若原光彦のおすすめリスト 2017年11月2日7時05分から2018年5月6日23時35分まで ---------------------------- [自由詩]裸になれない/星丘涙[2017年11月2日7時05分] 詩を紡ぐということは 裸にならなくてはいけない 恥ずかしがっていては 心の襞は描けない 素っ裸にはなれない 野暮な言葉を並べたくはない ええかっこしいが邪魔をする 綺麗な言葉を並べ 大衆を意識する 本当は隠されている 傷もエゴも汚れも 隠されている そこに命の輝きはあるのか 躍動はあるのか 無様な生きざまはあるか 綺麗に塗られた墓のように 人間の本当は隠され 愚かさも 失敗も 無力さも 表れてない 人間の本当は、魂の叫びは ないのではないか それは詞であって 詩ではないような気がする 本当を綴りたい そんな勇気が欲しい ---------------------------- [自由詩]峠/山人[2017年11月3日21時01分] 山間の、とある峠の一角に巨大な岩が奉られている 近くに湧き水が流れ、森の陰影のくぼみにそっと佇んでいる 神が宿るといわれてきた、大岩 峠道を歴史の人々が歩き、腰を下ろした 見つめた大岩に合掌し、旅の無事を祈ったのだろうか まわりには数百年のブナが生え、岩を囲むようにしんとしている 多くの神が死に、その骸が粉になって あらゆる物質にとりつくことを 人は神が宿ると揶揄した それは人間が作り出した偶像ではなく 神の粒子が内包されている 神の膨大な死が 巨大な無機物の中に入り込み そこに確かなエネルギーを内包している 日々を刻々と咀嚼し 行いの上を歩くとき ふと、神は微笑むのだろうか ---------------------------- [自由詩]オーパーツ/ガト[2017年11月4日2時32分] 食パンを食べてる時 最後に流し込むコーヒーが 妙に旨い しばらくして 遠い昔の 朝の味だなって気づいた 冷え切った夜の部屋で ---------------------------- [自由詩]ひとつの憎しみが消えた朝/葉leaf[2017年11月10日2時50分] ひとつの憎しみが消えた朝 俺は鎧をひとつ脱ぎ捨てた 鎧はきれいな音を立てて 軽やかな布に変わっていった こうやって一つずつ 背負ってきたものに別れを告げる 新しく背負う重たい荷物が 旅先にはいくつも待っているから ひとつの憎しみが消えた朝 俺は新しい歌を口ずさんでみる たどたどしく追っていくメロディーに 憎しみの残土をのせていく 憎しみは消えても憎しみの痕は残る その傷痕をなぞりながら 俺は誰かを思い出しそうになる ---------------------------- [自由詩]優しい嘘を/吉岡ペペロ[2017年11月18日19時48分] 気にしないでいいからと そんな優しい嘘を ぼくみたいについてくれ 閉店まぎわのパン屋にはいつも じぶんの好きなパンをとって隠す アルバイトの女の子がいるから 大丈夫普通のことだよと そんな優しい嘘を ぼくみたいについてくれ ---------------------------- [自由詩]座席の荷物は社会のお荷物/イオン[2017年11月19日12時26分] そのバスは込んでいた しかし、その女性は 隣の空席に紙袋を置いて 占領したままだ バスが大きく揺れた後 初老の男性が無言のまま その女性の紙袋を 通路に降ろして席に座った その女性は驚いて 回りを見渡したが 誰もが無視していた 次にバスが大きく揺れると 通路の紙袋が転がり 荷物が散乱したが 誰もが無視した 女性はすいませんと言って 席を立とうとしたが 初老の男性は席を立たず 走行中ですとだけ言った 女性は降車ボタンを押した 誰も降りる人がいなかったバス停に バスが止まり初老の男性が席を立った 女性は通路の荷物を拾って 吊り革につかまってそっぽを向いた バスの運転手が降りる人はいませんかと アナウンスして女性をにらんだ 