久遠薫子のおすすめリスト 2007年10月24日20時48分から2008年8月10日13時23分まで ---------------------------- [自由詩]父のこと/銀猫[2007年10月24日20時48分] 呼びかける名を一瞬ためらって 声は父の枕元に落ちた あの日 医師から告げられた、 難解な病名は カルテの上に冷ややかに記されて 希望の欠片も無く 黒い横文字となって嘲い 無情に切り取られた肉塊は 奇妙に生きていたね 麻酔の余韻に熱っぽい顔を 精一杯緩ませて笑う 痛いくらいの強さを知り あなたが父であることを誇りに思う 闘う、ということ 守る、ということ 愛する、というこころ ゆるゆると落ちる点滴に わたしまで何かが滲みる ぽとり、 ぽ とり 泣けば良いのか 笑えば良いのか それすらも迷うわたし、 小さい 白いシーツの海を どうか泳ぎ切って 叱ってください わたしを ---------------------------- [自由詩]逆光の爪先/たりぽん(大理 奔)[2007年10月24日23時45分] 明るい照葉樹の森で 点滴を打ちながら 二酸化炭素には気をつかっている ロハスな昼下がり 生き方にまで 流行があるのだから 死に方にも流行があるのだろう 思いのままに生きられない 狭苦しい照葉樹の森で 静かな生活(スローライフ)が ファッショに染まっていく 貫くということ それは、爪痕 ぬかるむ北アイルランドの轍(わだち) 泥炭層に打ち込まれた 凍える鉄条網の杭は凍えて 傷つかねば生きられない愛しい人が また今夜、街で傷ついている 小さな罪受け入れながら 小さな生き様を守っている もしも、あらゆる暴力が 大切な人を奪うときが来れば ためらわないだろう 私の声が届く範囲の 、を奪われるなら   明るい照葉樹の森を歩いている   落ち葉の下の生き物たちを踏みつけながら   明るい照葉樹の森を歩いている   あなたの手を離さない   杭のように凍えながら貫いて 私の轍で逆光にふるえながら 静かにそのときを待っている 残酷なその小さな罪(ミサイル) ---------------------------- [自由詩]エビちゃんに変身/佐野権太[2007年10月25日8時55分] 俺、ザムザ 丸くなって寝ていたら 海老になっていた エビちゃんになってしまったから もう 仕事には行かなくていいのだ 底に沈んで 苔の類をついばんでいればいーのだ 下半身をゆるゆるとほどいてみる 脇腹から突き出た中脚が うまく作動しないが たいした問題ではない 触角を立ててみる 鼻先で探る要領だ キャビアみたいなちっこい目で 辺りをうかがう 玄関先から寝床に至るまで いくつもの脱け殻が並んでいる ヒトからエビへの進化の過程だ 複雑な感情をつぎつぎと脱ぎ捨て ついに あらゆる煩悩から解放されたのだ 生への執着すらない完全体 思考は常にベリーシンプルな二者択一 気に入らなければ跳ねればいい ファッキン 細い透明な指先で詩をつづる セーイ、セイセイ 後退しながら詩をつづる セーイ、セイセイ ザムザ! ファッキン ファッキンマム! ジーザス! ---------------------------- [自由詩]かえる/こしごえ[2007年10月25日11時26分] 午前零時の産声が 真夜中を、とおりすぎて 青雲でゆれていました しかしながら その姿を見た者は だれひとりとしていなかったのです 川岸に転がっていた小石を持ち帰り 庭のすみっこに置いてあります 今日はその石に 小雨があたったりあたらなかったり。 丸く、青みを帯びた 灰色にてんてんと黒く小さく 濡れては乾き 乾いては濡れ、て 手をあてると無機質な肌に 私の体温が 伝わりまして ひた ひた ひたと暗い内部から視線が しーっと浸透しながら 逃げ場の無い体温を手まねきしている のが聞えて、影の檻はちょっとずつ光景を 告白していく 仄明りの空のもと 私が、小石にかえります おもいでを葬った小さな霊園で しろい花を一輪、手折りました そのゆびさきが白く空を切るバランスで 階調を(一羽)輪舞しながら ふ きだされた無声音が (石の光沢する)音階を のぼってゆく 青ざめつつも すこしも震えずに 一段、一段 沈黙していく 静寂へとなり 果てていき うつろな空が、おだやかに微笑している 青みがかった鈍色の中の う、しろで 無数に扉のしまる音……を聴いた とたん。