yakaのおすすめリスト 2008年6月25日19時19分から2013年7月7日10時33分まで ---------------------------- [自由詩]姉/小原あき[2008年6月25日19時19分] 姉は鏡を持って出てきた お母さんは? と聞くと 買い物に行った と言った 彼女は看護士をやっていて だから、医者とは絶対に結婚しないそうだ まだ、結婚に可能性のある姉が 希望をひとつ 手にしたはずのわたしには 懐かしくもあり 羨ましくもあった 夜勤明けなんだ と言う姉は 右手に鏡を持ったまま 玄関に立っていた 客がわたしだと気付いていたのだろうか 身なりを気にせず 眉毛が半分無くなった顔をしていた たぶん、これから どこかへ出かけるのだろう 彼女の持っていた鏡の中に きちんと眉毛の書いてある よそ行きの姉の顔があった その顔は知らない顔だった わたしの知らない世界に住む姉の顔だった 眉毛の半分無くなった顔は 見慣れないけど わたしの知っている世界に住む姉の顔だった なんだかほっとした 彼女はわたしの前では わたしの知っている顔でいてくれる 鏡の中が揺れる その中に住む姉が しきりに時間を気にしている だから、わたしは 持ってきた大量の玉ねぎときゅうりを置いて じゃ と玄関を出た うちに帰って 自分の鏡を見てみた そこには 畑仕事で少し日焼けをした 素顔のわたしがいた もう一度 あの時の 知らない姉の顔を思い出してみる それは 懐かしくもあり 羨ましくもあった ---------------------------- [自由詩]三時間後/あおば[2008年7月1日0時12分]             080630 真っ暗な中で 三時間毎に目が醒めて ぼんやりとする 生き返ったのか それともまだ眠ったままなのか 活動すべき時は今なのか それとももう過ぎたのか 考えてもわからない 枕元のリモコンスイッチ ポチッと押して 明かりを点けて 掛け時計の動きを目で追った 秒針が 動いている 長針と短針の区別は定かでなく 時刻は不明 メガネを探して 長針と短針の区別をつける 時計の針を信じている 三時間が経っていて もうじき夜が明ける 三時間後には 町中が動き出し 鳥も虫も気配を示す 自動車も押し寄せて 三時間後には 私も 歩いているだろう 予測を信じて 明かりを消して 眠りについたが 三時間後の天気予報を聞くのを忘れ もう一度目を覚ます いつのまにか 三時間後が今となっていて 外を見ると 鵜の目鷹の目と 目が合った 歩いているはずの私が まだ眠りたいと思っているのを 監視しているのかと 少し怖くなる 時計の針は 顔を洗う猶予も与えないが 髭を剃る猶予も与えないが 冷たく無視する 顔を洗い 髭を剃って 水を一口飲んで 外に出て 鵜の目鷹の目を 退治する 三時間後には 腹が空いて ふらふらになり 腹の虫が鳴いている はずである ---------------------------- [自由詩]化学/たもつ[2008年7月3日17時26分]   白地図に雪が降り積もる 数える僕の手は 色のない犬になる 古い電解質の父が 真新しい元素記号を生成している間に 妹は今日はじめて 言葉を書いた それを言葉だと信じて疑わないので 僕は薄い溶液に嗚咽しながら ひとつひとつ添削をして あきらめていく 幅広の机から化学が溢れ出して その向こう、暖かな場所では 母が微笑みを絶やすことなく 世界を切り刻んでる   ---------------------------- [自由詩]等身大/千波 一也[2008年7月22日17時34分] ありのまま、 あるがままの姿であれと ひとは口々にいうけれど  途方もない約束を  捨てたくなくて  潰れてみたり  飾りのつもりが  汚れてみたり  だれかが痛まず済むように  代わりに深く  傷を負ったり  やさしさの途中で  うそに染められたり 小さなおのれを脱ぎすてたくて 愚かなおのれを覚悟のうえで ひたすらつよく はまる弱さは ありのまま、とは 呼べないだろうか  ひとりの力は  ほんのわずかだ  それゆえ狭い真実だ  ならば、  その檻を打破しようとする  叫びこそ  ひとの、  けものの、  本質ではなかったか  夢まぼろしに  ひれ伏すことなく  紛れることなく 不器用でいい 不自然でも、いい 変わろうとする流れのそこへ その身ひとつで 立ち向かえ 等身大の名に挑め ---------------------------- [自由詩]おどる宝石/千波 一也[2008年7月29日13時45分] 