クローバーのおすすめリスト 2004年12月11日15時19分から2005年1月29日2時25分まで ---------------------------- [未詩・独白]太陽の光りを吸って/天野茂典[2004年12月11日15時19分]  太陽の光りを吸って  干された布団は気持ちがいい  ぬくぬくしている  ぽかぽかしていいる  ご飯を食べると眠くなる日々  午後はかなりきついのだ  睡眠薬で2時間ほどしか眠れないので  どうしても  午後は体力低下する  眠れないのは由々しき問題だ  ナポレオンは3時間も眠れたのだ  休みの日には  だからいつでも眠くなったら  眠れるように  布団が敷いてあればいい  シェラフのようにもぐれればいいと思う  衣干したり  天の香具山  持統天皇の歌のように  洗濯物はむかしから  必要だった  遠くから眺めるとまぶしかった  洗剤のない昔でも  さらさらの  洗濯物は気持ちがいい  ましてや布団をや  さっきから実は横になりたかったのだが  布団が干されてあったので  ソファにもたれて休んでいたのだ  アート・ファーマーのトランペット  も聴かないで  ファンヒーターを前において  楽な姿勢でいたのだが  少し寒かった  上が冬の長袖Tシャツ一枚だから  風邪をひかなっただけもうけもの  ザリガニを取りに行きたい  いまはもう宅地化が進み  田んぼの畦もなくなった  ジャック・ディジョネットのドラムが聴きたい  レンゲ畑も  菜の花畑も少なくなった  陽はかげり また射してきた  妹が布団をセットしてくれた  眠くなったらいつでも  干し藁のような  布団に眠れる  たかが洗濯  されど洗濯だ  ジャズのレコードは  聴きたいがみんな火事で燃えてしまったのだ  いまはジャニスとジム・モリソンがいい  ぼくの汚れた魂を洗濯してくれるから            2004・12・11 ---------------------------- [自由詩]そしてあの子はちいさくわらう/オオカミ[2004年12月11日21時09分] 分類されるここでは 術をしるひと なのだという お陰で、あの子は勝手に育って わたしを追い越して うちゅうになってしまう 抱きしめてあげられないちっぽけな かいな のこして あなたの孤独と手をつなぐ それは希望だった のに かなたから降り注ぐちり屑で視界がかすみます わたしは、明日また 母をうちゅうへと送り出す まちがいやせいかいの狭間をすりぬけながら ゆびさきを求める 儚さに わたしはうまれたい ---------------------------- [自由詩]白い崩落/A道化[2004年12月14日2時44分] 上ったら、下る、上っては、 下る、彼らが散らかっている、彼らの街で 折れてひざまずいた巨人が、ほろほろと朽ちてゆく それは、もうずっと歩道橋に見えている 或いはそれは、もうずっと プラットホームへの階段に見えている けれど、散らかる彼らは 愕然とするより他にすべきことがあるとして 上っては下る、上っては 下る 皮膚、の 痣のように、広告看板の文字は翳っている 擦過傷のように、尋ね人の張り紙は剥がれている それらは、クロスワードパズルの空欄のようでいて ヒントも無く、共通項も無い、致命的な空白であり 彼らが解かない無数の空欄へと、白い空は崩落を始め 折れてひざまずいた巨人が、ほろほろと朽ちてゆき 崩落が、崩落が重なってゆく、彼らが埋没する、ああ、 ああ、ほら、 雪でしかなくなる 2004.12.14. ---------------------------- [自由詩]街灯/示唆ウゲツ[2004年12月14日4時57分] 左側の一番奥の銀歯には チーズケーキ諸島、 穴の空いた石灰質な 地盤を埋めている そこに煙草を持っていって 蜘蛛の糸製の灰皿を 忘れたくらいの絶望感 宇宙規模の退屈が ゆったりと牙をむき出して 円滑に 水平を ヘラヘラ 作り出すのだ 素直に伸びた敵意も 