クローバーのおすすめリスト 2010年1月17日20時02分から2014年9月12日9時46分まで ---------------------------- [自由詩]猿のうた/梶谷あや子[2010年1月17日20時02分]  うたっている 腫 れは四つあって 猿 には片目がない あ の草はらはぼくの腕 の内側にはぜている 今も 白い土と赤い 石が落ちている 腫 れているので穴は塞 いでしまった 探し てみたがどこにもな い ぼくに躯を収め られない 魂はぶら ぶらしている  これはラテン語だ よ うたっている な んとも言えずうっ血 している 猿はやわ らかい 怒ってはい ないようだ 尻尾が 林に落ちて やみを ぱたりと閉じてしま った ぼくはお守り を探している 探し ていながら逃げてい た 土も石もぼくの ものだ 腫れは四つ あって 擦れてなく なりそうだ ぼくの 腕の内側で 広い草 はらが割れるように 穴の上を 痩せた虹 が落ちる ---------------------------- [自由詩]ラブ波/あおば[2010年1月19日14時58分]                100119 寒いからと 布団に潜るのは いけませんと 朝の神様が戸を叩く 紙の上に描いたお供えを 満足げに召し上がり 神様は帰られた 布団の外は 明るすぎるほど明るくて 眩しいくらい 大あくびをしてから 御飯を炊く 白く盛り上がった飯粒が 今日の仕合わせを約束してくれるようだ ご馳走様と手を合わせ 靴を履いて 外へ出る 風が冷たいが もう寒くはない 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、クローバーさん。 ---------------------------- [自由詩]首すじ/昼寝ヒルズ[2010年2月9日9時22分] 朝のような 首すじだから 遠くから見つめている 階段をのぼっているだけなのに 人生だ なんて言っていいのか 自由と自由の間に 履物をそろえる わたしを取り去った世界とは どんなだろう しとしと しとしと考える 古い首すじにとまった鳥が 逃げない あぁ 首すじは深い森であった その森の枝を一本もらって帰る 昼になったら 背骨にしよう 夜になったら 灯りにしよう わたしを離れて 一本に深まるために ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]夏のおわり/イシダユーリ[2010年3月7日17時50分] 夜、真っ暗な中、なにもないような山間の道をえんえんと走った。連れと、ここを二人で走ったら、どんな二人でも、恋に落ちるかもね、と話した。人生について語らなきゃいけない気がするからね、と言った。そして、いま、この時間にも、様々な都市で、音楽や芝居、ダンス、映画、そういうものが何億と行われているかと思うと、とても不思議な気持ちになった。ただ、生活していればいいのに、どうして、表現やら芸術やら、そういうものを語ったり、やったり、するのだろうな。この、飢えみたいなものはなんだろうね。わたしは、ずっと、ただ振動、ただ運動、ただ震え、ただ痙攣、ただ、ただ、そういうものになりたかった。そういうものになれるときやものや空間があると信じさせてくれるものが好きだった。それはいまもだけれど、それっていったいなんなんだろう、ほんとうにそんなものがほしいのかな、いつも、うまくいかなかった試みで、いま、ただただ暗い道を行って、これは人間が作ったものだ。いったいなんなんだろう。と。言った。いつも、失敗する試みを。いつも、仮想する試みを、求める、のは、どうして、なんだろう。卑しいと思いながら、それが純粋なものだと思っていて、けれど、それはいのちのやることじゃないとも、思っているのだから、いつもだめだ。 日本人が信仰するのは「ち」だと思う。 それは、血と地だけれど、それを強烈に身に受けるわけじゃない。空気に血と地を位置づけて、それを信じる。嫌がりながら信じる。そうしたら、具体的に位置づくものは神や仏ではなく、祖先だろう。とにかく祖先を信じることはできる。そしてそれが嫌でも間違いでも、いや間違いだから嫌だから信じる。空気の中にはいつでももう死んだ誰かの祖先が漂っている、それは絶対に誰かの祖先なのだから、感じつづけなければならない。いやおうなく分断し繋げ分断し繋げる。感じつづけているから不安で怖いけれど、感じつづけないのならなにもないのと同じだから。わたしの抗いはいつも、そこからなんとか切り離されたいと願うこと。ほんとうにひとりで生きること。わたしの自責は、その空気を吸って吸い続けて感じつづけているのに、それに満たされようとしないこと。ただのプールだと思おうとすること。 ちゃんと連なりたい、けれど、逃げ出したい、ずっとこれだ。 それは曖昧な匂いでしみわたるものなのだから、身体は壊れない。 けれど、よくわからないじゃないか、どうして壊れないのか。血で地のはずなのに、どうして裂けないのか。