空が晴れて 私の後ろ姿が、消えました またひとり しゃらしゃらときらめく 星星の無限花序で ほうき星が流れてひとすじ 小さく「 ぁ 」と鳴くのです ---------------------------- [自由詩]平等/北大路京介[2007年10月25日14時21分]  詩なんて書けないと泣いた T  恥ずかしがりながらも書いた H  出逢う前から詩的な言葉をこぼしてた M  言葉の代わりに花を生けて返した N  綺麗な声で唄った Y  悪魔と寝た R  全てを消し去った J  みんな好きだ 愛してる  みんな同じように愛してるとは 言えやしないが ---------------------------- [自由詩]他のもの/たもつ[2007年10月25日20時54分] バス停の近くで生まれ バスを見て育った バスを見ていないときは 他のものを見て過ごした 見たいものも 見たくないものもあった 初めての乗り物もバスだった お気に入りのポシェットを持って 日のあたる席の方に 母と座った 指で柔らかいところを押していた 行った先は恐らく親戚の家だった 母はおじさん、おばさんとだけ呼び 最後まで名前を呼ぶことはなかった いくつかの嘘をついて 人の嘘をいくつか咎めた 愛という言葉が 本当にあると知った その街にもバスは走っていた 生まれた街にあったものは 大抵あった ないものは 他のもので足りた ---------------------------- [自由詩]甘党≧辛党/Affettuoso [アフェットゥオーソ][2007年10月25日23時41分]   砂糖は山盛り三杯   白くなるぐらいミルクを入れて   少しぬるいぐらいの温度で   こんなコーヒー僕はまさか飲めないよ   甘党で猫舌な君のためさ      あたし、あまとう、なの。      一目瞭然だね      あなたはあまいものがすき、かしら。      僕はどちらかというと辛党だね 善は急げ、が座右の銘と豪語する君 (甘党なのに渋いこというなぁ) 次の日早朝にはキムチを片手に現れる      あたし、あまとう、なの。      知ってるよ      あなたは、からとう、なのよね。      そうだね      いっしょに、きむち、たべてあげる。 僕は頭を少し掻き掻き 早朝に押しかけてきてキムチを食べろという君は 僕がキムチが苦手なことを知らないんだね(教えておいたらよかったな) 辛党のちゃんとした意味も君に教えてあげなきゃだけど (辛党っていうのはね、甘いものよりお酒が好きな人のこと) 辛党=辛いものが好きな人って思ってる君が おかしいのに可愛いくて 甘党な君がきっと涙目になりながらキムチを食べてるのが おもしろいのに愛しくて あなたの、すきなあじ、あたしも、きっとすきになる、だから。 なんて満面の笑みには敵わなくて(僕はキムチが苦手なんだけれども)  僕はやっぱりこうして君とキムチを食べてる  君はやっぱりこうして涙目でキムチを食べてる  だからそんな君の目蓋に優しいキスをして  あとで甘いおやつにしよう   砂糖は山盛り三杯   白くなるぐらいミルクを入れて   少しぬるいぐらいの温度で   こんなコーヒー僕はまさか飲めないよ   甘党で猫舌な君のためさ だけど今日はこの溶けるように甘いコーヒーを一緒に飲もうかなぁ ---------------------------- [自由詩]ステラ/千波 一也[2007年10月26日11時48分] つなぎ忘れた何かを探そうとして それすら不意に 忘れてしまう 星空は いつでもその名を受け取りながら 毎夜を必ず終えさせる地図 瞳がうつす一瞬を 嘘かと惑い ときには真逆に 小さな器の泡立ちさながら 旅の定義が旅に出る  ステラ、  思いのままにすべてが動くなら  世界は魔法を語らない  ステラ、  孤独はいつも氷のそばにある  ぬくもりを知らずにはいられない  上手な氷のそばにある 夜を たどれぬ指の奥底に うつくしく残された夜を あこがれながらも 訪れぬ夜 失うことを拾い集めて 未明を眠る 明白に 遙か とおくに響く歌声の なじみの理由を知らないままで  ステラ、  みあげる胸は空っぽで  ステラ、  許されたいから  染まらない  ただ一度だけ ---------------------------- [自由詩]なんでもない一週間/小原あき[2007年10月26日20時13分] 月曜日 わたしには仕事などない だけど、うちにばかりいると叱られるから とりあえず、仕事に行くふりをして たんぼの畦道をよろよろと歩いた 畦道は細くなったり 太くなったりして 歩きやすかったり 歩きにくかったりしたけど まあまあ一日楽しくなったので 帰ろうとしたら 暗くなったのでそこで眠った 体育座りをして 顔を膝に埋めたら モグラになりたかった 火曜日 眠っていたら農夫に起こされた 不審な顔をしていたけど 大丈夫です、と言ったら解放してくれた 何かを忘れていたような気がして 