ゆうとのおすすめリスト 2014年5月30日17時45分から2017年11月13日11時50分まで ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]息のこと/はるな[2014年5月30日17時45分] 庭で宝籤が吠えると、赤ん坊はゆるめていたこぶしにすこし力をいれる。両腕をま上にあげたかたちで―頭がおおきくてまだ手がまわらない―眠っている花。 ゴムでできたボールを奥歯のもうすこし向こう側で噛んでいるような心地がする。わたしは久しぶりに、持っている二十枚の爪に色を塗った。 赤ん坊というのは、思っているのとはずい分ちがう。愛とか、出産とか、成長とかは、いつも思っているのとはずい分ちがって、良いものだった。なんだか、想像しているよりも、それらは客観的なものだと思った、それはたぶん、(いつも)、息を吐くのと似ている。吐いたと思ったら吸わなければならない、吸ったと思ったら吐かずにはいられない、そういうような、でも、どうしてそうしなければならないんだろう?そうしなければならない理由はないのに。どうして生きていなければならないんだろう?長いこと思っていた、ばくぜんと、子どもができたら違うのかなと思っていた。でも、今も感じている。どうして生きていなければならないんだろう?わたしも、赤ん坊も、庭で吠えているかわいい犬も。そうしなければならない理由はないのに、生きているな、と思うことは、とても幸福で、疑問が幸福を連れてくるのだとは、予想していなかった。 ---------------------------- [自由詩]都合/はるな[2014年6月21日22時09分] 終わりみたいな 色をつくって 順番に なめた どんなふうに 言葉にできたかしら それら すべてを 失ったり 奪ったり してきたことを 言葉にしてしまうのは 都合がよすぎるから ---------------------------- [自由詩]みんなうたわなくなった/はるな[2014年6月22日1時09分] みんなうたわなくなった 夜も 朝も 雨の日も すっかりあかるくなった 鼠はいなくなった もぐらはとっくに死にたえた 人びとは 健康であった ギターもピアノも自動で鳴らされる 楽譜どおりに「情緒的」に ページはめくられる 七分間に1ページ進むのだ ドーナッツは しかるべき個数だけ配られる きわめて平等に 世界はすっかりあかるくなった 坂道は均されて 犬たちのための専用コースがつくられる 鳥たちはなぜ自分が飛ぶのかを理解しはじめる きまった時間になると 音階が鳴るのだが もうだれも うたわなくなった ---------------------------- [自由詩]紫/はるな[2014年7月4日0時22分] 与えられた絵具の いちばん暗い所を指さして 言われたことが 愛でした あんなにためらいなく混ざりあったから すっかり忘れていたけれど 紫は 海と血で出来ている ずい分時間がたって それがなにかを忘れたころ わたしたちは 殺しあうのを 良しとした ---------------------------- [自由詩]反転/はるな[2014年7月16日2時08分] みていたのは皮膚 あるいは瞳、うなじの汗 でもみえていたのは 世界 あかるい日 部屋のなかで視界をうしなうようなうす甘い幸福 雲ひとつない空のなかに 探したのは影 あの日あなたを知り みえていたのは世界 みえなくなったのも ---------------------------- [自由詩]数字/はるな[2014年7月16日2時37分] (数字が壊れている) 夏で、いつもより心臓がゆっくりうごいている。 わたしたちは逃げてきた、盗んだものをぜんぶ 忘れるために。おもいのほか空気はおもたくて、 指が濁ってる。天井を塗る途中で、ばらばらに 散っていった。青色と白色の混ざったところに。 冷蔵庫には冷えた意味が、ならべて座っている。 教育された男の子と女のこみたいに、つめたく。 わたしはたぶん走りたかった。でも、それだと あまりにはやく心臓が打ってしまう。 声はなんと記せばよいだろう。どんなにしても、 嘘か冗談になってしまう。気持にしても、夢に しても嘘か冗談になってしまう。なびかせても、 切り刻んでも、積みあげても、彩色したっても、 嘘か冗談に嘘か冗談に嘘か冗談に嘘か冗談に嘘 わたしたちは逃げてきた、忘れないために。 壁ぎわに座ってみていた、あるいはそこからは 見えなかった、すべてのことを忘れないために。 知りたがって、知れなかった、そのことたちを 忘れないために。そうして知ってしまった全て を、忘れるために。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]さるすべり/はるな[2014年7月25日14時05分] そうだなあ。