松岡宮のおすすめリスト 2017年11月6日21時10分から2018年2月4日21時16分まで ---------------------------- [自由詩]トロント行き623便/乱太郎[2017年11月6日21時10分] やがて知ることにだろう  わたしの真実 毒の入った林檎をいくつもしまっておいて いつ胸の奥から取り出そうか 考えることはそのことばかりになってきた 沈黙の呪文がひしひしと忍び寄る わたしを目覚め起こさせる 漆黒の二時半 カナダ行きの国際便に 今日もまた遅れてしまいそうだ ---------------------------- [自由詩]ゆーらりと/星丘涙[2017年11月8日21時41分] ゆーらりと 死のただ中で生きている 明滅するたましい 骸骨が怯えている カタカタと音を立て ボルトが緩まり 腐食する身体 錆びついた心に映る闇と光 絶望か諦めか  すべてを受け入れ 救われた魂は舞い上がる 赦すなら 赦される 決して裁かず 人知を超えた激愛の啓示を待つ ひかり ひかり 天使の乱舞 嗚呼 心を広くしてください 怒らず 苛立たず  穏やかな海のように 深く 静かに そのような者になりたい 幸せは そこに 空気のように見えない それでいて なくてはならないのだ あなたは優しい どこまでも赦し 広い心で包み込み 見つめる 私の使命は まだ終わらないようだ 完成されたのなら すぐにでも旅たつ 骸骨が笑っている ゆーらりと 死のただ中で生きている ---------------------------- [自由詩]20171110_work0000@poetry/Na?l[2017年11月10日8時06分] ああ 蔑まされて 交渉 早朝の 便器に またがり 用を足す 脚が無いから 片道 1時間のトコロ を 多めに見積もり 頭を垂れて 浮く 無人の島では 骨折したガイドが 輪姦され 100円均一 の 袋の中で 助けを 求めている 私は 大手を振って謝罪し 心のなかで射精した 車に轢かれたのだ ポケットから香水を取り出し振かける 「俺は大丈夫」  ---------------------------- [自由詩]洗浄/乱太郎[2017年11月12日11時51分] 払い落とされるのが 私自身の精霊と言えるものであるならば もう悩む必要はあるまい リンゴが落下する 画家は決して筆を取らない これに関しては逆らえない伝手はないし 永遠の壺の中身は空であることに気づかない 私はいずれ埋められる 生きている意味という 正解が見つからない数式の森で 赤い林檎を手にした魔女 無色な生地に二本の針が泥を付け コインランドリーでの洗濯機の中いつの間にか 一件の一人称が消滅した ---------------------------- [自由詩]て・き・べ・ん/乱太郎[2017年11月14日14時03分]  て・き・べ・ん              邑輝唯史 丁寧に入れた人差し指を肛門の中でくねくねさせて 気持ちいいものだと思っていたら 息を吐いて次は息を吸って言われて これはもう陣痛の苦しみ 高齢出産で何を産もうとしているのでしょうか おかしいな 摘便と言われ 昨夜からの苦しみは もう安定期に入っているはずと 首を傾げられては もう桃太郎伝説やかぐや姫を超えている 明日どんな子供抱えているのか 僕は今夜落ち着いて眠れそうにない ---------------------------- [自由詩]イージーオープン/奥畑 梨奈枝[2017年11月15日18時34分] イージーオープンがイージーでない ひとり笑って寒くなる 目が覚めてすぐ目が西陽にやられて ちかちかしながら インターネット動画を見続ける 朝ごはん昼ごはん晩ごはん 昨日の夜も風呂に入らなかった 平日が平日でない平日 陽が徐々に翳っていく中で 部屋が徐々に暗くなっていく中で イージーオープンがイージーでない 平日が平日でない平日 俺が俺でなくなる日の俺 劣化してボロボロのゴムになって 千切れる ---------------------------- [自由詩]ぬ/若原光彦[2017年11月17日18時38分]  私の仕事は「ぬ」である。  なぜ「ぬ」が「わ」だの「た」だの「し」だの「の」だの「こ」だの「濁点」だの「と」だの「は」だの「かぎカッコ」だの使いやがるんだ、とおっしゃるかもしれないが。それは貴方にしたって同じではないか。貴方は全ての言葉を使うことができる。  何を「ぬ」ふぜいが生意気な、一緒にしてくれるんじゃないよ、とお思いだろうか。それならそれで仕方がないのだろう。私は「ぬ」である。私がいなければ、沼も、塗り絵も、ヌートリアも、アフタヌーンティーやベルヌーイ、イヌイットやカリブルヌスも存在できない。だが、それに感謝する者が果たしているか。いやしまい。それでいいのだ。私達のなりわいとはそういうものだ。  もちろん個別によるところはある。「あ」や「い」はその存在感たるや著しい。