公園に行くと オレンジ色が喧しかった 柿をむしって食べたら怒られた 今日は怒られてばかりなので なんだか悲しくなった 日が暮れそうなオレンジを見ていたら なんだか悲しくなった 少し泣いた 泣き疲れた体をベンチに横たわらせたら 空を飛んでる鳥になりたかった 水曜日 まだ夜が明け切らぬうちに 身体中がびしょ濡れになった 風邪をひいてしまうかもしれないと不安になりながら とりあえず、屋根のあるところで雨宿りした 雨は止まずに 代わりに強さを増して 泣き声がしたと思ったら 雨がっぱをきて長靴を履いた小さな子供が 水溜まりの上で倒れていた 助けようと駆け寄ったら 傘をさした母親に不審な顔をされた 雨が止んで 水鏡に映ったわたしは 浮浪者のようだった 事実、わたしは 帰るべき家を忘れてしまっていた 小さな子供みたいに 倒れこんで地面に突っ伏したら 枯れ葉になりたかった 木曜日 案の定、風邪をひいたわたしは 熱があるせいか起き上がることができなかった 頬っぺたに砂利をひっつけながら ただ、地面にしがみついていた 近くにあった木が 布団を掛けてくれた 枯れ葉がわたしの背中に積もって 昨日の願いが叶った気がした 枯れ葉はどんどんわたしを隠し きっと焼き芋にされてしまうのだろうと思った そんな意味不明な思考回路 きっと熱にうかされている証拠だろう 枯れ葉の中にいたら 星になりたかった 金曜日 わたしは何者でもなかった 星はわたしを称え キラキラと拍手喝采だ 目の前にある星は地球で きっと、わたしは それを手に入れることができたのに違いなかった 太陽は誰よりも大きく手を叩き 熱く燃え上がっている 暗やみの宇宙は いつが朝か夜かわからなかった 不安になったら 人間になりたかった 土曜日 動くとカサカサと音がした 何かが腐ったような臭いに気分が悪くなり 起き上がったら 木曜日に戻っていた だけど、確実に時は過ぎていて わたしの体から風邪が逃げ出した後だった よろよろと立ち上がると 腐ったような臭いは 自分が放っていることに気が付いた しかし、どうしようもなくて歩いていたら すれ違った人がわたしを見て驚いていた 次の瞬間、その人の目からは涙が溢れ出し わたしは抱き締められていた この人の妻であることを思い出していた 帰る道は不思議と知っていた 迷うことなく着いた家で すぐに温かいお風呂に入る 夫は何もかもわかった顔をして そっと抱き締めてくれた ふわふわのベッドに横になったら 主婦になりたかった 日曜日 夫はどこへも行かず わたしもどこへも行かなかった 二人向き合って 笑い合った そんなことで 寒かったのが あったかくなるなら 一週間、わたしは笑い続けてやろう あったかな木に寄りかかったら もう、何にでもなりたかった ---------------------------- [自由詩]パラパラ漫画/小川 葉[2007年10月27日0時25分] パラパラ漫画の 途中のひとこまが足りなくて ぎこちない様子は まるでぼくの人生のようだ 足りない日記の一ページのことは 思い出せないけれども 思い出せないふりをしているだけで ほんとうはわかっている 足りないひとこまの 静止画のように あの日きみは ぼくとすれ違った パラパラ漫画のように ぎこちない様子で 二人すれ違った瞬間の ぼくのひとこまは やがて日記を やぶることになるあの日の 中途半端な気持ち そのものだったから くやしくて 思い切って ふりむいて すれちがいざま 気持ちを伝えた そうしてパラパラ漫画の 足りないひとこまはうめられて やっと完成して 何度も何度も パラパラしては笑って あれは過ぎたことだと やっと笑えるようになった 笑えばよかったんだ おかげで きみを失ったことに気づくまで 十年もかかった ---------------------------- [自由詩]水/水町綜助[2007年10月27日2時05分] 黒い道路を 雨が流れて 激しい雨が 夜を始めて 光が映って 楕円に歪で 激しい 雨が 降って 鍵盤を 両手で 駄目な 両手で ちぎれ 飛びそうな風に みだされた 夏の 木の葉みたいに 叩き 続けた そんなふうに 色をつれて 雨粒が伝って 喉が 渇いていて 雨は 水だと 唾液を 飲んだ だれしも ゆがむ 光が緑がかって かおをあげると 信号は青 ---------------------------- [自由詩]彼岸の雪/フユキヱリカ[2007年10月27日3時01分] おとなはみんなこまった あるいは 憐れむ目をしている 幼さは無垢である 無垢は無罪ではない うつくしいことばを どれだけならべても 乾燥しきった 血色のない唇から つたう おとの 何もひびかぬは どうしてなのか と、 