松岡宮のおすすめリスト 2017年12月3日20時47分から2018年5月19日1時20分まで ---------------------------- [自由詩] どらびだの駅/「ま」の字[2017年12月3日20時47分]    いま どらびだの駅だ むかし おなじ名まえのくにを紀行したが もうずいぶん前だったので ぼうぼうとした かぜの中あたりで 周囲を見まわす 駅舎があるとは知らなかった いや とうの 昔に放棄されたものでも おうい。 おうい いるかぁ。 だれも いないと知っている おうい。 林檎のかたちの石 をなげるように よびかけるのだった そもそもが 荒いみなみ風が 次々おしよせる 土地だった ながく ちいさい草の穂が 思いおもいにゆれるなかを ずいぶん荒れたなあ と 歩きながら 呟く 海がちかい とおもえば殺風景な海岸があらわれる この国 領域の終わりはくぎりもなく たしかに やわらかく ながい眠りに落ちてゆくばかり ここは夜に囲まれた 広大な昼のくにだった 夢は現(うつつ)に勝てない そろそろ 貨車に載せられそうだ こうやって、けりも付くかつかぬかわからぬうちに 引っさらわれるように、連れ去られる どうだふかふかと いっぷく喫わせてもらいたまえ 予感だけは すこしある、夢とは そういう寂しい者の たわ言だ現実は そりや先がみえないからね と もの陰で なにかが無粋につぶやいた 駅舎にもどる道ばたですこし吐いたけれど いっこう その記憶がのこっていない まあ、このいろの剥げたベンチにすわれ (臭いもない) この国は どこまで夢で いつから醒めたのか おうい。 おういむかし みんなでここで 遊んだね!  ・・・・・・・ ここは夜に囲まれた ひどく広大な ひるのくにだ ---------------------------- [自由詩]disillusion/mizunomadoka[2017年12月9日20時34分] ソファで眠るあなたの指から 灰になった煙草を外す ずれ落ちた毛布を掛け 散らばった睡眠薬を戻す 教会の鐘が冬の朝を告げ 絨毯に零れたワインが香る 妹とあなたと3人で 病室にスナックとソーダを並べて セットリスト通りに作ったカセットの 再生ボタンを押す 18時30分開演 アンコールをやめない私たちのために あなたはギターで歌ってくれた 妹はあなたのことが本当に好きだったのよ 私はね、森のお茶会に集まった動物たちの後ろで 静かに笑う大きなクマになりたかった ---------------------------- [自由詩]砂の月の鼓動/秋葉竹[2017年12月11日15時41分] 空からぼくを狙って、 夜を、彷徨った、 眼鏡をかけた月の顔が、 平らな海に、映っていた。 観覧車から雲に手を伸ばし、 星を捕まえた。 その星に、手をかけて、 月と見つめ合い、 絡み合う、視線の障害、 月の眼鏡を外してみたら。 裸の方が可愛いや、その眼。 砂は流れ出すが、 熱い闇の道に、 聞こえない砂の月の音、 ぼくの孤独を置き去りに、 白い熱砂は汚れない。 蛇と蠍が星座から ぼくに会いに降りて来たので、 砂の月は少しだけ微笑んだ。 そうしたら急に、 ぼくは感じた、 裸眼の月の、 甘い、恥じらいの鼓動。 ---------------------------- [自由詩] Airport/宮木理人[2017年12月13日3時42分] 木製のテーブルの上に、陶器のカップが置かれる時に鳴る、固くて温もりのある音がひとつ鳴って、向かいの席に座る君が、同じくカップを置こうとして、ふたつ目のその音が鳴ろうとするその間に、どこかの空港では大きな旅客機が、コンクリートの滑走路に着陸して、機内を揺らしながら減速をはじめている。機内には、番号とアルファベットで割り振られたそれぞれの人生がすし詰めにされていて、飛行機が完全に停止すると、客室乗務員が火を吹いて、機長は裸踊りをはじめる。