砂漠ほどではない 小指の爪を 侵食するちからなら チョコレートならあるけど 頭痛薬忘れた カミサマなら捕まえたけど 食わすものがないんだ やっぱ退屈なんだ 街灯の高出力ビームなんかでは 僕の眠りは邪魔されない ---------------------------- [自由詩]バナナフィッシュがバナナを食べる日/佐々宝砂[2004年12月14日5時11分] たくさん野次馬がいて わあわあ騒いでいる 下りなのか登りなのかわからない坂道を 私は必死に歩いている というか 這ってるみたいになってきた インゲン豆が数限りなく空から降ってきて 今日は草の日だよ! また野次馬が叫ぶ どうせならインゲン豆じゃなくて 生首でも降ってくりゃ楽しいのに 五体倒置の巡礼気分で 這いつくばると 額にごつんとがらんと礫があたる ああもう身体のあちこちが痛い 筋肉痛がひどい 右足首はねんざした 左手にはひっかき傷がある 野次馬どもよ黙れ黙らんか 私は囚われの女王で シジフォスで 荒野の巡礼者 だとおもうけど最近自信がない 今日は特別な日だよ! バナナフィッシュがバナナを食べる日だよ! 野次馬がうるさい 私は忙しいんだよ ほっといてくれ でも少しだけこまっている インゲン豆はこんなにあるのに よく見りゃ生首もたくさんあるのに どこにも 私の大切な石がみつからない ---------------------------- [自由詩]回転寿司屋/渡邉建志[2004年12月14日6時26分]   稲荷寿司でも食おうと回転寿司屋に入り腰を下ろすと 隣の客がその隣の客を食っていた 食われながらもその客は  隣のトトロを食っていた トトロは隣の山田くんを食い 山田くんは隣のお姉さんを食い お姉さんはいやんといいながらも隣のえなりかずきを食い えなりかずきは罰当たりにも隣の御稲荷様を食い いまや御稲荷様の牙がわたしに襲いかかろうとしていた 見事な食物連鎖だ しかし 食べるつもりが 食べられてはたまらない わたしは回るカウンターの上を すたこら逃げた     ---------------------------- [自由詩]家族の食卓/角田寿星[2004年12月15日23時38分] おかあさまが わたしをころした おとうさまは わたしをたべてる 私が悲愴にも似た決意のもと食卓に赴くようになったのは いつからだろう。かわいそうなグレーテル。父と母と兄の 待つ戦場へ抜けるほそい隧道をひとりランプをかかげて。 照明をおとした食卓に会話はない。テーブルにはおびただ しい屍が変容を終えてソースの海に漂っている。用意周到 な美辞麗句に私はもう惑わされない。薄い被膜を破ったと たん赤い漿液がダグダグと溢れるんだ。エプロンを着けて はじめて母と台所に立った遠い日。裸の腕でつぎつぎと絞 め殺したウサギのにごった瞳。私はテレビをつける。ブー ンと低くうなる電気音。 おかあさまが わたしをころした おとうさまは わたしをたべてる 私の真正面 前方1メートルに鎮座まします14インチテレ ビ。スローモーションで動くピエロたち。私は右手のフォ ークで皿を弄んで左手で頬杖をついて食べる。行儀わるい? いいんだ。誰も見てやしないから。父も母も兄もボーリン グのピンのようなのっぺらぼうになって両腕をだらんと下 ろしている。私はテレビに没頭する。夜の埠頭でトレンチ コート姿のサングラスの男が低い声で何か呟いているBGM でセリフがきこえない私は男の唇を読む。(食べ過ぎはい けません腹八分目がいちばんです)男は銃口を向ける。ひ びく銃声そして暗転。終劇を盛りあげる安っぽい交響楽。 姿見にうつった粉々にくだけ散る弾痕。私は唇についた真 っ赤なソースで紅をひいて微笑んでみせる。 おかあさまが わたしをころした おとうさまは わたしをたべてる 私は食べるテレビの光に煌々と横顔をてらされて。ライオ ンのように牛のように断崖を襲う波濤のように。私は自問 するずっと空腹でいることはいったいどれほどの罪悪なん だろう?