壊すなら街が良いね。とくべつ硬いやつ、と、言ったとき、あなたはもうわたしを愛さないと決めていた。美しいは残酷だから、わたしたちは生きていける。もうずいぶん長いこと言葉に身を埋めて、はっと気づくのだ。意味と音に同じ色のりぼんでしるしをつけて、ほどいてつけ直して、また結び。混ざらないように慎重に。重たいりぼんの束で身動きがとれなくなって、(はっと気づくのだ)。 この街にはさるすべりの木がない。だから今年のそれがいつ咲いて、散ったのか、わたしにはわからない。かわりに苔桃が大通りに沿ってびっしりと実をつけていた。幹からこぼれてみじめに踏みしだかれる紅。わたしは髪を切って、うなじは久々に青空を(あるいは曇天を、雨を)見た。こんなふうに、そうか、あれはもう三年まえのことだ。 あのとき、あなたはもうわたしを愛さないと決めていた。わかる、というのはなんと美しいことだろう。わたしは生きていける。 ---------------------------- [短歌]アイスクリーム/はるな[2014年8月8日19時35分] 幸福は匙で掬ったアイスクリーム みつめていても溶けてしまう ---------------------------- [自由詩]指先の冷たさについて、/mugi[2014年12月3日17時24分] 毛細血管のめぐるあおい突端の、 これよりさきはもう冬の海しかひろがっていない、 さみしい風景のなかで、年増の女が、 少女のように手にもったポリエチレンの袋を、 ふりまわしている、女は遠心力をつかって、 それをそらへと放ち、やがて落下した、 地球はまわっているのだという、 わたしは生きている、 ---------------------------- [自由詩]ふゆのひかりについて、/mugi[2014年12月13日1時21分] 得意ではない、 飛びかたをためしていた鳥の、 シルエットを真似て、 あるいはそういうタイトルの、 詩をかいて、 昨夜の微熱は冷えて、 花びらのような咳をした、 踏切がおりたままで、 列車はどちらからもくる気配がなく、 ひとと、くるまとが溜まっていくなかで、 迂回することと、 待ちつづけることのどちらが、 最良なのかを、 そんな些細なことでさへ、 決めるということに億劫さをおぼえる、 ふゆの鋭利なひかりが、 言葉と意識や、 情景と眼差し、 あるいはあの飛びかたのおかしな鳥を、 切断して分解して、 とあるふゆのあさが、 とあるふゆのあさであるように、 語りなおされてそこにある、 ---------------------------- [自由詩]星になるとき/石田とわ[2015年1月8日1時59分]     ただの水じゃないかって?     まったくちがうよ、     いや炭酸かどうかじゃなくて     このボトルの泡たちは宇宙の星なんだ     だからこの泡たちを飲み干して     そうまだずっと先のことだけど     いつか星になろうとおもってるんだ ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]当然のこと/はるな[2015年1月19日10時47分] 飛ぶときに必要なものがあるとすれば決心ではなくて、飛んでいる「当然」なのだと思う。決心なんて、どれほどもろくて役に立たない(でもそれなりに美しい)だろう。 娘が壁に手を置いて、しゃんと背をのばし立つようになった。それをみてわたしは、彼女の決心よりも、やっぱり当然を感じます。彼女は立つことの当然を獲得しました。目にすることが難しくても、そのさかい目ははっきりと存在する。わたしたちはいつも、“それ以前”と“それ以後”をぼんやりと確認するだけだけれど。 娘の、 爪はペーパーナイフみたいにうすくて美しい。まったくどこもかしこもぴかぴか光って、こんなふうに人間が光るなんて想像もしていなかった。水も光も影もはじいて、つるりと透きとおって光っている。わたしは、そのために光に関する文章をいくつも思います。この鋭利な羽みたいにきれいな爪が、やわらかい肌をじぐざぐに引掻いてしまうのもかなしく、可愛らしい。だんだんと手足の大きさを理解して思うように使えるようになってきたために傷が減ってきたのを、夫は喜ばしく思い、わたしはもっとほかの気持ちも感じている。 こんなふうにまるまると大きくなっていく娘を撫でていても、やっぱりわたしには母親という感慨がわいてこないことも不思議で、いつになったらわたしはわたしになるのだろう。目のまえを、美しく、おそろしく、不思議なものやことや人が行き来してゆき、夫も娘もそのひとりだと思うと、やはりもっと遠くを考えなければならないと思います。