タ行の連中もサ行の連中も、その仕事量は尋常でない。またハ行に一目置かれるのももっともなことだ。彼らにはそれだけの華と、個性と、なによりニーズがある。「ぬ」にはない。  貴方がたが、たかが「ぬ」と思う、それは勝手だ。お前なぞいなくても、ウェヌスはビーナスとして通用するし、むしろお前がいるからボツリヌス菌もあるのだと、そう思うならそれも勝手だ。私にしてみれば、かような時期はとうに昔だ。幾ら蔑もうと自棄を起こそうと、私が「ぬ」である事実が変わるわけではない。  私の仕事は大半が否定の末端である。ならぬ。たりぬ。せぬ。こぬ。どちらかといえば気の重い役目だろう。「ない」や「ず」では勤まらないケースが私に回ってくる。そして私がとどめを刺すのだ。問答無用に撥ねつけるように。ひと文字「ぬ」と言うとどうしても気の抜けた印象を持たれがちだが、実務はいつも厳粛だ。  もちろん「ぬ」の出番が全てが暗い役目ばかりというわけではない。絹のあるところに私はいるし、私なくては絹も成り立たない。シルクと呼びたければそうするがいいが、それで絹の何が揺らぐわけでもないだろう。  ことは私だけではなく、それぞれの仕事で皆それぞれにありうる。たとえば「ん」は「ん」なりに、自分を抜いては腰砕けだと自負しているかもしれない。「と」は「と」として、安易な登場をしぶしぶこなしているのかもしれない。しかしそれもまた勝手な考えだ。私が思うに、消えていったものもいるなかで、ただ残るものが残るべくして残った、それだけのことなのではないか。 ---------------------------- [自由詩]11月18日秋葉原で/ただのみきや[2017年11月18日16時31分] 十一月十八日 江戸 秋葉原 野次馬たちの視線を七色に乱反射させ 聳え立つは巨大なギヤマンの壺 その目もくらむ頂上の 縁を走る 影二つ 永久脱毛された花魁姿のゴリラ 追いかける血まみれの巡査 幅二尺半ほどの滑りやすい壺の縁を 追って追われてグルグルと 掴み合ってはまた離れ もう半時も捕り物は続いていた 太陽はゴッホだったが 巡査はムンクのようには叫ばなかった すでにサコツもアバラもやられ マエバを空にまき散らし ヒダリメもだめになっていたが 《――十一月十八日が殉職記念日になっても構わない これ以上生きて恥を晒すよりは良い――》 ゴリラと対峙した時そう思ったが  それが俄かに現実味を帯びている 殉職するために警官になったと言っても過言ではない 子供のころテレビドラマで次々に殉職して往く刑事を見て 始めて 恋をした  殉職する 未来の自分の姿に 生き残る刑事は醜い 生きたまま逮捕される犯人と同じくらい 美しい片言の台詞はみなほつれて 河原の芒のように空しく月に触れようとしたが 《――転落だけでは単なるミスだ 格闘・説得・致命的出血・不可避で不幸な偶然が必須だ》 秋晴れの空にオーロラの輝き ギヤマンの壺の中は血のようなボージョレー・ヌーボ 酔っ払いの生首がいくつも浮き沈み なんともウラメシヤな流し目でこちらを見上げている 《神曲・地獄編 第十歌「あたし飲み過ぎちゃって」地獄 ――酒に酔う人が落ちる地獄ではない 酔っぱらったふりをしてやりたい放題 後から「酔っぱらっていたから覚えていない」なんて言う 好き者の男女が墜ちる地獄――んふっ……んふふっ……》 息を吸いながら笑う巡査は朦朧とし いまや一町角もある白紙の広がりに 辞世の句を書き連ね句集がいくつも出来上るほどだった 戯言すべてが自由律の虫となって這いまわっている 世界は極度な散文化の果て分子構造そのものが緩くなり 海の真中で筏がバラバラ 離れて漂う流木と化していた 降りてくる海鳥たちに啄まれ 眼孔も乾いて見上げる白い雲 ――一瞬 別の誰かの人生を生き終えて巡査は 《自分の喀血を裏表紙に散らして落款代わりにしよう……》 ギヤマンの壺の外側にはお江戸の老若男女が押し寄せる 「十年に一度の見世物だってよ! 」  「これを見逃したら次は2027年だって! 」 エログロ猟奇でどこか歌舞伎チックな二人の絡みを 人々は五平餅やみたらし団子を食べながら見物していたが  挑みかかる警官が血飛沫上げて吹っ飛ばされる そのたびに拍手喝采巻き起り みなが御捻りを投げるものだから  ギヤマンは くぐもりつつも涼しげな  風鈴とグラスハープを合わせ持つような声で  過ぎし日の夏を歌った 夏祭りも 盆踊りも 夏フェスも すべてが作り物の脳内バーチャルに過ぎない民衆が いま自分自身に放火して一つの物語を炎上させていた ギヤマンの二人も 遠目には ペアで踊っているようにも見えるのだ ゴリラは遠くアフリカのツガルから連れてこられた ローランド・ゴリラの豪族の一人娘だった 悪い男たちに麻酔銃で撃たれ  全身剃毛の末 永久脱毛され 人間の女として吉原へ売られた  その種のマニアにはアニマとしてすぐに売れっ子になったが ゴリラは武家より遥かに誇りが高い すでに十五人 