向き合ってくださるあなたがいるから 私は、“それ”を 書き続けることができるのです。 いえば、私を育ててくれているのは、あなた。 私は、私の書きたいように書いてはいるけど 読んでくださるあなたが こうして、そっと見守ってくださっているから 私は、“それ”を 書き続けることができるのです。 読んでくださってありがとう。 感謝しています。 ありがとう。 ありがとう。 ---------------------------- [自由詩]夏の日の思いで/乾 加津也[2013年2月11日12時49分] 母さん ぼくは思いだしました まだ若いあなたの 細くも強いその手にひかれて夏 緑に燃える蜜柑葉をくぐりどこまでも道はつづいていました おばあちゃんのお家までねと 暑くて永い昼下がり 眩暈に揺れるわたしたちの 上気した影が色を失い 枠のない カンバスの上で途方にくれましたね あなたが買い与えてくれたヤクルトの味が粘っこく いまでもぼくの球い喉から目覚めては なおも積み重なる 始原の底の薄さに喘ぐ そうです あたりは狂った蝉で騒々しくて ぼくはすべてを感じとることができませんでした あなたの手のひたむきな感触のほかには そして あゝ 母さん ぼくはあの日ほどよく晴れた空を この手で生きることができない ---------------------------- [自由詩]私が愛と名付けていたもの/Lucy[2013年2月18日15時44分] それはふるふると 震えて 膨らむ水滴のように 壊れやすく ちりちりと 止むことのない 焼けつくような痛みでもあり 胸を締め付ける 救いようのない憧れだったもの 未熟だった孤独の入れ物 それは時に 抑えがたい衝動であり 突き刺すような敵意であり 憎しみを呼び起こす 執着であり 性急で強引な加速であり 束縛であり 干渉であり 先回りであり 押しつけであり 一方通行の被害感情であり 思い違いであり続けたもの みんな散り散りに どこかへ消えて 残っているのは 虚しい脱け殻 それは やさしさのような干し草 黙って それをあなたに差し出すと あなたは 寝床に敷き詰めて あなたの孤独を横たえた ---------------------------- [自由詩]奇跡が連続するキセキ/夏美かをる[2013年2月22日5時31分] 自分や自分の愛する人が 明日隕石に当たって命を落とすとは 恐らく誰も思わないだろう だから いつも通り私達は 目の前の人にお休みを言って 今日という日を 当たり前のように見送る ある数学者によると その確率は 百億分の一だという その数字をどう解釈すればいいのだろう? 限りなくゼロに近い数字だから 大丈夫さ!と 鼻で笑って 忘れてしまえばいいのだろうか? だけどその数字は 決してゼロじゃない もしかしたら 私達はそれぞれ 百億分の九九億九九九九万九九九九の 奇跡の連続の中で 生き抜いているのかもしれない だから明日 いつも通りに朝が訪れて いつも通りに目覚めたら その人の目をちゃんと見つめて ていねいに ていねいに 「おはよう」と言うことにしよう ---------------------------- [自由詩]二0一二年九月のある日、早朝の都市間バスに乗って僕は・・・/Lucy[2013年2月27日20時06分] 僕は何もかも言い尽くした それでいてどんな言葉も からっぽなんだということに 気づいてしまった人の様な気分で さらに 新しい言葉を 青黒く汚れた綿を繋いだ空に 探していた 神様 僕に投げてください うわすべりの飾りじゃない この胸にどしんと届く言葉のボールを それを受け取るためになら どんな辛い目にあってもいい 雨は斜めに窓を叩き 雲にからみつかれた山は 嘘つきの僕の不安を吸い込んでいる 街はぐしょぬれ 雨で台無し 黄色い重機が並ぶけど 護岸工事は中断されて イタドリの葉は洪水の予感に揺れている 昨日の記憶は埋め立てられ 二度と数えられないだろう だけど当面 僕らは無事だ 少なくとも このバスに乗っている間は