クローバーのおすすめリスト 2005年2月11日19時07分から2005年5月28日21時01分まで ---------------------------- [自由詩]夜、幽霊がすべっていった……/岡部淳太郎[2005年2月11日19時07分] 夜、 背後に 人は身体をこわばらせる 何がよぎったのか 誰があとをつけているのか この暗闇の中では 振り返る勇気はなく 確かめるすべもなく 人は いくつもの時を越えて 人類の始まりの歌を 歌う あれはいつのことだったか 君は獣に追われ 君は聴き耳をたて 君は炎の側で安らぎ それはすべてこの全時間の半分を覆う 夜の間に起こったこと あれはいつのことだったか 日は隠れ 星は瞬き そんな夜という名の領域での 繰り返す生活の一部 誰もが日々越えなければならない 広大な版図 時には意を決して 漆黒の中へ踏みこまなければならない そんなことも ある だが 夜、 その「 、」のあとが恐いのだ そのあとに何が待っているのか 何が 君のために身がまえているのか ああ せめて眠ることが出来たら それは人類の共通の願い だった それこそがこの闇から逃げ出す最上の方法 だった いまや 街は灯り 人類の共通の記憶は 危うく消し去られそうになって 宙に浮いている だが時には あれは猫か あれは犬か それとも何か別の などと思うことも ないわけではない だろう 夜、 その「 、」のあとを思い描いて 今夜も誰かがふるえている 私は 恐怖の中でさえ 頑なな 岩となる 幽霊が 今晩は。 どこかであなたと お会いしませんでしたか。 君の前に現れて いきなりそう告げるのは 誰あろう ひとりの ひとつの 幽霊である 君は気づかない それは 首を失くした男 または 脚の消えた女 あるいは 臍を取られた胎児 (なのだが) 彼 もしくは彼女は 死してなお 実体化した宇宙の塵である (のだが) 隕石への道を見出せず 岩石の思いにとどまったままの 未練をどこまでも引き延ばしたような 抒情詩 その余韻 彼 もしくは彼女は ひとり君のみに向けて つぶやく 寒いのです。 どうか私に 熱をください。 そう云われて初めて 君は気づく 君の 動かぬ脚 そして 月の悲鳴 夜は凪 道は細い 裏通りで あらゆる人工の灯りは 周到にこの場所を避けている 時もところも どちらも閉ざされた迷宮の中だ 君は蒼ざめ 彼 もしくは彼女は なおも云いつのる 熱を、 熱をください。 気がつくと 長い旅のような 逃走 君は懸命に走りつづけていた 彼 もしくは彼女は 求めていた熱を君から奪ったのだろうか 走りながらも君は 震える寒さとともにある 君の平熱は 三十六度五分 (なのだが) それがいまは確実に下っているように思える (のだが) 背後はもちろん闇の中 (なのだが) 振り返ることが出来ないために 闇の密度はますます高まっている (のだが) 今晩は。 今晩は。 彼 もしくは彼女が 君の前に現れた最初の姿は とても透明だった (のだが) やっと 君はたどりつく 夜は時化 道は広い 表通りで 光瞬く文明の喧騒だ 君は 明らかな人を見つけ がたがたと 歯の根で幻の糧を喰いちぎりながら 百年も老けこんだような気分で 云う 幽霊が 幽霊が すべっていった…… すべっていった    (廊下の上) すべっていった    (あるいは大理石の大広間) すべっていった    (砂浜の上だろうとぎざぎざの密林の中だろうと) すべっていった    (世界中どこででも) そこに何の欲望も    (なく) 希望や絶望もなく    (泣く) 最後の眺望は閉ざされ    (一行を無駄遣いする) 岩石に関する悲嘆だけを乗せて    (転石の裏のひと押し) ただ    (鋼の車輪の最期) すべるのは幽霊    (バナナの皮) 人間では ない    (無い) 夜明け前の一時間    (僕は何もしかけたりはしなかったよ) 彼 あるいは彼女は    (川を渡る飛び石) どこにでも出没する    (落ちる果実) そこに疑問の余地はない    (割れる皿) ただ    (犬の星の光は確実に届いて) ただ    (青い星の闇は交替して) すべってゆくだけで    (括弧つきの炎) 何ひとつ思うことはなく    (括弧つきの過去) それが彼 あるいは彼女であるということ    (カーペットが毛羽だつ) そこに疑問の余地はない    (身の毛もよだつ) 夜明け前の一時間は 静かだ    (たったそれだけ) そしてすべる    (僕は何もしなかったのに) そしてすべる    (何ひとつ生きたためしがないのに) もうすぐ夜が明けて    (そこに疑問の余地はない) 朝刊のざわめき    (落ちた魔術) 牛乳のさざめき    (割れた血) 彼 あるいは彼女は    (こうしてふわふわと立っていて) もう溶けなければならない    (それからすべる) 逃げるのではなく    (それからすべる) 光の中に吸収されて見えなくなるのだ    (どこでもないいまここへ向かってすうっと) 幽霊の時間は終る    (すべてはすべるそして僕も) それまでは息苦しい闇の中で 静かだ    (すべっていった……) 人間はすべらない ただ 歩くだけだ 連作「夜、幽霊がすべっていった……」 ---------------------------- [自由詩]星と花火は森の中/GGP[2005年2月11日21時05分] 僕は彼女を困らせているんじゃないだろうかと、 しかられたあとの子供のようにどぎまぎし、 ココロを収縮させ、ひとつひとつの言葉に、 身を切るような寒気が走るのだ。 