クローバーの望月 ゆきさんおすすめリスト 2004年5月7日13時18分から2005年4月10日12時56分まで ---------------------------- [自由詩]押入れの穴ぼこ/望月 ゆき[2004年5月7日13時18分] 押入れに顔をつっこんで ぐるりと見回したら 天井の端っこに 小さな穴ぼこがあいていました 穴ぼこの向こうは 下から見る限りでは ただ ただ 暗闇でしたので なんだか怖くなったぼくは それ以上は見ないようにと 布団を上の段に移動させました ぼくは やっぱり 穴ぼこが気になって 昼寝もままならなかったので 布団を引きずり出して 押入れの上の段にのぼりました 立ち上がると 穴ぼこはすぐ近く。 穴ぼこをおそるおそる のぞいてみたけれど やっぱり暗闇でしたので つまらなくなったぼくは そこにストローをつっこんで シャボン玉を飛ばしました シャボン玉の行方を 穴ぼこからうかがっていると ふわふわと飛んでいって そのうちパチンッと はじけました それからもぼくは 暇さえあれば  シャボン玉を飛ばしに 押入れの上の段にのぼりました ぼくがあまりにたくさん シャボン玉を飛ばすので 暗闇では ひっきりなしに パチンッ パチンッ と 玉がはじけています。 シャボンの水滴が そこいらじゅうに  飛び散っており そのとき どこからか 声が 穴ぼこの向こうの暗闇の ずっとずっと下の方に 目をやると 人々が こちらをあおぎ 草花が 満ち満ちています ときどき人は それを雨と呼んで ときどき人は 穴ぼこを見上げたりします ---------------------------- [自由詩]雨細工の町/望月 ゆき[2004年5月23日23時45分] 新しい長靴に浮かれて 水溜りを探し 右足をそっと入れると 次の瞬間 目が回り どこかに迷い込んでしまった 「噴水の広場」 あやまって 噴水の真下に立ってしまった と 思ったら それは雨粒で 地面から雨が噴出しては 地面に落ちていた 広場には もう一人 バケツを抱えて 降ってくる雨粒を集める 少年 「街灯の下」 舗道に広げられた 灰色の布きれの上には いくつものビー玉が転がっている 近づくと ビー玉に見えたそれは ぷよぷよと鈍く弾み 曇り空から降る雨粒とそっくりで 布きれの上から 今にも逃げ出しそうだった かたわらに座る少女は やんちゃな子供をつかまえる母親のように 絶妙なスピードで手を出し サッとそれを掴んでは 何か透明な糸に通している しばらく歩いて気づいたのだが ここの人たちは みな服さえ着ていてるが その服も体もびしょびしょに濡れてしまっている どこもかしこも 雨粒が降ったりやんだりなのだから当然だけれど。 しかしそんなことは 誰も気にしてはいない 「レインボーホールの玄関」 小さな屋台を見つけた 威勢のいい高い声に ひきつけられるように近づく その屋台には ネックレスやらブレスレットやらが ところ狭しと並べられている よく見るとそれはみな さっきの少女が持っていた ぷよぷよした玉で出来ていた 糸でつながれてもなお その玉はぷるんぷるんと弾んでいる 屋台の看板を見ると 「雨細工」と書かれていた どれくらい歩いたか 雨粒は相変わらず降っていて 気がつくと 服はすっかり濡れていたけれど それも気にならなくなっていた 時折 虹がかかるけれど 光の源は わからなかった そこから抜け出るすべは なんとなく知っていた 水溜りを探せばよいのだ 長靴の右足を入れればよいのだろう もはや そこがどこかなんてことは どうでもよくなっていた。 とりあえず、とつぶやくと 方向転換して さっきの「雨細工」の屋台に向かって 雨の舗道を戻ることにした ---------------------------- [自由詩]ストロマトライト/望月 ゆき[2004年6月14日0時47分] 呼吸したり 成長したり 引き潮を待ったりしてたら 20億年 あっという間に過ぎた 海底では あらゆる生物が 地球を ぐるりとくるんでいる 海はまた それをまるごと くるんで 育む。 