砂木の田島オスカーさんおすすめリスト 2004年4月10日19時01分から2007年9月18日2時59分まで ---------------------------- [自由詩]強情/田島オスカー[2004年4月10日19時01分] ずっとそこで迷っていて お願い 指先に力のこもらない日は、 いつも頭を抱え込むようにしていなさい、 すぐに 誰かが助けてくれる。 そんな風に言ったのは誰だった? 迷っているのは 今も昔も貴方だけれど だから 私いつも貴方を見て 嗤う 私よりずっと下のほうにいる貴方が 頭を抱えて迷っているのを見て 嗤ってしまう いけないことかしら 時折目が合って でも貴方は 助けてとは言わない 貴方の迷った顔を見て へらりと嗤う私に 不快感や不安 無いのかしら でもきっと私 貴方の指先がここに来るまでは 助けてやらない だってもうどうしてかわかりそう 私きっと 必要とされたかったの   ---------------------------- [自由詩]最後の夜タクシーから見えたものは/田島オスカー[2004年4月12日18時59分] その刹那 滲んだ夜景の濡れかたが 酷く美しかったので そのガラス越しに  くちづけてみました 落ちて逝く様を 見られたくなかった と言うのが事実でありますし 本当はどうでも良い事でも 今は何故か  ことごとく素敵に見え その素晴らしさに それでも打ち震える事は出来ませんでした 例えば爪を 一枚また一枚と剥がされていくような 痛み と恐怖 と苦しみ と屈辱を 一度にみんな味わってしまえる点で私は 恐らく誰にも勝っていたのです あの夜景も今は 思い出の中で スモッグに汚れてしまいました 流していた涙の為に 本来渇いている街並みに 気付けませんでした 本当は今でも 夢を ひと時でも ほんの些細なものでも 夢を 見ていたかったのです いつの日も ---------------------------- [自由詩]虚像/田島オスカー[2004年5月10日3時14分] 虚像の滲みが 君を遠ざけてゆくので 僕のほうこそ滲んでしまって 実はもう消えてしまいそうだ のばした手が 精一杯で 君はもちろん虚像だから つまり 精一杯も届かない ああ真っ暗闇が薄くなってゆく ぼんやりと滲んだ虚像は 君の笑顔だった気もするよ 僕は一枚隔てた向こうに今も 君の虚像を見ているよ でももう暗闇はなくなって どこもかしこも真っ白くなって もうじき滲みも薄れ なくなってしまうだろう 隔てられて さわれないし 虚像だから 届かないけれど 涙に滲むほど 焦がれたよ 君からは 実像で見えていたはずの 僕   ---------------------------- [自由詩]すれ違う黒いノート/田島オスカー[2004年5月13日20時18分] 黒いノートの背表紙に黒い字で黒と書く 無意味 まるで全てを手に入れたような顔をするのね、 と君は言って ひどく辛そうに笑った 一つだけ欲しいものを言ってみなさいよ、 あんたのことだもの、お金、女、ああ、男もイケるのよねあんた、 あとは何?地位とか?ダッサ、でもあんたのことだものね、 そのうち、俺は国が欲しいんだ!とか言ってもおかしくないわね、 ああ笑っちゃう、もう、なんなの、あんたみたいな人、大っ嫌いよ。 黒いノートは 君の愛用品だった 君はいつも鉛筆しか持ち歩かなくて 黒い女だと はじめは本当にそう思っていた だから黒を見ると 目に痛かった いつも もう、なんなの、あんたみたいな人、大っ嫌いよ。 笑っちゃう、と言いながら泣ける君の 大っ嫌いよ、も どうしてよいかわからなくて 早口に喋るなよ、と言ってみたけれど 本当は抱きしめてあげたかったよ 何でいっちゃうの、何でいっちゃうの、 嫌い、大嫌いよ、嫌い嫌い嫌い。 リフレインする 嫌い が ぼくを包んで いろんなところをちくちく刺す ああ三流ドラマみたいだ、と僕は思いながら しかし意識ももう無くなってゆくのが一番悲しかったよ ね 線香はいらないよ 一番欲しいものを結局教えてあげられなくってごめん 本当は今もわからずにいるんだ 誰よりもきっとぼくこそが その答えを教えてほしいのかもね ほら もうすぐ君の 誕生日が来るよ あの人の声が 聞こえた気がした 私はせめてばかりで きっと誰よりも苦しがりたかった あの人の痛みは もう 痛くなかったのかもしれない 黒いノートはあれからずっと 使えずに中は白いままになっている ---------------------------- [自由詩]朝夕のあんず色/田島オスカー[2006年1月29日0時57分] ひとつだけ思いがぶり返す すべては 沈みたいがために あの人はいつも 優しくている それが痛々しいとは 知りたくないようだ 置いたままにしたスミノフの瓶が ひとりでに倒れるのを  あたしはもう二時間も待っている 自由に生きていけるのはきっと神様だけで 人は誰も縛られている 気付いてしまったあたしは もうなにものにも きっと勝てなかった ポールの苺ジャムが 瓶ぞこで朝焼けにきらめいている 小さくなってそこにもぐれば 甘く淡く 眠っていられるかしら スミノフもジャムも あたしを沈めてはくれない 割れてゆく爪が哀しくなくなってから きっとあたしは 夕焼けの中にだけ生きている   ---------------------------- [自由詩]隣の芝/田島オスカー[2006年4月30日2時26分] 