たずねるしか知らなかった わたしは ゆうに母の歳を越えた 東京生まれの姪は にごりのない きれいなことばをはなし お遊戯するように おばあさまはおはかに と 屈託なく言う そのひとみごしに 生いを重ねあわせ なぜか わたしは訛りを隠した 屋根から滴る雨粒が 芽を伸ばした さんさじの木におちて 冬を越していく 昨晩降ったみぞれは 明け方には止むだろう あなたのなみだが、 そらへ昇ったのだと気付く 彼岸の雪に わたしは、 わたしをおわらせる の、だろうか と問う 俺の目の黒いうちは この家は壊させないと 言う父と共に 家に縛られ家で果てる運命を ひどく恨んだ かわいた咳の音で目を覚ます 閉じた襖の向こうで 昔の家はさむいだろう さ、火燵に入れと 父の声がした 窓をあければ ゆるゆると 乳白の太陽が昇り  真冬の朝が 一番きれいだと 思ったのは本当で それは あなたが産まれた朝だからなのか 緩んだ陽射しは あなたのやさしさ その時わたしは はじめてゆるされた おはよう、ねぼすけさん 戸の間から覗くちいさな顔に おいで、と言う わたしは姪に カーディガンを着せた 気が付けば ひとり火燵で新聞を広げる 厳格である 父の背もすっかりまるくなって 真っ白な庭をみて 三月なのにすごいね 東京の雪は灰色しかないのと 目をくりくりさせる ねえさま、頬が赤いよと 凍えたわたしの顔を包む手に 北国の子どもは 生まれたときから みんな真っ赤だとうそぶくと それ、ほんとう? と姪は嬉しそうにわらう 知っていた それに良く似た わたしを見つめ、 困ったようにわらう瞳を そしてわたしは わたしをかたる ゆるされて、はじめて 鼻先を赤くしたまま 祈りを捧げた . ---------------------------- [自由詩]月をついばむ魚/渡 ひろこ[2007年10月28日0時09分] 森林の中 ひっそり潜む 小さな月 あさい眠りの はざ間を泳ぐ 黒い魚影が ゆらり と 身体をしならせ ついばんでいく 冷たい魚の接吻に 吸いとられていく 一オクターブ上の神経 ぬぺりと むきだされた 月の肌は 弱々しくあえぎ 木々の間から dim(デミニッシュ)の不協和音を叫ぶ 聞こえぬふりをして 走っていく足元に からみつく魚影 痩せ我慢の 変ロ長調で 歌えども 魚は 旋律さえも せせら笑って啜り 病んだ月が ますます 満ちて 巣食っていく 私の頭の 森林に ---------------------------- [自由詩]スワロウテイル/アオゾラ誤爆[2007年10月29日16時05分] あかるい空 カーテンをひいて包(くる)まれて そのどこかに羽根をみている 呼吸が彩度をわすれて いつか廃れた街のようだった 足音は屋根をつたって きみに会いにゆく こぼれてくるひかりは きみがながした涙に似るから できるだけ目を伏せる くもの巣みたいな糸を 追う視力はいくらか減って もう底 うまれたときの眩しさを 再現できない左手 灰色のうすい紙を ながめては破り捨てた はだしで水たまりを踏めば 跳ねたしずくに眼をやる つないだ手をすっかり忘れた頃 まどを叩く振動を聞いて 横たわる 痛みのとなりに安らぐ 帰ってこれた世界の無音 いとしい 空中を舞うすべてに 焦がれて腕をのばしてしまう 焼きついた景色を ふりはらうには脆すぎる からだはきみを覚えていて こころがずっと呼んでいた きみのうたが染み入って はだ色 確かな傷がついている 同じ場所 ひみつのばしょに ---------------------------- [自由詩]あめ玉/はらだまさる[2007年10月30日20時39分] 秋を絞り採る作業を 定数で合わせようすると 声が出ないことに気がついた 黙っていろ、という事なのかと思い あめ玉を舐める れーろ、 れーろ、 甘い味がする 終焉が終わった ---------------------------- [自由詩]そろもん(橙の歌)/みつべえ[2007年10月30日23時15分] 冬時計の 皮をむく 果肉が やぶれて どろり ながれだす おもいでを 涙と いっしょに すする ---------------------------- [自由詩]耳を澄ます/石田 圭太[2007年10月31日1時22分] しーっぃぃ 静かに 静かに 耳を澄ます 耳を澄ますほどにやって来る 夜があるではないか 届こうとする 届こうとする夜が やって来るではないか いくつかの笑顔と空腹で 気が狂いそうな輪の中にいる 抜け殻ばかりを売る店で 目を奪われるばかりだ、人々は 知る光を 与えてほしい ただ泣いているだけで 何にも見えなくて ごめん 答えのようなものを 音が音でなくなる音を 聞き取る確かな 耳が欲しい 