もうはっきりとは形を成していないからいつまでもある。 都市では、振動が宇宙とつながろうとする。 祖先ではないルーツを口に出して、音にして、物語にして、空気をすっとばして、真空を信じて、つながろうとする。 毎夜、毎夜、行われる。試み。 わたしは、ただ運動になりたくて、なんにもないのなら、ほんとうになんにもなく、そこにあればいいと、思っていたけれど、そんなのは比喩じゃんか、くだらない、それはもういいじゃんか、十分やってみたじゃないか、試みてみたじゃないか、結局どうにもならなかったじゃないか、と声に出して言ってみたところで、なにも変化がない。あるのは飢えのような空白、飽和した肌色。 結局、わたしはかみなりにうたれない。 いつも、気づいたふり、わかったふり、転換したふり、決意したふり、気がすんだふり、なにもないふり、なにかあるふり、ぜんぶポーズ。 本当はいつもおなかがすいている 足りてない なにもかもが 一番 足りてないのは 打ちのめされることだ 打ちのめされないのは どうしてだろう なんだろうね 逃げてんのかな ああ ちがうな やっぱり強度の問題だ 強度が足りないんだ だから いつも思っている 強い力が わたしを もう許して 助けて 逃がして 死にたくないって 言うことしかできなくなるようにしてくれればいい 次の日には 泣くだけに そして その次の日は 手足を ばたつかせるだけに そして その次の日は まばたきだけ その次の日は すっかり 止まる そして そうなる前に わたしが どういう手をつかっても 逃げ出そうとするのならば  もしくは 完全に 誰もに 忘れ去られて 捨てられて  その時に 全部つかって 誰かを 繋ぎとめようとするならば わたしは まだ わたしを 信じていられるのかもしれないのにと思う ただ運動 ただ振動 ただ震え ただ痙攣 ただ瞬き そんなものに わたしがなれるはずがない ただ そうなりたいと あがくだけで もし それを 誰かが みせてくれるなら なんだって なげうろう どんなところにだって いこう と 思う けれど そんなんじゃねえだろ もう とも 思う もう すっかり わたしは わたしを 信じていないし わたしのもとにある からだが ほんとうに哀れで ごめんなさい わたしなんかの からだで もっと ちがう人の からだだったら よかったのに と 思う だから からだだけは なんとか 生かしてあげなくちゃって さいごまで なんとか 嫌な気持ちなんか 計算しておさえて なんとか ちゃんと だから  わたしは 卒業して 仕事があるところへ どこへなりとも行って 仕事をすればいい わたしのことを 知っている人 付き合いがある人 知らない人 これから 会う人 どんなひとも みんな みんなは それぞれ 好きにやるのだろうし わたしは 目の前に ひろがる 一方向の時間の上に ただいるだけでいい 時間は過ぎるのだから ただそれだけなんだから 感情を もっとも 揺り動かすのは 生理と 天気 生理は いつか なくなって 天気は ただ 記録されていく ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]割れない卵/亜樹[2010年4月19日0時00分]  夜、寝たくないので夜更かしをする。面白くもないテレビをつけたまま、渇いた笑い声を聞いて、インターネットで開くだけ開いて、ぼんやりとしている。日付が変わって、頭が痛くなってきたら、寝ることにしている。パソコンの電源を落とし、電気を消すと、とたんに眠気はとんでしまう。仕方なく、遠い昔の失敗を思い出して、もう会わない人に謝ったりする。  朝、起きたくないので限界まで寝る。平日はそれでも仕事があるので、時間に間に合うように起きてはいるが、休日は本当にひたすら寝ている。起きたときには頭が痛い。活動するのは昼過ぎで、それもそんなにすることがない。掃除をして、洗濯をし、食事を作って、それでお終いだ。三時のおやつを食べてから、することがないのでただぼうっとしている。昔はそんなときは本を読んでいたのだけれど、最近は視力がひどく落ちて、活字を読むのが辛い。一日に何度も目薬をさす。眼鏡をかけてもあわない焦点に、また頭が痛くなる。  休みの日に何してるの?、と聞かれると困る。  何もしてない。  一日の半分以上は寝てる。  眠たいわけではなくて、他にすることがないから寝てる。  それでも時々、どうしても眠れない日がある。そんな日はゆで卵を作る。  冷蔵庫の中からあるだけの卵を出して――といっても、多くて五個だ――固めのゆで卵を作る。  煮沸する湯の中で、ぐらぐらと煮て、時々掻き混ぜる。卵の殻がこつこつと鳴る。  湯だったそれを冷水にかける。そうしてできた細かなヒビに、爪をかける。  ぽろぽろと落ちる白い欠片を見ていると、なんとなく眠たくなる。  固い殻を剥いでも、その中にあるのはしっかりと弾力をもった、卵である。  そのことに安堵する。中身はまだ守られている。  