散らばりながら 宝石は その名を きれいに  縁取って なお美しく ひとの手を とる 散らばって ゆく こころのそとで おどりはいつも 鮮やか だ 手 を逃げるのも 手に 逃げる のも 巧みな飾りに 値する それら、 あまりに自由な ほこりの ほのおに 魅せられて あお られるのは 星座のかたり 散らばりながら 宝石は 傷つくための 傷から 離れる ただ美しく ひとの手を とり ---------------------------- [自由詩]羽追い人/千波 一也[2008年9月19日23時36分] わたしから こぼれるものは いくらでもある けれど わたしはそれを覚えない まるで 狭い空き缶さながらに 空をあおいでは たやすく空に うばわれて ゆく わたしはいつも 満たない けれど おそらくそれが 乾きのめぐみ  ほら、  水面のうまれる音がする わたしから はがれる願いは限られていて 透きとおるさかなの うろこのように 誰かがそれを 身につける そして、 わたしたちは受けとめ合う 互いにみえない 互いの背中で 風の行方を 流れ合う ---------------------------- [自由詩]羽負い人/千波 一也[2008年9月25日14時48分] 沈んで いかなければならない そうして深く 呼吸にもがいて 戸惑わなければならない 夢と そっくりなものたちは やはり、夢以外の なにものでもない だから、 誰かの窓に 枠組みなどを 探してはいけない そういうことを 探さなければならない 広く 傷ついて あかるい癒しを 渡らなければならない わかりやすさは 思いのほかに難しいのだ 生まれもった手のひらに やさしい名前を 載せるため、 風を 風のつよさを 握らなければならない 頼りなさを よりどころにせず 捨て置きも せず ---------------------------- [自由詩]蟻をおもう蟻/千波 一也[2008年10月1日16時31分] 蟻が わらじの死骸を 運んでいく 気持ち悪い、とか すごいちからだ、とか そのさまに向ける言葉は まったくの自由だ だがそれは 彼らにとって とても重要な生命の営みである 蟻が運ぶものは 確かにひとつの死ではあるけれど それゆえにこそ まったく新しい 生命でもある  わたしはこうして思案に暮れて  きっと明日には  忘れるだろう  だがそれは  仕方のないことだ  生命の連鎖の仕組みのなかでは  まったく許されることだ  明日が来たなら、  わたしのおもいの端っこを  誰かがきっと見つけるだろう  みっともない、とか  残酷だ、とか  まったく自由に  おもうだろう  そうして次の日、  必ずかけらをこぼすだろう 蟻が ちょうの死骸を 運んでいく わたしのなかに点々と 蟻をおもう蟻、が 広がっていく ---------------------------- [自由詩]夜の音/北野つづみ[2008年10月7日13時22分] カチリと電気を消す音 布団を直す音 眠れないと 体をもぞもぞさせていた子どもも やがては静かになって 規則正しい呼吸の音がひとつ それが夜の音 冷蔵庫は低くうなる 時計の音は少し間延びする ぶるるん ふいに表通りを車が通り過ぎ遠ざかる 残されたのは私の心臓の音ひとつ それも夜の音  かみさま  わたしはこれからねむりにつきます  わたしがねむっているときにも  どうかあなたがそばにいて  わたしをまもってください 月の光が降ってくる音 星が瞬く音 眠っている庭の樹々の健やかな呼吸 花も昆虫も眼を閉じ 静寂のなか たくさんの祈りが今ひとつに結ばれる ことり とすべてを預け丸くなれば どこからか潮騒 夜の音が 満ちてくる 2008.8.20 ---------------------------- [自由詩]すかんぴん(大変貧しく、無一文で身に何もないさま)/吉田ぐんじょう[2008年10月9日9時34分] ・ 消費者金融の無人審査機の前で 背筋をこころもち曲げている女 どういう顔をしていたらいいか 分からないのだろう 真っ二つに分けた前髪の間からは かきまぜたコーヒーに入れたミルク みたいな渦巻き状の肌色が見える それが顔である 首をかしげている どうしてこんなところにいるのか 自問するようなポーズである 不思議に明るい部屋の中には 多重債務者にならないための チェックリストが置いてあって 何の音もしない あの世とこの世の境目のようだ やがてお金が出てくると 女はぱっと明るい顔になった 玩具を与えられた子供のようである