私は食べる時空をも引きよせる白色星のように生 れた時から飢え続けていたから。ごちそうさま。返事はな い。人形の父。人形の母。人形の兄。みんな腹から詰め物 を出したまま椅子の上で俯いている。私は銀のフォークで 十字を作ってみんなのお墓を建ててあげた。 テレビを消してランプをかかげてゆっくりとドアを閉める。 みんな おやすみ。 ---------------------------- [自由詩]匂い硝子/月音[2004年12月16日0時45分] 正雄さんは 今日はいらっしゃるのかしら 律儀に今朝も 同じ時間に サクさんは 二階の詰所にやってきて 繰り返し そう 尋ねる わたし 頭がおかしいから 心配なんです 杖の先を遊ばせて そう 目を伏せる 大丈夫ですよ 明日には きっと さあ お部屋に戻りましょうね 看護婦の手にひかれ 丸い背がゆるゆると遠ざかる サクさん 最近は お隣りの国の人たちが この国でも すごい人気らしいですよ ぽつりぽつりと告げる 戦闘機の名前も あの頃の正雄さんの部隊の名も 交わされた約束も 多分 本当のことで 寒いから と あまりカーテンを開けたがらない その向こうは もう 五十年の未来 おいていかれたのは わたしたちかもしれませんね 時折 思い出したように 謡う あなた 戦争未亡人という肩書きをもって 正雄さんが 迎えにくる日を ぼんやりと待っている ---------------------------- [自由詩]私・世界の終わり・君/*くろいうさぎ*[2004年12月20日2時31分] 私 ずっと一緒に居たかった 指に結んだ糸が痛いと言って いつか切りとってしまう 手錠の鍵が見つからないと言って 手首を切り落としてしまう そんな いつか別れの日がくるのかな 君が… 私 醜い未来は要らない 望まない 綺麗な過去を必要として 世界の終わりを待つ 世界は 核とか隕石とか温暖化とか じゃなくて 眼を閉じ見開いた時終わっているんだ 君が… 私 世界を終わりにしよう 君が… ---------------------------- [自由詩]回し車/たいにぃぼいす[2004年12月20日3時01分] くるくるくるくる と 魂が回転しています 中心でねずみが ころころころころ と 一生懸命転がしているので くるくるくるくる と 魂は回転しています ねずみは 報われないままやがて力尽きる事を知っていましたが 僕が死んでしまうといけないので 止めようとはしませんでした ---------------------------- [自由詩]「あなた」と「私」に幸あれと/佐々宝砂[2004年12月20日4時54分] さて地球のこのあたりはまたも日輪を見失い 「私」は青みがかった夕暮れ過ぎの色彩を見ながら そろそろ晩飯を作らなければ いやそれよりも洗濯物をとりこまなければ などと考えている するとそこに「あなた」がやってきて さて今から霧吸の井戸にいこうという そんな井戸が近所にあるとは とんと「私」は知らなかったが 私は知っていた 私の近所には霧吹の井戸というものがありまして つまり霧吸の井戸というのは 霧吹の井戸の名称を裏返しにしただけの私の創作である まあそれはそれとして 「あなた」と「私」と連れだって ご近所の城に出かけてみれば 確かになるほど霧吸の井戸と呼ばれるものがありまして コンクリートの柵に囲まれた空間の中央 ぽっかりと暗い穴が浮かんでいて あたりがなんとなく涼しいのは その穴に空気が吸い込まれてゆくからであった こんな井戸があったら超常現象に間違いないのだが お忘れのないように この雑文は創作に過ぎないのである 霧吸の井戸なんかこの世のどこにも存在せず 類似の名称類似の現象があったとしても それは偶然の一致に過ぎないのだとお断りしておく 井戸のまわりには先ほど述べたように柵があり 柵と柵とのあいだは頭も入らないほど狭かったが 柵の高さはそれほど高いわけではなかった せいぜい2メートルというところであり 登るのは非常に容易てあると思われた そのせいか「あなた」と「私」は