森についてもっと詳しく話すべきだったのかも知れないが、 あの森はあなたを食べる事もしないし、 ましてや僕が強烈な光に撃たれて覚醒して あなたを総本山とやらに連れて行くこともしない。 でも、森についてしっかりとした口ぶりで説明すると、 彼女はほっと胸をなでおろした様子で、お腹が空いちゃったね! といって笑った。 いつまでこういった彼女と一緒にいれるのかなんて、 僕にはわからないけど、今のところ彼女は僕のことを エイリアンであることを面白がっている様子だから、 僕はエイリアンらしく振舞っていればよいのだけれど。 でも、いつか彼女は、僕のことにも飽きて、 違う地球人といなくなってしまうだろう。 彼女はエイリアン的な言葉や、振る舞いや趣味を 面白がってくれるやさしい地球人。 彼女もエイリアンだったら、いいのにと僕は時々思う。 彼女が僕と同じエイリアンだったら、僕らの星に帰って、 やさしくて柔らかい時間をほおばりながら、 鼻歌交じりに花火をするつもり! ---------------------------- [自由詩]微温湯の羽/あおば[2005年2月11日21時28分] 安い 板チョコ Bチョコを 買い物帰りに 頬張る 踏みつけて 蹴りつけて おもいきり 1日を 虐げる 気をつけろ やつらは 悔し紛れに 跳ね回り 隠し持った 怒り狂った 2B弾を 空に 撃ち込むぞ むき出しの 世界の果てに 小春日の残骸が 濁った灰色の くすんだ秋が 褐色の弾丸となり ケダモノになる 歯をむき出して 狂ったように 激しく笑う それは おまえの たましいの ヌケガラ 香ばしい 二枚貝の 姿焼き 寂しがり屋の 太った ナイヤガラ瀑布の 利ざやを稼ぐ 羽の生えた ぬるま湯 に 浸かりすぎて 風邪ひいて 嚔する 痩せた 小国民が 欲しがるものは 義理チョコにも 愛想づかしをされた 甘いだけの Bチョコ は 褐色の 弾丸 空を飛ぶ 初出 『poenique』の『即興ゴルコンダ』 ---------------------------- [自由詩]点のカイト/光冨郁也[2005年2月20日14時31分] 江ノ島の砂浜で、 少年だったわたしは、 父とカイトを、飛ばした。 父の、大きな背の、 後ろで空を見上げる。 埋まる足元と、手につく砂。 潮風に乗って、 黒い三角形のカイトは、 糸をはりつめて、遠く浮かぶ、 追いつくことのできない、 二人で見続ける、 空の点。 ヘッドホンで、 CDを聴く夜。 不安をやわらげるため、 処方された漢方薬、 薄い茶色の、舌にはりつく、 顆粒を、 ウーロン茶で、二回にわけて、飲む。 オウム貝の、ライトの明かりだけで、 眠くなるまで、 ベッドの中から、 床のすみに放られた、 アルバムを手にする。 オレンジに照らすページを開くと、 正月に、江ノ島で遊ぶ写真があった。 腰を曲げ、 黒いカイトの糸をほどく、父と、 紙袋を後ろ手にしている、わたし。 それぞれ、帽子をかぶり、 色黒の父と、 色白のわたしが、 カメラのレンズの側の、 母に向かって、笑っている。 半身を起こし、 わたしの横顔を、 ストロボより激しい、 カミナリの光が照らす。 腕を伸ばし、窓を開け、 二十年は会っていない、 亡き父はどこかと、空をあおぐ。 いま、 黒い点が拡がり、 巨大なカイトで覆われた、 夜の空から、雨が降り注ぐ。 カイトのビニールにあたる音。 わたしは、枕元のライトで、 一眼レフの脇の、 紺の帽子を探し、かぶり、 湿った風の匂いに、 こぼれた薬が、 胸もとに散らばり、 さわってみると、砂の感触がある。 ---------------------------- [自由詩]タラン/ayu-m[2005年2月20日16時05分] タランは耳が無い タランは聞きたくない音が多すぎて 耳がなくなるように進化した タランは子を産めない タランは子供なんていらなかったから 子供なんて産めなくなるように進化した それでも タランはトロンがすき いつか大人になりたいのと トロンが口にするのは癪だったけど タランはうんうん頷いた 一生懸命頷いたから 首がなくなっちゃうのももうすぐだ ---------------------------- [自由詩]汚れてしまった履歴書/天野茂典[2005年2月20日17時32分]       ルイ・アラゴンか    『狂気の愛』    ぼくは4年間断続的に    精神病院に入っていた    狂気の愛    閉鎖病棟で    苦しんでいたぼくの来歴    狂おしく読書がしたかった    美しい看護婦に惚れた    嫌らしいことばかりいっていたそうだ    