そしてひとしきり踊ったあと、ゆっくりと着替えて、パチンコへ出かけていった。 それなのにテーブルに向かい合うおれらの人生は、どこにも割り振られることはなく、静かで穏やかに、そして未だに君のカップは着陸できないまま、なにかトラブルでも発生したかのように、テーブルの上をしばらく旋回しながら、そして結局はテーブルに置かれることのないまま、全てを飲み干してしまった。 ぞろぞろと降りていく客たちは、ぐるぐると回るベルトコンアーの前で、がらがらと出てくるそれぞれの荷物たちをじろじろと眺め、先ほど火を吹いた客室乗務員は、灯油の量が基準よりもオーバーしていたらしく、機内を降ろされ爆弾処理班に降格させられた。 そして、自分の荷物が最後まで出てくることがなかった客は、その爆弾処理班が処理できなかった爆弾の処理班に任命されている。自分の荷物を真っすぐに受け取れた人物だけが、無事に家やホテルに辿り着き、こうして大切な人とテーブルに向かい合いながら、コーヒーを片手に会話をすることができる。だけれどなんだか、おれらのほうが、処理しなければならないものが多いのではないのか。 テーブルの上のカップをわざと倒して、中のコーヒーをぶちまけてみる。 広がったコーヒーが新しい世界地図のような形になった。 この世界のどこかの空港で今、爆弾が爆発したことを想像する。 君はいつの間にか席を立って鞄に荷物を詰め込みはじめ、パスポートを確認しているが、いや、ちょっと待ってくれ、おれは今、たった今、長い旅を終えて、ようやくここに帰って来たばかりだというのに。 テーブルの上では先ほど倒した陶器のカップが転がって、床に落ちて割れそうになったところを、間一髪でキャッチして、ギリギリセーフ、と思ったその瞬間、おれの口からは、真っ黒で芳醇な香りのコーヒー豆が、フィーバーしたパチンコ台のようにじゃらじゃらと溢れ出し、目はチカチカと光って、カップのなかにじゃらじゃらと注がれて、ぼろぼろと零れだし、テーブルの下ではその零れ落ちたコーヒー豆に、無数の小さな機長たちがアリのように群がっていて、君はすっかり準備を済ませて大きなカバンを引きずりながら、おれの姿に構う事無く、そっけなく、家の玄関から出て行き、おれはいってらっしゃいも言えないまんま、じゃらじゃらと、溢れるカップに豆を注ぎ続けて、足下の小さな機長を払いのけながら、目をチカチカとさせ、繰り返し、繰り返し、じゃらじゃらと、していて、 ---------------------------- [自由詩]僕の少年/山人[2017年12月16日8時59分] 薄くひらかれた口許から 吐息を漏らしながら声帯を震わす まだ 生まれたての皮膚についたりんぷんを振りまくように 僕の唇はかすかに動き なめらかに笑った 足裏をなぞる砂粒と土の湿度が おどけた動きをリズミカルに舞い上がらせ 僕はその 遊びの中で くるくる回りながら気持ちを高揚させていた 土埃の粒子が何かにエネルギーに吸着され 一度残酷に静止した 世界はやはり 僕の回りで凍り始める --あなたから発せられたひとつの言葉-- 静かに細胞は壁を破砕し 平らに横たわっている ジャングルジムの鉄の曲線に 僕の眼球は一瞬凍りつき やがて ぐらりとそのまま土の上に落下した 僕の中の仔虫たちは惨殺された 緑の林縁はオブラートに包まれ 目はしなだれた 複眼に覆われた ぼんやりとした視界があった 土を丸く盛り 仔虫をひとつづつ埋葬し目を綴じた あの日 僕の中の少年は --あなたから発せられたひとつの言葉-- によって撃墜された * たおやかに流れる豊年の祝詞の声 村々にたなびく 刈り取りの籾の焼けるにおい はるか昔の 少年は 薄く染められた秋の気配に どこかの葉先の水滴に 映し出されている 僕の中の少年はまだ死んでいるけれど 少しづつ僕は ながい呪縛から抜け出そうとしている ゆるやかな階段を降りるために ---------------------------- [自由詩]山と月/灰泥軽茶[2017年12月22日10時52分] 月明りに照らされて 山によじのぼって行く人達 小さな粒はきらきら光り暗闇に吸い込まれていく 私も地面をしっかりとつかんで 山と月に包まれて きらきらとした星々のような一瞬の 喜びと悲しみを放ち 山をよじのぼっていると うっすらともやが流れてきて だんだんと太陽の光が生み出されていく 私は嬉しさがこみあげじっとしていると 月はくっきりまだ私を優しく照らしていて さあさあと言っているようだった ---------------------------- [自由詩]いとなみの川/唐草フウ[2017年12月27日8時55分]   川が近づいてそっと入っていく 金属くさい くさい 私と その鎖のつながりあるところまで この世が終わるなら私ひとりだけ終わっていいと いつも思っていた        いつも思っていた どんな流れでも私は魚になったようでなれるわけはない 手のひらは鰭と化すようで一瞬のうちに骨になり砕けていく 御免ください お待ちしています 誰を? 私の知らない川のなか (いいえ知っているはず なぜならばここは) 奥底で招き引っ張る手はきっと幻視だろう くるくるくると回ってる 「あなたはいい人ね」 いいえ私は夢の中 誰かのラップフィルムになっていただけです 温めたり冷やしたり包んだり便利だっただけです 終わってしまえばただの紙の芯 ふやけて 誰かここから釣り上げて 針が見つかればよろこんで咥えます ただ難しい演出家のひとじゃなければいい かんたんに息を絶えさせないよと言わない人 流れが解決してくれるよとは言わないで 川なのに波が誘っている 波の中に個が 子が たくさんいる 本当になりたい姿への切り札たちだよと手を振っている 私はもうその中へ入って掴む程の気力がなく 釣り上げて打ち上げられたまま 意識の滑り落ちていくのを待っている   ---------------------------- [自由詩]無題/よーかん[2018年1月8日22時09分] ズンズンずんと行きましょう。 2018重たいノートパソコン カタカタと タブレットではね 文字の感じが変わるよ ね 明けましておめでとうございます 今年はさっきの 今年はいっときの 今年はまったく またオンナジでも いいじゃんべつによ またねと おしさしの 新しい年 ズンズンずんと カタカタかたです またいつか会いましょう 立ち飲みか焼き鳥で 会いましょう また ---------------------------- [自由詩]おおきなプリン/ただのみきや[2018年1月10日19時27分] おおきなプリンを見た まわりの商品が小人に見えるほどの こどもの頃出会っていたら 一目で恋に落ちただろう ぷるるんあまいときめきは すぐに終わってしまうのが常だったから 記憶の中の憧れは今も色あせず よどんだオヤジ心をも揺らすのか ああだけど こんなにたわわなぷるるんを 欲しがるのはきっと むかしのこども いまはもっと洒落た装いで 甘すぎない ぬったりした スイーツなんて名の 大人びた娘が流行っていて 親たちも砂糖とかカロリーとか考えて ぷりんぷりんのGカップなんか 買い与えようとはしない きっとだからたぶん むかしのこどもたちが それもダイエットなんか気にしない むかしのおとこのこたちが 面の皮で恥じらいを隠し買って帰り 家族のちょっと呆れたような視線を まるめた背中で受け止めながら おもむろに蓋を開け あるいは プッチン と 皿の上 あの縦長のやわらかなボディが むにゅっ と 重力で押しつぶされれば (きみって意外と あれだね なんてあたまの中でささやいて カレー用かと思えるような先割れスプーンで ふだん隠した嗜虐性を示しつつ 最後まで平らげてはみるものの かつての喜びや感動はすでになく 甘すぎては 腹にもたれ 