マルイでは最新流行の服飾雑貨が 今も飛ぶように売れている ・ 四百円あれば わたしは幸せである 煙草と三十円の駄菓子二つ もしくは牛丼が一杯食べられるから なまのままの銀色硬貨を ポケットに入れて あとは何も持たずに靴を履く 古い型の洋服を着て ぴかぴかの顔で 化粧品はもう使い切ってしまった ポストには請求書が山のようにきている 一枚一枚丁寧に 口に入れて噛み締めてやる すると しゃっくりがひとつでて それでおしまい なんてつまらない世の中だろう ポケットに手を突っ込む 洗い上げたみたいな鮮やかな空に 他の人のうちの洗濯ものが 万国旗みたいにはためいている ・ ふらふら入ったデパートで 小鳥のような子どたちと 風船を持った着ぐるみが 赤い羽根募金の募集をしていた すぐ入れに行こうと思って エナメルのがまぐちから 十円取り出して にまにましていたら 突き飛ばされて 見ると親子連れだ 手に手に百円玉を持っている 手の中の銅貨と彼らをせわしく見比べる あっちの方がいいのかな 多い方が喜ばれるのかな でも がまぐちの中には十円銅貨ひとつきり あとは正月のくじ引きであてた 小さい金の布袋像しか入っていない しゅんとしているうちに 赤い羽根募金は帰り支度を始めた うつむいて 十円銅貨を握りしめるわたしの横を 騒々しく笑う親子連れが通ってゆく 彼らのポケットからは 千円札の束がばさばさと 幾枚も幾枚もはみ出している ・ 祖母のつくってくれたどてらを着て コンビニへ行ったら くすくすくす とみんなが笑う お前らはわたしの祖母が 悪い眼を瞬かせてこれを 幾晩もかかって作ってくれたのを 知らないだろう 知らないくせに笑うな 煙草を一箱買って帰った 暗闇にもう 吐く息が白い お前らにわかってたまるか こんな上等の服一枚も持っていないくせに 笑うな ---------------------------- [自由詩]意味調べ/千波 一也[2008年10月12日1時08分] 終わりは すべて哀しいものだと いつかあなたは 示したけれど 確かにわたしは 時刻をひとつなくしたけれど、 なくさなければ 始まることのなかった 時刻のなかで わたしは 知った ほんとの海を そのための 日を  愛することは  哀しいことです  間違えやすいものほど  つながりやすくて  誰もが上手に  傷つきます  そうして癒しを  求めるのでしょう  うたがうのでしょう  愛することは  哀しいことです 始まりは いつもまぶしいものだと あれからわたしは 覚えたけれど あなたを否める つもりはなく、 いまはただ 愛の深くを泳いでいると あなたとは 出会えなかった あらたな意味を探していると 伝えたい できればそっと 懐かしそうに ---------------------------- [自由詩]働け/砂木[2008年10月28日21時33分] 元気になる権利があるので いちいち弱くなる話は しないでおくれ 朝からまた人の悪口言っている どこから集めてくるの そんなに悪いだけの人なのだろうか どうせ にこにこと私と話していても どこかで今度は私の悪口 言いふらすんでしょ ひどく真面目に素直に やっていこうとしているのに なんだって 朝っぱらから ぐちぐちと ねちねちと 仕事にならないよ 仕事の邪魔はしないでおくれ そんなに他人の話ばかりして 何がおもしろいもんか 昨日はだめでも 今日から今から 正々堂々と ばっちりぱっちりと 頑張っていこうとしているのに 私には元気になる権利がある あなたにも元気になる権利がある お互いに今日という日を 闘い抜こうじゃないか なけなしのやる気だ しがみつけ おー ---------------------------- [自由詩]湖ゆきのバス/佐野権太[2008年10月29日14時02分] 娘とふたり バスに揺られている おまえが置き去りにした ウサギの手さげ袋は そのままバスに乗って 湖近くの営業所まで 運ばれたらしい 忘れ物はぜんぶ そこへ運ばれてしまうのだ もしかしたら どこかへ失くした カエルのかさや クマのすたんぷなんかも あるかもな (ほんとう? ああ 父さんも 大人になるまでに ずいぶんといろんなものを 失くしたよ 大人になってからもね (あるといいね 景色がぼんやり流れている 西日に洗われた おまえの髪が やさしい色をしている それは、忘れてほしくない ほら、見ろよ あそこが湖だ ちいさく光っているだろう ---------------------------- [自由詩]後悔/nonya[2008年11月3日12時01分] もっと 