看護婦さんのおっぱいを揉みたかった    到底正常ではなかった    フラクタル理論についても    語ったそうだ    愛が欲しかった    母が心配で    普段は見ない大相撲中継まで    チャンネル争いに勝って    みていた    母も見ていたはずだから    狂気の愛    汚れてしまった履歴書の    最後に一行    狂気の愛 それは自涜のブロマイド もう35億年もない             2005・02・20    ---------------------------- [自由詩]必馬仏子/ayu-m[2005年4月5日10時12分] 茶漬けに押しつける様にした急須の先端から白米を少し、焦らした 朝方のルーズリーフに残った残り香の様な文字に目もくれたくは無い 老衰にはげあがって小さくなってやっと死んだ犬に上げる線香は桃色を選んだ 1年前からの幸せを数えはじめるが心当たりにひっかかるのは音源ばかり そして今朝の僕は飯を片腕にして鼻先で笑いつつこたつを捨てる 神経衰弱の様なうらがえった細胞共は失敗を起こした蠅人間に似ている 熱を持って腹がのたうつのだ、光のまぶしさに その背中をくれとせがむせむしに猫は言い放ったのだが何だったか 泣きじゃくる子どもの群れが世界各地にあふれて居るというだけで優しさに縋る そのぶしつけな格好の悪さに僕は少々嫌悪感よりは怠惰も含めて心地よいは否 だから今朝は白米を焦らし、腹をのたうたせる だから今朝はこたつを捨て、蠅人間を想う ---------------------------- [自由詩]予感 その2/たちばなまこと[2005年4月5日16時17分] <早朝のめまい> 無数の針が 雪の地平線に整列してゆく 朝日に小刻みに照らされて 瀬戸際の美しさを 告げている 銀色の予感はめまいの中で 怖れながら起立する 人肌の息を含んで 撚りをかけた ゆるい双糸を 異国情緒でまとうと 小さな人になったからだが 曖昧な浮力に 囲われる 三つ子のかぞえうたを 遠くに聞いて 流れるまでに満たない半端な涙を 中指に乗せて 表面張力のいじらしさに 重力を再び感じたら もう 崩れそうになる <臆病な潜在> 意識を取り戻しても ここは ガラス・フィルム・フラワーの繁殖地 花びらは 幾重にも溜息をつくけれど 爪で弾いたらすぐに はらはらと 小さなかけらになって 根元へと おちてゆく 薄桃色の部屋に 咲いて 埋め尽くして やがて呼吸となり 肺につもる 女を抱いて 抱きしめて しめつければ 乳房の肌理の油断から 鋭くて 痛いくせに 甘い かけらが 砕けた形をして 溢れて 抱いた人の胸元に溢れる汗に 溶けて 抱かれた人の脇腹を 伝い 花たちの根という根に 手を伸ばして なじんでゆく 彼女らは輪廻しながら 甘くて痛い遺伝子を 守り続けている 根を持つものはみんな女で この部屋で女を抱きしめる その人だけが唯一 ひとときの 男なんだ ---------------------------- [自由詩]石/アンテ[2005年4月6日0時30分] 高く頑丈な壁だった 男は毎日まいにち 石を投げつけて崩そうとした 辺りに転がっている石は どれも脆く 壁にぶつかるとぐしゃりと潰れて 壁にへばり付いたまま固くなった 毎日まいにち 石を投げつづけて へばり付いた塊が成長して すっかりもとの壁は見えなくなった ごくまれに どこか遠くから なにかを叩く音が聞こえると 男は壁に耳を押しあてた けれど音の源はわからなかった 日が暮れると 木陰にうずくまって眠り 日が昇ると 起き出してまた投げつける石を探した 手頃な石が見あたらなくなると 男は壁沿いに移動した 壁はどこまでも続いていたし 石はどこにでも転がっていた 時折ふと我に返って 空を見あげると 小さな鳥が一羽 ゆっくりと舞っていた 壁の稜線のはるか遠くを 変わることなく 翼を広げて舞っていた 男は大きく息を吸って しゃがみこんで また次の石を拾った ---------------------------- [自由詩]どこかにて思いなやむ/田川修作[2005年4月10日1時41分] 僕の棺桶は 宵の田圃に 似合うと思った ついでに さびれた電灯も 足しておこう ---------------------------- [短歌]優しき弓夜/りっと(里都 潤弥)[2005年4月10日2時10分] 謳歌する冷蔵庫の中の牛乳 冷える身体は一人のもので 日曜の午後の桜の眩しさに白昼堂々犬を買います 僕が犬を触ることができるのは夜に牛乳皿を割るとき 君と犬の似ているところ探しては沈む夕日に口笛を吹く 夜はテープレコーダーに話しかけることから始まるんだ 星よ 背を曲げて君の夜中に忍び込む鞄に裸のぬいぐるみ居る 僕は額から靴紐に向けて血を流し込んで弓になりたい 身体から流れる液は牛乳で僕が犬です矢に打たれます 君の眼が犬の臓器を抱きしめて優しき弓夜人売らぬ歌 きっと恋だけはあったんだと思う角交換を振りかえりつつ ---------------------------- [自由詩]右手/umineko[2005年4月10日2時40分] 