クローバーのおすすめリスト 2004年4月1日22時08分から2005年9月14日0時48分まで ---------------------------- [未詩・独白]私に名前を授けてください/いとう[2004年4月1日22時08分] 夜の霧の街灯の脇から ほんとうに小さなものたちが湧いている きぃきぃと ほんとうに小さな声を上げている いられなくなったのだねと 手を差し伸べると 爪の先から入り込んで なんだか悲しくなるのだけれど それはたぶん ほんとうではない よくわからないことがときどき起こって そのたびに何か欠けていくような気がするのだけれど それは欠けていくのではなく 埋められていくのだろう 頭の中でふいに呼ばれて どこを向いていいのかわからず 首を傾げてみる どのような名で呼ばれたのか いくら考えても思い出せないので きぃきぃと つぶやいてみる ほんとうに 小さな声で ---------------------------- [未詩・独白]ノート(どこかに)/木立 悟[2004年5月23日23時28分] この世界のどこかに わたしにならなかったわたしがいて やはり ひとりで歩いているなら おそらく わたしは 声をかけることができないので せめて すぐ前を歩いてゆく 少しでも道を固めるように 少しでも風をさえぎるように ---------------------------- [未詩・独白]『ヤサシイ救急車のオジサンと一緒に』/川村 透[2004年5月30日12時43分] 僕は、いつものように、 かのん、と救急車に乗っていた。 かのん、は三つで 救急車はキライで でも、救急車のおじさんはヤサシイ、 って言う。 透明な酸素吸入マスクのゴムがきつくて イヤイヤってする。 ちょっとした いわゆる、難病、の、かのん、 かぜを引いただけの、かのん、 入院イヤイヤの強情なかのん、も、 今日はお医者さんの言うことを素直に聞いた。 おとうさんと病院に行こう、もうすぐだから いまおばあちゃんのおうちのまえをすぎたよ ぎゅうとら、が、みえているよ トンネルは暗いけど赤くて暖かいね 少しゆれるけどだっこしてあげるから平気 と、そのときMからの電話だ。 救急車の中だって言うと驚いた様子、 MはPTA会長で、 小学校の移転先が操業しているモーター工場の敷地内だとわかって 土壌が汚染されているかもしれないって こどもたちのことを心配して PTAとして、一大事だからって、言う。 強引な 敷地決定へ向けての動きを止めるんだ市長室へ行こう って言う。 僕たちは運動場でどろんこになって遊ぶこどもたちの 体操服に、ひぞこぞうに、上気したほっぺたに 軟膏のように擦り込まれてゆく 銀色の重金属たちの夢を、見る ベンゼン、ダイオキシン、カドミウム、六価クロム シアン、水銀、フッ素。揮発性有機化合物。 こころなしか、かのん、の顔色が鉛色に見えて 僕はマスクをずらして、ほほ、をそっとなでた。 僕たちは50年後の、この道を イヤイヤをするたくさんの、かのん、たちをのせて ヤサシイ 救急車の オジサンと 一緒に。 ---------------------------- [未詩・独白]こと・きり/クリ[2004年6月26日0時24分] もはや目覚めていられないほどのモルヒネが姉の血管を巡っていた ほんの少しだけこちら側に戻ってきて、彼女は何か呟いた  ラ・ファ・ミ  ラ・ファ・ミ 何度も何度も聞き返した僕は、それが「ロバさん、ロバさん」という節回しであることに気付いた 彼女が山田流の琴を習い始めたころ、家にあるものを利用して糸を弾くまね事をするときに口ずさんだ歌だ 何十年も昔のことを思い出しながら僕はベッドの脇でウトウトした 僕の名を呼ぶ姉の声で起こされた。なに、と聞くと彼女は言った。「切れちゃった」 ああ、僕には分かった。あのときだ。僕は覚えている。 姉の最後の発表会の最後の曲、その途中で琴の緒が切れてしまったのだ 袖から静かに先生が出てきて新しい糸に張り始めたけれど、もちろんすぐに替えられるわけではないし 演奏の邪魔にならないように調弦することも非常に難しかった 姉が改めて爪をはめ直したときには曲はほとんど終わっていた 姉は、家に帰ってから泣いた 僕もまだ子供だったので慰め方が分からなかった 今でもまだ分からない 僕は嘘をついた ほら、大丈夫、張り替えたよ 姉は戸惑いながらも、混濁する意識の中で少し笑った 5時のチャイムが遠くに聞こえているときに彼女は目を開けた 「ありがとう」と言った。