西尾のおすすめリスト 2007年9月21日19時18分から2010年12月7日9時57分まで ---------------------------- [自由詩]彼女/フクロネヅミ[2007年9月21日19時18分] 冷たい人ね、と 言われた彼女を それなら と、 温めてあげました 優しい人とはほど遠く 弱い人になっていました おかあさんが いないそうです 欲しかったものを 手に入れるために 彼女は結婚するそうです いわゆる 出来ちゃった 本当にそれでよかったのか 決められるのは十年後なのでしょう どうか 夢見がちでも お幸せに 女好きだ、と 言われた彼に だまって 爪切りをあげました 小さなカケラを落としていくと 大きなトラウマが見え隠れしました 愛することが 怖いそうです 昨日の女を 忘れるために 昔の女に会いにいくとか それでも 震えているのです 本当の虎になれたのか それが解るのは十年後なのでしょう どうか 忘れた女も 記憶の隅に 事情は事情です おまえ笑えよ 笑ってくれよ と、 言われた僕は 自分の 意志 で 笑わないことにしているのです ---------------------------- [自由詩]ひめごと/Lucy.M.千鶴[2007年9月23日20時27分] 今は 花屋さんにさえ あるけれど わたしが子供の頃 すみれは ひっそりと 一株 人知れず 咲いていました。 そんな すみれを 見つけると いじめられた ひとりぽっちの 帰り道も 心優しく あたたかくなった 毎日、毎日、 下校の時に つつじの 木陰に ひっそりと咲く すみれが 誰にも 摘まれてや いやしないか はら はら しながら ランドセルを ずり下ろして 確かめたものでした。 強く、 強くと、 すみれが その場所に 咲いている。 それは、 わたしにとって とても  とても 大切な ひめごと でした。 ---------------------------- [自由詩]なごりの九月/千波 一也[2007年9月24日8時48分] なんとなく わかっていたけれど 夕風は すっかり つめたくて 昼間の陽光も どこかしら寂しげで 緩やかに 届かぬ夏を 受けとめる頃合です おろそかに出来るくらいなら 思い出などと呼びません どれもこれもが大切で ますますわたしは 乗り遅れます  なごりの九月、  透明な駅舎には  旅人の名が集います  透明に  例外なく  ふくらんで 秋風は 吐息を白く濁らせて 透けてゆくのを待つばかり わたしのなかの 揺るがぬ熱のひとつとしての あなたをまっすぐ 呼ぶように こたえてくれますか わたしの、 わたしだけが知っている 正直なあなたへ 意地悪を 正直な 一度を一度と この手にたしかめ  なごりの九月、  うそに不慣れな顔立ちが  あらわにきれい  すべての両極は  まるで鏡のようです  それぞれの手に  風ふさわしく ---------------------------- [自由詩]日曜の朝/蒼依[2007年9月29日18時40分] ジャストサイズを選んだはずが いつのまにかもの足りなく感じる 酷いことだって分かっているけど 追いかけられると逃げ出したい時もある あとを濁してばかりのこの暑さも 街で香るつけすぎた誰かの香水も 炭酸水の苦味みたい ひとつじゃ気持ちよくなんてなれないけど 差し色で鮮やかな1ページになる それが何なのかわかっているけど 素直に認めるのがちょっと癪なだけ 作り方が違う私たちだし きっとずっと平行線だね でも線路みたいに二人一緒に どこまでも運んでいけたらいいね、なんて 似合わないハニートーストかじりながら ちょっと思ってたりもする 頼れる背中とはいえないけど ぎゅっとして一番しあわせかも ---------------------------- [自由詩]親戚の欠片/たもつ[2007年9月30日18時01分] 晴れた日の 親戚のように 父と二人並んで 日あたりの良い窓際 懐かしいことや 懐かしくないことを とりとめもなく話し 毎日小さく丸くなる父は 明日はもっと そうなんだろう 窓の外には 狭い菜の花畑があって 昨日なら手押し車で 荷物を運ぶ人も見えた 命の欠片のような脚を ゆっくりとさすっていく 親戚にしか できないこともあるのだ ゆうべ妊娠する夢を見た そう告げると 父は何か 聞き間違えをしたのかもしれない ありがとう とだけ言った ---------------------------- [自由詩]からっぽの観覧車 /九鬼ゑ女[2007年10月7日16時00分] 巡り来る時が 交錯する瞬間 ゆっくり、たおやかに 観覧車が宙に弧を描きはじめる 小さな箱の中では あたしとあたしの中の永遠のこどもが 膝と膝をくっつきあって    回る…ね    回る…ね と、目で笑い合う 外側と内側の世界に隔絶された時間が ごとんと大きくひと揺れする 喧騒と瓦解だらけの…… この街の 囲われ人たちが みるまに小さくなっていく あたしは一呼吸していまを空っぽにする それを真似てかこどもも 過去をひとつだけ吹き出す 驚いたあたしは 吹き出された過去を慌てて飲み込む と、老獪な囚人があたしの背後から 嫌らしい媚を売りにくる 観覧車はすでに頂点にあり 時が次第に下降しながら あたしの中のこどもを 奪おうとテグスネを引き出したので 膝っ子増を抱え込むその子の手を引っ張りながら   ほらっ…ね   ほらっ…ね と、時の扉を潜り抜ける 宙に浮いたままの空き箱が大きく揺れる そして空虚を乗せたまま 観覧車は再び 時の空に旅立ってゆくのだ ---------------------------- [自由詩]コロッケの日/ポッケ[2007年10月7日16時07分] コロッケは生活の象徴 雑然としたテーブルや 家族の遠慮ない声 今日という一日の繰り返し 晩ご飯はコロッケがいいな ミンチとじゃがいも、あったね 二人でやると早いよね 手が4本だからね 小麦粉と卵とパン粉、こてこてして面倒くさいけどね まあ、面倒くさいね 腰痛いのだいじょうぶ? まあまあかな これちょっと大きいんじゃないの じゃあこっちは小さくするよ お母さんも大変だね あんたもね 涼しいから気分はいいよ ならいいね まん丸にしていい? 丸めるだけでいいよ ねえ ちょっとパン粉もう少し、え?なに ねえ、遺書かいといてね まだ元気だよ だからだよ 遺書なんて、なんにも残すものないよ 遺産じゃないよ、手紙だよ ちゃんと、さようならの 手紙だよ 大きな病気にかかってるわけじゃない あした交通事故にあうみたいな 嫌な予感がするわけじゃない けどコロッケを丸めてたら 最後の思い出が今だったとしたら だとしたら、どうしようって あなたは勝手にころさないでっていうかもしれない でも 二人でせまい台所にいるからって 湯気が立ってお茶碗がそろっているからって 明日が同じように来る約束はどこにも無くて 突然の喪失が来ない約束はもっと無くて 同じような明日が来たら 変わらず減らず口を叩くのだけど 二人でコロッケを作ったことと あなたが鼻歌をうたったこと 明日が変わらず来ても 決して忘れない 同じようにコロッケを作る日があっても 恐れと安らぎのなかでコロッケを丸めた今日をわたしは 忘れてはいけない ---------------------------- [自由詩]秋の雨/いねむり猫[2007年10月8日12時24分] 苛烈な夏の記憶で、まだのぼせている頭を しとしとと冷ましてくれる午後の雨 熱いアスファルトに幼子が撒く打ち水のあわれ 小さな木陰からはみ出た肩を焼かれながら涼む老婆 グランドで叫ぶ少年たちの内臓まで熱く枯れた夏休み むごい夏の記憶を小さな雨粒が一つ一つ癒しながら消していく こうして季節が移り変わることが  秋がこのように静かに歩むことが 秋がしたたるように体に染み込むことが 密かにうれしい午後 ---------------------------- [自由詩]おひとりさま/ふぁんバーバー[2007年10月8日18時22分] ひとりで 回転寿司に行きますと 何周もしている モンゴイカにふと 周回遅れのじぶんじしんを重ねて 真向かいの ホスト風の男が うにいくらと注文しているのを 同じ色の皿ばかり積む私は つい東京へ行った弟のことを思い出し 今日はあの子のお誕生日だった おなかを空かしているんじゃないだろうか 三百グラムのハンバーグステーキを おごってあげたい なんて ひとりっこだけど私は 気持ちのない人とつきあってはいけないと きのう中学生の恋愛相談で ラジオが言っていたよ ほんとうにそうだなあとしみじみしたけれど ほんとうにそうなのだろうかと疑ってもみる だんだん好きになるかもしれない でもだんだん好きになった食べ物があるだろうか あら汁のなかで魚の目がしろい なぜか舌がピリピリする なんかの雑誌で読んだぞ やばい記事だった 