相互関係しなければならない。淀んだ水をいつでも恐れるべきだ。(ワイン樽は清潔に保たれているか?) (けれども) 「当然」をわたしも獲得しなければならない。この力強い娘のように、あるいはわたしに付き合ってくれる夫のように。二人の力強さは似ている。まの抜けた寝顔も。ななめに射す朝日にうんうんとむずがりながら寝返りをうつさまも。でも、そのすべてがいちいち愛しくて、これを当然と思うのはわたしには余りあると感じてしまいます。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]せわしなく掻き出す前足が穴をどんどん深くしていく /阿ト理恵[2015年1月20日20時16分] せわしない日々のなか、外にでたらそれが昼であっても真夜中であっても早朝であろうとも空をみあげて月をさがす。たまに日光をあびてしまい、くしゃみがでる。かならず。なんでだろうね。太陽光線とくしゃみの関係についての講釈があるなら読んでみたいけど。わたしの2015・1・3夕暮れは東の空低く楕円の月明かりからはじまった。そして、青さの残る西の空を、ついでにみたんだ。なんとなくだよ。なんとなくってのはいいね。なんとなくからの驚きは格別だからね。しつこいようだけど、なんとなく、繰り返し云うけど、なんとなくみた西の空に1センチくらいの飛行機が、形がちゃんとわかるくらいのちっこい飛行機に光るしっぽがしゅわわんしゃわわんのびてて。いわゆる飛行機雲なんだけど。ピンクなんだぜ!ピンク!飛行機はこれまた銀色にひかっててさ。もうね、なんなんだよ、なんでこんなときにひとりなんだよぅ〜って、うっかり行方知れずのきみを想ってしまって右の心臓がキリンとなっちまったよ。きみがわたしにあけた穴に猫キャラバンドエイド貼ってるのに、まだふさがっていなかったなんて、 ---------------------------- [自由詩]眠りのなかへ/石田とわ[2015年1月22日1時27分]        かくしてください        さみしさが襲います        昼と夜との狭間から        からだと毛布のすき間から        飲み終えたコーヒーカップに        あふれています        頭から毛布にくるまって        眠りのなかへ        かくれます       ---------------------------- [自由詩]ゆきひつじ/石田とわ[2015年1月23日22時36分]       ゆきのひつじが         はらはらと        いっぴき、にひき       ねむれぬよるに       ふりつもる       はるをまって       はらはらと       ゆめののはらで       ふりつもる       ゆめのひつじが       ひらひらと       いっぴき、にひき       ゆめののはらで       はしってる       はるをさがして       ひらひらと       ゆめのゆりかご       ゆらしてる ---------------------------- [自由詩]ライオン/はるな[2015年3月27日23時24分] ライオンがほえている わたしは古いつめを捨てて たてがみをなでてやる わたしたちはもう 遠くへは行かれないのだ 望んではいないから いつだったか 夜のふりをした朝が あなたの頬を染めて わたしは幸福だった たてがみをなでてやる 幸福だった そのことを覚えている わたしたちはもう 遠くへは行かないのだ ---------------------------- [自由詩]どこか/はるな[2015年8月13日3時02分] はみだして 行き場のない ことばたちが 過去へかえっていく そうだった あなたに 出会うよりもまえから あなたのことを 好きでした みつめあうよりも ずうっとまえから わたしのどこかは あなたでした ---------------------------- [自由詩]コピーアンドペーストエンド/そらの珊瑚[2015年9月2日10時40分] 夏のあいだ僕らは 危うさと確かさの波間で 無数のクリックを繰り返し 細胞分裂にいそしみ 新学期をむかえるころ あたらしい僕らになった けれど ちっぽけなこの教室の ひなたと本の匂いとザリガニが 混ざったような特別な匂いを ひどく懐かしいと思うのは ふるい自分の残骸なのだろうか この場所に 君だけがいないのは おそらく コピーに失敗したからに違いない ずるいよ 君は 夏休みの宿題を 永遠に提出しないつもりなのかい ---------------------------- [自由詩]モーター/はるな[2015年9月3日23時03分] わたしはよこ向きにうつ伏せて 