産まれない雛たちの安全を確認してから、私はまた布団にもぐりこむ。 ---------------------------- [自由詩]ワールド・ライト/tomoaki.t[2010年4月19日19時12分] 重力の演奏が、あた  乾燥し、聖文字の様 りには散乱している、 に去勢された植物が、 カーテンが何かを隠  森のあちこちで絵を し、塗り潰された色  描いているから、足 の部屋、大きく息を  を振って距離を取り、 吸い、自分勝手に、  引かれる髪にはむら 色をつけていく、そ  が生まれ、歩いた道 の時の右手の静脈だ  の残り香に、こども けが、ただ赤い、温  が群がっている、夜 みを絶ち切られる、  が降りてきている、 雨降りの街で、鈴を付けたヒトに連れられる、 ジャンク・フードがそこいらで、再生されて 行き、あまもり、振動、頚動脈の触感、携え、 地下で心を失くし、エンドレスの、雨音、吹 き出してくる、波の泡と、どこかへ消える階 段、服のきれはしは、見事に踏みにじられ、 小児科の前で白服のヒトが演説をたれている、 鈴の音は、水てき浮く肌を打ち、遠きを近く にして、踏み鳴らすおとさえ彩色に、豊かか ら、獣がうまれおちて、子を生そうとする、 重力の演奏が、あた  乾燥し、聖文字の様 りには散乱している、 に去勢された植物が、 折り紙の手で、カー  タイルの脹脛に亀裂 テンを掻き分ける、  を入れ、その線記号 手から情報誌がぽろ  をこどもらに話して ぽろおちて、それが  聞かせる夜、こども 蛾になる、部屋は水  らも植物も、何をも 浸しで、蛾が耳のな  怖がらないから、自 かに入り、なにもか  由時間の猶予を与り、 もが、綺麗だった、  つい、遊び惚ける、 雨降りの街で、鈴を付けたヒトに連れられる、 そのヒトが歩いた跡、打ち身めいた腫れが浮 かび、街は挨拶をしないヒトであふれた、急 患、と叫びゆくヒトは罪過を振り撒き、季節 の隙間に入っていく、卵黄をつぶして子供た ちが遊ぶと、夕方になり、むしろ静まった空 は、軽業師のようだった、切れてゆく切れて ゆく、から、繋がり、ぼくらが一斉に逮捕さ れゆく夕闇に、街に除光液が降り頻り、身体 の冷えていく僕を、路地の奥で見つめる獣、 ---------------------------- [自由詩]水を買う/たもつ[2010年5月6日20時36分]     先生はもう液状になって 黒板の海を 白墨で汚している 本当は海の生き物たちが みんな住んでいたはずなのに 僕の皮膚には朝から いろいろなものが刺さって 痛くはないけど 特に抜けない 真下にある給食室から オルガンを煮詰めて ジャムを作っている匂いがする 今日はすべてが終わったら 水の買える列車に乗って 水を買いに行こうと思う     ---------------------------- [自由詩]小指から散る/あおば[2010年5月7日14時25分]                 100507 年齢がばれる こまったと 案ずるなかれ その時は ロケットで逃げればよいと ロボナビを確認したら 北行きは明日だ 方違えをして 南西から廻る 雨が降ると 視界が無くなり 見送りもつまらない 花束を捧げたつもりで ビニール傘を差し 雫ちゃんと一緒に帰る ボチャンという音に 振り返ってみたが 水たまりのなかにも なにも生きているものは居なかった 少しだけ物足りない気分で まなじりに指を添えた 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、かんなさん。 ---------------------------- [自由詩]てんてん/鵜飼千代子[2010年5月9日10時15分]               てんてん だけは               我慢できないんだよね               確かにあれは失敗だったなあ               と思ってる               てんてん があるとさあ               もう二回目               読みたくないんだよね               あのさあ               てんてん よりも               内容を読んでよ               わかったよ 書き直す               でもね               「君は僕の太陽だ!」               よりは ましだと思うけど         1997.10.18.    YIB01036    Tamami Moegi.         