名前がないだけで 居ないのと同じだ ただ生きているだけで 何にも言えなくて ごめん 今、しとしとと雨が降り 私の人間を濡らしていく 醜く垂れ下がった贓物に 芽が生える、空に向かう 向かった先に 向かった先に耳を澄ます しーっぃぃ 静かに 静かに 人間を聴いている ---------------------------- [自由詩]青いセピアの入道雲/ゆるこ[2007年10月31日13時39分]     しらんだ空が 産んだ青い退屈 駄菓子屋の秘密 ゆうぐれのすきま   纏った仮面を振り回す 夏の日の少年 残像の香りはせっけん ぶんぶんごま   鉛筆を構えるより 丸めた新聞紙を構える方が 夢があって 実感がある   従順に生きれば いつか握るのだから もう少し 青い夢、見させて   門前の呼ぶ声 震える小さなノスタルジック なんていうか、 まだ浸りたい   手招きする残像は 特に何も言わない この町の中心は いつか、僕だった     ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]わからないことだらけ./ふるる[2008年5月23日23時10分] 母が心を病んでいると医師に言われてからはや5年が過ぎようとしています。 その1年ほど前から軽うつと診断されて、薬を飲んでいたのですが、どうもこれは「アダルトチルドレン」とか「中年危機」の症状が強いと。(「アダルトチルドレン」は病気でも病名でもなく、それに気づいた本人が自分のことを言う名称ですが) 祖父が吐血して入院したのが原因で、すごくひどくなったのですが、その時、祖母がとても面倒みれないというので、私が母を預かったのですが、何と言うかあれは・・・・真っ暗なトンネルを這いずり回っているような毎日でした。 「こんな自分はダメだ」「死んだ方がいいんだ」「全てがダメだ」「私のせいでうちに泥棒が入った」「銀行のお金が下ろせないかもしれない」等のことを、いくら「そうじゃない、皆いいところもダメなところもあるんだよ」「いるだけでいいんだよ」「死んだら嫌だよ」等を繰り返しても、毎日毎日恐ろしい呪文のように、ことあるごとに繰り返すわけです。 こっちは子供の卒園、春休み、その後入学式もあり、それどこじゃねえよという感じでしたが、話を聞かないとまた「どうせ私なんか」とか始まるので聞く。聞くと同じような否定の言葉のオンパレードで。今でこそ普通に書いたり話せたりしますが、当時は何だかこっちの方がおかしいのかな?母が言うように、この世は全てお先真っ暗なのかな?夜中に手首切ってたらどうしよう?(と思い飛び起きてみたり)いっそ一緒に死んであげたらいいのかな?などと危ない事も思いつめるようになったりもして。怖いので、夜帰ってきたダンナに話をして、自分がまだ普通(世間的に見たら)ということを確認しないとダメな感じで。洗脳ってああやるんだなあと思ったりしました。 あまりにもおかしなことを確信に満ちて言われ続けると、それを否定するのに疲れて、しまいにはそうかなーなんて思ってきてしまいます。 その時に、自分の正気を保つために毎日必死になって色んな心の病についてのサイトを見たり読んだり本屋で読んだりしていたのですが。 (ちなみに病院へは本人がめちゃくちゃ行きたがらないので、行けませんでした) それで分かったのは、「わからないことだらけ」ということ。 河合隼雄の「こころの処方箋」という本の最初に、「人の心など分かるはずがない」とありました。それ以前は、フロイトやユングのことについて書かれたものなど、興味半分で読んで、「人の心は分析で分かるし、治療もできるんだ」と思っていました。 けど、違うんだ。 長く心理療法をしている人でさえ、「人の心など分かるはずがない」「分からないというところから始めなければならない」と言っています。 読んだ時は、お医者さんに「治るか治らないか全然分かりません」と言われたのと同じように感じました。 希望ゼロ。(かもしれない) そう思ってしばらく泣いた後、思いました。希望ゼロ(かもしれない)でもやるんだと。 人の心について、正しい解答というのはない。ないなりに、なんとかならしならしやっていくんだ。 今まで自分はわりと「正しい答え」「間違った答え」というのが必ずあると信じて生きていたけれど、ほんとうに「どっちかわかんない」「どうすればいいのかわかんない」「もしかしてこうすればいいかもしれないけど、結果見ないとわかんない」というものが存在していて、それを受け入れて生きていかなきゃならない時があるんだと。 そういう不安で曖昧なものがあって、それと供に生きる覚悟を決めなきゃいけない。 