どちらからともなくその柵を登りだした 柵のてっぺんにたどりついたところで ケンカになった つまり「あなた」も「私」も 消えてしまいたいのである 何でものみこむらしい霧吸の井戸に 身投げしてしまいたいのである しかし「私」は「私」が消えても「あなた」を残したい そして「あなた」は「あなた」が消えても「私」を残したい そんなわけで柵のてっぺんでつかみ合いをはじめたが そんなことをしたら柵から落ちるに決まっており 実際「あなた」と「私」は当然のことながら柵から落ちたが 井戸のある側に落ちたのではなかった にも関わらず「あなた」と「私」は わざとらしい青白い光輝を瞬間放つとその場から消えた もちろん「あなた」と「私」を消したのは私である こんなまどろっこしい二人に そういつまでも付き合ってられっか というのが表面的な理由ではあるが 本当のことを言えば 私は「あなた」と「私」を 洗濯物と晩飯の日常からすくいあげ 非日常的異次元空間の旅に出してやりたかったのであった つまり私は「あなた」と「私」が好きなのであって 彼等をなるべくなら幸福にしてやりたいと願っているのだが そういえば筆者が「私」とは別人であるように 私もまたこの雑文の筆者とは別人であるかもしれぬ しかしまあそんなことはどうでもよい 異次元を彷徨する「あなた」と「私」に幸あれと 「あなた」ではないあなたもできたら祈ってあげてくれ ---------------------------- [自由詩]ファザー・グース/たもつ[2004年12月20日20時30分] おおきい かあさん おおきいな ちいさい とうさん ちいさいな ひるね ひるね らいおん ひるね おしろのてっぺん こうじちゅう + さとうと えんぴつ けんかした つきよのばんに けんかした たべかけのハム まちがえて どろぼう ひとりで こいをした + やせいの むすめは ろくでなし かもくなヤギですね と、ほめられた さくじつであったが バスのなまえを まだ しらない + パンの パンケーキ つくった パンの パンケーキ たべた だからいつでも しなぶそく それでも ぼくらは うたにしちゃう ららららん + ペンギンの とさか ペンギンの せびれ ペンギンの まえあし ペンギンの さなぎ もはやペンギンに なすすべなど なかった ---------------------------- [自由詩]無題(静かな夜〜)/カワグチタケシ[2004年12月21日0時31分]  静かな夜。まだ眠くはないが、電灯のスイッチを切る。大気が重みを増し、数百メートル離れた隣家から冷蔵庫の低いうなりが伝わってくる。窓ガラスに埃の粒が当たる音がする。ひとつ、ふたつ。そして、目がだんだん闇に慣れてくる。  長かった夏が終り、山並みを月が照らす。残照。揺れているものがある。崩れていくものがある。舞い上がり、落下するものがある。気配。僕の目はなにかを見ているが、じつはなにも見てはいない。  雲が動く音が聞こえる。雲は風に押されている。風はかたまりになって山肌をかけおりてくる。そして山頂には次のかたまりが、さらに高いところから降りてくる。雲の中で、幾千もの氷粒たちがぶつかりあう音が聞こえる。気温が下がりはじめる。  ほどなく山は冬を迎える。そして、霜が木々を覆うだろう。  はるかふもとの谷間から、電波の飛び交う音が聞こえる。温度を持ったかすかな振動が、信号となって光を発するときにたてる音。裸足の生き物が枯葉を踏む音が聞こえる。自分より強い生き物に狙われている者がたてる用心深い音。誰かが便箋にペンを走らせる音が聞こえる。文字。書きあぐねては、また紡ぎだされる曲線と点とがたてる音。インクが紙に染み込み、乾いていく音。  器官の音が聞こえる。そのころにはもう、闇はじゅうぶんに明るいのだ。 ---------------------------- [自由詩]ロボットの僕/Tシャツ[2004年12月21日8時09分] ロボットの僕は恋をした 街中の人が笑う 彼女も笑う 「プログラムさ」 誰かが笑う 目から汁が出たい それでも僕は恋をしたんだ 目から汁が出る そんな プログラムが欲しい でも 僕は笑ってしまう 僕は彼女の為に 花をつんでみる 詩をうたってみる 愛の言葉を… 彼女は笑いながら 他のヒトと歩いていった ---------------------------- [自由詩]ぬけがら/たもつ[2004年12月21日16時08分] 庭の木にセミの抜け殻があった 手にとって握りつぶすと ぬちゃ それはセミの抜け殻ではなく 抜け殻のようなセミ もて余した僕はこっそり ぬか床に隠してしまった 夕食の時 今日のぬか漬けはいつもと一味違うなあ 父のご機嫌な声を聞きながら 今度生まれ変わることがあったなら 何か儚いものでいいと思った ---------------------------- [未詩・独白]時には郵便配達夫のように/天野茂典[2004年12月21日23時02分]   人間は   一生をかけて   彫刻刀で   自分の名前を     彫りつづけるのだ   死後にその   印鑑は輝き始める   だが彫り続けているときこそ   花なのだ              2004・12・21 ---------------------------- [自由詩]////////////。/リヅ[2004年12月23日13時36分] この手を離れた風船が/何処かで破裂するのを/僕は/見ない/  / //。 悲劇が必要だ/みんな悲しい想いができるように/甘えてる/なんて意味の無い言葉が零れないように/  / //。 膝を抱えて座る時/足がしびれないのは/神様がそう決めたんだよ/  / //。 戦争反対!/なんて/罪悪感が無い/人殺しの傍観者でしかない/瞼の裏で人は死ぬから/  / //。 この手を離れた君が/何処かで破裂するのを/僕は/見ない/      /     /見えない/   /  / //。 ---------------------------- [自由詩]面/石川和広[2004年12月23日14時06分] 昼だ 僕は、また光に、一枚ペルソナを 削がれた 僕に 肉の顔が帰ってくる あの朝は ガラスでしか なかったのに ---------------------------- [自由詩]ハンカチ一枚/カンチェルスキス[2004年12月23日17時15分]  彼は助けを求める声さえうまく出せなかった。  雨の中、傘を差して立っていた。  温かみのある灰色の海が暗闇に変わるまでそこに立っていた。  服の色は変わっていた。  風も雨も激しくなっていた。  街路樹の枝が歩道にいくつも落ちていた。  彼は埋立地の道を左に曲がろうとした。  どこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。  一匹だった。  通り過ぎたばかりの街路樹の下の草むらから  聞こえていた。  雑草をかき分けると、小さな、本当に小さな  黒猫のこどもが必死で助けを求めて鳴いていた。  彼の姿を見ると怯えて草むらの奥に逃げ込んだ。  親猫はどこにもいなかった。  彼は手を伸ばし黒猫をつかんだ。  彼の手のひらにおさまる大きさだった。  目ヤニがいっぱいついていて、体の毛も  ぐしゃぐしゃになっていた。  体に手をあてがうと小刻みに震えてるのがわかった。  かなり衰弱していた。  彼はどうしたらいいのかわからなかった。  彼は黒猫を元いた草むらに戻した。  振り返ると、黒猫は草むらから出てきて、  必死に鳴きながら、彼を追いかけてきた。  あまりにもちっちゃな生き物が  彼を追いかけてくる。  彼は振り向くのをやめた。しだいに駆け足になった。  角を曲がると歩いて、駅に向かった。  ホテルの玄関から何人も人が出てきた。  男も女も着飾っていた。  パーティーが終わったばかりのようだった。  仲間から少しはぐれてはしゃいでる者が  何人かいた。  そのうちの一人と彼はぶつかった。  男は何も言わなかった。  