運転手は声のトーンを下げて ボタンを押した方は降りてくださいと告げた 女性は慌ててバスを降りた ---------------------------- [自由詩]ふるえる手/為平 澪[2017年11月19日15時40分] 母が母でなくなる時 母の手はふるえる 乗り合わせのバスは無言劇 親切だったおばさんは 母の乗車後には夢になる 向かう先はお山の真上の病院で薬をもらえば また手が ふるえる、ふるえる、大量の薬を飲む手 繰り返される寒村の暗黙の了解の中に罠 私たちの幕は知らない人の手で いつも高い所から降ろされた 時間が役立たずになったバスから 現実を眺め 乗客は自分の夢の中から外界と交信する 人々は一方的に語り掛け、語り合い それが一方通行でも母は笑い そして彼らは母を嗤った 困惑の表情の下から覗く、また、ふるえる手   大きな字しか見えない年老いた運転手が、真冬に黒いサングラスをかけ、   ガタガタと 不随意運動を起こすバスに体を預け、毎日を綱渡りする。   バスは神社の横で洗車され、病院を潜り、寺の隣の火葬場で、ゆっく   り回転する。往きと復えりを病院の乗車口で間違えた若い女は、ショ   ッピングモールの場所を、ハキハキと尋ねて生き延びた。その、大き   なショッピングバッグを、羨ましそうに眺めるバスの中の、人びと。 (今更、家は捨てられへん、この年になって何処に住むんや (若い頃は「金の玉子」と謳われても便利に私らはガラクタや (一体誰が私らの消費消耗期限決めて捨てるんかなぁ この国で、この町で幸せになるの、というフレーズの 歌や漫画のタイトルを 聴いていたり見ていた記憶は遠く 目的地に辿り着いても 杖を手放せないまま 動けなくなった母の身体を揺さぶり 降車ボタンを押すと 私の手にも薄気味悪い暗黙の了解が夕暮れの顔をして降りくる ふるえる母の手を見ていると 逃れられない大きな不随意運動が伝わって 私の首をますます斜めに傾ける 選べない一軒の総合病院の不透明な薬袋の膨らんだ白い企みを 何も言わない乗客たちは 俯いたまま大事そうに抱え込む 老人バスを振り返り 彼らを見送る頃には 夕陽が沈む遠い山で バスは真っ黒に焦がされる ---------------------------- [自由詩]私の家族/冷水[2017年11月20日10時52分] 部屋一面 起き抜けの尿の色だ 永い永い言い訳のような廊下を 既に冷たい素足が横行し続けている いけない事だ あぁ 本当にいけない事だ 元気でね、と祈られることは もう元気でないことが悟られてしまった 落ち窪んだ目 それならちゃんと沈んでくれ 頬骨の裏で粗い骨の仕組みだけを見ているよ 大人しくだ 約束する 大人しく見ているよ 潮風は無遠慮に東京の犬歯を錆び付かせる 涎が垂れている 落ち葉が散ってしまうな 流されてしまうな ぽたぽた ぼたぼた 駆け寄るな白無垢 枯木に触れて立つ鳥肌めが さもさも哀しそうに私を見ている 君の家族はどうした ---------------------------- [自由詩]七五三/葉leaf[2017年11月25日6時50分] 君のために開け放たれた窓は、少しずつ風景を描き始めた。君の中に降ってくる光や闇はとても温かく、純粋な愛情の洗礼を受けている。君は今日、裸足になって歴史の川に足を差し入れた。歴史の川はとてもきらびやかで多くの成分を含んでいる。君はしばらく歴史の浅瀬を歩いた。川はあまりにも多くのことを語っていて、君を清らかに通過していった。 君の話す言葉は意味を持ち始め、豊かな世界に着陸することを覚えた。君の幼い感情はひたすら笑い続けていて、そこには静かな扉が開いているかのようだ。君は太陽や動物や草花と対話し、その対話の内容は私たちには理解できない。君のまなざしはあまりにも柔らかくて、受取人はひとたびそこに包み込まれ、そののちに柔らかく組み立てなおす。 君に贈る言葉などない。君の人生はまだ正確には始まっていないからだ。