誰にも答えが分からないことがあって、数学者の悪夢ってやつによく似てる(絶対に証明できない問題があることがすでに証明されて分かっているけど、自分が取り組んでいる数式がそれかどうかは分からない、何十年もかけて、自分が苦労していた数式は証明できないということが分かってしまうかもしれない) けど、やるしかない。 この人は私を生んだ母親で、親子の縁は切れないし、やっぱり大切な人だ。(と、思えるまでには憎しみや怒りや悲しみや絶望や自責の念、受けた言葉の暴力をどうしても許せない、など色んな感情を経なければならなかったけれど) 私の家族は私を必要として、生活というのはゴールなんかなくてご飯作ったり掃除したりの細かいことでちびちびと作られていく。 「正しい答え」に向かって突き進むんじゃなく、「答えはない」に向かってちびちび進む、あるいは進んでない、足踏みしてるだけかもしれない、後ろ向きかもしれないし、ワープし続けているかもしれない。 とにかく、この世界、私が認識して今現在生きているこの世界というのは、どうやらそういうことになってるらしい。 問題と答えというテスト方式に、すっかり慣らされてきたけど、この世はもっと複雑怪奇で、なのにこの目は前しか見えないようについていて、複雑さ、分からないこと、分からないままで生きることを、一見分かっている風にきれいに整理してしまう「言葉」を持ちながら、なんか矛盾しながら私は(私たちは)生きていくんだ。 余談ですが、そんな時、詩は私を救ったのか、と言われたら、「はい」と言います。 詩の中にある風、それが吹く静かな場所、というのが私の中にあって、そこは揺るぎがない。 あの一遍の詩、ひとつの歌を思い出せば、いつでもそこにいける。 例えば子供の時、喘息で苦しくて眠ることも横になることもできない時、私の心はそこに飛んでいた。 肉体は苦しくても、苦しみに引きずられて心まで苦しめることのないように、心は逃がしていた。 その場所が、詩の中にはある。詩の中にしかない。(と思っている) 言葉は何かをきっちりさせてしまって、それがよくない時もあるけど、いい時もある。 言葉がなければ、あの場所は私の中になかった。 私の詩ではそこまでの力はないんだけど・・・・。 ---------------------------- [自由詩]夏のゆうげ/小原あき[2008年8月1日22時34分] 今夜の献立 ・夕焼けと向日葵の背中の煮物 ・虹のフライ ・蝉と夏休みの子供の声の和え物 ・打水のおつゆ ごちそうさまでした、と 流しに綺麗な皿が 水に浸されて わたしは嬉しくなる 甘く熟した花火に ざくり、と包丁を入れると たまや、と誰かが言った ---------------------------- [自由詩]誰でもよかった/砂木[2008年8月3日23時07分] 蜂の巣が近いらしい 家の裏山の方へ行くと 飛んでいる蜂と ぶつかりそうになり 私も蜂もあわててよける 洗濯棒の近くの花の中で 仕事中の蜂も時折いるけれど そっと ぱたぱた 洗濯物をかけても 私に興味を示さない せっせと 蜜でもとっているのか しかしもし 怒らせたなら 命と引き換えに針をだし 私を殺そうとするだろう 自分を守るために 蜜を守るために 私は やろうと思えば 殺虫剤で もっと卑劣なやり方で 花に夢中な蜂を殺せる もしかしたら 私を襲うかもしれない という可能性を 捨てきれない あの人もどの人も 誰もが私をやれる 私は弱い でも今 花に夢中なあの人は無防備だ あの弱そうな人なら 私でも勝てる 私より弱い人なら誰でもいい ゴールし勝つためには 洗濯物 干し終わったか もう少し 終わったらお茶にしよう ちょっと 座って休め はーい できた よしっ 休憩 風に 洗濯物と花が揺れる 蜂が 私から離れる お昼は何を食べようか 何でもいい 何でもいいじゃ困る 蜂 食べるか まさか 食べないよ でもなんでもいいよ ほんと なんでもいい ---------------------------- [自由詩]幸せの青い鳥/北大路京介[2008年8月4日21時15分] おにーさん おにーさん どうしたんですか? 失恋でもなさったんですか? 世界中の不幸を背負ってるような しけた面してますねぇ そんな顔して黄昏れてたって モテないままですよ 「 海パン一丁にシルクハットの怪しいオッサンに言われたかねぇよ 」 ホッホッホォ "怪しい"は よけいじゃないですか "海パン紳士"とでも呼んでください 「 オッサンさぁ、そのシルクハットから ハトやウサギを出してくれるのかよ? 」 いいえ この帽子は日射病対策にかぶっているだけです ハトやウサギは出せませんが、良いものをプレゼントをしましょう   海パン紳士は、シルクハットに何も入ってないことを男に確認させると、海水パンツの中から1羽の小鳥を取りだした。   