同窓会で味わうような ある種の幻滅に ただ老けて往くだけの現実に 番茶で口を濯ぐ 粉薬みたいな顔をして 自分のカップに閉じこもろうとする だがもう手遅れだ 一度プッチンして皿に落ちた プリンは二度と戻らない 夢を見ていたのだ そう おおきなプリンの夢を            《おおきなプリン:2018年1月10日》 ---------------------------- [自由詩]遠い声/やまうちあつし[2018年1月13日16時38分] わたしのなかから 遠い声がする ふるさとよりも 遠いところから その声にさそわれて わたしはどこかへ 帰りたくなる 子供の姿に戻って 犬の姿に戻って 蝶の姿に戻って それとも 何の姿もしないで ごめんなさい あなたのせいではないんです すべてを あきらめたような夕暮れ わたしはどこかへ 帰りたくなる ---------------------------- [自由詩]TOWN FLOW/番田 [2018年1月14日20時35分] sと また会った 街の喫茶店で 人の流れる窓の外を見ていた 僕は いつもと同じ彼の話を聞いていた 街はいつもと変わりのない 一月の 終わりの 景色 海外ドラマを見ていた 僕は 食材を仕入れてきた 夕暮れに そんな生活を もう何年も続けている もう何年も 僕は そんなふうに プロバイダだけは入れ替わって その時々の特典を手に入れてきた 時々 僕は 引っ越した 年に一度 親に会った そしてまた 部屋に 帰ってきた 窓の外に 日が 沈んだ ---------------------------- [自由詩]別の幸せ/やまうちあつし[2018年1月28日19時58分] 冥王星に別荘を買ったんだ 有名なハート模様の ちょうど真ん中あたり 部屋の床下の 階段を下りてゆき 扉を開けると別世界 別荘といっても小さな平屋で あるものといえば テーブルとソファだけ そして部屋から持参した 何枚かジャズのレコード 君は15分 遅れてくるだろう 仕事の愚痴でも言いたいだろう だけどここでは 言葉はご法度 望遠鏡を覗いてみれば 遠くに小さく地球が見える あれは 別の星の幸せ コーヒーを入れる音 静かにペンが走る音 ワタシハアナタヲ 青い空 冥王星にも 別の幸せ ---------------------------- [自由詩]夕方の待ち合わせ/番田 [2018年2月4日21時16分] 土曜日にsと会った 代々木公園の 酷く寒い道を 土曜日に 彼と歩いた 道を 何も考えずに でも 僕は 生きるということを考えながら 憂鬱な時は流れる ぬかるみのない 地面を  公園は すでに緑が茂りはじめていて そして 緑が次の季節への助走をはじめていた  僕の雨のない季節の ステージへの そこにあるはずのいつもの売店は閉まっていた  そしてどこへ向かうのだろう 僕は 孤独だ 何も思い出せない 人気のないベンチで 缶コーヒーを開ける いつものテーブル そして人のすでに帰り始めている それを手に持ちながら だけど 僕の青春とは何だったのだろう 広場で見ている シャボンをふくらませる人を  水の抜かれた池を通り過ぎる 広場で 僕は 何も無い日々に そんなことを 考えながら  ---------------------------- [自由詩]たぬきの置物/灰泥軽茶[2018年3月10日14時55分] どこかの町の帰り道 駅に向かって歩いていると ふと足元たぬきの置物が三匹目に入る それぞれ違う楽しそうな わははと笑い おっとっと戸惑って 今にもおしゃべりしだしそうな 通り過ぎるには惜しくてくるりと振り向くと お爺さんが一人出てきて トラックおーらい ハンドルおーらい 首を出しながら もう一人出てきて そらそら帰ってきたよと 楽しそうな三人が仕事に精を出していた ---------------------------- [自由詩]径に 