たぶん歴史に刻まれる 無惨な時代の一ページに ブックマーカーのように挟まれ 僕らは信じられないくらい無頓着で あり得ない程に呑気で バスは走る この降り続く雨の中 行き着く都市(まち)があるかのように 降り立つ場所が 朝日を避けてカーテンを閉め まどろんでいる乗客たちを どこかで待っているかのように・・・ ---------------------------- [自由詩]三番目の月/そらの珊瑚[2013年3月1日9時12分] 終息に ともなう安堵 かすかな 心残りを秘めて 三月が来る 中原中也賞を受賞した或る詩集を読む 悲しいことに心が揺れない この詩集の良さは 三月が来ようとも きっとわたしにはわからない わたしにだけわからない いうなれば 弥生の霞のなかにいるように いつかそれが晴れる日が来るのだろうか ああ あれは山が息をしているのです 鉄塔に棲む烏が教えてくれました 七つの子は巣立ち 故郷のことを忘れてしまいました それでも同じ言葉で啼いています それだけでいいのです 永遠に心離れたままの隣人のよう 存在に手に触れることはできるのだが 魂に触れることはできない それはただの 綴じられた温度のない紙の集まり オブジェをしては充分に美しい 諦めに ともなう安堵 わかると思いたかった けれど わたしはわかると言わないし ここでは社交辞令など要らない ましてや 三番目の月には通訳は棲んでいない 悲しいことに心は揺れない ---------------------------- [自由詩]薄緑のバタフライナイフ/よしたか[2013年3月3日2時00分] なくしたものは薄緑のバタフライナイフ あぁ 探しまわった しけたポテトチップを延々噛むみたいに どうしようもない孤独をわかったうえでの花畑だったんだ 銀杏の木を不透明な骸骨たちがゆすぶって 泣きわめく若葉が笑いながら落ちてくる ピストル自殺した聖衣をまとった泥棒 花屋の前で花屋という花の香りを嗅いだ 地球のリビドーってなんなんだろう 俺は影法師の第2ボタンをひきちぎった 君はそれを愛だといって あなたはそれを憎しみだという みんな言いたいことはあるだろうけど 一斉に喋るから「人間!」としか聞こえない 一度だけ また隠れんぼうの共犯者たちが 一点集中のビート進行ですべてのHitoshizukuになるよう 強く弱さを美しく醜さを見つめあえたら 薄緑のバタフライナイフがきまるでしょう さっくりと1000の小鳥のさえずりを切りひらいて みずみずしい化石をその手につかんだら 古めかしい未来人が喜んでくれる 毒に癒され薬に毒され 彼女は鏡に現実によく似た夢を見た 柄は深い森のタナトス 形状は入道雲を故人と思い込んだ人の眼帯 切っ先はドブから大切なことを探す人の指先 贈り物にどうですか 死後硬直からの産声はどうですか 硝煙の匂いがするベビーパウダーで浅く飛ぶんだ 琥珀色の感傷が膿んだら 待ちぼうけした最愛がイカロスを設計し始める 薄緑のバタフライナイフの行方を 銀杏の木を不透明の骸骨たちがゆすぶって 泣きわめく若葉が笑いながら落ちてくる 俺は影法師の第2ボタンをひきちぎった 君はそれを愛だといって あなたはそれを憎しみだといって 一斉に喋るから「人間!」としか聞こえない 絶息の野を歩くくたびれたフリルの社会人 どうしようもない空き地をわかったうえでの花畑で 鏡に誰かの夢のような現実を見るけど 極論と正論から弾かれた手垢がなんとなく舞い降りるね ---------------------------- [自由詩]塩を 少々/るるりら[2013年3月5日21時29分] さかのぼる 水晶のような 水滴が 高速バスは雨の中を走ると フロントガラスの水滴が 同じスピードで のぼってゆく 静かな行列が たゆまなく のぼってゆく そんな様子を何時間 見続けていたでしょうか 体が火照るのは わたしの中の血が のぼっているからで バスが赤穂をとおるころ すこし雨が雪へと結晶しかけ わたしも結晶しかけました 赤穂は塩の町だと思い至らずにいたら うっかり私は