彼も何も言わなかった。  男は仲間の中に戻っただけだった。  彼はホテルの一階のトイレで小便した。  それだけで出てきた。  彼は黒猫のところに戻った。  黒猫は植込みに座っていた。  彼は植込みに腰かけ、シャツの下に黒猫を入れてやった。  黒猫は自分から入っていった。  そうされることをずっと望んでいたみたいだった。  自分の体を舐めだした。ときどき彼の顔を見上げた。  彼が指を差し出すと母猫の乳を吸うみたいに  吸いついてきた。  しばらくそっとしておいた。  雨はやみかけていた。  肌寒い夜だった。  会社帰りの自転車の男が何度か通り過ぎた。  黒猫の体はまだ小刻みに震えていた。  彼は立ち上がって、黒猫を植込みに戻した。  タオル地の水色のハンカチを黒猫の足元に敷いてやった。  黒猫はそこにちゃんとおさまった。  何も言わず、前足をそろえて、彼を見上げる。  彼は歩き去った。    それが彼にできる精一杯のことだった。 ---------------------------- [自由詩]孤独の従者/黒川排除 (oldsoup)[2004年12月24日9時25分] 光のようなものが下った。西へ行けば行くほど遠ざかった。 やがて夜。だがやがて昼。不寝番は夜の平原に歌を響かせる(ラ・ラ・ラ)。冷たい、それは本当だろうか。答えるものは答えるもので潜んでいる。積み重ねた段ボール箱のように、不安な鉄骨を持たない空洞は、積み重ねた段ボール箱のように、空洞を抱え込む立体は、うごめいている。海がまた近付いた。太陽はバターのように溶けて流れた。 そしてわたしたちは慌ただしく臨海する。 重油を詰めたフィルム・ケースのように刺さって。 憎しみにとらわれゆくものを、つがうのだ。 ---------------------------- [自由詩]冬/ピッピ[2004年12月24日23時29分] ポケットの中は未明 取り出すほどの時間でもなく 今日は雨が降っている 最近降り続いた雨は 最後まで雪にはならなかった そして僕は冷えた手を ポケットの中にもぐりこませる 僕の手は冷たいけれど 残念ながら雪を降らせることはできなくて 世界はただ暗くなるばかりで いつまで経ってもあたたまらない僕の指 そして痺れを切らしたポケットは ようやく世界を朝にさせる 僕はポケットから手を抜いて そのままどこかに消えてしまった   ---------------------------- [自由詩]*/あとら[2004年12月26日18時19分] 歩くごとに 一枚ずつ カードを捲っていく 高い数字を 待ち望んでいた のに ジョーカーをひいた 今の僕には 使い方が解らない ---------------------------- [自由詩]黒電話/暗闇れもん[2004年12月27日0時54分] 黒塗りの電話機がここ最近のお友達 うんともすんとも言わなくなったこの子が私のお友達 そこの誰かさん、意地悪な言葉を今は聞きません そこの誰かさん、哀れんだ声はおやめください 狂ってはいません 受話器をとって、延びたコードを手慰みに扱って そこの誰かさん、話の腰を折らないで そこの誰かさん、ワイヤレスのことはお忘れください 丸いボタンを適当に押して 受話器から流れる電子音がこの子との会話 狂いません この子がイタズラをして 受話器から彼の声が聞こえるまで ---------------------------- [未詩・独白]東京へは行けなくなりました/蒼木りん[2004年12月27日11時04分] 東京へ行くはずだった 駅の構内アナウンス 上りの新幹線に乗るために 開かれた空間 私にも開かれている コツ コツ コツ.. 