残る/木立 悟[2018年3月17日17時30分] 銀河の高さの 白い霧 夜に架かり 動かない 左の肉の寒さが目覚め 右より細く震える時 月は余計に そして速く 見るものの方へと割れはじめる 光に光をこぼしながら 花や羽が手を吸いにくる 肘に向かって歌を植え 陰へ陰へ飛び去ってゆく 馳せる 駆ける けだものは動く 言葉を踏まず 笑みを踏まず ただ空を蹴り 空を裂く 暗い径へこぼれる音 壁から枝から 空の水草に立つものから 小さく とめどなく 明るく 透明な時計の棺桶に 雨と花が降っている 蝶の群れ 茎の群れ 舌を出した子の群れを けだものはひとり過ぎてゆく ---------------------------- [自由詩]雨の日と月曜日は/かんな[2018年3月21日12時08分] 目を覚ました しとしとと音がしている しずかな朝の、 雨音の音階を調律するひとがいる 誰だ。 調律師は物憂げな顔で指先を動かす ふと音がなめらかに なったかと思うと その指先は 一粒のカプセルを胃に流し込んだ 少しだけ調律師の話をしたい 彼は田舎の生まれであったが いわゆる地主の跡取りというものであった しかし至って本人にその自覚はなく 好きな趣味を満喫して育ちながら その延長としてピアノに興味を持ち 次男坊に遺産など譲るという宣言を そうそうに打ち出すと 調律の勉強のできる学校へと進んだ 世界は雨、 灰色の雲が一面覆い尽くす 憂うつを払い飛ばす青空に 居場所を与えないように 今日は月曜日 曜日は食べられて消えていく 誰が。 月曜は美味しくないのよと 曜日食らいの彼女は言う 少々長く曜日食らいの話をする 彼女がお腹の中にいるとき 彼女の母親はうつ病にかかった パニックを起こした母親は 家族が気づかぬ内に家を抜け出し 新幹線など乗り継ぎ 遠方の友人宅まで行ったと言うから驚きだ 母親はすぐさま戻され大学病院に入院した そこで生まれたのが彼女だ 彼女が幼い頃は母親はまだ病床にあり 不安定に入退院を繰り返していた 祖父母と関わることが多かったが 衝突することも多く 上手くは言えないが 彼女は父親や母親の愛情を欲していた 結果として高校生くらいで 彼女は摂食障害となってしまう 毎日が苦しく 曜日を食らい続けることになる ある雨の日の月曜日 調律師の彼がいつものように 少し鈍った音階を直していると 良い音ですね。 そう言って曜日食らいの彼女が 後ろを通り過ぎた 今回の月曜は少し甘そうです。 と付け加えると 不思議そうにしていたが そうですか。もう少し綺麗にしますね。 と調律師の彼は笑顔で返した 誰も彼もしあわせになる必要のない月曜日 今日はうつくしい音色を奏でる雨に濡れる ---------------------------- [自由詩]Specter/暁い夕日[2018年3月28日23時23分] 気づいたら宙に浮いていた 気づいたかい? 僕はお空に浮かぶようにふわりふわりと 原色を忘れそうだよ 僕がはてた地上の事故現場とか、見えるよ、見えるよ 美しいボーダー波数の単音だけが続いて 耳の中をぐるりぐるりリフレインしているよ 気づいたら宙に浮いていた 気づいたかい? 僕の事見えないのかい? 何処にも行けそうな気がしないよ ただふわりふわり浮いているんだ ただの事故死なんだ  平凡でいられるだろう? 君に触れれそうにもない だって、気づいたら宙に浮いていた 気づいたかい? 黒く塗られた漫画みたいだ  君は平凡でいられるだろう? いつか、君の目の前でおどけてみせたい そして、平凡だとつぶやく君の顔を眺めていたい どうして、君は事故現場で泣き崩れているんだい? 漫画みたいだと思いなよ  君は平凡でいられるだろう? 美しいボーダー波数の単音だけが続いて 気づいたら宙に浮いていた 気づいてくれたかい? いつか、君の目の前でおどけてみせたい そして、平凡だとつぶやく君の顔を眺めていたい まさか死ぬなんて 何で事故現場で泣いているのさ? 