君の人生は少しずつ揺れ始め、やがて大きな振幅で揺れ動く運動体となる。そこに至らない今日の一瞬を大事にしよう。青春は人生の中で何度も回帰するとしても、幼年は再び戻らない黄金に輝く時代なのだから。 ---------------------------- [自由詩]暮らし/水宮うみ[2017年12月2日18時59分] 朝陽の「おはよう」って声に「おはよう」と返す。 雨の日にカエルの人生相談に乗ってあげる。 自分の身体より大きなパンケーキをみんなで食べる。 そんな絵本みたいな暮らしがしたい。 ---------------------------- [自由詩]アメジスト/やまうちあつし[2017年12月4日21時12分] この石の中では 絶えず雨が降っている そう言って一粒の小石を 娘の手のひらに載せた その人は叔父だった いつでも青いマントを着ていた 血の繋がりはないけれど とある出来事があってから そういうことになったのだった 紫色の輝きの中に目をこらすと 確かに無数の雨粒が 絶え間なく降り続けている 見ていると吸い込まれてしまいそうで 娘はあわてて顔を上げ 男の顔を見た 「その石は私が  ある国に住んでいたときに  偶然出会った物だ  一目見て虜になった私は  それを我が物とするため  あらゆる手を尽くした  あらゆる所持品を売り払い  あるだけの財産をつぎ込んだ  積み上げた仕事も  名誉も信用も  何もかもなげうった  ついには自分の国籍も  名前も譲り渡して  やっとのことで手に入れたのだ  その石を手にする代わりに  私は何者でもなくなった  それでよかった  それがよかった  その石の中で降り続く  雨を見ているだけで  私は何者でもよくなってしまった」 男は紅茶を一口飲んだ 「君にあげよう」 娘はその石に たまらなく魅了されながら 同時にそんな大事な物を もらえないとも思っていた だってあなたが 何もかもかなぐり捨てて やっと手にしたものでしょう 私たち 血がつながっている わけでもないのに 男は言う 「私はこの石と数十年を共にして  毎日石の中に降る雨を眺めてきた  いつしか雨は  私の中でも降り注ぐようになった  私の命が尽きるまで  雨は降り続くだろう  今の私は雨を盛る  器にすぎない」 「人は一生の間に  なにもかもなげうって  手に入れたいものと出会ってしまうときがある  あるいは私は  一生を棒に振ったのかも知れないが  それとて同じ人生だ  君もいつの日か  そんなものが見つかるかも知れない  その時が来るまで  この石を持っているといい  君の代わりに  この石はいつでも  雨を降らせ続けるはずだ」 男は席を立ち 娘に握手を求めた 娘は少しためらいながら 男の手を握り返す 手を離す時に見えた 男の手のひらは 紫に染まっていた 年がら年中 この雨の石を 握りしめていたからだろう 少女は自分の手のひらも 紫色に染まってはいないかと 男に気付かれぬように確認したが 手のひらは桃色のままだった 男が去った後 喫茶店のテーブルで 娘は雨の降る石を眺めていた 降り注ぐ雨粒を見つめていると 石の中に別のものの影があることに気が付いた 街だった 高層ビルや平屋の民家や 町工場や駅や教会 大小さまざまの建物が 雨にうたれているではないか それは娘が生まれた街のようでも 未だ見知らぬ街のようでもあった とうに冷めてしまった紅茶を飲み干すと 娘は席を立ち 店を出た 外ではいつのまにか 雨が降り始めていた 娘は傘を持ってなかったが そんなこと気にもせず 雨の降る街の中へ消えて行った ---------------------------- [自由詩]自分ばかり/やまうちあつし[2017年12月16日7時27分] 真夜中に目を覚ますと キッチンのテーブルに誰か座っている 見れば自分ではないか 寝ないのか、と問うと、寝るのか、と答える 最近どう、と問うと、知ってるくせに、と答える 仕方がないので向かい側に座り 