意識が戻ったのかと思ったがそうではなかった 僕が真上から顔を覗き込んだときにはもはや姉の瞼は溶けるように閉じられていた でも彼女の最後の言葉が僕に、僕たちのためであったなら神に感謝する 姉の元配偶者は結局、病室に来ることはないままになってしまった そんなものだ それより、僕は嘘をついたのだ 姉はもう一度ちゃんと演奏したかったんだ、切れない糸で、もう一度最初から やり直したかったんだ でも自分ではどうにもできずに僕の名を呼んだんだ 僕は嘘をついた 両親が姉を誉め、妹がボロボロ泣き、当直の医師と看護士がテキパキと処置していく 僕は明るくなり始めた窓のカーテンを少しだけ開けて外を見た いつもの朝になるはずの光と緑が目に染みた 家の庭はそれほど広くはないけれど木を一本植えるくらいの余地はある 桐を育ててみることはできるだろうかと考えた。50年後のために それまで生きていられる見込みは薄いし、その桐の木から琴を作ってもらう術さえ分からない けれど向こうで姉に会うときにはこう言えたらいいと思う ゴメン、嘘ついた、だから、これ と 琴・事 切り・桐・きり 事切れ                                   Kuri, Kipple : 2004.06.25 ---------------------------- [未詩・独白]昼、ネギを持った男が/いとう[2004年7月13日18時17分] 男の昼はネギで始まると信じているわけでもなかろうに 君は駅のホームでネギを振り回している 君が普段ネギを買えるほどの暮らしをしていないのは 君のその身なりからすぐに推察できるけれど 駅員は遠目から苦々しく観察しているだけで 決して君を排除しようとはしない その態度が意味することはおそらく 君が金銭授受を伴う正規の手続きによって そこにいることを許される権利を獲得したということ 今の君には自由が約束されている ネギを振り回す自由さえ今の君は手に入れている 他人から奇異な眼差しで見詰められる自由さえ 君は享受している 薄汚れた生のネギを食べる自由さえ 手に入れようとしている 君がそのネギをどこで手に入れたのか それは推測の域を出ない事柄のひとつ ホームの柱にもたれかかりうずくまり 薄汚れた生のネギの汚れを 薄汚れた君の手の甲で落とす つもりでさらに薄汚れていくそのネギを 少しずつ 一口ずつ 君は口に含んでゆく 君の目にうっすらと涙が見えるのは 揮発する催涙性刺激物によるものか それともまったく別の理由によるものか それも推測の域を出ない事柄のひとつ 長い時間をかけて 君はネギを食べ終わる 駅員を含むすべての他人はすでに君への興味を失い 自分たちの職務及び生活の維持に翻弄されている (彼らは基本的に実害がなければたいていの事象を受け入れる) 君はゆっくりと立ち上がり 食べられない部分をきちんと燃えるゴミ用のゴミ箱に捨て そして ホームがさらに混雑し始める夕暮れ 奇声を発しながら電車へ飛び乗る君へ 彼らは声をかけることができない 声をかける自由を奪われていることに気づかない ---------------------------- [未詩・独白]付箋七月/yozo[2004年7月28日4時57分] □ 今日、 東京タワーの先っちょに座布団を敷いて Tシャツとパンツ1枚のまま膝をかかえ みつからないよう過ごすバイトをみつける そこで見えた色んなことを書きとめると 次の朝の電車1台乗り過ごしてもいい 要検討 フロムエーぱらぱらとめくる音が ヘリコプターの羽音に重なる 朝日と夕陽は、先ず最初に川面に反射する 地上333メーターからの景色 きっと誰かと見たくなる 不採用 □ 名前を呼びます 今日のどこかひとかけ そのつもりでいてください できるだけまっさらな声です シャボンになり七色だけ見えるかもしれません 熱風から逃げたクーラー シトラスの少しに気付いたらそれかもしれません わからなくても そのつもりでいてください □ ねえ、と背後に向かい声を 