美しい単音の波数が響いている 交響曲かなぁ? 大丈夫だよ 君をひとりにしたりしないから もう悲しまなくていいんだよ 目の前に颯爽と現れて 平凡だねって君は呟くさ 大丈夫だよ ほら、 もうすぐ憑依するね ---------------------------- [自由詩]空飛ぶ眼球/狩心[2018年4月3日13時45分] たまに 眼球を取り出して水で洗いたいと言う人がいる それを本当に実行した奴がいて それを目の前で目撃した女がいる その女をストーカーしている男がいて その時ドアの前に立っていた 部屋の中で行われていることは 部屋の中にいる奴らにしか分からない 盗聴器から漏れてくる喘ぎ声 私はドアに唇を這わせてしがみ付く 爬虫類のような動きをして マンションはどんどんとジャングルになる オラウータンの鳴き声が聞こえる 廊下を こちらへ向かってくる黄土色のぐちゃぐちゃ 私は吐き出されてマンションの階段から宙を舞う ストップモーション 叩き付けられて動かなくなる 乱れた服の皺を正して 化粧をした女が買い物に出かける ルンルンと舌の上で眼球を転がしながら 坂道を前転で転がり落ちて 頭がぱっくりと二つに割れる たまに スイカ割りをしたいと言う子供がいて それを本当に実行する大人がいる それを親心と言う 子供は永遠に生きる為に親を殺す その子供もまた、殺される時に気付く 親はまだ死んでいない そう気付くが 時すでに遅く 眼球は次の人の元へと 飛んでいく とても臭い匂いの中 息を吹き返し立ち上がる私は 部屋の中にいる奴の死体を見て頷き 眼球が飛んで行った方角に向かってバイクを走らせる ウィーンウィーンと機械化していく身体 手足がバイクに付着して離れれなくなる どんどんと加速してブレーキはニタニタ笑い 自ら路上へと真っ逆様に落下する ストップモーション 地平線の日没と共に現実の壁が迫ってくる 加速する身体 呪われた眼球を逃がしはしない この街の最果て 何も無い空間に向かってジャンプする 気付くと 公園のベンチに仰向けで寝そべっていて 大丈夫ですかぁ?と覗き込んできた女がいて モードチェンジ すかさず左目を抉り取った 逃しはしない 暖かな公園でキセイに包まれる中 私だけが確信していた 本当の現実が 何であるかを ---------------------------- [自由詩]アケイライは地獄語を話す。体重は750ポンド(約340kg)ほどである。/6[2018年4月15日17時12分] かお が かわ いい から と い う こと で しな を しな を つくって いく ことを ほんのう てきに えとく して いる ごう の ふ か さ を じ か く し え ない まま いきる おんな ---------------------------- [自由詩]力ない眠り/坂本瞳子[2018年5月7日23時33分] 項垂れる 久しぶりに 脱力して やる気はすべて消え失せた 蛻の殻と化したこの身体を 支えてくれるのは大地のみ 雨に打たれ 風に吹き付けられ 人様に踏みつけられようとも 微動だにせず ここにこうして突っ伏していよう 力が一向に入らないから 喉も乾いているけれど お腹も空いているけれど 気力さえも今は失われているから 鼓動も脈も感じられないけれど 深い眠りに陥らないように 目蓋を閉じる力さえなく 半分開いたまま浅い眠りを続けよう ---------------------------- [自由詩]燕よ/そらの珊瑚[2018年5月9日10時12分] まぶしいのは ずっと目を閉じていたから そこは優しい闇に似た架空世界で 行こうとさえ思えば深海にも 宇宙にも 過去にだって行けた あのスカートはどこにしまっただろう 青い水玉模様 くるくる回れば 小さな隠しポケットの奥底で 飴玉がかささと謳った 