自分の靴音を聞いて 自動改札をぬける毎に少し緊張 ホームに昇るエスカレーターのスジを 見つめるとも無しに見つめ 銀河に向かうわけでもないのに 星の見える高い場所にある 長い長いホームの間に 冷たい太いレールが並ぶ 東口のビルのネオンを眼に焼き付けて やがてレールの響きとともに恭しく到着する 巨大な乗り物 遠い昔も今も 都会のネオンの賑やかさの印象は変わらない 暗い路地裏の その上にそびえ立つビルのネオンは 胡散臭さを隠した夜の街の象徴で すれ違う人の酒の匂いや香水の匂い 家庭や会社とは別の顔をしたコート姿の男や 水中花のような女が漂って 何処に向かい 何処に帰るのか 東京は 知らない 行くはずだった 私の知らない 私を知らない 東京 都会はどこも 人に使い古された匂い 駅も 劇場も ホテルも コンビニエンスストアも 道路も ダストボックスの口に プラスチックが溢れてもがく 薬臭い清潔 お湯も水もカルキ 肌が痛い コーヒーは 香り豆の焦げを溶かした お湯だ 改札は抜けられなかった 行ってしまうしかない扉へ 切符も持てずに 「東京へは  行けなくなりました」 あなたとなら 迷わずに歩けたのに 煌びやかな電飾の街 完美と醜悪 自らを刺す刃の先 その街のただ中に 残念だ 私は終わりかもしれない ---------------------------- [自由詩]傘/木立 悟[2004年12月27日11時26分] 車に轢かれつづけた傘が 側溝の泥のなかで鳥になり やせた鉄の羽をひらくとき 午後の空はもう一度泣き 街をゆく人々の手を濡らす ---------------------------- [自由詩]心に質問/春日野佐秀[2004年12月27日17時05分] いつまでも少女のままで いれますか? いつまでも少年のままで いれますか? 名を呼ぶだけで心が痛くなる人が いますか? ---------------------------- [未詩・独白]侘び錆/蒼木りん[2005年1月26日0時39分] 鍵盤は指で叩けば 直ぐに音を出してくれるのですきです キーボードも カチカチカチとなります ピアノは 気分のとおりの音を択べば わたしの自己満足を満たしてくれる 便利で受身な道具です 手に入れると 色あせてゆくものばかりです 手に入らない夢を見ていた頃に 憬れは 神経の伝達によって わたしの核心部に到達し 複数の部屋をノックするときもあれば たった一つ 「哀しさ」という部屋の扉を 何度も叩くときもありました あのころは 扉に施錠もせずに いつでもお招きしていました 「哀しさ」さえも美しい姿で 白紙の上に現れた文字も色も 旋律と光の色に溶けてゆきそうでした なぜ今は この扉は開かないのでしょう 光はさないのでしょう 蝶番が錆びていました 鍵は 永いこと閉めたままで やはり錆びていたのでしょう なぜ今は わたしはそれを ただ見ているだけなのでしょう わたしは かけがえのないものを手にした代わりに わたしの核心でさえ 到達できず見失いそうになってしまったようです 仕方がないけれど もうそこにずっと閉じこもっては いられないのです 時折 こうして錆びた扉を少し気にしては 色あせてしまった世界の中を ポロンポロン歩いているのです ---------------------------- [自由詩]詩人病/ピッピ[2005年1月26日16時09分] 駅ですれ違った女子高生が 「アンタ詩人になりなー」 と友達に言っていた ポエジックってのはなんて恥ずかしいんだろう 否定しようか?簡単だけどさ 「詩人病ですね」 「詩人病?」 「そう、あまり聞かない名前でしょう?  この病にかかると、人は詩人になってしまうの」 「詩人…に、ですか」 「そう」 「詩人って、病気なんですか?」 「当たり前でしょう…3日間程、入院していただきます」 という所で目が覚めたら柏駅を少し通り過ぎたところだった 当たり前、という言葉を、これほどまでに憎んだことはない… と同時に それも詩人病の症状 世界は インストゥルメンタル ねえ、言葉を… と言った人が、銃で撃たれる 詩人は 伝染病 ねえ、言葉を… 例えば、 がないと始まらない世界 踏み出されるはずの一歩を なくしてしまう残酷 ねえ そんなことだって この世から一瞬で なくせるなんて そんな詩みたいなこと あると思う? 