初出 NIFTY SERVE FPOEM ---------------------------- [自由詩]長い家出/はだいろ[2010年5月9日21時02分] 40歳になったので 煙草を覚えることにした からだにわるいことをなにもしてこなかったから 何だか申し訳ないような気がして ベランダで星をみた あおい煙が目にしみた すこしもおいしくはなかったけれど こころは軽くなっていく 40歳になったので おんなと遊ぶことにした 道徳的にいけないことをなにもしてこなかったから 何だかもったいないような気がして 赤信号で手をつないだ 夜のまたたきだった ちっともさみしくはなかったけれど こころは小さくなっていく 40歳になったので 厭世的になることにした 無断遅刻も無断欠勤もしたことがなかったから 何だかばかばかしいような気がして 定期券の駅を通り過ぎて 海まで乗り継いでった ちっともぜつぼうてきではなかったけれど こころはうすくなっていく 40歳になったら なんて だれも考えたりはしないだろう 出会うべき人にもし出会えていたら きっと 気がついたらおじいさんになれていたに ちがいないのに きっと ちがいないのに 40歳になったので また詩を書いてみることにした じぶんをかたちにすることを何もしてこなかったから 何だか長い家出のような気がして 恋をしたら恋のうたを 失恋したら失恋のうたを ちっとも恋なんてしてないけれど こころはあかくなっていく ---------------------------- [自由詩]はあと/紀ノ川つかさ[2010年5月9日23時24分] はあとのつもりで はあとをつけた いたがった はあとのつもりで あとをつけた いやがった はあとのつもりで はとをつけた とんでいった はあとのつもりで とをつけた かぎをこわして でていった もう みつからなかった ---------------------------- [自由詩]蒼葬 / ****'02/小野 一縷[2010年5月10日20時05分] 鉛色の岸辺 蒼い木馬が燃えている  塩辛く 蝕まれた 薄い身体を 震わせて  揺れている  錫色に泡立った 波頭の拍子を 執りながら  砂の一粒一粒は 鋭く 足の裏を 青く 有害に刺激する 誰かが作った 砂城が 鈍く 融ける 角砂糖のように 崩れてゆく  一羽 白い鳥が 飛び立つ  遥か 遠い 小さな 朝陽でも 夕陽でもない 黒い太陽に 滲んでゆく 紅い月明りが 海面を血の色に 黒く染めている その月は 大きく 空の頂を 被っている 麻痺した皮膚に 微かに感じる 体毛に結晶した 飛沫は 刺々しく 肉に 十字を 幾重にも 刻み込む 波打際に 沢山の小瓶が 群れなして 打ち揚げられる  中身は 焼け焦げた詩片 白 灰 黒 枯れた言葉の残骸 遠く 続く 海岸の彼方にある 教会から 聞こえる 暗い 鐘の音は 濁った 虹色の 雲を呼び 重い眩暈を 誘いだす 地下の 白と黒の 格子模様の 広大な霊廟を 吹き抜ける 赤黒く病んだ 風が 潮風に 生ぬるく 混じり合う 瑪瑙模様 眠る 暗く くすんだ魂を 病んだ肺で包み 焼けた両腕で抱いて  痩せた 頬を 湿った砂に 預けて 夢見る 黒い水平線の 向こう 名も知れぬ国の 無名の港  細く 横たわり 缺けた 貝殻に くちづけて 静かに  鬣の白い炎を靡かせて 木馬が蒼く揺れている ---------------------------- [自由詩]鏡/たもつ[2010年5月10日22時22分]     門のところにクラゲが大量に発生していた 透き通ってきれいな形をしているのに 触手に毒のある種類なので 外に出ることもできない 裏門から出ようとしても この家には裏門がないし 裏門は要りません、と大工さんに言ったのは 確かにわたしだった 道を歩いている人に助けを求めようと 窓越しに手を振ってみる 皆、水槽を泳ぐ魚を見るような目つきをして 通り過ぎて行ってしまう 自分もあんな風に魚を見ていたのかもしれない そう思うと恥ずかしい気がして 試しに鏡を覗いてみるけれど 目をつむったわたしの姿しか映らない     ---------------------------- [自由詩]透明の柱 /服部 剛[2010年5月11日23時28分] 黒い布が二本  電信柱に結ばれて  風にひらひら泳いでる  長い夜を越えて  透き通った柱に掴まった  僕等の姿のようだ  あの柱には  きっと  僕等のいのちを生かす  ほんとうの電気が通(かよ)っている  ---------------------------- [自由詩]蝶の廃棄/楽恵[2010年5月14日19時19分]                      内地から釣りに来た太陽と恋人たちを 島尻の斎場御嶽にガイドする。 財布から百円玉を取り出し受付機でパンフレットを買うのを指笛に 午後の観光が踊る。 薄深い御門口を越えて 「こちら側から聖域となりますが 逃げ場のない切り裂け岩の舞台では、見つかった人の魂はいつも蝶になるしかありません。」 断崖からグリーンボトルが漂着すると、 魚舟のために風が布く。 ゆっくりした低気圧がニライカナイから近づいてくるのを 時化た海の舌が味わい直感する。 クバを揺さぶり訪ねて 奥深い三庫理に辿りつく。 風抜けて穴閉じる、サキがいよいよ近い。 