たもつのクローバーさんおすすめリスト 2004年1月22日21時02分から2004年7月12日22時57分まで ---------------------------- [自由詩]トランプ/クローバー[2004年1月22日21時02分] さよならをトントン捨て 今日までのトランプで山のようだ 順番どおりに配っても さよならトランプが山のようだ 幸せだったね、幸せだったね トランプの数のさよならが 数の合わない神経衰弱 あけてもあけても、あわないけれど きったときにはくっついていた バラバラになった数字のトランプ マジシャンは言いました 選んだカードはこれですね? いいえ、違います さよなら を言ったカードです 幸せだったね とは言っていません と、答えると しかし、未来のあなたは選ぶでしょう? と言って、微笑んだ。 ---------------------------- [自由詩]カールのフランシス/クローバー[2004年1月23日20時19分] それにつけても おやつは フランシスは、口に運ぶと クルンと自分の体を抱えた ひとりっきりの台所で 「今日も遅くなるから」のメモを見つめながら いつも通り カールになった。 ---------------------------- [未詩・独白]私に名前を授けてください/クローバー[2004年4月3日21時30分] 不意に降り出した雨の、流れていく先が 足の裏に 張り付いて ぐしゃぐしゃいいながら それでも、ついてきた靴でした 枝ばかりの桜の枝が、葉をつけることを忘れながら どこか、遠くを見ていました 靴は、歩くたびに、探して 生まれたころは、ベルトコンベアの上で 型に入れられたゴムでした そのころは、かわいらしかったので 桜も、見下ろすくらいは、していたのです。 自転車の車輪は、いつも、逃げ出したくて仕方ありませんでした 力を込めると、思った以上に進むのは 彼が、形の決まらぬゴムだったころを思い出していたからで あのころに帰りたい、とは、言いませんでしたが 温かくじっと丸まっていたかったと、どこか、遠くを見ていました。 冷たい、と、口に出してわざわざ言うほど、感情屋でもありませんでした。 靴と車輪は、ゴム時代、工場では、隣の席の気になる奴で シャープペンの貸し借りなどをしたり、冗談を言ったりした仲でした。 枝を持ってみる雨が、親指と人差し指をつけたとき いっそう激しくなりました。 鬱蒼と枝が風に鳴り 足元は、あいかわらず、ぐしょぐしょいってそれでも 桜は、どこか遠くを見たままでした。 車輪は、靴に、気づきもしません。靴も車輪を気にしません。 ぐちゃぐちゃいって、踏みつけられて進んでいきました。 桜は、葉っぱよりも、花が咲き、雨です。 今のゴムたちは、なんなんだろうと、首をかしげながら それぞれの速さで、忘れたことを思い出さないように進んでいました。 しかし、本当は名前なんて無かったから、忘れてなんかいなかったのです。 ---------------------------- [未詩・独白]要冷凍のステッカーを張られて/クローバー[2004年5月7日23時57分] 1 保冷車の黒猫に手を触れて願うと 叶うというジンクス 内側が冷たければ冷たいほど良い恋愛のジンクス 少女は黒猫が横切ってもいいことがあると信じている 滑稽で悲しいジンクス 2 アイスを食べる 僕らの傍ら 恋をする氷粒 消えてなくなるまえに 0度で止まる頬のクリームにささやかな口づけ 3 海王星は、氷 彗星は、雪だるま 宇宙は、冷凍庫 地球は、解凍中 フロンも手伝う高速解凍 震えたりぶつかったり傷ついたりして温まる 僕らは 赤外線の粒 僕らは 目に見えないほどの熱量で 4 真っ黒なワゴンが止まる窓ガラスにも黒いシート (マグロは冷凍されているから  厄介だけど新鮮だ  溶けたら血の匂いにも興奮してしまう  もうすぐ食べられる  まっててね、マグロちゃん) 黒猫に、押し込まれる少女 5 粉雪 その白が欲しくて 手のひらにとった子供が 透明になっていく 悲しみ 6 ひみつをとかしていく とけたひみつがしみだしてくる だいじょうぶ?君が僕に聞く だいじょうぶ。なにもかわらないよ ちょっととけただけ すいてきをしたららせながら だきしめたかった きみがこおりついてしまうからそれはできない 7 いろんなことがあったけれど やがて僕らは要冷凍のステッカーを貼られて あらたな住処へ配達されるんだろう そのときは、それでも、やっぱり君と 同じ箱に入っていたい ---------------------------- [未詩・独白]「雨細工の町」/クローバー[2004年5月24日22時35分] 1 ビデオテープの町には あの頃のままの 恋人がいて 老人は 画面に張り付き 色の雨粒を見ている 2 空と地面に一本の線が伸びる その端っこを 紙コップにつなげて いつまでも 耳に当て続ける 「お元気ですか」 3 震える ポケットの中の田園 ぽつん、ぽつん 広がるわっか 車輪 りりん、りりん ベルが響く 過去への返事 4 いつしか コンクリートは濡れて 灰色を濃くしていた 最近の雨は酸だと言う ならば この灰色の建物は飴細工 溶かして 緑に帰しておくれ 5 ビデオテープの中では 畦道を走る 自転車 はためくスカート 老人は 光の三原色を 浴びて 雨 ---------------------------- [未詩・独白]どうでもいい返事/クローバー[2004年6月9日21時23分] どうでもいいことの流れ着く浜辺で どうでもいい流木に どうでもいい曲線に どうでもいい女のことを思い出す 浜辺で出会ったどうでもいい女が どうでもいい空き瓶の中で どうでもいい手紙を送り どうでもいい返事を待っている 僕はどうでもいい透明な曲線に囲まれて どうでもいい角度で砂に埋まっている どうにもすることがないので ガラスに背をもたれながら どうでもいい返事を書くことにした。 ---------------------------- [未詩・独白]シュガースポット/クローバー[2004年7月12日22時57分] バナナの河が するする、流れていくから 滑って転んで 黒い斑点も良く見ると茶色っぽくて 一匹一匹 願うことが積もっていく そういえば 今年は会えたかなぁ、などと 空を眺めてみたりする 街灯 信号赤で、足をつく拍子に エンストした、ガス欠で 原付を押している 見えなくなる反転、白い 注ぐガソリンが実は透明で綺麗だな、とか ガソリンスタンドは セルフで 500円で足りなくなって ちょっと焦る 足りた頃のことをちょっと思い出す そうそう、そんなことよりも バナナだ たぶん、まだ泳いでる 両岸を行ったり来たりしながら 黒い魚が、河を 朝には、ほら、また増えている。 ---------------------------- (ファイルの終わり)