魚は おかまいなしに 旅を続ける。 ずっと 大地を踏みしめていると 思ってた ほんとうは ただ 地球に 持ち上げられているだけ なのかもしれない。 また、引き潮。 ---------------------------- [自由詩]漁火/望月 ゆき[2004年6月14日22時45分] その時のぼくには どんな光も 光 だった 高層ビルのあちこちでは 松明が焚かれ 人はそれを 空から眺めては 都会などと よぶ 灯台ならば 向かうべき先を 教えてくれただろうか 手をのばしてみればいい 明るい場所で ぼくたちは逢おう。 つかまえて       くれないか。 ---------------------------- [自由詩]メダカ風鈴と縁側/望月 ゆき[2004年7月13日9時00分] 風が見たいの、と きみが言ったから 縁側に座っててごらん、と 言ったんだよ 本当はそこじゃなくたって いいんだ 吊るされた青銅は お寺の鐘にも似て 思わずぼくは しあわせ、とかを 願ったりする その間もずっと 風が見たいの、と 言いながら座るきみ の黒髪はさらりさらりと揺れ 投げ出した足先を通り過ぎる 雲の影 もたれかかる柱には もう名前すら消えた いくつもの横線 隣には 孵化したばかりのメダカが泳ぐ 金魚鉢が いつしか目を細め うとうとと首をもたげる さっきから風の中のきみ のカーディガンが揺れるたび 一番下のボタンが鉢にあたって カラン、カラン、と 涼をよぶ ---------------------------- [自由詩]泡沫人 /望月 ゆき[2004年7月27日0時52分] なにかを知るはずもないのに 海はそこにいて 呼んでいる なにかを知るはずもないので 海はいつもそこで 呼んでいる 誰を 誰を 誰か を きみとはどこから どんなふうにつながってるの 白く白い ただ白いだけの粉 の、きみは 色のない風に 足を手を額を持って行かれた それきり それきり 海はぐるりとつながってる、って 小さな頃から知っていたし 今も知ってる なのにきみに遭えないでいるよ 何周したかなんて きかないで もっと透明をくれないか もっともっと  透明を 透明 を プランクトンの海では 叫んでも届かない だってきみは白いのだし だってきみは散り散りだから 聞こえないんだね 耳をふさぐ手さえないのに きみを探しはじめて 気づいたことといえば きみがどこにもいない、って こと それだけ 両手と両足と誰かの両手と両足と 数えきれないくらい ぐるぐると泳ぐ間も パークで茂りつづける 柳の樹 きみの髪にも似て それをひとすじ リーフに垂らしたまま ぼくは待とう やがてうとうとと そうしてぼくは いつしか海を忘れる 忘れて 眠ったふりをする ---------------------------- [自由詩]美しき日々/望月 ゆき[2004年7月28日8時40分] けらけらと笑いあい 手をつないで かけぬけた 日々   わたしはいつでも   ひとりでした ほろほろと溶けて くずれてゆく 角砂糖はキライ シャカシャカと音のもれる ウォークマンの片耳 いつも「R」を貸してくれた デパートの屋上 音のない花火を見ながら 見送った夏   わたしはいつでも   ひとりでした 約束、のようなものは いろんな道すがら わたしに通せんぼをする 最後の、最後の、 砦となって 蔑んで 泣きはらし 許しあった 日々 今もなお 胸に 指の間に 首すじに   ひとりでも幸せになれたら 黄色い坂道 赤い急行列車に手をふる 青い青い夕まぐれ   やがてわたしは   ふたりでした ---------------------------- [自由詩]カーディガン/望月 ゆき[2004年11月1日1時23分] 無数ともいえる ボタン を ひとつずつ、かける かけ終えたそのとき もっと別の なにか きらりと光るような、に 心をうばわれて せっかくかけ終えたそれ を 一気にはずす そんなとき もう そこへはもどれない もどらない 直感 そういう覚悟 で 動いている そういう覚悟 で 生きている ---------------------------- [自由詩]ぽたぽた/望月 ゆき[2004年11月13日17時37分] こうやって、ね もちあげたら そうしたら、ね おっこちてきたんだよ ぽた、ぽた、 って おっこちてきたんだよ ぼくが うちゅう、みたいな まっくらで つめたいところ、 りょうほうのうで、で あおくって まるくって うつくしい、それ を もちあげてみたら、ね ぽた、ぽた、 って おっこちてきたんだよ ひがし、へむかう カシオペアが とおりすがりに いったよ 「だいぶん、ないているのだろう、ね」 って、 いったよ いっそ ぎゅう、としぼったら ぽた、ぽた、 は なくなるかしらん、て おもったけれど あおくって まるくって うつくしい、それ を もちあげて りょうてがふさがってる から ぼくには むりそうなんだ しかたがないから くち、をあけたよ ぼくには のむ、しか できないから、ね ぽた、ぽた、 ぽた、ぽた、 うちゅう、みたいな まっくらで つめたいところ、 ぼく、 がんばるから、ね ぼく、 がんばるから、ね ---------------------------- [自由詩]おにごっこの、/望月 ゆき[2005年4月10日12時15分] ぼくらは、とかく秒刻みでしか生きられない ようにできていて あわただしく 世界は今日も明日へと足をすすめる そこに待っているたったひとつも ぼくらは知らない 世界はどうしてか いつも早歩きがすぎる おにごっこのおには、だぁれ 夕暮れになるとかみさまが出てきて ぼくらに教える 「もうじき、夜が来るよ。」 かみさまはなんでも知ってる それだからといって 「はやく、おかえり。」 とは、言わない そのかわりに ブランコの向こうで おかあさんが呼んでいる ---------------------------- [自由詩]かみさまについての多くを知らない/望月 ゆき[2005年4月10日12時56分] 1. かみさまは、どこですか。 2. かみさまは、どこですか。 道すがらたずねると あっち、と指をさした人がいたので ひたすら あっち、に向かって歩いた 歩いて歩いて歩いて いつしかわたしは いくつもの境界線を越えて 世界にたどりついた たどりついた世界に、かみさまはいた あっち、と指をさしたその人が笑っていた 3. かみさま、お願い。 少女は窓辺で手をあわせる 夜空に星があっても なくても その夜も 隣の部屋で女は おまじないの呪文をとなえながら 少女の頃から 何度もかみさまに裏切られていることを おぼえていない 4. かみさま と ほとけさま どっちでもいいけど どっちが強い? どっちが確率高い? 5. かみさまはときどき 自分がかみさまだってことを、忘れる 夜のニュースではキャスターが 今日は夏日でした、と告げる 摂氏34℃に溶け出したもの の行方については語らない だけど 今日がほんとうは冬だってことは みんな知ってる 自分がかみさまじゃないってことも 6. ストローでもって ぐるぐるとかきまわしてごらん コォラ・フロォト とか クリィム・ソォダ とか とにかく その、白いとこ かみさまってやつは たいてい そんな場所にいるんだ 7. かみさまです って、名乗ったら みんなにひどい目に遭わされた そんなのって、あるかよ 半開きの目で ぐるりとまわりを見渡したら クラス全員が 「かみさま」 って、名札をつけてた 8. かみさまは、雲の上から ぼくらを見守ってくれてるんだ って ずっと信じてたよ きみがポッケから出した 右手の中身を見るまではね 9. かみさましかいない世界で 人間であることは ひどく悲しい 木々の呼吸、 風の感触、 生態系のもつ愚かさ、を そうでもしなきゃ気づかなかったという 大罪 10. ぼくらは、かみさまを知らない かみさまは、ぼくらを知らない (あるいは、知ろうとしない) かみさまは、かみさまを知らない かみさまは、かみさまなんかいないってことだけ 知ってる ---------------------------- (ファイルの終わり)