川であれば良かった 素直に 下っていれば良かった もっと 月であれば良かった 律儀に 満ち欠けしていれば良かった もっと 波であれば良かった 健気に 寄せては返していれば良かった もっと 星座であれば良かった 謙虚に 誰かと並んでいれば良かった ---------------------------- [自由詩]お風呂さん/新守山ダダマ[2008年11月9日4時18分] お風呂さん、ありがとう 今日もあなたに浸かることができて幸せです あなたの清らかさとあたたかさが 今、とても尊いものに思えます わたしは寒いのに裸になりたい 裸になりたいのにあたたまりたい そんな欲張りなわたしを、あなたは何も言わずに まるごと包んでくれます 濡らしてくれます わたしは孤独ではないのかもしれませんが 人の心の冷たさに触れすぎて、すごく淋しかったのです 感情が汚れに汚れて、わたしは抜け出したかったのです そんなわたしをほんのひとときでも浸からせてくれて、本当にありがとう あなたに長い間浸かっているとのぼせてしまうから これからも適度な距離で付き合わせて下さい さあ今しばらくは あなたのおかげでリフレッシュした気持ちで生きていきます それでは、また ---------------------------- [自由詩]ふたりの丸いロマンス/北大路京介[2008年11月9日16時13分] 木枯らしが吹いて 柳が鳴く ぐるぐるネジを巻くと 明日が育つ ダーツ遊びで 二の腕だるい 狙い通りには 上手くできないな  時計が壊れても  太陽は昇るよ  無邪気に地球儀をまわしてみよう デコボコ道を 上り下りを 転がしていく ふたりの丸いロマンス 微笑む空の肌で眠ろう 次はキリンの首を測ってみよう ハートの色をした恋の跡 抱きしめることで隠し合おう  インクが切れても  希望は消えないよ  弓をひけば 七色より素敵な虹 デコボコ道を 右へ左へ 転がしていく ふたりの丸いロマンス    神様から与えられた宝物を 一緒に探していこう デコボコ道を 昼も夜も 転がしていく ふたりの丸いロマンス デコボコ道を 上り下りを 転がしていく ふたりの丸いロマンス ---------------------------- [自由詩]蠍座カレンダー/千波 一也[2008年11月10日15時37分] カレンダーをめくると またひとつ昨日がふえる そうして明日が ひとつ減る わたしに数えられる 昨日と明日には 限りがある なぜならわたしは 消えていくから この 生まれもった運命を ひとは互いに教え合う 見送りながら 見届けながら ひとは わかれの数だけかなしみを抱き そのかなしみが 大きくなり過ぎた頃に そっと、しずかに消えていく カレンダーをめくると みえない毒が指先につく それはけっして 避けるべきものでも 避けられるべきものでもないから 積もりつもって わからなくなる 蠍座の夜は ほんの少しだけ、こわい うつくしいものたちが 嘘をついてみせる から ---------------------------- [自由詩]つまずきなさい/千波 一也[2008年11月19日11時20分] つまずきなさい、 何度でも ほんとの意味のつまずきに 出会うときまで 何度でも 傷つきなさい、 何度でも 深手のつもり、で いられるうちに 癒しのすべが あるうちに ごまかしなさい、 何度でも 逃げみちたちが明るいうちに 夕暮れがまだ 来ぬうちに 逆らいなさい、 何度でも 自分自身のさびしさが 寄り添うときまで 語りだすまで つまずきなさい、 何度でも いつか ひとり、は ひとりの時間、は幻になる かよわく済まされる定義のもとで かよわく生きられるうちに つまずきなさい、 何度でも 繰り返しなさい、 生きていることを ---------------------------- [自由詩]風の中で/草野大悟[2009年7月16日23時55分] 風の中で ぼくらは佇んでいる それは ほんの ひゃくねん前の 時のない時で ただ渺々と吹く風の中で 壊れそうな心を 壊れそうな体を 懸命という文字が懸命に支え 風の中のぼくらは たったいま 生まれたばかりの赤子のように 佇んでいる ---------------------------- [自由詩]こころ/草野大悟[2009年7月18日21時23分] こころが 雨をほしがる 紫陽花のころ、 ぼくらは ふたり 紫陽花寺を訪ねる 鎌倉は いつも かわらぬ佇まいで うす水色のミストのなかに