思い出さないことにする おひとりさまは席を立つタイミングがむずかしい だれも気にしないのにむずかしい でも考えてみれば 誰だって人生のおひとりさまじゃないか じゃじゃ馬にさえなれない 生まれ変わったらきっとモンゴイカだと思う 海の底で泳いでいたかったのに なんの因果か ホストと私の目の前を じゅんぐりに回っているのだ ずるいねわたし こたえがでないよ もっといいお店に連れて行ってくれるだろうか でもそれがわたしののぞみなんだろうか 兄妹だったらきっとうまく行ったと思う 九皿お味噌汁で千四百円 ご飯を炊いて出かけてきたのに 気楽なものだね おひとりさまは ---------------------------- [自由詩]さめざめと君は/横山亜希子[2008年5月31日7時18分] さめざめとないている君 それをみつめている僕 君のまぶたは垂れ下がり鼻からは透き通った鼻汁をだしている その鼻汁をティッシュでおさえながら 君はさめざめとないている 「俺は君を福島の病院に入れて福島に転職したかったんだ」 今東京にいる僕たち ここは僕たちのゴールじゃなかったのか 僕はここに来たかった 僕は君と何もない日々を紡ぎたかったんだ 僕と君を取り巻く不条理な出来事が 君の失望を招いた 僕は何もすることが出来ないまま 僕はただただ謝るしかなかった 「大丈夫だよ。君のせいじゃない」 君は頭を僕の頭にごっつんこしながら まださめざめとないている この話の終わりを僕は探している この話の旅の終わりを探しながら 僕はただただうなだれる ---------------------------- [自由詩]「 ひたひた。 」/PULL.[2008年5月31日17時26分] 一。  傘を閉じるとひたひたと雨がついてきた。玄関を上がり廊下を渡りそのままひたひたと、家に居ついてしまった、雨は客間ではなく居間に居座りとくとくと、淹れた紅茶を飲んでいる、砂糖はふたつ、家主のわたしよりもひとつ多い、しかもわたしが先月古道具屋で見つけた「とっておき」のティーカップで、わたしよりも先に飲んでいる、ひたひたとしたたかな雨だ。  ふんっ。と鼻を鳴らし向かいの席につく、雨は慣れた手つきで、もうひとつのティーカップにわたしの紅茶を淹れた、ひとくち飲む、美味しい、こういうところもますますしたたかだ、カップを皿に戻す、かりん、と皿が澄んだ音を立てる、皿は、カップと合うようで合っていない、皿は数年前この家に越した時にお祝いに貰ったもので、その時は揃いのカップが一緒に、ついていた。 二。  その日。背中を見ながらわたしは、紅茶を飲んでいた、かつて紅茶を友に交わし合った言葉はなく、真正面から見た顔さえも、もう思い出せなかった、ただ何も言わぬ背中だけがずっと、はじめからそうだったようにそこにあって、その日、消えた。  消える前に何かを。何かも解らないことを言おうとして口を開き、はじめて痛みに気がついた、唇が切れていた、傷口から落ちる血が、薄く淹れた紅茶の色を、ぽたぽたと濃くしてゆく、ティーカップの端が、欠けていた。  紅茶の色はなおも濃くなり、それを薄めるようにわたしは、涙をこぼしていた。 三。  ティーカップは季節ごとに替わったが、どれもしっくりは来ず、結局皿だけが、次の季節に残った。 四。  ひと眼惚れ。とでもいうのだろうか?はじめての体験だった、雨宿りに店に入ってすぐに、眼が合った、奥のレジに持ってゆくと、スポーツ新聞の向こうから店主が眠そうな声で、 「それ、皿ついてないですよ。」  と言った、 「いいです。買います。」  そう答えると、店主はスポーツ新聞の端からちらりと、こちらを見て、 「物好きだねあんた。」  と言い、ぽつり、こうも続けた、 「半額でいいよ。」 「いいんですか?。」 「いいのいいの、雨の日はいつも暇でね。あんた、今日はじめてのお客さんだからさ、いいのいいの、あ…包むもんがない。さすがにあんた物好きでも、このまんま裸じゃ持って帰れないよね、そうだよね、裸はまずいよね、あ…これでいいか。」  店主はスポーツ新聞の競馬欄をびりりと裂いて、 「どうせこんなもん、その時々の運だしね。運ようん。うんうん。アテにならないよこんなもんは、天気予報と同じでさ、先週も当たらなかったしさ。うんうん。運だようん。」  とぶつぶつと言いながらそれでも、丁重に包んでくれた、 「大切に使います。」 「いいのいいの。ほらさっさと帰らないと、また雨が強くなっちゃうよ。」  