見るに堪えない もう限界なのです あたくし 晴れやかな笑顔の他人を 少しも憎いとおもわずに生きていくことの むつかしさ 本音を少しだけこぼして 申し訳なさそうにすがって泣いてみせることの なさけなさ 愛を知らないままに 顔を赤らめてくちびるを寄せてやることの 芝居染みた様子は あたくしの想像を超えていて 帰り道のうっすらした夕暮れに 辱められているようだった あたくしを真ん中に置いて 外堀の向こう側で華やかに 幸せが舞い踊っている 何もかもを握り締めることができないあたくしへの これは 立派な対処の仕方だった 見るに堪えない もう限界なのです   ---------------------------- [自由詩]グレーの彩り/田島オスカー[2006年5月13日2時22分] こんなにも黒が 似合っていいものか ゆらゆらと漂うようにそれでも しっかり全てをわかっている雲は 僕を見下ろしたりはしない 不思議なものを検索すれば きっと僕の目の色がヒットするのはわかっている チョコレートを噛まずに食べるあの人と 今夜僕は少しだけ話を そしてそれからたくさんの酒を飲んだ 今は雲が 僕を見下ろして笑っている こんなにも黒が似合うなんて やがて 少しぼやけた月を 綺麗に隠してしまった   ---------------------------- [自由詩]不器用な地底人/田島オスカー[2006年8月7日21時39分] あなたを作り出したものは 全ての泥の中に潜んでいたのでしょう 紫色の鉛筆を その指が滑らせるたびにあたしは 真っ暗な底を目の裏に浮かべて まっすぐまっすぐ泣くのです パンドラの箱はどのくらいの大きさだろうかと あなたは笑顔で言ったけれど 人の感情の個々の大きさを知らないあたしは わかりませんと答えてしまいました 紫色の鉛筆が いびつに何かを描いてゆきます 泥の中から生まれたあなたは きっと行く先を知りません   ---------------------------- [自由詩]スプーンの火で焼かれてしまえ/田島オスカー[2006年9月16日2時50分] 日替わりで ミルクの量が変わるコーヒーをあなたは おまえの機嫌が手に取るようだ、と 綺麗に笑って 少しずつ飲んでいた コーヒーにクリープなんか入れるやつは死刑だな、 初めて敬語を使わずにくれた言葉が あまりにもイメージとそぐわなかったので 何も言わずにいると 俺コーヒーに入れるミルクの量が一定なんだ、 と言って笑った 素晴らしいことよ、と返したけれど 毎日同じコーヒーが もう飲めない 今日はいい事があったの? カップを覗きながら言われた時 そっとそばに ずっとそばにいる そんなふうであるべきだったのかしら   ---------------------------- [自由詩]イメージ/田島オスカー[2006年9月30日0時33分] イメージするたびに 少しずつおまえが遠くなってゆく 大きなヘッドフォンのゆるさは少しも変わらないのに 霞んでゆくような映像のぶれが切ない ベッドの下を掃除していると おまえの口紅が転がり出るのではないかと いつも心許ない思いをしている 昔おまえがそう言ったとおり 私には妄想癖があるようだから 少しの衝撃でも 光を散らしたように薄くそれも ながく圧されるというのに イメージするたびに 少しずつおまえが遠くなってゆく 昔おまえがそう言ったとおり 私には妄想癖があるのだから 何にも負けない自信ばかりで おおいつくしてしまえばよかった そうだね イメージするたびに 少しずつおまえが遠くなってゆく   ---------------------------- [自由詩]陽が落ちるとそれは嘘/田島オスカー[2006年10月6日1時35分] グラデーションは必ずしも美しくない そう教えてくれたのは 確固たる信念でもなんでもなく ただの空虚だった ああまた日が暮れてゆく そのじわりとした色が僕に響いて それはすなわち僕の弱さを晒すようで 生命の危機だと誰かが言ったように 駄目になるのは精神ではなく常に肉体で それは精神が脳によるものだと むなしいほどに科学が証明してしまったからで つまるところ僕には 何の結果も残っていない 痛いと思うと同時に一番星を見つけた僕は しかしどこが痛むのか 理解できないことがとても悔しかった 痛むものなど臓器以外に持っていないはずだったのに おそらくそれ以外の何かが 西日よりも淡く じくりじくりと痛んでゆく 悲しいかい、悲しいかい、 ただ欠けた月が泣いている   ---------------------------- [自由詩]カクテル/田島オスカー[2007年9月18日2時59分]     人が何かを捨てるのはね、 もっと大事なものを拾いたいときなのよ、 捨てる勇気もないのに拾いたいものばかり思うって、 それは夢とは言わないわ、 妄想というのよ。 それでもあの人は 捨てろとは言いません どこにも伸びてゆかないこの腕に そっと指を這わせて息をついています でも妄想もいけないことではないのよ、 そこからまた何か、 可能性がはじければ儲けものだわ。 ぽたりと落ちる桃のしずくに舌を差し出して もう眠ってしまおうと また今度でいいやと ときどき笑うのも いい     ---------------------------- (ファイルの終わり)