千波 一也のおすすめリスト 2008年1月31日12時57分から2008年2月12日1時26分まで ---------------------------- [自由詩]盗賊/AB(なかほど)[2008年1月31日12時57分] 田舎郊外の空き地に パチンコ屋が建った また建った 今度はフィットネスが建った あそこにも建った 葦の原には ヨットハーバーもできるって もう 石拾いをする洟垂れ小僧も しろつめくさのりんごちゃんも いらない国なんだってさ どこまでも続きそうなきれいな道路を走る どこまでも続くわけもないないことを知っている 子供達が窓に額を押し付けることもなくなる そうしているうちに 昼でも夜でも 消えていくものがある fromAB ---------------------------- [自由詩]君が悪いんだ/朽木 裕[2008年1月31日23時33分] 背中が無防備すぎるから 思いっきり蹴りたくなるんだ 気持ち良さそうに伸びをするから ボディーがガラ空きだぜって 思いっきり殴りたくなるんだ 平手打ちで頬にもみじ作りたいなぁ 死角から正拳突きでびっくりさせたいなぁ 顎掴んで寝言云ってんのはこの口か?って云ってみたいなぁ びしょぬれの髪引っつかんで頭持ち上げてみたいなぁ ヒールで手の甲ガリって踏みたい ハイキックで脳震盪おこさせてみたい 君にしてみたいこと たくさん 実はかなり実現してたりして 全部全部 君が無防備すぎるのがいけない 好きなんだから仕方ないよ こんなにも好きにさせた君が悪いんだ ---------------------------- [自由詩]花時計/はな [2008年2月1日1時18分] ころがる しずかな すいへいせんの上 あさ お茶をわかしながら てのひらで 背骨をなぞった 恐竜のように そらへとつづく梯子の ように あなたが つづいている 東京にふる べた雪が たんぽぽのわたげになって 低く 飛んでいく 見てしまって、あわてて目をそらして 鼻先に なつかしいにおい たたみの上で いたずらする子供みたいに しなやかな目 どうしてここにいるの? ながれてきたの? 少しずつだから きっとまだ気づかないけれど あなたのゆびはかろやかに 規則正しく 時をきざむ つつまれたふゆが 送りだされる あたしもすこしずつ ひらいては とじて あふれないように ふっとうした薬缶を かたむける ---------------------------- [短歌]日常生活でさりげなく笑うことを念頭においていろいろな人と会話をしていると、それが積み重なって、「いつ.../ピッピ[2008年2月1日3時10分] タイトルが半分くらい省略されてしまった。 日常生活でさりげなく笑うことを念頭においていろいろな人と会話をしていると、それが積み重なって、「いつも控えめにだけどよく笑っている、感じのいい人」というイメージが定着していく。好きな飲み物はコーラフロートで、黒と白が混ざり合うのになかなか灰色にならないのが面白い。氷をがじがじ齧っていると、「それ辞めた方がいいよ」と黄色のワンピースの人に注意される。昨日というものを振り返らなくなってから暫くたつけれど、何故だか曇り空だった過去がまぶしく感じられる。ありふれた日常を妄想することは、ありふれた妄想なのだろうか。 さよならと顔も見ないで言い合った時のあなたの笑顔が好きだ 禿という漢字は少しかんむりの部分を薄くするべきである 太陽のレンズをカメラに嵌め込んで月が主役の映画を撮ろう たった今火星が滅亡したことをただなんとなく感じ取ってる 君の手はバカラで全部スッた時に感じる冬の風の温もり ハメ技から昇龍拳で死にたくて今九階のビルの屋上 昨夜からハッピーターンの粉ばかり降っている北関東地方 ここに出てきてる言葉は2008年生まれの言葉 どうぞよろしく ---------------------------- [短歌]もう、これで許してくださいという寒さ/たにがわR[2008年2月1日10時27分] もう、これで許してくださいという寒さ。