近所の噂や仕事の話 晩のニュースの話題から最近読んだ神話のことまで 話がどうもかみあわないや 昔のことを話すと顔がこそばゆい 未来のことを話すと体がこわばる これが自分なのだからよわってしまう これが大人なのだからまいってしまう 二人で一杯のホットミルクを 真っ白い液体が真夜中に落ちてゆく 寝ないのか、と問われるので、寝るのか、と応じる 布団に戻り添い寝する ぽん、ぽん、と軽くあやしているうち眠ってしまう 目覚めると朝が来ていた キッチンのテーブルには ミルクを飲んだコーヒーカップ 目ざとく見つけた娘らに 自分ばかり、と笑われてしまった ---------------------------- [自由詩]秘密/ただのみきや[2017年12月20日19時22分] 少年は秘密を閉じ込める 美しい叔母のブローチをこっそり隠すように 部屋に鍵をかけ 歩哨さながら見張っていたが 閉ざせば閉ざすほど膨らんで行く 妄想は 秘密を太らせるのにはもってこいの餌だった ――もし知られたら     知ってもらえたなら きっと やがてすっかり発酵 ふかふかに焼き上る 部屋ごと膨らんではち切れそう 口を開くたび 甘美で 淫靡な  秘密が匂い立つようで ああ鼓動!  内側から激しく叩く ――鍵?  つっかえ棒だけ そう 扉を開けることができるのは 世界でただ一人 閉じ込めた自分だけ そんなに時間はかからなかった 秘密は 共有された秘密となり 公然の秘密となり  ガスのように薄められ 消えて行った ひと時のカタルシス 少年の心はしぼんだ風船のよう 大切なものを失った というより なんてつまらないものを仕舞い込んでいたのかと いまいましくて 寂しかったから 人前では口角を上げて見せた なにも答えない時の父のように               《秘密:2017年12月20日》 ---------------------------- [自由詩]「――?3」に寄せて/ただのみきや[2018年1月17日19時51分] しようとして したのではない しようとしないからできること いたるところに仕掛けた笑いの影で 逃げたのではなく逃がしたのだ あなたはあなたを 作品の中へ なに不自由なく澱んでいた 水槽から飛び出す夢を見て 夢の中 金魚は死んだ 抗う術もなく幼い頃に嵌められた枷 黒く魂を鬱血させた冷たい束縛から 解き放たれ 幸福の最中 遺言を残して こころのままに愛し 世界を自由に泳ぐ あなたの娘こそ あなたのメタファー 逃げたのではなく逃がしたのだ そうしてあなたは作品の中から 今 わたしのこころ 考えるより 想うより  もっと 深いところ 春へ ああ 夏へ 激しさを増して往く 衝動――姿なき魚のふるえ あなたは泉の女神のよう 失くしたものを再び        《「――?3」に寄せて:2018年1月17日》 ---------------------------- [自由詩]突き詰める姿勢/狩心[2018年2月22日15時08分] ぬるいぬるすぎる もっとだ もっと高く 死ぬ直前まで 恐れる事無く 突き進めない者達に 創造を語る権利はない 光る指先 弾けるシナプシス 迸る内臓の噴水 意識を評価するほんの一滴の理性 追い駆けて この空間はこれでいいのか 掴み取る体験の意義について 戦う動機と息切れについて 途中下車のホームでひっそりと佇む死神について 大儀の為に欲望に負けないように 自分の限界を定めないように 与えられた運命は自分の為だけではないという事を アクションの為の忘却は罪ではないという事を 汚れてもなお皮下の原決が見えるように磨き続ける事を 磨き続けた断面が鏡のように光を反射して壁に反射して 人というものを倒れさせても 血液型や価値観の違いや立場を超えてなお 一瞬の判断の迷いもなく輸血できる事を 臓器移植できる事を 体の外側にオーラのように 死者達のレクイエムを陳列できる事を それを体中の百万の目で多角的に抽出駅的溶解する事 ---------------------------- [自由詩]一息に/じおんぐ[2018年3月3日20時49分] 炭酸水を一息に飲んだ 目を瞑って喉をひらいて 爽やかさを求めたのに 圧迫感しか残さなかった 未来は楽観的なのだろう 心配は何もないのだろう その感情は罪なのだろう 現状が善後策なのだろう 炭酸水はいつの間にか 喉まで上がって空気と混ざって 堪えたけれど床に溜まった 必死にすくってグラスに戻した あとどれだけ飲み干せば 全部抜けてくれるのか 慣れたくはないが 軽やかにわだかまりなく ---------------------------- [自由詩]まあ、しょうがないか/よーかん[2018年3月7日22時00分] 豊かな香り いつもの珈琲 70g 数字は 合っているんだろうね 寸分たがわず 日本がなんだか イヤになるとき ないですか? ---------------------------- [自由詩]困ります/うめバア[2018年3月9日9時30分] 困るんです 私の夢に現れては 困るんです 迷惑です ええ、そりゃあ昔は、好きでした あなたのことが、好きで、好きで たまらなかった そういう時期もあったとさ お願いですから、下世話な会話にはなさらないで絶対ダメ マルデなかったことですよ 好きだった? とか チャンチャラおかしいわけですよ 普段、あなたのことを思い出すなんて 滅多にないし、ええ、ありませんとも 悲しいけれど、本当です 洗濯物を干す瞬間、ふっと・・・ とかないしそんなの また下品なこと考えているでしょう、あなた アドレスとかメアドとか消え失せてますし いえ、最初の、一等最初のころは 手紙、紙の、あの手紙でした 切手が足りず あなたの母上が不足金額を郵便局まで払いに行った いえ、ですから懐かしんでなんていませんったら 今はね、若い人なんて、ひゅっとLINEでね 飛ばしちゃうんでしょうけど そりゃね、「好き」の2文字を伝えるために その2文字だけは使わずに いろいろしました、知りもしない音楽とか小説とか ええ、確かに、それで随分と造詣が深くなりましたよ でもね、それはそれです だからね、甘美な思い出、さらに甘ったるくして 思い出が美しいことに乗じて調子にのって ヘラヘラヘラヘラ 若いときの格好のままで 時には年を取ってみたりして 私の夢になんて 二度と現れないでほしいんです 25年、いやもうじき30年です あなたのことは忘れたんだ でも あの春の桜 きれいだったな ---------------------------- [自由詩]冷蔵スマホ/イオン[2018年3月10日10時17分] スマートフォンは 冷蔵庫を目指したのだ 一定の温度で保存ができて いつでも取り出せる 冷凍食品で時間も短縮できる 情報の冷蔵庫を作りあげた しかし冷蔵庫に 人間を閉じ込めたら死に至る スマートフォンに 閉じ込められた人間はどうなるのか 過ちが保存され 冷やされた情報に囲まれた庫内で 誰かに食べられるの待っている 内側から開けられないから 半開きのままで使うのが正しい ---------------------------- [自由詩]a decade/笹子ゆら[2018年3月11日22時35分] 十年前のわたしが知らなかったのは、ほんとうにひとは死ぬのだということ 息は絶えるし、姿はみえないし、さよならはいってくれません 十年後のわたしも知らないのは、ほんとうのひとの愛し方 結局こんなわたしのまま、のらりくらり生きるはめになって どうにかこうにか、時々波のように押し寄せる淋しさをやり過ごしています ま、寝ればなんとかなるけど 十年前のわたしと十年後のわたし いろいろ、まあまあ、だいぶ違いますが 変わらないとこも多々、あんまり無様で ねえなんだか、へらへらするわね ---------------------------- [自由詩]酒神ゴーシェ/腰国改修[2018年4月9日21時55分] 酔えよこのやろう 