未知 果てて 内地の恋人たちと一緒に、三庫理から久高を眺める。 久しく貴高いシマ。 あの島にハブはいないが 私の昔の恋人が、不法投棄され、埋められている。 あの、くだか。 破れた茣蓙に座っていたユタの女が近くで骨の匂いのする線香を焚いた瞬間 降り始めたアマ粒で 世界遺産に登録されている金色の文学が次々と滲んでいった。 ---------------------------- [自由詩]手首のソネット/佐々宝砂[2010年5月19日1時05分] 手首を切り落とす、 という妄想が頭から離れない。 私の手首を切り落とすのではない。 最愛の人の手首を切り落とすのである。 切り口はなるべくすっぱりと潔いのがよい。 切れ味よく骨まで切り落とせるのは、 鉈だろうか、出刃包丁だろうか。 チェーンソーも捨てがたいがあの切り口はそそらない。 すっぱりと切り落としたら、 傷口を丹念に消毒し、 もし消毒薬がなかったら焼け火箸で焼き潰し、 私だけを頼って暮らすそのひとの、 切り株のような手首を、 私は優しくやさしく包帯で巻いてあげるのだ。 ---------------------------- [自由詩]書物の家/因子[2010年5月20日10時38分] わけいってもわけいっても古い本 この家の主はすべての本に番号をつけて それが災害でぐちゃぐちゃになってしまってからというもの 番号通りに並べなおすことにのこりの人生を費やすつもりでいる わたしは彼に見つからないよう 並べなおされた本たちを、こっそり再びぐちゃぐちゃにする わたしは開かれることのない書物に囲まれ ひとりの人間の生きる目的をつくっている 夕方5時にわたしは帰る 古い家と、古い本から 家の主はわたしにありがとうと言って 新しいきれいなお金をくれる ---------------------------- [自由詩]また会う日まで。/亜樹[2010年5月20日18時19分] ベガとアルタイルの15光年の隔たりに 孤独だなんて名前をつけて 夜空を眺めてみれば その距離は所詮 人差し指一本分で。 私と貴方の間の隔たりは 人差し指一本では足りなくて 呼ぶべき名前も思いつかない。  おはよう。  こんにちは。  おやすみなさい。  おはよう。  さようなら。  また会う日まで。 ---------------------------- [自由詩]poetarot(魔術師のカード)保存版/みつべえ[2010年5月23日16時02分] 難破船が、出港する。船であるからには。海が。あるからには。心優しい、友人たちよ。惜しまないでくれ。わたしは。幸福とひきかえに、世界を。手にするのだから。 ※ 棒のようなものを、ふりまわす。疲れ果て、杖にして歩く。夏のおわりに、杭として打つ。地中ふかく、夜と昼と朝の。悔恨はのびて。銀河の、水脈が破られる。 ※ 聖杯に血を受ける。知と力の過剰が、めくるめく幻像を呼ぶ。わたしは、どこか中世の街にいて、そこでも、ひっそり、詩を。いや。あてのない、恋文を綴っている。 ※ 自然は魔法であり、愛すべきことに、人間はまだ、原始的である。朝の通学路。ハナミズキの花が、雨のたびに、ひとつずつ、灯り、やがて、昼の電飾のように、咲ききる。 ※ 雨のなかにいると、わたしの内側からも水が流れ出て、しぼんでしまいそうだ。かけぬけていこう。きみの。黄金の夜明けまで。新たな、苦悩と懐疑のはじまりまで。 ※ 過ぎてしまえば、ただはてしなく、無であるとしても。水星の韻文を、朽ちていく刹那の、ひとこまごとに打電する。 ※ 何度も。くりかえされる。執拗に、すり込まれる。伝説となる。あなたには、商業的な。喝采を。閾に沿って、のびる影を踏みつけ、わたしは。どこまでも、夕焼けの外縁をたどる。 ※ 長距離走者の、股間のように。ストイックで、排他的論理和である、わたし。もう、だれも。泣きながら、歌うな。少年少女は、詩をかくな。 ※ 剣も。棍棒も。魔法も。使わず、六芒星の。ちからにも、頼らずに。たったひとりの、誕生日を。ジャンバラヤつくって、麦酒で祝う。 ※ 歌は。水のながれ、そのおもてに、名をしるす。墨色の面影、あなたを悩み。潰滅した、わたし固有の、領土の空を。青くあおく、塗布するために、磨いた技術です。 ※ 解のない夜明け、恋の。あなたは、四次元ユークリッド空間から帰還する。実体化が済みしだい、メールしてください。そこが、たとえ世界の外側でも、迎えに行きます。 ※ 「メビウス商店街」の、色あせた看板が、入射角度でかたむく。むかしむかし、夏の。太陽のした、水のからだの、男の子、女の子、みんな蒸発して。わたしの影は、ゆらゆら、シャッター通りをぬける。 ※ あなたは、逆位置で立っている。背をまるめ、風に向かって。花の囁きを、蒐集している。ポケットはふかく、金色の沼まで、とどいている。聖衣のひとよ。かたわらで、ぎこちなく、鳴っているのが、わたしです。 ※ ふりかえっても、何もない。あるきだす、あてもない。ただ、目に見える範囲に、牡丹の花が。くずれかけている、他人の庭の前で。