二勝三敗、春が遠のく 見上げれば雲が寒さに蓋をして花はなくとも忍び寄る春 今日という朝の晴れ間におはよう、と、たぶん私は明日(アス)も生きてる  あふれだす光に惹かれ手を出せば窓は冷たく冬だと気づく 起きよう、と朝を知らせる青空に「やだよ」だなんて言ってみる冬 ---------------------------- [自由詩]うさぎバトン/あおば[2008年2月2日3時02分]                       07/07/15 うさぎバトンがまわってきたので、日記を認める。 ぴょんと跳ぶのは、ウサギ。 ひょいと隠れるのは、キツネ。 猫は、炬燵で丸くなる。 落ちがないのでバトンを空に投げ上げて飛んでる姿を記録する。 はじめてバトンを見たのは、1958年5月に開催された第3回アジア大会の時で、殺風景で素朴な校舎にも、近くのグラウンドから、ツワラーを先頭に、ドンドコ、プカプカ、繰り返し練習する楽隊の行進曲が遠慮無なく飛び込んできて、授業が少しも耳に入らない。 放課後、グランド脇に佇んで、格好良いバトンの動きと、ターバンを巻いた逞しい鬚面の男たちの行進を暗くなるまで眺めておりました。 あれから50年、日本の国も美しく賑やかに整えられて、ツワラーはおろか、バトンを回すチアガールの活躍もめざましく目を見張るようです。 ---------------------------- [自由詩]うたかた/ゆうと[2008年2月2日18時24分] あなたの肩にもたれかかった ら ぱたり という音を立てて あなたは倒れてしまった とても軽い音だった ソファの上に静寂が流れる 誰もいない わたしひとりがここにいる 現実 という やけに鉄臭い場所で 息をしている 吸って 吐いて 二酸化炭素を撒き散らしている 頭の中で音楽が鳴り出す とても悲しい歌みたいだ 気がつくと涙が頬を伝っていて 手で拭っても まるで意味がないくらい 次から次へと涙がこぼれる ああ 春があなたを迎えに来る わたしの前を通り過ぎて ふわりと包み込むように u ta ka ta ... 眠れ眠れ眠れ やすらかに 眠れ眠れ眠れ さいごまで 夢を見ていよう 一生なくさない 夢を見ていよう そしてまた 逢いに行くよ ---------------------------- [自由詩]野辺送りのストーン/月見里司[2008年2月3日11時52分] たとえば、亡骸を誇らしげに焼き払うような 上手ではない水切りの音 整備された河川敷と、焚き火の跡が ただそれが魚たちであっても 火葬場が、通学路沿いにあって 人を焼いているときはグレープフルーツの匂いがすると 噂だった 南風の吹いている日は柑橘の、渋いような酸いような香気が 坂の下から届くような気がした 授業中に教室の窓を閉めて、 立ち昇るかもわからない煙の方角を眺める 多くの足音は、来た道に染み込んでいて まっすぐ、前を見て歩きながら祖母が唱える和讃を 知らなかった 同心円を繋いでは千切る 水切りの石が、向こう岸に届くほどに 魚の群れから一尾、離れていく //2008年2月3日 ---------------------------- [自由詩]空のうさぎ/umineko[2008年2月3日13時24分] 甘噛みする うさぎ 声をあげない やさしさは 痛み 容易に予言する はねを広げる うさぎ いつしか 鳥を真似て さみしくてさみしくて 手のひらを閉じた ささやきで 伝える 伝えようとする ここでないどこか 終わりのはじまり それでもいいやって 空につぶやく あるいは 伝えようとする ---------------------------- [自由詩]かえる ほとり/砂木[2008年2月3日22時50分] 暮らしてゆく かこいの上 眺めると流れがある 土から  かえるためだけに 乞う 涙ではない 吹きなれた風の足が ところどころ 無くした 甘いくぼみに にゃーと泣く 逆らわずに 避けられずに 朽ちていった笑みのほとり かまわずにおいていって 約束だけ残して 水脈の途切れた土地の 枯れない孤独 包むものもなにもないけれど 眼を閉じて 囲う夢の街 眺めると 眠る川 流れる 真昼 ---------------------------- [短歌]冬午/木立 悟[2008年2月4日19時55分] 燃えつづけ光の穂になる音になるこがねもとめるけだものになる 