店を出る前に振り返ると、店主はまたスポーツ新聞の向こうにいた、 「ありがとうございました。」  頭を下げると、 「いいのいいの。」  とスポーツ新聞からはみ出した手をひらひらと振って、返してくれた。 五。  傘を広げると雨音が帰って来た。足下は雨に濡れて、パンプスでは滑って転びそうだったけど、何だか久しぶりにしっくりとした足取りで、歩けた、水溜まりに入るとちゃぷちゃぷと、音がした、歌いたくなった、歌っていた、わたしと、わたしを包み込むすべての雨が、歌っていた、玄関を大きく開けて家に入り、あれ以来はじめて、 「ただいま。」  と言った、そして悲しくもないのに流す涙があるのだと、知った。 六。  雨は気がつくと、そばにいる。したたかに、ひたひたと足音を忍ばせそばに来る、ぴたり、肌をつけると雨はあたたかい、雨のあたたかさに満たされてゆくうちにわたしは眠くなる、眠くなり深く、どこまでもひとつぶに落ちるように眠り、ぴたり、降り落ちたように目が醒める、雨がもうひとつぶ、隣で寝息を立てている、わたしは脱がされて裸のままで、雨に抱きしめられている。  やはりしたたかな雨だなと、今日も思い、想う。            了。 ---------------------------- [自由詩]川の音/フクスケ[2008年5月31日20時29分] 夕暮れの川辺から 対岸の街を 眺める 私の前を 私と共に 過ぎ去って行った時間 満ちて行く川面の 流れが速すぎて 網膜に到達出来ない 暗い流れが 流れる音にすりかわる時 見えない私の影は 流れる音にかき消される 流れる音ばかり 耳に満ちて ---------------------------- [自由詩]こうふく/ki[2008年6月1日0時02分] この中に この肌色の中に全て この小さな体に 長い長い腸とかがうねりうねり 両手で抱いて 人間の匂いがするぞ 人間の匂いがするぞ しんせんな 人間のにおい わぁ赤ん坊の匂いがする こうふくな 母親の 笑顔 海を思い出す 白いパラソル しおむすび と あまいすいか と 疲れた体 誰もが笑う 生まれた 生まれた 生まれた 笑うよ きらきらと 腸がうねって 心臓がどっくんどっくん うんこぶりぶり 人間くさい 人間の匂いがするぞ 人間の匂いがするぞ 人間の匂いがするぞ!! だからここにちょっとの間だけ隠れてて さぁはちみつを食べさせろ この子目をあわそうとしないの 生まれてから三ヶ月 その子が障害児だったらどうするんだろう きっとこうふくからぜつぼうへと叩きつけられるのだろうな その子だって人なんだぞ おまえの人形じゃない おまえと同じものは見ない 人間なんだ 人間なんだ 大きくなっても ねえ愛してよ 笑いかけてよ 僕に 安心と安全をください ねぇ 泣いたら抱っこしてよ 好きって言ってよ 置いてかないで 人はいつまで経っても人 生まれたときから人 ねえ私人 人なんだよ 雨がからだにかかるよ どうか屋根のある場所へ あたたかいスープを スープを 嫌われた。 初めて嫌われたの。 愛されすぎたのよ。 母親はあなたを守れなかった あなたが大きくなりすぎたから 海に行きたい あたたかい海に 還りたい 鼻の皮膚がすごくきたない 結婚式 血を繋げて 指輪 左手の薬指 誰もが振り向く 笑顔になる しあわせなはなし とおいはなし 忘れたいはなし まだ若いからわかんないでしょ なにそれ 女の子だったら抱いてみたいでしょ なにそれ 鼻の皮膚がすごくきれい 3ヶ月でねこだな ねこみたいな赤ん坊 赤ん坊みたいなねこ しあわせがうまれてくるんだろうなあ からだはうみだ 心臓が体のなかにあるみたいだ セルロイドの人形みたいだ ねぇ もういっかい、うまれてもいいですか? 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――変わらないわね ――最近どう? 店員と同じくにこやかに笑う彼らに ぎこちなく笑い返す。 ああなんと素晴らしい! 我が竹馬の友たちよ!! (でも残念なことに一人として名前が思い出せないのです) しかもおそろしいことに 暖めるとひどくまずいものもある。 つけあわせで隅っこに入っていた あの日おいてきた愛情や 気まずい距離感 残った怨み辛み ああ!そんなものを暖めなおして! 一体誰が得するというのか!! だから騙されてはいけない。 