芽吹きの気配はいつのまにか隣に来ていて、だから 一年ぶりに目を開けてみようと思った 生まれたばかりの柔らかなみどり葉 空を目指して 風に震える 現実は 指で触れれば千切れてしまいそうな 光まみれであることに驚く そして雨上がり 燕よ、燕 低く鋭く飛行し なにものにもぶつからないことが 魔法みたいに ただまぶしいから まばたきを繰り返して わたしは長かった夜を忘れそう ---------------------------- [自由詩]猫次郎/やまうちあつし[2018年5月10日17時27分] 助手席に猫がいる 仕事を終えて帰ろうとすると どこからかやって来て そこへ座る 猫といっても猫らしくなく 長靴など履いて シートベルトもきちんとしめる 近くの事務所に勤めているらしいが 帰る方向が一緒なので 便乗させてほしい、という 猫がそんなこと言うなんて、 いぶかしいので戸惑った 何より私は猫アレルギーゆえ 帰りのバイパスでもずっと くしゃみをしっぱなし、なんてごめんだし けれども思案する私にかまわず 猫はちゃっかり乗り込んで 出発を待っている こうしたわけで 助手席に猫がいる    ☆ 初めのうちは会話もなく くしゃみばかりが車内に響いた ところが少し言葉を交わしてみると 猫は存外常識がある 職場の同僚たちよりも よっぽど物がわかっている 天気の話、政治の話 病気の話、神話の話 会話は殊の外、弾む そして我が家のガレージに 車を停める段階になると 猫は決まって眠っている すうすうと寝息を立てて あんまり気持ちよさそうなので そのままにして 夕食後に残飯を持って車を覗くと 姿はない こうして猫と私の 奇妙な帰路は繰り返された    ☆ あるとき猫は言う 「あなたはどうも  いろんなことを知ろうとしすぎる  いきものが生まれて  この世を去るまで  知るべきことは  ひとつかふたつでいいものさ  そのひとつかふたつに  いつまでもおどろいていられることが  しあわせということの秘訣じゃないかな」  猫はそう言ってティシューを1枚取り  鼻をかむ  そうして言う 「しっけい」    ☆ 猫との帰路が日課となって しばらくのこと 話があった 転勤になったという 猫の事務所が国内の 何箇所にあるのか寡聞にして知らないが わりと遠くの支店に異動になったとのこと あるいは海外かもしれぬ あるいはこの世の外やもしれぬ 転勤前最後の帰り道も湿っぽいことはなく それがまた猫らしかった 送別会でも、と言いかけたが思いとどまり いつものように眠りについた猫に 自分のしていたネクタイを外して 締めてやった    ☆ それからまもなく 私は猫を飼い始めた 同僚とも何とかうまくやっている 猫からの便りはない いまごろどこかの事務所近くで 誰かの助手席に腰掛けているだろう 私は猫をなでながら そんなことを想う くしゃみはもう出ない     ---------------------------- [自由詩]みあげれば星、みおろせば街灯り。/秋葉竹[2018年5月19日1時20分] 星の光が時を教えてくれる。 まだ1週間もたたないから 山頂から見た星をおぼえている。 夜風はまだ少し冷たくて、 あなたは小さな声を、 (寒い) 僕をみあげてそっと唇からこぼす。   星は かけがえのない刹那の煌めきを 僕たちふたりのみつめあう時間に ふりそそいでくれる。 蒼い繊月(せんげつ)は 割れちまった 蒼いガラスの花瓶の欠片の繊細さを 僕たちにおしえてくれる。 遠く地表に網の目の街灯りを眺めながら、 ふたりてのひらを、しっかりと握り締めあう。 せめて夜が明けるまでは ここで、 星たちのおしゃべりを聴かせておくれよ。   いつの時代も、 ゆっくりと歩くことを忘れないで、 つらい目にあっても、新たに笑いなおし、 新鮮な1日は、そうすれば、手に入る。 ---------------------------- (ファイルの終わり)