穂の陰に白と鉛のうたがあるまだ見ぬ夜へまだ見ぬ海へ 曇りから水と光が去るたびにひとしく遠くしあわせも去る 雪の影見えないものの前にある便りのように便りのように 音が溶けかたちとなって地に刺さりはばたいているはばたいている 暗がりを静かに覆う暗がりの目をつくる枝赤く鳴る枝 冬空が冬も空もみな捨て去って降りそそぎくる抜け殻の色 陽の声の決して触れ得ぬ重さたち指の上の指あがないの指 ---------------------------- [短歌]あれは春じゃない/しろいろ[2008年2月5日8時03分] こめかみにあてたガラスのピストルの引き金を君に引いてほしいの さびしさに湿った獣を飼っている、解かれた鎖、と投げ出した足、 両親の祖父母の曾祖父母の骨でできたリコーダーを吹く小学生 この部屋は割れた記憶が散らばって切った素足をまだあいさない ただひとつ残された歌のタイトルは改行するうち見えなくなった 交差するエスカレーター緩慢なやさしさはいつもすれ違うだけ 間違って指さして、あれは春じゃない、低温火傷の白昼夢だよ、 ---------------------------- [自由詩]みかん/乱太郎[2008年2月5日13時02分] みかんの皮をむくと いくつかのいのちが並んでいる 土にまけば また みかんといういのちが 生まれていたにちがいない くやしがっているだろうか 人の手が汚いと 叫んでいるだろうか 人の唾液は汚いと 怒っているだろうか 人の世界に土はないと みかんが見ているもの 人には見えない みかんが話していること 人には聞こえない みかんが好きなもの 人には分からない 繋がれることのない間柄 遠い恒星のように 今 テーブルの上で 最後の光を放って みかんをいただこう たまたまここに居合わせた みかんの甘い汁を 僕のいのちを繋げるため 土に還るまで ---------------------------- [自由詩]ノート(ひとつ しるべ)/木立 悟[2008年2月5日20時17分] いつかどこかへ 去るときが来て 道を奏でて 道を奏でて 奇妙にしばられた 音をひとつほどいて 粒のかたちに返し 行方を見守った ひるがえる午後の 背のほうから冷えて とまどいとおそれ 変わる標 鉄と鏡に映る鉄 ひとつのはざま ひとつの声 かたちはひとつの光をなぞり かたちはさまようものとなる うたの跡があり 道になり 水のなかへゆく 水のなかをゆく 海辺の火と羽 光のひとさじ 真昼を灯し 夜へ至る また影を残してきた 見えないものたちの足もと 轍の交差 空を編む標 道が聞こえ 道を去るとき こぼれ落ちる行方の群れは 響きを響きにたなびかせながら 遠去かる背にたたずんでいる ---------------------------- [自由詩]地動説な雑草で/たりぽん(大理 奔)[2008年2月6日0時13分] ひとめぐりする 違いについて 考えてみようと思うけど 夕日が沈むのか それとも 僕らが遠ざかっているのか わかるものか 薄っぺらな紙も透視できない 僕らには 粘土層を貫いた深い根が見えなくて たんぽぽの綿毛ばかり気になる   綿毛は行き先すら知らず旅立つ   それは勇気なんかじゃなく   たんぽぽ 僕たちはそう在れないね   たんぽぽ 僕たちはそう居られないね ---------------------------- [自由詩]春告げ鳥/umineko[2008年2月6日0時15分] なぜすいません、なんだろう 雪山でロストして 大捜索して助かった 禁止区域に入ったからだ つつしめ 慎め 行動を 識者たちは憤る 政治の嘘には絡まぬくせに なぜすいません、なんだろう 生還したのだ ありがとう、が普通だろう 仲間たちに 愛しい人に 伝えるべきは感謝だろう 生存より 重いものなどなにもない あきらめず 次の一歩を探るのだ あやまるな 胸を張れ 生きて還るその意味を 伝えよ 世間様は長い掟で 巻かれゆくのは生き抜く知恵で 下げた頭が机に触れる その 奇妙な光景を 焼き付けろ 生きることを 謝罪せざるを得ない国でも ありがとう、と 私は告げる あなたが ずっと好きです、 と   ---------------------------- [自由詩]ルチウスのヴァイオリン/草野春心[2008年2月6日12時20分]   