右クリックでワイザツ画像を 取り込んだ牧師の右手 と 小さな島への記述を消し去れと パピルスに火を放つ男の右手 と うそだぴょーんと少年の純粋を あざ笑う車内の母親の右手 と 滝に打たれるプロレスラーの スロットルの形をした欲望の右手 と 貴方の大切な場所を 後ろから探したりする右手 と 握りしめたはずで手袋ごと落下する クリフハンガーが差し出した右手 と 僕は連帯する僕は拒絶する そして繰り返す何も変わらずに 声を聞き逃さないよう 携帯を耳に押し付ける 左利きの自分には 理解できない 右手 で       ---------------------------- [未詩・独白]戯言050410/あおば[2005年4月10日4時44分] 桜の下のあるあるさんとこの探検隊の 桜の下の あるあるさんとこの 探検隊の 住んでいるマンションで 三番目にかわいい女の子 大学四年生になりましたが これからも 歩いて駅に向かうことはありません 今朝もクラスメートの いつものアッシー君がお出迎え 365日の無料奉仕を喜んで 待ち草臥れて 桜の花びら眺めてる 薄いピンクがお気に入り ヒラヒラ飛んで舞い踊る 夢の中の女の子 普通はそれを花の妖精と言うんだけど アッシー君は車が好きで 妖精を見たことがないのです その代わりといってはなんですが 徹夜バイト明けの朝でも 期末試験中の一夜漬けの朝でも ケータイ呼べば駆けつけて ドアが開くのをじっと待つ 卒業したらお別れと 互いに感じてはいるけれど もしかしたらとアッシー君 来年の桜の季節を夢みてる お花見の人たちが 時間を忘れて 歩いてる 時間よ止まれと 思うのだ 桜の下の 渋滞する道路の上で のろのろ運転するアッシー君は焦るけど 駅の電車は正確で 最上級生は冷静で ここでいいから ありがとう ちょっと笑顔でドア開けて あっという間にいなくなる 気がつけば 道路の向こうも満開の 薄い色した桜たち 満開のいつもの笑顔で待っている 桜のカーブはきつくないけど 坂道で 一時停車は出来ないのです アッシー君はアクセル踏んで もと来た道へぶっ飛ばす 一夜漬けの入社面接待っている 花の都の高層ビル群 四角四面のガラスの社屋 -------------------------------------------- 初出 poenique 即興ゴルコンダ (2005/04/10) ---------------------------- [自由詩]おにごっこの、/望月 ゆき[2005年4月10日12時15分] ぼくらは、とかく秒刻みでしか生きられない ようにできていて あわただしく 世界は今日も明日へと足をすすめる そこに待っているたったひとつも ぼくらは知らない 世界はどうしてか いつも早歩きがすぎる おにごっこのおには、だぁれ 夕暮れになるとかみさまが出てきて ぼくらに教える 「もうじき、夜が来るよ。」 かみさまはなんでも知ってる それだからといって 「はやく、おかえり。」 とは、言わない そのかわりに ブランコの向こうで おかあさんが呼んでいる ---------------------------- [自由詩]かみさまについての多くを知らない/望月 ゆき[2005年4月10日12時56分] 1. かみさまは、どこですか。 2. かみさまは、どこですか。 道すがらたずねると あっち、と指をさした人がいたので ひたすら あっち、に向かって歩いた 歩いて歩いて歩いて いつしかわたしは いくつもの境界線を越えて 世界にたどりついた たどりついた世界に、かみさまはいた あっち、と指をさしたその人が笑っていた 3. かみさま、お願い。 少女は窓辺で手をあわせる 夜空に星があっても なくても その夜も 隣の部屋で女は おまじないの呪文をとなえながら 少女の頃から 何度もかみさまに裏切られていることを おぼえていない 4. かみさま と ほとけさま どっちでもいいけど どっちが強い? どっちが確率高い? 5. かみさまはときどき 自分がかみさまだってことを、忘れる 夜のニュースではキャスターが 今日は夏日でした、と告げる 摂氏34℃に溶け出したもの の行方については語らない だけど 今日がほんとうは冬だってことは みんな知ってる 自分がかみさまじゃないってことも 6. ストローでもって ぐるぐるとかきまわしてごらん コォラ・フロォト とか クリィム・ソォダ とか とにかく その、白いとこ かみさまってやつは たいてい そんな場所にいるんだ 7. かみさまです って、名乗ったら みんなにひどい目に遭わされた そんなのって、あるかよ 半開きの目で ぐるりとまわりを見渡したら クラス全員が 「かみさま」 って、名札をつけてた 8. かみさまは、雲の上から ぼくらを見守ってくれてるんだ って ずっと信じてたよ きみがポッケから出した 右手の中身を見るまではね 9. かみさましかいない世界で 人間であることは ひどく悲しい 木々の呼吸、 風の感触、 生態系のもつ愚かさ、を そうでもしなきゃ気づかなかったという 大罪 10. ぼくらは、かみさまを知らない