フロントの一粒の水滴になるところでした ガラスをワイパーが両方から清掃するので 中央の水滴だけが 外気に押し上げられて  扇の形に のぼっていました まるで その様子は 祖先を見るようです たった一粒の命が 進化して わたしだったり 魚だったり プランクトンだったり する する すると のぼってきた わたしたちは  わたしは水滴 たったひとつのところからうまれた 水滴のような命 が おなじスピードで拡散し 上へ上へとおしあげられ しかし ふと わたしは水滴として結晶せず 我に返ったのです そこが【赤穂】だという 案内板を見たあたりで 塩の匂いが してました わたしも お魚と違わない わたしも 水滴と違わない とても違って見える あの人とも 違わない そんな塩の匂いです ---------------------------- [自由詩]亀のいちばん長い日/夏美かをる[2013年3月8日4時59分] 亀とは 亀のようにゆっくりなペースで成長中の私の長女 この間9歳になった その亀 学校以外の場所では とっても朗らかでおしゃべりなのに 小学校入学以来 教室で全く口を利けない 少人数の支援学級ではお喋りができているらしいが 普通学級では三年間で一言も喋れていない 当然友達など誰もいない ボランティアが終わって休み時間中の校庭を眺めると いつも一人でぐるぐる走っている亀の姿を見かける そんな亀についての話し合いの席で 担任の先生が 「今度の読書発表会には亀にもどうにか参加してほしい。  三年生が終わる前にクラスの子に亀の声を聞かせてあげて  亀は喋れるんだよってことをみんなに知らせたい。  教室で亀が発表するのはとても無理だと思うので  亀の発表をビデオに撮って教室で見せたらどうか?」 と提案してきた おお、それはいけるかも!と 早速なんとか亀をおだてて 原稿を書かせ(いや、正確には殆ど旦那が書き) それを読む亀の姿を撮影することに成功! 旦那がその様子を字幕入りのDVDに仕上げた ところが亀ちゃん 撮影の時にはノリノリだったのに 発表の前日の夜 突然部屋の隅で 膝を抱えてしくしく泣き出した 「やっぱり明日学校でDVDを見せたくない」とのことだ 「あんなに上手に読めたのにどうして?」と肩を抱くと 「私の喋り方が変だからきっと皆に笑われる」と返してきた 「そんなことないよ」とすぐに言ってやれば良かったのだろうが 咄嗟には出てこなかった 確かに亀の喋り方はかなり舌足らずだ DVDを見たクラスメートが思わず笑わないとも限らない なにせ彼らはまだまだ自然体で生きてる小学三年生なのだから… 助け舟を出したのは二歳年下の妹 「笑う子はそっちが悪いんだから 亀ちゃんもそう思えばいいの!」 その言葉にはっとして 「そうだよ、そうだよ、亀ちゃん! 笑う子の方が悪いんだから もしも笑われても気にしなきゃいいんだよ」 とやっと取り繕った 翌朝涙を溜めながらスクールバスに乗った亀を見送り そわそわ時間を過ごしていると 正午過ぎに担任の先生からメールが届いた なんでも亀はいたたまれなくて DVDを上映している間は 応援に来てくれた支援の先生と一緒に 廊下に出て耳を塞いでいたそうだ 上映後に先生が 「頑張った亀ちゃんにお褒めの言葉を伝えたい人はいる?」 と訊いたら、何人かが手を挙げてくれて、 そのうちの四人の子が代わる代わる廊下に出て来ては 亀に言葉を掛けてくれたという 最後に先生も出て来て 亀の手を握りながら 「亀ちゃん、とっても上手に読めてたよ。 みんな亀ちゃんの発表に感心してたよ。 勿論笑った子なんて一人もいなかったよ」 と言ったら、 亀はすぅ〜と再び涙を流したらしい 夕方亀と妹を迎えに行くと 亀は満面の笑顔でスクールバスから躍り出てくるなり 握りしめていた皺くちゃの紙を私に見せた それは最高ポイントの四が並んだ発表の評価票だった 「すごい!すごいよ!