にこやかに笑う店員がもし 親切面して「あっためますか?」と聞いてきても 冷めたものは冷めきったまま食べるのがいい。 冷めきったまま食べるより、しようがない。 ---------------------------- [自由詩]乱気流/暗闇れもん[2009年2月6日22時40分] 好きじゃないとつぶやいて ビルの上からダイブ 涙が自分よりも先に地面に散って 風が吹き込み ゆるやかに舞い降りる 過去のことに縛られて 塊になって 地面にぶつかりそうな気がしたの 無数のしずくが散って 雲になって 緩やかに立ち上がる 雲に虹が映り込む 明日の風に乗って 立ち上がる ---------------------------- [自由詩]噛みつく童話/健[2009年2月6日23時42分] 白い歯がボロボロと抜け落ちていくので、笑いながらパカパカと 不安を吐き出していると、隠し事は良くない、と先生、みたいな 真珠貝に言われてしまって、その口にどうにかしてフタをしたい と思うのだけれど、目を見て話すことができない、から手を出す ことなんてできるはずもなく、直立不動で説教を聞くしかない。 やがて全ての歯が抜け落ちて、スースーと口の中にさわやかな風 が吹き始め、貝先生のお話が春の香りと共に喉に流れ込み、食道 をかけぬけ、胃の中を満たしてしまう。消化不良!と叫ぼうとす るのだけれど、うまく発音ができないまま、言葉が奥のほうに染 みこんでいき、手遅れ!と最後にひとこと言われ説教が終わる。 後姿を見届けてから、猛烈な勢いで吐いた、それは海のように塩 辛く、ざらついた物語として口から溢れ出て行く。舌先に残った 塊が、とてつもなく不快、で、どうにかして噛み砕こうとするの だけれど、スカスカと音を立てるばかりで、内側から噛み砕かれ ていくのはぼくの方だということを、結局認めるしかなかった。 ---------------------------- [自由詩]くずかご/小川 葉[2009年2月7日1時13分]   他に歩むべき人生が あったのかもしれない でなければ 書かない わたしはこの詩を 書きかけた 紙をもみくしゃにして くずかごに捨てた はずの詩を 他に歩むべき人生を 歩んでいる わたしのくずかごから 拾ってきて その詩の続きを 書いてるのかもしれない 他に歩むべき人生が あったなら 詩もわたしも 存在しない そんな世界で   ---------------------------- [自由詩]友だちが欲しかった/小川 葉[2009年2月7日4時02分]    友だちは ついにあなただけだ! と妻に言ったら きゅうにあほらしくなって けれど、四歳の息子に まだ友だちがいないことに気づいて お父さんと 友だちにになろうね と言ったら あほらしくもなくなった けっきょくは家族なのだ 友だちが大切だぞ と教えてくれたあの人は けっきょく家族を大切にしなくなってから すぐに事故にあって たったひとりで入院している 友だちもお見舞いに来なくなった と聞く でも友だちがなかったら 出世にひびくわ と妻が言うけれど そんなものははじめから求めていない 結婚して家族になったのは ほんとうは 友だちが欲しかったからだ ただそれだけだ 逃げもかくれもしないで 正直にそう言うと またきゅうに あほらしくなってきて 何を今さらみたいな顔をして わたしたちは 静かに見つめあって 微笑んでいた   ---------------------------- [自由詩]雨の一滴/小林 柳[2009年9月12日21時45分] ガラスの向こうで雨は 規則的に降り続いていた ベランダの花を 静かにたたいていたのは 儚さに惹かれた空の 答えのない 問いかけだったのだろう いくつも落ちてくる雨粒 空から僕を訪ねる いくつもの魂 見上げる僕の視線と いつか別れてしまった人々は 会えないまま 時は過ぎてゆく * 灰色のプラットフォーム 広がる重い雲の下で 何度も列車を見送った 線路の上 遠くなる最終車両 目的地は 空白のまま 明日には僕も そこへ向かうのかもしれない いつの間にか駅には また人が溢れていく 雨は相変わらず 今も降り続いている * 雨粒や 人の命の 落つるなり ---------------------------- [自由詩]おひるやすみ/皐[2009年9月14日1時09分] 空はどんより曇り空 それなのに憂鬱、休日出勤 だーれもいないフロアに内線が響く >めし行く?