かみさまは、ぼくらを知らない (あるいは、知ろうとしない) かみさまは、かみさまを知らない かみさまは、かみさまなんかいないってことだけ 知ってる ---------------------------- [未詩・独白]閉ざされているような/フユナ[2005年4月15日1時37分] 冬からようやく春になります 夜空がもう春になりました たぶん 桜がもう芽吹いています 知っていますか 東京、よりも半月も遅い 川の流れは順調です これ以上ないほど順調です その先に家があります あなたの家です 灯が見えればいいといつも思う とりとめなさ、はいつものことです 風に吹かれたときに 星を見上げたときに と書くと笑うでしょう あなたの名前を 何が言いたいの、と聞いてください ありがとう でなくて 何が言いたいの、と聞いてください ドアノブを切り落とされた扉 カッコウが鳴かない横断歩道 馴染まない「ピーチコロン」の くすんでいく歩道橋 という思い出 (数学のノート  緑の柄の鉛筆  くすんだ赤い鞄  とりあえずの短い靴下  アキレス腱) 閉ざされているような そうでないようなこの闇 川の流れは順調です よどみはしてもまっすぐで これ以上など望むべくもない その先に家があります あなたの家です あなたの灯がついているので 足下の 春の花を摘み上げます 黄色、 川の流れは黙々と 海まで続いているので 私としても光が必要でした 何が言いたいの、と聞いてください 桜が咲くんです ここにまた 東京より、半月も遅く それをあなたに伝えたいのです そしてまた 何が言いたいの、と聞いてください そしてまた 何が言いたいの、と。 ---------------------------- [自由詩]北窓開く/佐々宝砂[2005年4月15日1時48分] 強風の夜 窓の向こうで大きな音がした 恐怖に叫んだかもしれないが 身動きしたかもしれないが 記憶にはない  まだ幼い少年が  フルフェイスヘルメットの男に殴られている  やわらかそうな唇は歪み  瞳は恐怖におびえ  腹立たしい私は  フルフェイス男の腹にナイフの洗礼をくれてやる  それからついでに少年の咽にも  ふたり 殺した ということになる  なにひとつ未練がないと言えば嘘になるが  南向きに大きく開いた窓の向こう  きらきらと青い春の海が誘っている  そう 簡単なこと  飛び込めばいい  わたしはナイフを突き立てる  自分の額に眉間に  目にしみるのは  よくわからないが  血液なのだとおもう  ぐりぐりとえぐる  硬いのが頭蓋骨だろう  渾身の力でえぐる  我が第三の目よ開け  松果体よ  この最期のときに本来の機能を発揮せよ  そう これが  ただひとつわたしが未練におもっていたこと  南側に大きくひらいた窓から  わたしはこころあかるく身を投げる  さよなら  さよなら  いたぶられているみじめな少年よ  加虐することしか知らぬ男よ  わたしは心からしあわせだ  さよなら 目覚めて わたしは北の窓を開け放つ 昨夜の強風がわたしの庭木を一本倒している 面倒くさいが片づけるほかない 北の窓からも春風 春風はやがて 新茶の香りを運んでくるだろう 初出 蘭の会2005.4月月例詩集「開く」http://www.os.rim.or.jp/〜orchid/ ---------------------------- [自由詩]朝焼けパン/ピッピ[2005年5月2日2時36分] そういえば昨日は、 と言いかける君の唇をふさぎ いいじゃない、 昨日のことは、 ぼくらは10億年を1日として過ごすことに決め 時計もすべて棄てた 昨日、 というのは 前世のことだ 朝がなかなか訪れない あと10億年弱待たなければ ぼくらは夜を終えられないのだ 欲しいものがあるの、 ダメだよ、 君の欲しいものは全部わかってる 君の欲しいものは全部明日にならなければ 手に入らない そしてぼくは10億年生きて 新しい太陽を見ながら やわらかいパンを食べていた 君といっしょに 食べるはずだった 即興ゴルコンダ ---------------------------- [自由詩]アクロスティックで。/月夜野螢[2005年5月3日0時32分] 雨のあとが アスファルトに溶け込むように 涙もいつのまにか乾いてしまって たった1人でいることさえ 恐くもなくなった 喉がやけつくような痛みも 時が経って どこかあやふやな記憶にかわった 何を守ろうとして 何を間違えたのか 今もわからないまま 理想論はいつも まるで答えを知ってるみたいに自信過剰だから 逃げだした言い訳を ずっと ずっと 考えていた   いつのまにか あなたと過ごした時間から はるか遠ざかって たくさんの 他の記憶や 日常に埋もれそうになっていても  かなしいという ありふれた気持ちを  綴っていると 確信できる 変らない想いもある ただ あなたが隣にいるだけで 世界の意味が違ってた      ---------------------------- [自由詩]猫が空風の空き地を/佐々宝砂[2005年5月3日4時50分] 猫が空風の空き地を歩いている。