亀ちゃん、全部四だよ」 興奮する私と下の娘 更に亀に言葉を掛けに来てくれた四人のうちの一人が “この子と結婚したい”と亀が私だけに秘密で教えてくれた男の子だと その時知った私は余計に興奮してしまった その晩は亀のリクエストにより回転寿司屋に行ってお祝いした 他の子が普通に出来ることの 十分の一くらいのことが かろうじてできるようになっただけで いちいち祝いに繰り出す能天気な家族 だけど、亀の声が初めてクラスの子達に届いたんだ! これを祝わずにいられるか! ねえ、亀ちゃん、 “自分が話すのを聞いて みんなが笑うかもしれない” なんて不安は あの時廊下で流した 最後の一筋の涙と一緒に蒸発しちゃったよね! この先十年経ってもきっと覚えている 亀ちゃんにとっての今日という日のハイライトは 何といっても アンディ君に褒めてもらったこと、 だね!! 亀ちゃん、ハイタッチ! ---------------------------- [自由詩]二千十三年三月十一日に/夏美かをる[2013年3月15日4時28分] 震災関連番組を見ている 私の背中に 六歳の娘が不意に覆い被さってくる 今朝思い切り叱られて 「ママなんか大嫌い」と 涙を溜めた目で私を睨みつけていた娘が 「ママ、大好き」と言いながら 私の首に腕を回してくる その皮膚の温かさを確かめながら 並ぶ数字の重みを反芻する 死者 一万五千八百八十一名 行方不明者 二千六百六十八名 依然避難生活を続けている人 三十一万五千百九十六名 二千十一年三月十一日 午後二時四十六分 この瞬間に崩れ去った 普通の人々の普通の生活 一体彼らが何をしたというのだろう? 彼らと私を隔てるものなど 十時間の飛行時間以外何もないというのに 『復興』という言葉が何度繰り返されても いくら瓦礫が片付いても 無念は、悲しみは、苦しみは もうその地に深く刻印されてしまった 彼らはいかほどの淵に未だいるのか? 私の乏しい想像力では 推し測ることすらできない そのことの罪を 娘と共にこの背に負う 頬をすり寄せてくる娘を無理やり 胸の前に引き寄せ、 娘の体ごと 命ごと 包み込むように きつく抱き締めると 飛び出す「きゃっ、きゃっ!」という 無邪気な歓声 それが胸に突き刺さり 呼吸が一瞬苦しくなる 「ねえ、このテレビつまらないよ。  変えてもいい?」 しばらくして 娘が私の腕を振り解きながら言う 旦那と上の娘は午後の日差しの中で 一緒に本を読んでいる 伸ばした私の手の延長線上で 確かに今息吹いている日常を しっかりと脳裏に焼き付けながら、 海の向こうの 尚もくすぶり続ける大地の上で 静かに眠る魂と 失われた日常に慟哭しながらも 新たなそれを重ねようとしている 決して眠らぬ人々に そっと祈りを捧げる 今日という日のこの瞬間 ---------------------------- [自由詩]書きたくても書けない、とある作家の話。/東野 遥汰[2013年6月28日19時55分] 部屋に閉じ籠って もう一週間は経っている 何かを書いて紙を捨てて 毎日毎日が虚弱な無限ループ きっかけが欲しい スイッチを探してる 早く書きたい でも筆を取るのが怖い 通行人Aが奏でる 彼だけの人生を分析して 僕はやっぱりただのB 変哲の無いただの通行人B 予想もしない幕開けに 観客は大パニックに陥って 主役を脇に押し退けて 通行人Bによる独壇場の開演 そんな夢を見るようになって 毎日文字が書けなくなった 座標軸に浮かぶ星と星 プロットに佇むAとB 文字に起こすのが怖いだけ 思考の設計図は出来ているのに 原稿用紙が無限の升目 目は疲れて腕はくたびれて いつの間にか机に突っ伏して 例になくあの夢を見るんだろう ---------------------------- [自由詩]想いを透き通す念/朝焼彩茜色[2013年8月5日23時18分] 犠牲なんてない 代償もない 思考の方向は深さは 広さは 拡張工事中さ 埋立地みたいにね 海は泣いているか許しているか まだ答えは弾き出していないが  心地よい指圧で差し引きする もの心の星  大の字で幽体離脱 引き寄せられる もの心の星へ無垢趣く 今は割り切れなさを磨り潰す 工事中さ 