胸と背中に、電話番号を大きく、刺繍されたジャージ姿の。老人に、帰り道を尋ねられた。 ※ 毎朝、顔を洗い落とし、描きなおす。目鼻が立たず、バラバラで。福笑いのようだ。出勤前に、テレビ占いをチェックする。「行ってらっしゃいませ。牡牛座生まれの方。今日の、あなたのラッキーアイテムは、アスワンハイダムと、大日本帝国陸軍九九式軽機関銃です」 ※ あなたが、詠唱するとき。またひとつ、星が消える。180億光年の彼方で。そこで生まれたとしても、わたしは。その星の言葉で、詩をかいただろう。きっと。 ※ 雨あがり、金雀枝の。黄があざやかに、目にしみる。今日はここで。酒をのもう。ずっと。花を見ていよう。暗くなったら、蛍の売人を。呼びとめて、明かりを買おう。 ※ いっしんに。風のうら、おもてを。読みふける、その耳もとで。そっと、あなたは。しんじつの、名を告げた。薔薇のしたで。わたしの蹉跌、わたしの封印。わたしの、ふるさと。 ※ 宝石の、瑕に。白く、たおやかな。指を、突き入れて。あなたは、朝をひらく。うまれたての、鳥のかたちの。ことばを呼びだして、空へ放つ。それが、いちにちの、はじまり。 ※ その声は、五線譜に。とどまることなく、軽やかに跳ねる。樹木よりも、尖塔よりも。ときとして、禁断の高みまで。その声に、操られて。わたしは、踊りつづける。死ぬまで。 ※ あなたは、世界の鍵を。漏洩している。やわらかい、鏡面に沿って。したたる、蜜の単純命題。わたしたちは、たがいを。映し合う、関係のなかでしか。孤独でいられない。 ※ うつむいたまま、それでも。歌を、うたっていた。悩みが、ふかいほど、あたらしく。ながい、なみだの隧道をぬけて。いま、あなたが、顔をあげる。アポロンの表情で。太陽を宣言する。 (https://twitter.com /poetarot) ---------------------------- [自由詩]木漏れ日カメラ/小川 葉[2010年5月26日3時09分]     きらきらと 光が降りている あれは神さまが 写真を撮っているのだ という話を 君としたかもしれない 木漏れ日の下で あの日僕らは どんな生き物の姿で 一枚の写真になることが 許されたんだろう     ---------------------------- [自由詩]金木犀 零れる/鵜飼千代子[2010年5月26日21時44分] ぱらぱらと降りそそぐ オレンジ色の十字星     / ジュウジボシ 軽やかに土を跳ね 思い思いの居場所に 身を委ねる   ただ1枚のビーズ刺繍を 土に施す奔放さは 秋を知らせた頃の自己主張を 一時の間に淡い残り香へと 変えていて 近い冬と遠い春への道程を 解き放たれていた夏の心に  覚悟させる   次に沈丁花の濃い香りが 春を知らせに訪れるまで じっと 耐えよと 言伝ながら   必ず春は来る の だからと   その襟をしっかりと立てて 生きよ と              初出 Blue Water  2001.09.26 「日本詩人クラブ 2002.10.05. 研究会」提出作品 詩集 ブルーウォーター 所収 《新潮ブックジャーナル 2003/2/8〜2/13 清水哲男のテレフォンエッセイ「季節の色鉛筆」第169回》 清水哲男さんによる朗読と短評をいただきました。 ---------------------------- [自由詩]木漏れ日カメラ/あおば[2010年5月27日16時43分]                      100525 木漏れ日が地上に撮すのは 我らが太陽 吉祥寺が叫ぶ 渋谷はその名の通り渋い顔 しかたなく新宿に向かう 途中の明治神宮の森には カラスたちが空を占拠している 太陽は輝いているが 空が霞んでいるのか 地上の影は定かでない カラスが口を開けて 空を呑み込む 空の光を呑み込む 霞を腹一杯吸い込んだ後で 巣作りに励むのが健気だ 山の手線のガードを潜り 新宿御苑に向かう 影は追いつけなくなり 砂漠のように見えなくなる 一瞬の旋風が弔ったので 記憶が抜けて次のテーマが 黒い小さな部屋で上映される 「時間無制限の木漏れ日の生涯」 わかっている 費用は制限されているから 今日はこれまで 明日の朝にまた見に来てください 「poenique」の「即興ゴルコンダ」投稿作。タイトルは、小川 葉さん。 ---------------------------- [自由詩][あるものねだり]/東雲 李葉[2010年6月1日15時36分] 知らない言語を聞いている 彼が何を言っているのか、私には分からない 「大好き」かもしれないし 「死んでしまえ」かもしれない 「そこ空いてますか?」