思いがけず止まらぬ涙の訳を あなたのせいにするのはさすがにちょっと 感傷的過ぎて失礼だと思うけど 大きな厳しさのある暖かさには 胸が締めつけられる 愛と呼ぶのは今でも恥ずかしい あんなふうにするから とても大きくなったのに 子供のまま、まだ泣く時がある 今日 たまらなく切ないメロディーを 名前のかわりにハミングしてみた 忘れられないものが1つ増える 最後には身軽になっていたいと あなたに笑われそうなことを 考えている スケッチみたいなもんをペタと 付箋感覚 ---------------------------- [未詩・独白]海にいこう/よ[2004年10月26日19時32分] なんだろうねえ きっとねえ たおれるねえ わたしは うたがっても どこまでも群青は 消えなかった ひにくって 躊躇もしないで にんげんのその肌の かんしょく たおれるねえ いつか うみをみないで いつか 終えるのは さみしいことかもしれない わたしは うみにいこうよ にんげんのその肌の 群青 どうして わたしのお腹は いつもあたたかいのか なんにもない のに めがねえ あまったるいくせに わたしをばさりと切るから いつかねえ ずぶぬれで わたしは たおれるんだ うみにいこうよ うみにいこう ---------------------------- [未詩・独白]雨と原/斗宿[2004年12月9日21時52分]  濡れた雨が体に浸み込んでくる。浴びるように天の恵みに身を晒していると、やがて重みを増した黒髪がしとり、と肩を滑り落ちた。濃い土の匂いが全身を突き上げ、雲を叩く雨音の余韻を響かせていく。うねる草原に慈悲はなく、遥かな灯台がほーんほーむと別れの歌を送って寄こした。  星が瞬く。季節は冬へ移ろうとしていた。青い風は萎え、蟲たちの合唱も遠ざかる。わけてもわけても草はら。溺れるように、白い足は浪の間を渡る。ついと裂かれた紅い傷を、雪越しの蛹が見ていた。  燻し銀いろにひらめくうろこの魚。ざやざやと。指と肢をすり抜ける。空は低く光をさえぎり、暗い明日へといざなった。君は何を見ている。星を読んでいる。未来がないと知りながらなおも占うのか。君は笑った。  ぬめる鏡のような水面を乱していた最後の髪の一房がとぷりと沈むと、海は穏やかを取り戻す。やがて現われた太陽も、君を探しはしなかった。ただ唄だけが残る。妖しく。君は容のない生きものになって、僕の上に降り注ぐだろう。その冷ややかな手でからめとり、影へと誘うのだ。緑なす髪と瞳。僕は虜になり、想い出に浸る。やがて地上の幸せを、残らず忘れ去ってしまうまで。 ---------------------------- [未詩・独白]太陽の光りを吸って/天野茂典[2004年12月11日15時19分]  太陽の光りを吸って  干された布団は気持ちがいい  ぬくぬくしている  ぽかぽかしていいる  ご飯を食べると眠くなる日々  午後はかなりきついのだ  睡眠薬で2時間ほどしか眠れないので  どうしても  午後は体力低下する  眠れないのは由々しき問題だ  ナポレオンは3時間も眠れたのだ  休みの日には  だからいつでも眠くなったら  眠れるように  布団が敷いてあればいい  シェラフのようにもぐれればいいと思う  衣干したり  天の香具山  持統天皇の歌のように  洗濯物はむかしから  必要だった  遠くから眺めるとまぶしかった  洗剤のない昔でも  さらさらの  洗濯物は気持ちがいい  ましてや布団をや  さっきから実は横になりたかったのだが  布団が干されてあったので  ソファにもたれて休んでいたのだ  アート・ファーマーのトランペット  も聴かないで  ファンヒーターを前において  楽な姿勢でいたのだが  少し寒かった  上が冬の長袖Tシャツ一枚だから  風邪をひかなっただけもうけもの  ザリガニを取りに行きたい  いまはもう宅地化が進み  田んぼの畦もなくなった  ジャック・ディジョネットのドラムが聴きたい  レンゲ畑も  菜の花畑も少なくなった  陽はかげり また射してきた  妹が布団をセットしてくれた  眠くなったらいつでも  干し藁のような  布団に眠れる  たかが洗濯  されど洗濯だ  ジャズのレコードは  