神経を削りながら 己の扱い方を 丁寧に撫でてゆく きめ細かく 繊細に磨きながら 空気を洗うように 拝む合掌の手のひらに 汗したたる 望みを頂くことに 犠牲なんてない 代償もない 微塵の時代は微塵ほど 再び矢印を強く太く引いてゆく 追いかければ答えは飛び出てくるだろう  快い一皮も二皮も剥けた 裸が透き通る 離脱した有体を見下ろす  いとおしく眠る己に 引き返す 未練のカーマを越えて 願いを照らす陽の光 拝む合掌 もの心のついた生まれたての星へ 届く 夢を実現させる現実を 拝む合掌から目を開き 払う埃がかき消せれた後 犠牲と代償が この己で最後だと終止符を鼓動に打ちたい ---------------------------- [自由詩]素敵な突風/キダタカシ[2013年8月24日17時00分] 黒くて柔らかい 君の綺麗な前髪が 海から吹く突風に 掻きあげられた 困ったような 笑ったような表情で 僕から顔を背けた 君の横顔はとても美しく 露わになった額の 生え際の産毛が なんともかわいく 愛おしい 君の産毛すら愛おしいと 気付かせてくれた 素敵な突風 僕は心の中で 感謝した ---------------------------- [自由詩]簡易的な難易的本質/ニワコ[2013年9月28日2時45分] グットモーニング (朝は来るよ、何度でも) グットバイ (素直になんて、なれなかった) グットモーニング (君の居ない朝を迎えて) グットモーニング (窓辺に置かれた宛先のない、) グットモーニング (手紙は蝶になって飛んでった) グットモーニング グットモーニング グットモーニング グットバイ ---------------------------- [携帯写真+詩]ジンジャー &エール/るるりら[2013年9月29日0時52分] むかしから廃れていた街だった それでよかった 気にもとめなかった 隣にいるべき人が この景色には居たのは あたりまえ 故郷とは そういう場所だった 潮風が吹いていると言われても なにも感じない 海と空の青に シーサイドホテルの白は 胸が痛くなるど 白く 健康的で泣きたい気持ちになる 泣いてませんから泣いてませんからと 心の中で 繰り返し 整地の歩道をぬけて山道に入る 蜘蛛の巣をはらい つづく石段を登りきると うつくしいお決まりの海がすっかり隠れている さきほどまで聞こえていた船の音も ヘリコプターの音も聞こえない ただ 一輪 生姜(ジンジャー)の花が咲いていたた たったひとりで 放つ光と香に 私は向き合った  ---------------------------- [自由詩]おもてなし妖怪2013/るるりら[2013年10月3日8時10分] OMOTENASHIわたくし 妖怪 おもてなし と申します。 わたくしの体のほとんどの部分は 水とコラーゲンなのでございます。 人間の水分量は たったの六割だそうですね。  よくそれで生きていられるものでございます。 ようこそ 当店へ そうですわよ 絶望とかは 当店に 沈めてしまえば よろしいのです。きっと 無数の虹の輪ができますわよ。 今日も この小料理屋で 故郷の深海を夢見ますの、 深海に棲む生き物の腹の内は みな腹黒い連中なのでございます。 透明な自分に あきあきしております。 深海に棲む生き物は 透明なものが多いのでございますが 基本的には みな腹黒いのでございますよ。 身体が透明ですと 食べたものが透けてみえるではございませんか ですから 胃腸を包んでいる部分は 黒いのでございますよ。 腹黒い 私たちではありますが わたくしにも 夢がございまして  2020年には 東京出店にむけての準備をしておりましたの。 五輪の光を受けて翻る わたくしの鰭よ !  などと、夢をみていたのは 昨日までのお話ですわ わたくし 今朝も練習しておりましたのよ。  OMOTENASHIといって合掌して、微笑みましたら  今日は みなさま私を「アンコウ」とかと お呼びになり わたくし、ただいま 吊るされてしまっておりますわ。 