雨のふるのを聞いていた かすかにモーターの音が混じっていた どうしようもなく世界が果てしないと 思っていた水色のとき ---------------------------- [自由詩]緑色/はるな[2015年10月2日1時34分] ため池は空をうつすが 空はため池をうつさない 涙と呼ぶには あまりにもふかい緑色のなかを どこまでもどこまでも進んでいく ---------------------------- [自由詩]さびしいおもい/はるな[2015年10月30日23時53分] さびしいおもいをしよう うそのお皿にふたりですわって わかりあう を たべよう べたべたにして たべおわったら ちがうドアから かえるのさ ---------------------------- [自由詩]光と時間/しもつき七[2015年11月4日20時28分] そして 翳りなく空はかがやきを増して ゆくりなく月日をもちさる あなたの舵でもって トー という音がきこえて それは地鳴りのようでもあった つられて飛びたつ鳥たちの群集 夜がくるからね といった 息を吸いこむ みぞおちのあたりに ずっともたれていたいとおもう 円環に なるよう祈っている 強くて美しいひとつの輪 頂点で光る北極星 ページをめくる風がやってきて 方位をうしなうとき でも 忘れちゃだめよ わたしのあげた呪いのこと すべてうまくいくのろいのこと 積荷は なるべく小さく 避けられない波はできるだけ低く 船が出る いま櫂をにぎる あなたが光で うれしい ---------------------------- [自由詩]はしろう/はるな[2015年11月7日9時26分] ぴーんと張ったあさの しおからいところ うすくてわれそうで さわると温かいところ 裏返したわたしを もう一度うらがえして どうしても さびしいことであるね おぼえていることも おぼえていないことも さびしいことであるね はしろう ---------------------------- [自由詩]さよなら/はるな[2015年11月10日23時31分] しかくい夜のなかに 青ざめた月が座っている どうしたらこの空を落とすことができるだろう 眠る 鳥たちを起こさずに さよなら あたらしい街で あたらしい夢を踏んで生きていく ---------------------------- [自由詩]氷を抱いて熱へとびこむ/はるな[2016年1月12日0時23分] 氷を抱いて熱へとびこむ 飛び込み台にかえるが落ちている 踏んでしまうのとゆう声が聞こえる 踏んでしまう、でもたぶん ---------------------------- [自由詩]抱擁/はるな[2016年3月20日1時07分] 手は 夜をすみずみまでたたいて きえた 大事なものと そんなに大事じゃないもの、 をくらべて でも そんなに変わらなかった あなたの抱擁のまえで 人生など あってないようなものだった ---------------------------- [短歌]しらない・砂糖壺/はるな[2016年3月20日1時40分] しらないと言ったそばからうそになる 知りたくないのだ 正しく言うなら こわいのは戸棚の奥の砂糖壺 ざらめのついた世界はきれい ここからはからだを脱いできてくださいね 心も脱いじゃう人もいたけど ---------------------------- [自由詩]つみとる/はるな[2016年3月26日21時52分] 雨のあいまに草がのびていく つみとってもつみとってものびていく 春は毒だ 帰る場所もないのに咲いてしまう ---------------------------- [自由詩]かみの長い男のひと/はるな[2016年3月28日23時40分] それが大きいのかちいさいのかわたしには分からない 数だということだけ わかる くらやみを射抜くような空ろないたみがビルを覆っているので ひとびとはたえまなく降ってくる 切りそろえられた三角 クローゼットがいっぱいなのに 着ていく服がない 辞書をひらいても 言いたい言葉がみつからない なのに空らんを埋めたくて ノートばかり買ってくる 髪の長い男の話をするんだった でももう なにもわからない ---------------------------- [自由詩]ゆうやみ/はるな[2017年11月13日11時50分] からだをさかむけて ゆうやみを聞く このさきにそらが あるとして、 だれも届かないとしたら 空はだれのために くれている すきだった ものの名前を おぼえている順に忘れていく とける和音のゆめみごち この先にそらが あるとして ---------------------------- (ファイルの終わり)