森に歌え   回廊に響け   ルチウスのヴァイオリン   少年の痛みを   世界にはびこる欺瞞を   ルチウスのヴァイオリン   まちがった正しさや   反吐をもよおす偽善を   小さな頭に詰め込まれたまま   薄氷に消えたいくつかの命   その前で人は立ち尽くす   百年立ち尽くす   魚になって   飛沫になって   少年の日は戻らない   恋を知って   その苦味を知って   少年の日は戻らない   ルチウスのヴァイオリン   苔のうえに寝転んで笛吹き   枯れ葉のノートに詩を書き   ルチウスのヴァイオリン   泣いているのか   泣いているのか (着想:ヘッセ「車輪の下」より) ---------------------------- [自由詩]詩という食べ物/新守山ダダマ[2008年2月6日16時41分] 食べ物には嘘が満ちている でも詩には嘘がない 詩人が嘘つきでも 詩は嘘をつかない いや嘘か本当かなんて本当はどうでもいい 嘘でもいいから希望を 与えるのが詩だ 言葉はどんな食べ物よりも深い味わいを人生に残してくれるから 深く深く噛み締めなければいけない それでも心にゆとりが出来なければそれこそ偽物だ 力が湧き上がるような言葉をまごころを込めて丹念に作る その気持ちがあれば誰もが詩人だ 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光と影に満ちているから きみが偽物だってかまわない ---------------------------- [自由詩]ミッドナイト・レース/よしおかさくら[2008年2月8日9時20分] 月に息吹きかけて 闇を走らせた 自転車を得意気に漕いで 君が笑ってる 雲を引き連れるみたい 王様は君 坂道の巧妙なブレーキで 王座を奪い返して いつもの曲がり角 直線に出た 『速さのレースなんて飽きたよ』 うそぶいて フライングに近い まるまる坂まで走りきれ 君の悔しそうな顔を見るまで 闇に息吹きかけて 霧を作った 自転車止めて 笑ってる 街灯の白い光 番犬の吠える声 ちいさな 十字路 ---------------------------- [自由詩]銀河 ★/atsuchan69[2008年2月8日14時47分] 誰の手にも負えない お前たち自身の肌寒さが 漏れ吐く息の、 ごくまぢかに訪れて 今日もくたくたの ダンボールと引換えに アレやコレやすべてを燃やし、 煙りながら一日が終わる  小賢しい、  世の、  いっさいを棄てた  なれの果て それでも此処には ガラス瓶の底の数滴の酒と 人と人とを罵る、 災いだらけの口がある 赦しがたい、 夜の沈黙の所為で お前たちは今夜、 この場所に眠るのだ 高架ごしに覗いた かがやく星々を仰いで ――おやすみ、 ‥‥銀河。 立去るぼくの声も白いよ ---------------------------- [自由詩]アースシャイン/夏野雨[2008年2月8日19時46分] 一秒ごとに とどまる 時間が 抜殻として 輪郭を残し なだらかに 連なる 呼吸と 思考 いくつかは保たれ いくつかは置かれたまま ふりむけば うすい 半透明の 殻が ひとまきの 重なった レースの 模様のようだ 世界がいつもあたらしく目覚め続けるならば 受けわたされる熱は 熔けた 鉱石の 直視できない橙色で 空気にさらされ 表面に 皮膜を囲んでは こらえきれず こぼれる そのあかるいところ ぼくたちが 居る、とする 中心から 落ち続けて呼び合う 軌道 月は 毎秒0.136cmずつ 地球に落下し続けているが このふたつの天体が 衝突せず一緒に飛び続けられるのは 互いに引き合う力だけではなく 自らが目指した方向へ それぞれ進もうとする力が 同時に働いているためで 遠心力と それを呼ぶならば ぼくたちが 互いの姿を 見つめ続けるためには おのおのが ひとしく 生まれ持った孤独を どこまでも保たなければならない みあげる 月の 隠された あお にじんで ひかる アースシャイン 見えるだろうか 見えるだろうかそこから 満月より ずっと あかるい 碧が 水をたたえた ぼくの