もう昼だけど? やったねお誘いごちそうさま いつものきたない定食屋 おばちゃんは今日もテンパって注文をとる >身の振り方を考えねーと 傍らにマルボロめんそーる そんな大人みたいな面持ちでいきなり なにかと思えばそんな話・・・ 私を置いていかないでよ 魚嫌いなあなた、のはずなのに サバの味噌煮をつついてる <サバは平気なわけ? >いや、体のために、義務だな やっぱりこども・・・ わたしがあなたの傍にいてあげられたら おいしいゴハンを作るのに 戻り道  雨なんて降っていないのに 傘をさすあなたに ちょいと肩を寄せてみる 一瞬、ばくっと胸が鳴る ああ…このタバコのにおい好きになるかもな ほろ苦い あなたとの思い出 また増えた ---------------------------- [自由詩]むすびめ/アズアミ[2010年12月6日19時25分] あの日、渡り廊下で 君が教えてくれた蝶々むすび 不器用にからまった よれよれの僕をほどいて 結び目にちいさく 幼い指で 魔法をかけた 片方だけ小さくて いびつなハネ それでも飛べそうな気がした 世界と僕の あたらしい 結び目 透明になれなかったふたり きみとぼくの とてもきれいなわすれもの あの頃とはきっと 違う糸を ときどき、 むすび直したり ときどき、 繋ぐ先を見つめたりして うまく結べているのかな くつの底にこびりついた嘘を 置き去りにするほど季節は速く ねぇあれから 僕らは大人になったけど カフェラテの正しい飲み方は いまだに分からないよ ---------------------------- [自由詩]詩を書くということ/小川麻由美[2010年12月6日23時55分] 詩を書くの初心者の私でも誰かに読んで欲しいと思うの 小さなノートに書いて読んでくれそうな人に渡すとね 興味がある人は目が変わるのがわかる でも興味がない人には断られる あたりまえだけど そんな風に受け入れられたり受け入れられなかったりしながら書いていく 繰り返していくと私の詩もいくらかマシになるのかなと思って ずっとアウトプットが欲しかった 煮詰まってる感じがしてた 私の年齢言えないけど この年になって詩を書くなんて思ってもみなかった 別世界かと思ってた いざ一編書いてみたら次も書きたくなって ちょっとづつ私のアウトプットの詩が増えてきた 私の詩が誰かのインプットになるといいな ---------------------------- [自由詩]スランプ/細川ゆかり[2010年12月7日0時45分] それじゃあたしはどうしたらいいんだ なんてぐるぐると渦巻いて 好きと嫌いでは世界に線引き出来ないのよ と、境界線が、笑った。 私の指先や唇からは 何か とてつもないものがあふれ出して 天も地もひっくりかえすのだと 思ってた それが幻想だなんて野暮なこと わかってた アルコールで漬け込んだ脳みそからは ろくなものが生まれやしないと それでも 奇跡なんて安易なものを期待しながら キーの上を指先が踊る ペンを握る勇気がないから 明日の朝日をどううたおうかと 思いめぐらし夜が明ける それを 幾度なくも繰り返しては まだ あふれ出しているのだと 現実はどこ かみさまが笑った 様な気がした それをつづった それで終わった だったらわたしはどうしたらいいんだと 外側に放り投げて その実、しっかりと握りしめて だから羽ばたけないんだよと 笑った 誰? それを見据えながら なんてふりをしながら だったらわたしはどうしたらいいんだと いまを誰かのせいにした それじゃあ飛び越えられないのよ 、と、境界線が、笑った。 ---------------------------- [自由詩]思い出/未有花[2010年12月7日9時57分] 重い荷物を背負って 物憂い坂を上る 一番好きな歌を でたらめに歌いながら * 押入れの中には 持て余した夢の残骸 潔く捨ててしまえ できそこないのガラクタなんか * 幼い日の夢は 森の中に隠してしまおう いたずらに描いた デッサンとともに * 終わらない旅路の果て 物語は続いて行く いらなくなった愛の 出番は二度と訪れはしない * 恐れなくてもいい もう一度自分を信じて いつでも心は 出口を探している * 丘の上のあの家には もう二度と帰れない いつの日にも思い出は でこぼこ道へと続いている ---------------------------- (ファイルの終わり)