聴きたいがみんな火事で燃えてしまったのだ  いまはジャニスとジム・モリソンがいい  ぼくの汚れた魂を洗濯してくれるから            2004・12・11 ---------------------------- [未詩・独白]時には郵便配達夫のように/天野茂典[2004年12月21日23時02分]   人間は   一生をかけて   彫刻刀で   自分の名前を     彫りつづけるのだ   死後にその   印鑑は輝き始める   だが彫り続けているときこそ   花なのだ              2004・12・21 ---------------------------- [未詩・独白]東京へは行けなくなりました/蒼木りん[2004年12月27日11時04分] 東京へ行くはずだった 駅の構内アナウンス 上りの新幹線に乗るために 開かれた空間 私にも開かれている コツ コツ コツ.. 自分の靴音を聞いて 自動改札をぬける毎に少し緊張 ホームに昇るエスカレーターのスジを 見つめるとも無しに見つめ 銀河に向かうわけでもないのに 星の見える高い場所にある 長い長いホームの間に 冷たい太いレールが並ぶ 東口のビルのネオンを眼に焼き付けて やがてレールの響きとともに恭しく到着する 巨大な乗り物 遠い昔も今も 都会のネオンの賑やかさの印象は変わらない 暗い路地裏の その上にそびえ立つビルのネオンは 胡散臭さを隠した夜の街の象徴で すれ違う人の酒の匂いや香水の匂い 家庭や会社とは別の顔をしたコート姿の男や 水中花のような女が漂って 何処に向かい 何処に帰るのか 東京は 知らない 行くはずだった 私の知らない 私を知らない 東京 都会はどこも 人に使い古された匂い 駅も 劇場も ホテルも コンビニエンスストアも 道路も ダストボックスの口に プラスチックが溢れてもがく 薬臭い清潔 お湯も水もカルキ 肌が痛い コーヒーは 香り豆の焦げを溶かした お湯だ 改札は抜けられなかった 行ってしまうしかない扉へ 切符も持てずに 「東京へは  行けなくなりました」 あなたとなら 迷わずに歩けたのに 煌びやかな電飾の街 完美と醜悪 自らを刺す刃の先 その街のただ中に 残念だ 私は終わりかもしれない ---------------------------- [未詩・独白]侘び錆/蒼木りん[2005年1月26日0時39分] 鍵盤は指で叩けば 直ぐに音を出してくれるのですきです キーボードも カチカチカチとなります ピアノは 気分のとおりの音を択べば わたしの自己満足を満たしてくれる 便利で受身な道具です 手に入れると 色あせてゆくものばかりです 手に入らない夢を見ていた頃に 憬れは 神経の伝達によって わたしの核心部に到達し 複数の部屋をノックするときもあれば たった一つ 「哀しさ」という部屋の扉を 何度も叩くときもありました あのころは 扉に施錠もせずに いつでもお招きしていました 「哀しさ」さえも美しい姿で 白紙の上に現れた文字も色も 旋律と光の色に溶けてゆきそうでした なぜ今は この扉は開かないのでしょう 光はさないのでしょう 蝶番が錆びていました 鍵は 永いこと閉めたままで やはり錆びていたのでしょう なぜ今は わたしはそれを ただ見ているだけなのでしょう わたしは かけがえのないものを手にした代わりに わたしの核心でさえ 到達できず見失いそうになってしまったようです 仕方がないけれど もうそこにずっと閉じこもっては いられないのです 時折 こうして錆びた扉を少し気にしては 色あせてしまった世界の中を ポロンポロン歩いているのです 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何が言いたいの、と聞いてください ありがとう でなくて 何が言いたいの、と聞いてください ドアノブを切り落とされた扉 カッコウが鳴かない横断歩道 馴染まない「ピーチコロン」の くすんでいく歩道橋 という思い出 (数学のノート  緑の柄の鉛筆  くすんだ赤い鞄  とりあえずの短い靴下  アキレス腱) 閉ざされているような そうでないようなこの闇 川の流れは順調です よどみはしてもまっすぐで これ以上など望むべくもない その先に家があります あなたの家です あなたの灯がついているので 足下の 春の花を摘み上げます 黄色、 川の流れは黙々と 海まで続いているので 私としても光が必要でした 何が言いたいの、と聞いてください 桜が咲くんです ここにまた 東京より、半月も遅く それをあなたに伝えたいのです そしてまた 何が言いたいの、と聞いてください そしてまた 何が言いたいの、と。 ---------------------------- [未詩・独白]まだ早い/いとう[2005年5月3日15時21分] 「ノーミスの人生なんてつまらない」 という川柳なんだかアフォリズムなんだかわからない しかし断じて詩ではない 言葉、を 得意になって語る人を 先生、と 呼ぶ身にもなってくれ 教職員の出身大学リストを ちょっとしたアレで入手して なんだよ ほとんど島根大学(偏差値50)じゃんか そんなのが60とか70へ進もうとしている人間を 教えているのか 教えられているのか くだんない なんて失望するほど 若い以前のくだらないガキ、 と言うと餓鬼に失礼だよ君。 救いようのないという言葉はこういう時に使う とある教育実習生が 酸化還元反応の実験前に成績の悪い生徒に質問する 問題提起の後に実験に入り裏付けを取る つもりがその生徒、正解してしまう 正解するのは別にかまわないが とある教育実習生としては指導要綱から外れて困るが 直後、ひとりの生徒がこうつぶやいた 「正解するのはまだ早い」 ま、そんなもんだ。 小三の理科の授業で 「地球は球形ではない」と独り訴え馬鹿にされたり (自転の遠心力によって赤道半径のほうが長いのだ) 中一の社会の授業で キリストの墓が日本にあると言って馬鹿にされたり (実際に青森県にあるのだ) 知識を語ることは往々にして関係阻害の要因となると 理解した人間は口を塞ぐ 伝え方を学習せずに 口を塞いですべてを馬鹿にしてまだ早いとつぶやき続ける姿を 省みることもなく 本当に、救いようがないね。かわいそうに。 ---------------------------- [未詩・独白]柔らかい殻/Monk[2005年6月6日0時14分] 生ぬるい屋根裏にあがると何かのぬけ殻がそこにある。 僕が入れそうなくらいにそれは大きい。 「入ってもかまわんのだよ」とぬけ殻は言う。 僕は少し考える。 やはりそれは間違ったことだ、と思い遠慮しておく。 ぬけ殻は徐々に縮みはじめ、その破かれた箇所が 薄ら笑いのように歪んでゆく。 僕はそのまま屋根裏をあとにする。 背後で声がする。 「お前は常に自分が正しいと思っているのか」 同時に生ぬるい空気が背中をぐいと押す。 ---------------------------- [未詩・独白]Y/船田 仰[2005年6月6日22時22分] どうでもいい、が腐っていく。干乾びた太陽がぼくを揺らして、さよなら? 口調を真似てしまったがために、思い出した。 要らない、から好きだよ、までをフォローして下さい。そして出来るならあの坂道の全てに足跡を、つけて、目をつぶってる間にもう一度消して、またつけて下さい。そしたら楽になって誰かが許すかもしれないじゃない。 ゆるぎなく過ぎてしまった客観世界への信仰をいまさら乱すこと。さよならへの期待は飛んでいってしまうので、泣けもしない。君がいるなら笑っててもいいのに、からっぽをからっぽだと言うことさえしないから、夜を歩いてるんだ。ひとりですら。 ロールと打とうとしてソースって打った。でも間違いじゃない気がしたのでそれを覚えていることにする。きみの指のながさを測りたいので、太陽を見ることにする。 どうかさよならをフォローして、きみはひとりぼっちだと言って、ぼくはきっと忘れられないから、目をつぶってるあいだに全部。 矢印ばっかり書いてるから怖くなってしまった。  腐るはじまりへ、からっぽだ、それだけ。 ---------------------------- [未詩・独白]空中回転/木葉 揺[2005年6月16日12時14分] 庭先にバイクの部品 雨に遊ばれて 貝が話す声を聴く 雲はただ 自在さに気づかず 恵む心が溢れて 太陽を説く 転がる部品が 小さな光を生むことをやめ ただ風が吹けばいいと 雫を振り落とす ああ、遠い憧れ かがり火を消さぬよう うずくまって休めよ ---------------------------- [未詩・独白]初夏の庭/フユナ[2005年6月24日0時12分] 何年も 荒れはてていた庭に 野菜の苗が植えられ 植木鉢の マリーゴールドが置かれた 母と父が水をまいて コンクリのように 馬車道のように押し固まった土を いくぶんか、柔らかくさせた 網戸越しに見ていると それはまだ スクリーンの薄もやの むこう 上の木々にはまだ混沌が満ちており 小さな弟はまだ その蜃気楼に気付いてはいまい どこも悪くなくなった 私と小さな弟は 今度は どこも悪くないことに 冒されまいとも思っている 上の木々にはまだ混沌が満ちており 下には枝豆とミニトマトとマリーゴールド そして網戸の隙間を 通り抜けてくる 夏の臭気と水音 まだ何も網戸を越してこない 初夏 その向こう を 私も小さな弟も もてあまして うだるように 祈っている     ---------------------------- [未詩・独白]夏休みの宿題/yozo[2005年7月27日19時27分] 通勤電車から見えるいつもの煙突 15時になると渋滞するバス通りの十字路 新幹線の車窓をすべる田園風景 飛行機から望む眼下の蛍火 きみは今なにしてるだろう 日常を台風一過 剥げ落ちたシャトルの特殊金属 ラジオからは緩くファンク 塩素臭い夏休みのプール 気付くまで少し時間がかかる事柄 息を潜め眠る人の生活 1日に3度時差を超えるセレブ 汗で湿る生え際の産毛 ハロー宇宙はいい匂いがします 将来の夢なら読書感想文のがラクだったかな 隣の席の子とする ドリルの答え合わせばかり凄く覚えてる [問1]  夏休みの思い出を100文字にまとめなさい ---------------------------- [未詩・独白]ノート(25Y・11.7)/木立 悟[2005年8月20日17時06分]     私の瞳は濁った緑     私の指は三本しかなく     私の髪は闇の捨て子だ     私へ向かうすべての心は     空の貝のようにねじくれている     本当の心はいつの世もあるが     私の濁った目には映らず     私はいつしか迷路の住人     ほどなく飢え死にするさだめ     私のすべての液がたどるべき     あなたへの道はいつしかふさがれ     私はどこからか来た種を喰む     水のないまばゆい原となる     想いの星座をかたどる飾り     私と同次の鉛のくちべに     私のなかに溶けてしまった     無数の兄 姉 妹とともに     ふたたびの ふたたびの     白しか描かぬ邪の秋と     ヒメジョオンの篝うつぶせ     私は弾けない楽器を鳴らす ---------------------------- [未詩・独白]落陽の標本箱/青色銀河団[2005年9月14日0時48分] 静かな風が吹き始めます。感情は涙の滴り。イバラの花びらはぼくらを遠くに抱きます。ようやくちいさな春がきましたが、ようやくきたちいさな春は、白い舗道の悲しい小学校に続いていました。香りの道にそって、夏の紙飛行機を飛ばしました。落陽は標本箱の中に大事にしまいました。 終わりのために始まりはあるのです、と先生は言った。ずるい先生。新しい鑵のようにいつだってぼくらの生活は淋しいのだから。もう夜明けは透明な凍土になりましたよ。別れのために歌ううたなのですから、鳥篭は空っぽなのですから、渦巻きの空へはもう戻れません。 隠し持ったナイフは瞬く夕陽のような匂いがします。星は方位を告げ、空は深い信仰に導きます。冬の意味を問うてはいけません。都会に眠る者の羽はいつだって濡れていますから。食物をたべると静かに血を流します。その傷口は古く細くどこまでも続いています。 雨の日には小鳥の原石を探そう。いつしか落陽が溢れてわれわれの生活がずぶ濡れになるとき、羊水の底は人間の岸堤です。海は叫ぶ石灰の書物です。表象の夏が過ぎても、小さな卵は、まだ月の光を浴びているでしょう。 ささやかな恐怖だけが生きる糧なのです。朝のように冷たい水脈を泳ぐと、うれしそうに骨は響きました。 ---------------------------- (ファイルの終わり)