いやですわ わたくし 妖怪の中の妖怪 その名も おもてなし いやですわ わたくし 妖怪の中の妖怪 その名も おもてなし あ いま わたくしの身が 表と裏に 剥がれますわ あら あなた 泣いておられるの?裏の無い方ね。 わたくしは、 おもてがないのでございます。 ---------------------------- [自由詩]ミッキーマウスへ/ichirou[2014年7月27日17時56分] ミッキー 世界中の君がひとりきりのふりをするのは 掛け替えのない存在でありたいからかい? ミッキー 今日君のぬいぐるみを抱きしめている女の子を見たよ あの女の子にとって 君のぬいぐるみはきっと掛け替えのない存在 何万体のうちのひとつであっても掛け替えのない存在 ミッキー 人は皆掛け替えのない存在 私は私  君は君 女の子は女の子 皆この世界にたったひとり 君のぬいぐるみがいくつあろうとも あの女の子はひとりきり だからあの女の子が抱きしめている君のぬいぐるみは 掛け替えのない存在 ミッキー もう大人の理屈でひとりきりのふりをするのは 止めたらどうだい もう隠れたりしないで ずっといればいいじゃないか ミッキーマウスがディズニーランドの数だけいても 何もおかしくないさ 夢の国なのだから ---------------------------- [自由詩]プリーズフリー(ズ)/Wasabi [2014年10月25日17時59分] 前酪  トロリーバスに新緑の空 ゆられて  クイーンな休日 いかがお過ごしですか。  グリセリンはもうとっくに植物性を過ぎたころだけど  明日はきっと晴れる予報が当たりますよね。  白地にグレーのドット柄。そんなハンカチーフに  なったじぶんは気分の問題でしょうか。   あれから30年 なんてファーっというま。でした  白いマウスが赤く点滅しながら動きません。  昔話に花を咲かせたら、おじいさんは  よろこんでくれますよね。だって  エビリファイもユーロ人もピッコロも知らない。  しらなくて良いことがフリースにもあるって  ご存じでした。      いまも  わたしは 柄モノです。無地が落ち着く  きっと福永さんも景気よく座布団を敷かれると願ってます。  横目で傷の汁をながめつつ  かゆみすら感じないほどのシワで失礼致します。                                                  草枕 ---------------------------- [自由詩]棚から… /イナエ[2014年12月3日17時22分] 箱の中に入っている人のこと 何も知らないのだがな  どんな仕事していた人か  どんな声で話す人か 葬式だから来いと言われてやってきたけれど 母の従兄弟と言われても  母はとっくに死んでいて 母の祖父の不動産がまだ登記簿に残っていたって 明治時代のことではないか どうせ相続放棄せよって言いたいのだろう だが… ---------------------------- [自由詩]鳥よ?/夏美かをる[2014年12月5日16時04分] 夜と朝が交差する一瞬 藍色の空めがけて解かれる 淡い黄金(こがね)の帯 その真中を引き裂いて 真っ直ぐに飛んで行く  お前は名も無き一羽の鳥 霊妙なる森の奥深く 未だまどろみから醒めぬ湖の 常盤の色肌を滑るお前の分身が 必死に縋ろうとしているのに 一度も振り返ることなく お前は 完璧な直線を描いて 軽やかに飛んで行く お前はなぜそんなに逝き急ぐのか? お前は知っているのか? お前のDNAが 己をどこへ導こうとしているのか 逝き着く果てに 何がお前を待っているのか? やがて薄藍に溶け込もうとしている 黎明の三日月 その横顔が 静かに手招いているというのに お前は たゆたう暁の靄に 鋭利な裂け目だけを遺して 余りにも速く 飛び去って逝こうとしている 輝く白銀の翼を ただ狂おしく羽ばたかせながら ---------------------------- (ファイルの終わり)