かもしれないし 「昨日のテレビがどうした」ことかもしれない 分からない言葉を読んでいる その単語が何を伝えたいのか、私には分からない 「お母さん」を呼んでいるのかも 「赤く濁っていく雲」のことかも 「あの人が置いていったタイピンを捨てる女」のことかも あるいは、会話と会話の間かも 私には知識がなく 経験もなければ信仰心もない 世界は果てなく広がる 海溝は澱みながら広がり続け 地球は少しずつ肥大していく 大地は気付かれぬように裾野を広げ 人類の成長に丈を合わせる 私には一冊の本しかない でもそこからは 幾つもの道が、光が 矢のように伸びていて 果てなく音は広がっていく そこに意味があろうとなかろうと 何もできないから何でもできると 世間は思ったよりも甘ったるいと ここにないものはどこかにあるから 今からそれをとりに行こうか ---------------------------- [自由詩]七夕祭/明楽[2010年7月7日17時05分] 「織姫、彦星」 一、 年に一度の逢瀬の日だと地上が先に盛り上がってしまい、天上の二人は今ひとつ盛り上がれない。 二、 毎年「あの時の子よ」と織姫は子供を連れて来るが、どの子も誕生月が微妙に違う。 三、 大勢の好奇の視線に晒されるのが嫌で、時折織姫は彦星との逢瀬を拒む。 四、 毎年、織姫は会えなかった一年間に彦星が浮気をしていたのではないかと疑い、彦星は一晩中かかって弁明している。 五、 地上はあんなに様変わりしたのに自分たちはいまだに機織と牛追いだねと、近頃は二人で溜め息ばかり吐いている。 六、 天帝が随分昔に二人の過ちを許してくれたので本当は同居しているのだが、地上の民が一年に一回しか会えないのだと思い込み続けているため、二人は七夕の日にしか再会出来ていないふりをし続けている。 七、 雨の七夕に宇宙を舞うカササギの存在が、近年NASAの最高機密となっている。 「七月七日の恋人たち」 一、 今日は離れ離れになった恋人と会える日だからと、朝から玄関前で一年前に別れた恋人が出てくるのを待っている。 二、 織姫彦星にあやかろうと七夕に愛を告白したところ、一年に一回しか会えない関係になってしまった。 三、 いつもと変わりない逢瀬のはずなのに、何故か一年後の話ばかりをしてしまう。 四、 天の川を見上げながら散歩をしていた恋人たちが、あちらこちらで溝川に落下し助けを求めている。 五、 一年ぶりに再会した恋人たちは、七センチのぎこちない距離を保ったまま川原で星を眺めている。 六、 七夕の日に「またね」と言い残して死んだ恋人と、毎年三途の川で再会している。 七、 会えなかった一年間で積もり積もった言葉はどれもこれも癒着してしまい、結局夜明けまで無言で過ごした。 「星に願いを」 一、 星に願いをかけようとしたが、どの星も誰かの願いに忙しくて手の空いている星がなかなか見つけられない。 二、 清らかな心の子供が誰もの願いが叶いますようにと願った途端、世界は欲望渦巻く阿鼻叫喚の地獄絵図となった。 三、 たくさんの願いで重みを増し、軌道を逸れた星が地球を目指し接近している。 四、 願うばかりで誰も自分の願いを叶えてくれないと、星は八つ当たりで辺りに金平糖を撒き散らしている。 五、 恵まれない人の願いを叶えようと、その人の元へ星々が流星群となって降り注いでいる。 六、 寛大な星は謙虚で控えめな人のたった一つの願いも、欲張りで傲慢な人のたくさんの願いも分け隔てなく全て叶えるので、貧富の差はいつまでもなくならない。 七、 願う力を自分で叶える力にすればいいと星は提案したが、人類は満場一致で却下した。 「七夕の出来事」 一、 人々の願いを叶える準備が整った星から順に、地球へ向かいはじめている。 二、 一向に願いが叶わないので、星に訊ねると「担当の星が違います」と散々たらい回しにされた挙句に「今年の受付時間は終了しました」と追い返された。 三、 世界平和を星に願うと、各国の軍事施設に次々と隕石が落下しているというニュース速報が流れた。 四、 自立心溢れる子供の「願いは自分で叶えるものだ」という力強い叫びを聞いて、星は存在意義が揺らぎ輝きが弱まった。 五、 願いを叶えるのが億劫になった星は、瞬くことを辞めてしまった。 六、 笹いっぱいに「さようなら」をしたためた短冊をつるして、天の川へ飛び込む。 七、 何も願わず、ただ純粋に星空を眺めている人のために星は輝きを増した。 ---------------------------- [自由詩]波紋/たもつ[2010年8月9日19時29分]     水のノートに 垂線を引いていく 印刷された罫線と縦横になって 小さな枡がいくつかできる 溺れないように 慎重に枡に指先を入れてみる 体温より少し低い水の温度が むかし一緒に寝ていた人の 二の腕の冷たさに似ている 指を動かすと 小さな波紋が他の枡へと 徐々に広がる 今日は見つからない言葉が いくつかあるので 何も書かずにノートを そっと閉じる 何度かやって慣れたはずなのに 水滴が数滴こぼれて 濡らすのが好ましくない所を 濡らしてしまう 昨日と違って 外では雨が降っている 黙っていても 音でわかる     ---------------------------- [短歌]I love you/ことこ[2013年1月5日23時44分] あおいろの夜をむかえて鏡面のようなねむりの狭間で出会う