青い小鳥。   ピヨピヨ。 "幸せの青い鳥"です 幸福を呼び込んでくれる素晴らしい鳥なんですよ プレゼント フォーユー 「 これ、カラーヒヨコじゃねーの? ヒヨコにカラースプレー吹きつけちゃったやつじゃねーの? 」 ノンノン 違いますよ かわいいでしょ? 名前は "スリーエスちゃん" 直感で名付けました 「 こんなヒヨコちゃんで幸せになれるとは思えないけど・・・ 」 ヒヨコのように見えますけど この"スリーエスちゃん" 絶滅危惧種で天然記念物 国際条約で輸出入禁止のレアヒヨコなんですよ 「 いま、ヒヨコって言ったよね? ちらっと聞こえたんだけど 」 闇のオークションでは何十億円 いや、何百億の値がつく 「 おぉ! そんなに高く売れる の です ね  」 えぇ、そうです 私は もうじゅうぶん幸せになりました あなたに譲って差し上げましょう さぁ 幸せにおなりなさい 「 とりあえず貰っとく  ありがとう! 」 青い鳥は 五感のすべてを満たしてくれますよ いつまでも聴いていたい鳴き声 癒されるそのキュートな姿 ふんわりとした優しい手触り 馨しい最高の香り 食べても美味しくて 幸せ 幸せ 「 食べねーよ! 」 フライドチキン 美味しいのに 「 え? チキン? 」 クッククック Cook Cock 青い鳥 「 だから 食べないって! 」 クックドゥードゥルドゥー クックドゥードゥルドゥー 青い鳥 「 やっぱり、これ そのうちニワトリになるんじゃねーの? 」   男が鶏か否かの大きなハテナマークを海パン紳士に投げつけようとしたそのとき   青い小鳥は眩い光に包まれた   男は理科の実験で燃やしたマグネシウムリボンを ふと思い出し   空は一瞬 真っ赤になり   青い小鳥が 光の柱に変わったかと思うと 柱は人型へとカタチを変える 『 私は某国の王女でスーパーアイドル 悪い魔法使いにヒヨコの姿に変えられていたの 』   男が毎晩思い浮かべていた理想の女性が 女体が   髪、顔、目鼻立ち、スタイル、声  すべてが男にとっての"どストライク"   男の瞳は桃色ハートマーク   心臓も飛び出して ドックンドックン 『 クックドゥードゥルドゥーの呪文で元の姿に戻ることができたわ! ありがとう海パン紳士! 結婚して! 』   美女は海パン紳士に抱きつき   男は放心状態   海パン紳士はシルクハットを深めにかぶり直し ホッホッホォと立ち去った   腕に しっかりしがみついたダッコちゃん状態の美女とともに   それから どれくらい時が流れただろうか   男はケータイ電話を取りだした 「 もしもし 魔法使いさんですか  ちょっと 悪い魔法かけてもらいたいやつがいるんですけど・・・ 」 ---------------------------- [自由詩]水のための夜/たもつ[2008年8月5日8時28分]     水を降りていく やましいことなど 何ひとつない 深夜、もういない父の 容態が急変した気がして 親戚を探しに出かける 栞のように 水槽が鳴ってる     ---------------------------- [自由詩]水のための夜/あおば[2008年8月5日8時36分]                   080805 生えるためには水が要ると ステンレスのボールが喚く サルビアの花の写真は 今からでも間に合いそうに 麗しく艶やかで瑞々しくて 来年なんて言葉は聞きたくは ありません と 言いたげで 開封した種が零れるボールの底に 10粒ほどのサルビアの種子 乾いた顔して落ち着かない 水を注いで宥めてみたが 表面に浮いたままで 落ち着こうともしない 明るいところは嫌なのか 落ち着けない 落ち着かず興奮を秘めたまま 乾いたままに浮かんだままに このまま外に出かけたら どうなるのでしょう 疑問を残して電気が消えた 朝になるとボールの底には 温和しそうに並んでる 行儀のよいサルビアの種子 固まってもう動きたくありませんと 言いたそう 外は明るいし 太陽は焼けるように輝いている もうワタクシ達の居るところはありません このまま水の底で眠りたい そんなことを言ってんじゃないかと 考える 外は明るくて 今から芽を出すには眩しすぎて 今から芽を出して育つには遅すぎて 花が咲くのは夏が過ぎて 秋の長雨に気分がむしゃくしゃして あたまからは水蒸気がもやもやと立ち昇る 10月の語感に相応しくない季節に花を咲かせるのだが ステンレスのボールの底にへばり付いて動こうともしない サルビアの種を見ないふりして垣根の縁にまき散らす 運が良ければ芽が出て茎が伸びて花が咲き だれかの目につくこともあるだろう そもそも種の袋ごと 