空耳。夕暮れのネックレスはもうすっかりラピスラズリの感触だ。味わったはずのコーヒーの苦みは、いまやどこにいってしまったのだろう? 透明な連鎖。青ざめたトルソが、臍のあたりに微笑を漂わせている。炬燵をしまった記憶がどこにもないのに、炬燵はなくなってしまって、空風広場を歩いてた猫は炬燵と一緒にどこかにしまわれてしまって(きっとしまっちゃうおじさんがしまったのだ)、玉の緒がきらきらと分断されて空に舞い上がってゆく。絶えなば絶えね? なつかしい歌が耳のうしろから背中に這いおりてゆく。どうしてと問うのは風ばかり。風はいつも、なにも、知らない。自分がどこに吹くかも知らない。自分がどこからきたかも知らない。つまり、私は風である。 ---------------------------- [自由詩]どうしようもない高層ビルが/佐々宝砂[2005年5月3日4時51分] どうしようもない高層ビルが砂煙あげて物静かに崩壊していった。それはいつだったか、たぶん去年の五月のことだ。もう終わってしまったゲーム盤の上で人々は右往左往していた。怒鳴り散らしていた頼りがいのある審判は、先週の土曜日に姿をくらましてしまったのだ。怒号さえ懐かしくてたまらなかった。五月の風は青く、椎の花の香りが漂っていた。ゲーム盤上のひとびとは、取り残されたことを認めたがらず、自分たちのコスチュームに次々とさみしい名前をつけあっていた。夏はもうこないだろう。 ---------------------------- [自由詩]世界がオワだなんて、そんな!/角田寿星[2005年5月3日6時48分]  0 プラズマ プリズム スコープの内側 気を失いそうなくらいに 星空だけがキレイだった  1 キラキラと一本に光をうける溝のなかをビー玉が転がっていく  2 --ここも行き止まり? --ああ。すっかり壊死を起こしてしまってる。 --あんなにまっすぐできれいな道だったのにね。 --ごらん。あの道も粥状残渣でいっぱいだ。 --この大荷物どうしよっか? --どうするもないさ。道端に置いて引き返すとしよう。 --…終りかもしれないね。ここはもう。 --ああ。終りなんだろうな。 --逃げちゃおっか。 --ハハハ。逃げちゃおっか。…でもどこへ?  3 ぼくが犬の記憶を失くしてしまって 犬は存在しなくなった 花が消え 学校が消え 大聖堂が消えた 歌声 写真 夕焼け 父 友 ぼくは誰の記憶で生きていたのか  4 ビー玉 あ ビー玉 あ ビー玉 レギュラーパルス レギュラー レギュラー レギュラー イレギュラー レギュラー レギュラー 手ぇて てぇて やすんで てぇて やすんで やすんで ころころころころころころころころころころころころころころころころ  5 波止場は避難する人々で、すでに足の踏み場もなかった。 「星が2、3回、大きくまたたいたかと思うと、王子さまはその光を浴びて、 まるでスローモーションのように、ゆっくりと倒れていきました。」 ひとつの時代が終わろうとしていた。形勢は傾いていた。 囲碁本因坊戦の大盤解説で、梶原九段は飄々と終局近しを告げたっけ。 「ああ、この一手で、この碁はオワですね。」 このことばを待ってた全国の囲碁オヤジは手を叩いて喜んだっけ。 終末を声高に叫ぶひょろ長い救世主を、少女が道端に落としてしまった人形 を、先へ急ぐ人々の足が次から次へと踏みつけていく。  6 薄明のなか 混沌の時代からずっと 運命の糸を紡ぎつづけていた三姉妹が とうとうキレちゃった 「けけけけ」と奇声を発しながら ぼくんちの5階の窓から侵入してきて 大バサミでありとあらゆるものをブッた切って 長い髪と薄手のスカートをなびかせて 美しく踊り狂って 去っていった ブッた切られた スキマだらけの世界でぼくはへたりこんで ああ これも運命なんだろな うすぼんやり思った ---------------------------- [自由詩]入学式/ヤギ[2005年5月3日12時08分] 胎内のように温い日 洗濯に適した風 入学式は早まりも遅れもせず 集合写真は正面から撮影され ただ 「おめでとう」も「ありがとう」も使われなかった 一年生がクレヨンで絵を描かされるのは何かの暗喩かもしれない だとすると何人かに一人が描く絵にはならない絵は何かの直喩なのか マンホールの上に立ち見渡す七百二十度 駐車場の向こうに見えるデパートのバルーン 刈り込まれた歩道の垣根 そこから三本伸びた白い花 誰も見向きもしない 良い香りのする蝋燭 スプーン一杯づつ撒かれ 後を追うように放り投げられたリコーダーは、すかとも鳴らず回転し 跳ね やがて雨による水流かまたは風によって 縁石に かつと鳴った ---------------------------- [未詩・独白]まだ早い/いとう[2005年5月3日15時21分] 「ノーミスの人生なんてつまらない」 という川柳なんだかアフォリズムなんだかわからない しかし断じて詩ではない 言葉、を 得意になって語る人を 先生、と 呼ぶ身にもなってくれ 教職員の出身大学リストを ちょっとしたアレで入手して なんだよ ほとんど島根大学(偏差値50)じゃんか そんなのが60とか70へ進もうとしている人間を 教えているのか 教えられているのか くだんない なんて失望するほど 若い以前のくだらないガキ、 と言うと餓鬼に失礼だよ君。 