ふたりを包み こころが カサカサに渇いて ひゅーひゅーと鳴くとき ふたり 紫陽花寺を訪ねる もも色に咲く花は うす紫の想い出を いつも おとぎ話のように 訊かせてくれる ---------------------------- [自由詩]煮物/千波 一也[2009年7月28日17時29分] 煮物の味は 素朴であるけれど 素朴であるがゆえにこそ むずかしくて 奥深い ごらんなさい、 たけのこと さといもと しいたけと なんの疑いもなく 一緒くた わたしは 素朴に生きたいけれど 素朴に生きるということは 言葉でいうほど たやすくない あこがれも とまどいも いつわりも どろどろになって 一緒くた 箸をほんのり湿らせる やさしい光りに 煮物を嗅いで わたしは 優しく 優しさをはむ ---------------------------- [自由詩]夢みればいつも〜満月とスバルがなかよく散歩する深夜/草野大悟[2009年8月8日23時06分] 夢みればいつも きみは風になっていた ぼくの右腕をまくらに くうくう眠っていたきみは もう、そこに吹くことをやめ だれも頼りにできない だれも近づけない青空へ 鎖を断ち切り 安らかさを脱ぎすて 旅立ってしまった 夢みればいつも きみは光になっていた ねぇ、無責任な風の吹く あの夏に戻ってみない? 草いきれの深夜 満月に放精するサンゴの うす桃色の未来に やあ、と声をかけて あら、こんなところで 真実が死んでるわ なんて 月の光に囁いたりしてみない? 夢みればいつも きみは虹になっていた 落ちてきたんだ あまりにもあっけない落ちかたで ポトン、と、海に よく知っている連中に言わせると やっぱ、空に飽きたんダロ ということになるけれど どうもそうではなく 地中深く潜行し尽くした後に空に昇って 華やかに、どうだい、という生き方に 愛想が尽きただけ ということらしい 夢みればいつも きみは夢になっていた 海のリズムそのままに 腕と腕をしっかり絡め合いながら 一生に一度だけの交接をするコウイカの必然が ふたりの命を持ち去ったとしても 満月が笑う夢の中を ぼくは きょうも 風たちを探して さめざめと彷徨っているんだ ---------------------------- [自由詩]冬空に/草野大悟[2009年12月6日0時10分] なにもいらない きみが そこにいれば 、と 宇宙にさまよい出た あなたに 話しかける 初冬 桜 散り 素裸に ミルキーブルーの空 ---------------------------- [自由詩]彼らはそれを知らない/草野大悟[2009年12月18日23時09分] 彼らはそれをしらない しかし 彼らは それを する わたしたちは 夏が好きです。 海の色が一番美しくはえる夏が 好きです。 太陽の光の中に 海辺の砂の輝く夏が好きです。 そして 雪の積もった冬が好きです。 わたしたちは 冬も好きになりました。 あなたの手紙の束を 抱きしめながら 会いたいなあと思いながら 兄ちゃん。こんな夜だから ここにいて欲しいのに。 いつも、ここに、いて、欲しいのに。 はやく早く 3月よ来い。 春よ来い。そしたら 兄ちゃんが お土産もって帰ってくる 笑顔のお土産もって、 兄ちゃんが、帰ってくる。 急いで、急いで、帰ってくる。 髪が後ろでくくれるほど 長くなりなした。 リボンでかざれるほど 長くなりました。 みちこさんです。 83,58,87 できたてのお餅は またまた変わってしまいましたね ほんの少しだけ 変わってしまいましたね。 だけど、いい方に、ホント? <das mal an seiner stirn> 2,3分眼を閉じてから そっと眼を開いて まわりを見てごらん。 青い世界が広がります。 それとも あなたには もっとちがった色の世界が 見えるかもしれません。 やっぱり青い世界なのです。 わたくし 今 ちょっぴり 淋しい。 ※「マルクス」による ---------------------------- [自由詩]涙腺/新守山ダダマ[2009年12月20日6時17分] 涙もろくなった 信じられないぐらい 俺は涙もろくなった ひと昔前なら馬鹿にしていた類のドラマでも ちょっとしたシーンで泣くようになった みんなももっと涙もろくなればいい いやもう涙もろい社会になろう 全人類の涙腺が もうちょっと緩んでもいいはずだ そもそも世界は 俺よりもずっと歳をとっているのだから 悲しい歴史の繰り返しも 止められるはずだ 涙もろさを何よりも強い「力」にして 事あるごとにみんなで涙を流し合えればいい できれば嬉し涙を多く ---------------------------- [自由詩]許せない春/因子[2010年3月24日22時54分] ゆるして あたまのうしろの いちばんやわこいところを 食べてしまったこと 知らない間に 食いしばるのが癖になっていた私の歯は 削れてひどく不格好になり 喋れば口内を傷つける 春の兆しも端から食い殺す コンプレックスがまた増える おいしかったの 春はなんでもやわらかい とがめてくれるひとがいないから ゆるしてくれるひともいない ---------------------------- [自由詩]叱られたフリーザー/草野大悟[2010年9月19日23時00分] ながいあいだ、そう、ずいぶん、ナガイアイダ あなたのために いろんな生き方を 体の中に入れて 冷たく暖めてきたわ ただ、あなたのためだけにね 今年の夏は 死にそうな暑さが続いて あなたの心臓にも負担がかかる そう思って作ったのよ 慢性心不全のあなたの心が 少しでも楽になるように そう思って、めいっぱい作った それを、あなたは   加減というものを知らない   こんなバカみたいにいっぱい作って   お前、アホか!! そう貶した あなたのこと思って あなたが心から愛してるひとに あのころのように、もう一度だけ 私の扉を開けて欲しくて 頑張ったのに、アホか!! なんて 涙がぽろぽろ出てきたけれど あなたに見られるのがシャクで   明日から   一切   作るのやめる そう決めたの あなたは おろおろして   どうした、なにヘソ曲げてんだ   なっちゃん〜あなたが勝手につけたこの名前、私嫌いなんだけれど〜 と、私を、やさしく抱いてくれた ケドね あの くやしさは消えなかった それで 作らなかったのよ あなたを とことん困らせたかった おろおろ顔のあなたに ざまみろ、と言いたかったのよ ね、分かる? そんな私が なんで、また、作るようになったか 分からないでしょうね あなたには一生 その答を探すことを あなたたち二人の これからの宿題にして しばらくの間 氷 作ってあげる やさしいでしょ、ワタシ   ---------------------------- [自由詩]狂った風/atsuchan69[2010年12月26日10時37分] 窓がとぶ 屋根がとぶ 全裸のマネキンが宙をとぶ 狂った風が吹きやがる 傘がとぶ 帽子がとぶ 純白のパンティーが宙をとぶ 狂った風が吹きやがる 笑いやがれ、 笑いやがれ、 笑うしかないから 笑いやがれ ビルがとぶ 消防自動車がとぶ テープみたいな時間が宙をとぶ 狂った風が吹きやがる 巨象の吼える声がとぶ 殺気走った師走の街がとぶ おびただしい数の万札が宙をとぶ 狂った風が吹きやがる ---------------------------- [自由詩]だれにも心配かけたくなかった/吉岡ペペロ[2012年9月1日22時21分] ぼくは馬鹿だった ぼくは天才だった 感じていたのは無力さではなかった じぶんの有害性を感じていたのだった ひととはうまく交われなかった それがぼくを 強くもしていたはずだったのだが ぼくは馬鹿だった ぼくは天才だった だれにも心配かけたくなかった ---------------------------- [自由詩]父さん/砂木[2013年7月7日10時33分] 父の死後 葬式が終わった次の日から 働きに出た私を 奇異の目で見る人もいた 供養が足りないと 言う しかし 私は働きにでて良かったと思う 泣いてもわめいてもどうにもならないのだ 日常を取り戻す事こそが 私に必要だった 自分にもしもの事があったら すぐ お寺に連絡するように 何か聞いておきたいことはないのか と弟に問い 母や看護師さんには お礼を述べたと言う父 母の名を呼び 私をちゃんづけで呼んだという 苦しがる中 手を握るしかできなかった 最後の時には 間に合わなかった 骨を拾い 葬式をして 私は働いた 他に何ができる できることはない 悲しみに落ち込むより現実と戦う方が気楽 いずれ私も みんな死ぬしかない けれどじつはまだ 父は林檎畑で働いているはずだ そうとしか思っていない お墓に納骨もした 供養もしている でも 死んだとは思えない 田んぼの中のお墓で 父の骨が暮らす 道路から見えるので 私もいずれは諦めるのだろう でも今は お墓から作業着で  林檎畑に行く父しか 想像できない  今は自由に歩けるね 父さん  ---------------------------- (ファイルの終わり)