我が家の郵便受けに投げ込まれたときから こうなることは覚悟していたのだから 一切の苦情は受け付けないつもりですが もし この暑い夏を乗り切ることが出来たら またどこかでお会いいたしましょう 無責任の塊が咲かせた花を眺めどこまでも 沈んでゆきたいと思うこともありますので 初出 「poenique」の「即興ゴルコンダ」タイトルは嘉村奈緒さん ---------------------------- [自由詩]水のための夜/モリマサ公[2008年8月5日20時20分] 砂を 体中の空いてる 穴に詰めていく 埋め立てた人工の砂浜の ほつれたぬいぐるみが さみしそうに息をしている 「あなたのコドモを産むよ」 と笑い 雨上がりの 草いきれで肺一杯にして めくらの猫がちいさくないて 凪いだくらい東京湾岸に 需要と供給としてコンテナーがつみあがり 粉みじんの自分自身が水たまりにばらばらに浮かび くろいアスファルトが燃えてゆらぐ ビニール傘がひっそりと折れ ピンぼけの子供の群れや歯茎のいろとりどりが 飛び立っていく 喉という喉が金属質にひとつづつ乾き ヘリが旋回する空にはキズひとつなく 影がものすごく深く 咲き乱れてる ---------------------------- [自由詩]柵と距離/水町綜助[2008年8月6日23時09分] やるせないとは どんな気持ちだ 胸の高さまでの柵から 少し乗り出して 空を仰いでいるのか 柵の欄干あたりで 透明度の高い水が 溢れそうに張りつめながら 柔らかく震えている 水は海水か 塩を含んでいるんだ だから飲んでも かわくだろうよ 全く涙ではないよ 赤く焼けるさなか ひとつの推進力が 翼をもっている 銀の それは人色の手では 掴みきれない人間の ひとつの意志だ 他人事に 世界は丸く広がり 丸く終わりを持たない 青い 空は白く かたちを持たず 指のかたちにそぐわない ごうごうと 音の響きで計られていく ごうごう ごうごうと ---------------------------- [自由詩]溺れる魚/皆月 零胤[2008年8月9日20時00分] 午後からは雨がやんだ 小鳥のさえずりを聴き その翼を懐かしく思う 雨上がりの空に架かる あの虹の向こう側には 僕の両親が住んでいる 会いに行く途中の道で 水たまりで溺れる魚が 凍えて震えていたので そっと陽だまりに置く スーパーの前あたりで 虹を見失ってしまった 諦め買い物袋を下げた 帰り道に魚の姿はない 無事ならばそれでいい 洋服を着るのに邪魔で むかし手術で切除した 翼のあった痕が痛んだ 明日もきっと雨になる また溺れなければいい そう思い見上げた空を 翼を広げ鳶が飛んでる その嘴には魚のような 形の影を見た気がした 傷痕よりも胸が痛んだ ---------------------------- [自由詩]60歳になったら/ふたば[2008年8月10日13時23分] 60歳になったら名前を変えたい 60歳になるまでの名前はもう 意味の零れ落ちるだけのスポンジにして 大事だったものぜんぶいっしょに タオルのはいったカバンにしまって 円環状に回る電車の手すりに ぶらさげておきたい 60歳になったら自分とも結婚がしたい 60歳まで格好良いことのまるきりなかった 暮らしを憶えてるだけ全部招待してやって 一度謝った後にお祝いがしたい その後は二度と謝ったりはしない 60歳になったあの女の子が 庭先で星のクラクションを鳴らして待っている 60歳になったら10代へ話しかけてみたい 20代の長すぎた靴紐と 30代の内側までまっ黒にしたゴム手袋と 40代の細るまで摩っていた棒きれと 50代の地図とシャベルを引きだしから出して その奥の箱にしまったままだった10代と 夕暮れ屋根に梯子をかけて話がしたい 60歳になったら模様を作りたい 六畳間の床と壁と天井と 染み焦げつきを丁寧に一枚に剥がしとって 見たものや聞いたものを隙間の無くなるまで塗りつぶして 乾くまで待ったら完成の 単純な模様の絨毯になっていたい テーブルと灯りだけを置いておく 60歳になれたら時計と靴を仕立てておきたい 1分間と1時間の区別がつかない どちらも同じ長さの針のやつと 世界なんて狭いところでは履けないやつ 買いに行ったお店でばったり会った 60歳になった友達もおんなじことを言う 僕達は60年間の比喩なんかじゃなくて 60歳になったら少しだけ可笑しな名前にしたい 60歳まで生きてる事がほんの少しだけ 似合うようになりたかっただけだから 生きてる事がほんの少しだけ 似合うようになってくれるような そんな文字がなかったら そんな文字をつくればいいから ---------------------------- (ファイルの終わり)