救いようのないという言葉はこういう時に使う とある教育実習生が 酸化還元反応の実験前に成績の悪い生徒に質問する 問題提起の後に実験に入り裏付けを取る つもりがその生徒、正解してしまう 正解するのは別にかまわないが とある教育実習生としては指導要綱から外れて困るが 直後、ひとりの生徒がこうつぶやいた 「正解するのはまだ早い」 ま、そんなもんだ。 小三の理科の授業で 「地球は球形ではない」と独り訴え馬鹿にされたり (自転の遠心力によって赤道半径のほうが長いのだ) 中一の社会の授業で キリストの墓が日本にあると言って馬鹿にされたり (実際に青森県にあるのだ) 知識を語ることは往々にして関係阻害の要因となると 理解した人間は口を塞ぐ 伝え方を学習せずに 口を塞いですべてを馬鹿にしてまだ早いとつぶやき続ける姿を 省みることもなく 本当に、救いようがないね。かわいそうに。 ---------------------------- [自由詩]青いワンピース/________[2005年5月3日15時47分] 目印が欲しくて この白い足首に巻きつけた アンクレットはなかなか千切れない 輪郭をおぼえるほど 見つめ続けたつぶら 次にすることが分かるほど 繰り返した方法 青のワンピースが、きっと似合うと言った だから 膝の傷を隠さないようになった 繋いだ手の中の空洞は わたしたちのためいきでできていた 変色した花びらはわたしに似てる アスファルトの匂いがした 何かを掴む癖のついた右手で ワンピースの裾を握った ---------------------------- [自由詩]三日月パラディドル/ヒビノナコナ[2005年5月3日20時30分] 三日月にキッスしたいの だけどそれはダメなの 夢ではきっと簡単に叶う願い事 夜な夜な話かけるの それとも無視してるの? 両手を伸ばせば届きそうな気がしたのに クッキーモンスターは月が食べたいのに みんなが困るからやめた でも私は知っている 三日月はモンスターの食べのこし 優しさの食べのこし サンキューブルー内気なムーン ねぇ月 ハープはどんな音がするのかわかる? ねぇ月 おいで聞かせてあげるよ ねぇ君 バカにしないでハープはないよ ねぇ月 なんで今日も輝くの? ねぇ君 なんでウソをついたの? どうしても三日月でいてほしいよ 三日月をもっと見たいよ だけどすぐ明るいよ 夢ではきっと永遠に叶う願い事 グラムロックは目を開いて月を 妖しいと歌うから素敵 でもみんなは知らない 本当の月は青色に乗せられた マスカラの奥にいる グッバイブルーマジカルムーン ねぇ月 かじればどんな味がするの? ねぇ君 もうそんな目で見たりしないで ねぇ月 みんなを照らして私は見えるの? ねぇ君 小さくて見えたことないよ ねぇ君 ウソだけはつかないよ 雲が出ても逃げないでほしいよ 望遠鏡のレンズは割れて ささやくための言葉忘れて 三日月は人を変えては笑うんだ サンキューブルー 内気なムーン ねぇ月 私の恥じらいを一緒に探して ねぇ月 どこかで落として見つからないよ ねぇ君 ここからじゃ届かないから ねぇ君 もうそんなこと言わないで なら月 眠いからもう会いたくない わがままでごめんね だけど好きだよ ---------------------------- [自由詩]ジャズ蛍/るるりら[2005年5月28日14時24分] この気持ちは悲しみというのだろうか 涙を吐き出すだけ吐き出して マグマのようになった僕 僕は歌わずにいられない 歌おう 闇の底の水の色 かたい岩をくぐりぬけて 滴りおちる力を みぞおちの深いところの思いを  歌おう 熱を持たずに 光になって 歌おう 地下水脈のように 確かに 歌おう 暗闇の中のプリズム 僕は、脈うつ発光体 これは喜びというのだろうか だれだろ やわらかい声をしている 僕は歌う。そして聞こえる 闇の底の水の傍 茂みの奥の葉の裏で その声は聞こえた 僕が叫ぶように歌う ちょうどいい間合いで その歌は 「ひとりでないって すてきなことよ」 そんな風な歌だった ---------------------------- [自由詩]五月は終わり/tonpekep[2005年5月28日20時11分] 遠くなっていきますものが 小さなものと大きなもので 知らないものがたくさんできて そうして見知らぬひとになってゆくのでした ありがとうがとても透きとおって 私の前で響いているのでした 悲しいものがそこらじゅうで 恥ずかしそうにきらきらするのでした 私は笑うしか 戸惑うすべが ないのでした 夏の光が あざやかな速度で私を 運んでいくのでした ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]程よく狭い包容力/宮前のん[2005年5月28日20時37分] 先日、医療関係の講習会を聞きに行った。 