歌え張り裂けるまで カード飛び散る煙城の下 叩け夜明けまで 浴びよ金の酒 皆が見ている幽霊船 堂々と人間海を渡るんだ 手を出せ殴り倒せ 吐けよ言葉 裏腹の果実を降らせよ 狂乱の夜と盃と聖典 掻き鳴らせこころ 弦が切れても 天を睨んで弾き続けろ ---------------------------- [自由詩]愛や情けを書けば良いそれは君らの仕事だから/ただのみきや[2018年4月18日21時27分] 罪人を眺めている 誰かの腹の中のように風のない夜 迎え火が目蓋の此方 灰に包まれた心臓のよう ゆっくりと消えて往く ただ罪人を眺めている 正義については微塵も語らない なにかを殺し続ける者 触れる者を癒すという 聖人のその影すら注意して踏まないように 地上を流離う者 むしろ聖人が聖人であるために乖離された暗い影のように 血だるまの夕日を背負い 黒々とその身を投げ出した 降り注ぐ石の雨 正義を吠える犬の群れ 飾花された遺体のように 罵倒に埋もれ見えなくなって ニュースは終わる ニュースは始まる 正義は聖処女のように罪人を孕む 人類最後の一人まで そこに奇跡の果実はない 年老いたエバの酸い乳房を咥え泣く者 振り上げられた楽天家の鈍器が 拍手喝采振り下ろされて安堵する所 燻製にされた聖人の遺骨のような 罪人のハミングが耳に降る 血の混じった霙のように好きだったと 頭痛が言う ここから出せと      《愛や情けを書けば良いそれは君らの仕事だから:2018年4月18日》 ---------------------------- [自由詩]しあわせ/木屋 亞万[2018年4月22日10時18分] しあわせが雲のように ふわふわと私の周りに漂っている 今しあわせの中にいるなと 気にしなければ 気づかないくらい何気なく たぶんそのしあわせは 閉じ込めておくことはできなくて いろんなところでふわふわと しあわせで満たしているのだけれど あちこち出歩き探しても 全然出会えぬ日もあるし 一日部屋で過ごしても 近くに感じる時もある しあわせは空のよう しあわせは雲のよう しあわせは空気のよう しあわせは水のよう しあわせは温度のよう 時にうたの中にあり 時にパンの中にある しあわせになろう しあわせでいよう 晴れの日も雨の日も どこにでもある しあわせ ---------------------------- [自由詩]温度/氷鏡[2018年4月27日4時28分] 内に冷たさを保っておけ あらゆる熱を相殺し 暴走する思考回路を抑え付ける そういった冷たさを保つのだ 同じ作業を繰り返すだけの機械に 下らぬ虚栄心をインストールし つまらぬ敵意を見出させる そんな熱など持つべきではない 熱など捨ててしまえばいい できれば若くあるうちに それが駄目なら、雨の降りしきる中に 自らを置いておくといい そうすることできっとお前は ああなんたる事かと後悔するだろう 永遠の冷たさに近づいていくことへの恐れよりも ただの寒さがよっぽどお前を苦しめるのだから ---------------------------- [自由詩]恋するペンギン/umineko[2018年5月6日23時35分] 氷の上を ボクは滑る つーっとおなかで 海へドボン、だ 好きになったら ことばにしなさい それが恋の正しさなんだ、と 雑誌は教える ポパイだったか スコラだったか おなか滑りに夢中になって オトナゴコロが遅れたボクは 今頃ようやく ことばにできた だけど ことばじゃダメよって君は言う ことばは軽はずみで どこにでもあるから ボクは困惑する どうする どうするよ 金品?それじゃ辞任でしょ 実行?それじゃ記者会見 ことばは無力だ ことばは 氷の上を ボクは滑る つーっとおなかで 海へドボン、だ 恋は難しい ボクにはよくわからない ねえ 一緒に滑らない? つーっとおなかで 君にドボン、だ ---------------------------- (ファイルの終わり)