やわらかな孤独が ---------------------------- [自由詩]確かめもしないで/北野つづみ[2008年2月9日10時18分] 雪 と思ったのは、鳥の羽だった くるりとやわらかに丸まった羽毛が 風で、路上に転がって ここで何が起きたのか知らない 鳥の姿も、形も無い アスファルトには点々と わずかな血痕が残されているだけで 早朝 両手をポケットに突っ込んだまま 歩調を緩めるだけで 立ち止まることはせず うわごとみたいに想うのだ 世の中は 素通りすることが多すぎる 路上で 街角で 交差点で 見上げられる空の広さは ほんの少し  そこで本当は何が起きているのか 確かめもしないで 二〇〇七年十二月十五日 ---------------------------- [短歌]穴の夜に/石畑由紀子[2008年2月10日2時09分] 穴の夜に可憐な花を引きちぎる 心の底から憎まれたくて 『やさしさ』という字はとても丸いのでやわらかなものと誤解していた ワンピースに西のワインがふりかかる とれない染みに焦がれど、遠く、 切り裂いてはくれないのだね 生肉は吊るされたまま血だまりだけが 白線のない理由がやっとわかった 飛び込みたかった電車は来ない 10時10分25秒 アナログは美しいまま孤独死をして 、こくり、石油ストーブが喉を鳴らし私の飽和に寄り添っている ほどけない知恵の輪ひとつポケットに入れて このまま歩いてゆくよ 誕生日に切り花をください、燃えて、枯れ、何処にも還らぬ覚悟のための、 ---------------------------- [自由詩]実験室37−C/塔野夏子[2008年2月11日13時12分] 時折天井から記号が滴る 灰色の水槽の中には青白い都市が浮遊している 祭壇めいた台の上で 少年はくる日もくる日も 華奢な実験をくりかえす 時々淡いひとりごとを呟きながら ほのかに漂う薬品の匂いは 図書館への道沿いに立つ樹々の 名前を知らない白い花の香りに どこか似ていると思いながら 時折部屋の隅から隅へ流星がかすめ去る プレパラートには遠くの丘の景色が挟まれている ---------------------------- [自由詩]私信/佐野権太[2008年2月11日16時16分] 新しい雪の降り積もった 静かな屋根やねが 水平な朝に焼かれて 私の底辺をもちあげる 増幅する光の波が うずくまる私の手をとり 青い影を洗う そうして 裸にされてゆく、わたし 何度も生まれ変わる * 不均衡な手足に戸惑い 憂うときも 季節は小さく流れて 樹々たちは 萌え出ずることを忘れない 雛たちは 目蓋の裏側に漂う 金色の繊維を追いかけ やがて 思い思いのかたちに 羽を広げるだろう 柔らかくはりついた 前髪をかきあげて どうか あの人が笑えますように ---------------------------- [自由詩]そろもん(旬の歌)/みつべえ[2008年2月11日20時03分] ほとぼりがさめるころ 妻子の留守を みはからって 鬼がかえってくる おまえもおれの だいじな友だち からだにめりこんだ 豆をほじくりだし つまみにして 酒をのみかわす ---------------------------- [自由詩]もくれんのくも/たりぽん(大理 奔)[2008年2月12日1時26分] 誰か、などとごまかすのはよそう あなたを、思うときの空だ 湿った雪雲が切れていく 灰色の向こうに広がる薄い青 きっと強く、遠くのあなたを想っている 灰色と青色が近いのは空のせいだ   往復切符は買わない   同じ場所にしかかえれないから   切符も買わずに飛び乗る   生きるとか   死ぬとかじゃなく   辿り着くための旅だ 空も雲も月も照らされるものだから あなたを想う心に似ている 照らされて無様な影を這わせる この胸の奥の 満たされることがない風景 薄い青色の空には きまって木蓮のかおりがする (それは春の幻想) 南に流れていく 湿った雪雲の輪郭をなぞって 途切れとぎれに 思い出させる 僕は振り返らない 時折の気配にふり仰ぐだけだ そして照らされた空が 湿った雪雲を流していく ---------------------------- (ファイルの終わり)