そこで大阪の老舗会社であるM社という会社で顧問医をしていた精神科医の先生の講義を聞いた。 M社は創業20年の総従業員数500名ばかりの会社だった。だった、というのは平成10年に倒産したのだ。 倒産したM社は京都のK社という巨大会社に吸収合併された。K社は従業員3000名の大手で、MはK社の一部門となった。 倒産する直前まで、かのドクターはM社の医療相談室で10名の鬱病(うつびょう)患者さんを受け持っていた。 毎日数人が医療相談室にやってきては、仕事上の悩みをブツブツと話していったそうだ。 「女子社員にバカにされているようで」「営業に出ようとすると胃が痛む」といった内容の、相談とも愚痴ともつかないカウンセリングを行っていた。 そのM社が倒産して、K社に吸収合併されたのだ。ドクターは一番にまずその10名の鬱病患者さんのことを心配したそうだ。 ただでさえ鬱病でフラフラなのに、その上職場環境が新しく変わってしまったら、そのストレスに耐えきれず、自殺でもするんじゃないか。ドクターはそう考えた。 ところが、びっくりするような現象が起こった。なんと10名中5名の鬱病が治ってしまったのだというのだ。 倒産したM社の社長は、かなり包容力の広い人だった。許容範囲が広く、社員の提案をことごとく受け入れてくれた。 「社長、こういうアイデアがあるんですが」 「やってみればいいよ」 「社長、ぼくはこういう戦略で行きたいのですが」 「いいんじゃないかな」 と、社員の意見を尊重してくれる温厚な人物だった。 ところが、合併したK社の社長はそれとかなり相反する人物だったようだ。 明確な企業コンセプトが打ち立ててあり、それから外れるアイデアをことごとく却下する。 一か月先の努力目標を社員全員に決めさせ、その達成度合いを毎月評価する。そして、目標以外の事はやらせない。徹底した管理主義だったそうだ。 本来なら、包容力のある社長のもとで働く方が鬱病が治りそうなものなのに、実は全く逆だった。 ある一定の狭いコンセプトに乗っ取った企業経営の元で働いた方が、鬱病が治ったのだ。 何でも自由にやって下さい、と言われると、逆に迷う事がある。 たとえばマラソンにしても、コースを決め、タイムアップという目標を定めると、あとは走ることだけに集中できる。 しかし自由にどこにでも行って全部で42.195キロ走って下さい、と言われると、どっちの道へ走ればいいのか迷ったり、距離が気になったりで、逆にタイムが伸びなかったりする。 この迷いが、精神的な不安定さを生み、鬱病の原因を作っていたのだ。 長く続く平成不況の嵐の中で、船(会社)を沈めずに岸までたどり着かせようというのは並大抵ではない。 もし船員(社員)が、「僕は右に行きたい」とか「僕は左回りで行きたい」とか言う希望を口々に言って、船長(社長)がそれをいちいち許していたら、船は岸辺にたどり着けない確率が高くなる。 あっちにフラフラ、こっちにフラフラする船に乗りながら、船員たちはジワジワと不安感を募らせることだろう。 だが、「舵取りは私船長がする。目標はあの島だ。あそこにたどり着くために有用だと思われる手段があれば、意見を取り入れよう。だが、目標はあくまであの島だ。」 これぐらい船の方向性が決まっていれば、そして基本コンセプトに沿う内容であればどんどん意見を取り入れる姿勢であれば、船員は一丸となって島を目指すだろう。 トップに立つものは、程よく狭い包容力を持つべきなのだ。それはたぶん、会社に限らず。 もちろん、船員の意見を全く取り入れないぐらい船長がワンマンであれば、逆にストレスが高じて、船員は暴動を起こすかもしれない。 こだわりがきつく、人の意見を聞かない人ほど孤立するからだ。 だが、適度に狭い包容力というのは、目的や目標を絞り込むことになり、またそれによって、全員が結束を固めるという結果を生むことになるのだ。 人の意見を聞き過ぎた結果かどうかは判らないが、温厚な社長のM社は倒産した。 そして、K社は今でも順調に営業成績を伸ばしているらしい。 こだわりを持ち過ぎるのはもちろん、こだわりがなさ過ぎるのも、どっちもいい結果を生まない。 やはり両極端な偏りのある考え方は、控えた方がいいような気がする。 ---------------------------- [自由詩]君を思ふ/完食[2005年5月28日21時01分] 幼い頃見た空色は、濁りの青になった 僕らが居た空地は、駐車場になってた 窓をのぞく景色は、灰色の建造ばかり 背伸びし手を伸ばした、あの母の頭は 地上160.12cm見下ろせる高さになった 硬くしっかりとしてた、あの父の手は 今サラリと僕の手を落ちる灰となった 美しく感じたものもいずれ劣っていく 願い続けた夢も存在価値を失っていく 君を思うこの気持ちもそして消えてく 君を愛おしいと思うこの思い消える前 君が美しいと言った街が変わるその前 十五になったら君の街へ行こうと思う 僕が、君を愛している。 気持ち忘れるその前に。 ---------------------------- (ファイルの終わり)