三人の女子高生は 同じ駅で降りた そして何も言わないまま 三人は別々の方向に向かった 心の中で 僕が三回引き金を引いたのが 原因じゃなければいいんだけど ---------------------------- [自由詩]もしもし/アンテ[2005年1月29日0時40分] さびついた すいどうのじゃぐちを ひろってきてくれたひと さぁて きせきとやらを おこしてみようか ぐるぐるうでをまわしながら ほんとなんにもないなあ おしいれやどうぐばこをぶっしょくして じゃぐちをきれいにみがきあげ ありあわせのもので なんとかかべにとりつけて さあどうぞ とばかりに じゃぐちをさししめす はなのたねを てのひらいっぱい とどけてくれたひと ながめるだけもよし まくのもよし うながされるまま さしだしたてに ずっしりとたねがおもい にわはねんじゅうひかげだから どうせめなんてでっこないし まどもさびついてる そんなわたしのことばをさえぎって じゃあまずは ちからしごとだね なあに おひさまくらいなんとかなるよ と うでまくりをする ねえ あなたのいえは どこだったっけ あなたの なまえは ふたをしたばけつを だいじそうに はこんできてくれたひと そっとふたをあけて あーあ またにがしちゃった ほんとにきれいなおつきさまだったのに みずがゆらゆらゆれている かーてんのむこう だいじょうぶ まだあそこにいるから と わたしをうながす ばけつをてに こっそりとそとへでる たずねたことすら なかったんだね わたし もしもし あなた ふとんをめくって けっとばして おこしてくれたひと ほんとやくにたたないなあ このめざまし いつのまにかりんりんなっていた とけいをとめる すっかりちこくだ でもまあ にげるわけじゃなし またこんどのたのしみってことで と ふとんをたたみはじめる かーてんをあけはなつ そとはいいてんきだ ねえ よかったら おちゃをいれようか たずねると うれしそうにわらう ねえ もっと きかせて もしもし もしもし わたし ねえ もっと はなしたいことがあるんだ ---------------------------- [自由詩]落手落葉/岡部淳太郎[2005年1月29日2時25分] 陽が落ちる 葉が落ちる その中に埋もれて 誰かの手が落ちている 手首から先を見事に切り離されて 隠れるように静かに余生を送っている 枯れた手の来歴は誰も知らない 気ままな散歩の途中で見つけたとしても 放っておいてあげた方が良い 手は ひとりでのんびり暮らしたいのだ そして誰かの歌が聴こえる ひとりきりの 秋の夕暮れの歌 鳥は無益な羽ばたきをやめ 枝の上でひっそりと休む 枯葉の中の手は 時に這い 時に息を潜めて固まる 寒さを強める風に吹き飛ばされないように 地虫の囁きにくすぐられながら 華やかな過去の夢を見る 陽が落ちて 色を失くした庭の中 手は膨大な自由とともに自らの使命を忘れる この季節になると手の落としものが増える 通勤通学の途上では 手を失くした人々が淋しげに歩く だが間違っても落ちた手を 持ち主のところに届けに行こうなどと思ってはいけない 手は落としたのではなく 置いてきたのでもなく そこに 枯葉の下に 捨ててきたのだから 手は 人の奴隷として働かされることも泣く ましてや手錠をかけることなどもう出来ず 秋の うらぶれた色彩を点綴しながら ただ手として 一個の手として初めて独立する ここで手の時は止まる つぎの春が来るまで 道傍に 枯葉の下に 手は息を殺してうずくまっている 想像力のかたまりとなって たまたま通りかかった人の 足首をつかむことを夢想している 落ちた葉と なおも落ちつづける葉は手を巧妙に隠し それは植物の優しさとして手の自由を守っている 年老いた誰かの歌 生を白く燃やすだけの意味のない旋律 それを聴きながら 夕暮れの下 手は手としての物思いにふける さて 今夜は誰の首をしめようか ---------------------------- (ファイルの終わり)