いしだとか、やさしさだとか、なにもかも総称してる冬のキッチン らいしゅうの予定をきいて書き留める宇宙船から手紙が届く ぶきような形にむすぶ ありふれた形にむすぶ どちらでもいい ゆうぐれに羽をやすめる渡り鳥 許しあうままさざ波を聴く ---------------------------- [自由詩]その日、風鈴の割れる音をきいた/即興ゴルコンダ(仮)投稿/こうだたけみ[2014年8月26日0時41分] 浅草寺ほおずき市の七月 鉢植えの中で膨れる橙と 頭上につらなるガラス玉 風が吹くと一斉に揺れる 景色すべてが鳴っている 母にねだって風鈴ひとつ 更埴市稲荷山お花市の八月 妹と揃いの服を着せられて どんしゃん音頭聴きにゆく 露店のビーズが欲しいけど まどべの風鈴おもって我慢 どんどんしゃんしゃんどん 秋雨前線と秋台風の九月 つよい風雨にあおられて アサガオ開き金魚が舞い 花火が咲きトンボが泳ぐ ガラスの中はにぎやかで 触れてみたいと思ったの けれどそれは私の手の中 ぱり、と小さく音たてた ---------------------------- [自由詩]その日、風鈴の割れる音をきいた/あおば[2014年8月26日10時18分]             140826 ニイタカヤマノボレの暗号に 我勝ちに風鈴を粉々に砕いた 冬の最中にわざわざ探し出して割ることもないのにと思っていたら なにごとも徹頭徹尾完済しないでは置かない目に居竦まれ 風鈴を所持するのは軟弱な非戦主義者だ、非国民だと罵られ 向こう三軒両隣の恥とされ、下手すると村八分にもなりかねない それ以来、我が家にガラス製の風鈴が来ることはなかったが ある夏の日、青銅製の薄い風鈴が北の軒下に下げられ 可憐な澄んだ音を立てていたのを記憶する 煩がる隣人に遠慮したのかすぐに撤去された軒忍もない軒下には 暑い乾いた風が屯してざらざらした砂埃も堆積し目を向ける人もなく 居場所のない粗末な風鈴がどこに往ったか今では探す術も無く 耳の奥に微かに残るチンリンカラコロたおやかな音色だけが 彼の儚い存在証明となっている 短い夏の思い出に軒忍に下げられたくっきりとした絵柄の風鈴 爽やかにたおやかにはしゃぐ姿も記憶の底にだけ踊っている 風鈴が割れるのは犯罪者の仕業ですと刷り込まれたこぞの冬 初出「即興ゴルコンダ(仮)」   http://golconda.bbs.fc2.com/   タイトル提出は、ほしこさん。 ---------------------------- [自由詩]明日から学校/あおば[2014年8月29日8時34分]           140829 バケツをガンガン打ち鳴らし 村中の家から家へ いよいよ明日から学校だ! 昼間は勉強が出来るんだ! 祭り囃子より素早く届けられ どんがんどんがんやかましい そんな話、いつの時代、どこの話 厳しいつっこみ少々狼狽え そんな話があったら愉快だろうな 情報メディアの乏しい頃には どこでもいつでもよくあったのさと 頭を掻いた バケツをガンガンは我が非体験で デマも学校伝説も厳しい教育環境の 地元に発生するのさと自己弁護 寝惚け眼の宿題やらない子供らに 新学期へのモチベーションアップを 少しでも期待するのと学校教育に 非協力な地域住民へのアッピール テレビもない時代のささやかな楽しみ あの先生、今年も来るかなと 穴あきバケツを手に戸口で待ち構える 無邪気な子どもの期待に満ちた信頼性 バケツをガンガン行列練って憂さ晴らし あすは楽しい新学期! バケツ投げ捨てオッス! 初出「即興ゴルコンダ(仮)」   http://golconda.bbs.fc2.com/   タイトル提出は、クローバーさん。 ---------------------------- [自由詩]PLANET NEWS LEVEL 7/即興ゴルコンダ(仮)投稿/こうだたけみ[2014年9月12日9時46分] レベル7になりました/惑星報道をお伝えします/詩人を乗せたタイムマシン11号は地球から十一億光年の地点を通過しています/孤独に浸るにはあと九億光年ほどお待ちください/続報です/タイムマシン11号は旺盛な創作意欲を保ったまま軌道を外れ明後日の方向に進んでいます/衛星に不時着する恐れもでてきました/乗り越しの場合は速やかにお申し出ください/緊急惑星報道です/タイムマシン11号が軌道修正に成功したという情報が入りました/高望みをせず目的地を地球に変更したことが功を奏しました/Uターンラッシュに乗って再び大気圏に突入したもようです/ここで現場から中継です/タイムマシン11号が奇跡的に帰還しました/マシンは大破し見る影もありませんが懸命な救助活動が続けられています/いま救急隊員に抱えられて乗組員がでてきました/手を振っています/生きています/生きて/イルカラトイッテイイキブンバカリデハナインダナ7.11応答セヨ/イキテ/イキテ ---------------------------- (ファイルの終わり)