グシャッと殴りベチャッと潰しブチっと千切り さんざん殺していた いま彼女はギヤマンの塔に登り かつて偉大な族長がエンパイアステートビルでしたように 激しいドラミング・ソロでシャウトしながら 人間の人間による人間のための馬鹿げた文明のアンチテーゼとして 転落することを予感しながら尚 清々しくさえあった 《――あとはこの目の前の男が拳銃を発射すれば わたしは美しく螺旋を描きながら落下して 大地との衝突で肉体という牢獄を壊し 魂は自由の翼を得て故郷ツガル・コンゴの森へと還って往く 早く撃っておくれ さあ 早く……》 拳銃があればとっくに撃っている  だが今日に限って拳銃を忘れて来た 否 いつの間にかホルスターが空になっていた 持っている武器は警棒だけ  それもあまり硬くならない大人の玩具のような警棒で  花魁姿のゴリラと殴り合う 殉職したい警察官 転落死したいゴリラ どちらも決定打を欠いたまま 放り投げたコインが墜ちて来るのを待っていた  日も傾きかけた頃 野次馬一人一人がみな松明に姿を変え ついに ギヤマンの壺は炎上した 炎上は珍しくもなく 恵みもなければ は組もない 祈る者すらいやしない 遠く 天守閣から遠眼鏡で覗いていた 将軍様は 『生類憐み症』の発作で 脇の下から烏賊の脚をブラブラさせながら お抱え力士(相撲警察)に殉職甚句を歌い舞わせ 燃え上るギヤマンの頂上決戦を見つめていた おもむろに右手を差し出すと小姓力士が拳銃を―― ニューナンブ・リボルバー・二十二口径 昨夜 隠密力士に盗ませた 巡査の拳銃を手に握らせた そうして左手を差し出すともう一人の小姓力士が 拳銃と一緒に盗ませた警察手帳を手渡した 将軍は動物愛護の心と この あまりに直向きで熱心な 巡査への愛(う)い思いに引き裂かれそうになりながら ミシミシと奥歯を噛み締めるように言った―― 「たとえ北の将軍がミサイルを撃とうとも 余は 野蛮で醜い兵器は使わない! 美しい国民こそが美しい国をつくり国を守るのだ! 」 言い終わるや否や試し撃ちとして力士を一人撃ち殺し むっちりとした 腰元力士の白い腹から 流れる血を 視線でぺろりと舐めた そして 老中力士に警察手帳を持たせると カッ と目を見ひらいて―― 「その手帳を余の前に放り投げよ! 」 老中力士は力加減のあまり脱臼するほど気を遣い  弧を描き 将軍の構えた銃口の数間先に落ちるように 絶妙に 丁度良く 放り投げた―― 黒い手帳 あの巡査の 警察官としての良心が パラパラページは捲れ 巡査の記憶と心の 襞を 風が梳かすように 手帳が いま銃口と 一直線に―― 弾丸が手帳を撃ち抜いた時 巡査は死んだ 振り上げた 硬くならない警棒を  下ろす間もなく クルリと半身  踊るような動きで 視線も 墨も付けず宙にひと筆 たゆたうように 残光の油膜が脳裏を染め 落ちて行った―― 炎と煙の中 残されたゴリラは 黒く灰になる魂の向こう側に 真白な空白が広がるように感じた いま此処に己が違和として存在し 相殺される相手を欠いた以上 ピリオドを打つためには何等かの転位が必要だった 生き残るものは悪 殺されるものも悪 転落死はもう売り切れている 結論は出さない 出さないが良い 放棄せよ 考えることを 放棄せよ 内側へ 内側へ 収縮し 己の核へ ゴリラは琥珀石となり 蕩けたギヤマンの中で胎児のように時を止めた それは秘密裏に 大奥の奥の奥 その奥の間へと運ばれた 全身が眼で満ちたお世継ぎを抱いて 顔のない奥方が琥珀を見つめている 《美、醜よりいでて 醜、美よりいづる――》 お世継ぎが笑った ――万の三日月 一斉に                     《2017年11月18日》 ---------------------------- [自由詩]過ごした/間村長[2017年11月20日15時58分] 神事なさいと言う内奥の声を 聞いて私は急発進の車を 避けながらプールに飛び込んで 禊(みそぎ)潔斎(けっさい)を 水垢離(みずごり)で済ませてから ちんちんの熱いお湯を何気なく 口に入れて火傷を負うと言う 神事を行った まるでモンスターに追い立てられているみたいに 私は少しオーバーだったのかもしれない 痒(かゆ)かったのかもしれないし 沙翁(さおう)(シェークスピア)見たいに 劇的な神事にあこがれて居たのかもしれない いずれにしろ物々しい雰囲気で 神事を行った私は厚顔無恥ではあるけれども 明らかに正しいオーラを纏(まと)って 江戸時代にタイムスリップした様な 少しおかしな時間感覚で しばらく過ごした(昨夜の夕餉の湯豆腐) ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]夢夜、四 獣の影と永遠の放課後の廊下?/田中修子[2017年11月21日20時47分]  ここはひそやかな放課後が続く学校の廊下だけが永遠につらなってできている。壊れて積み重ねられた机と椅子が、防音ガラスの窓から差し込んでくる青みをおびたピンクの夕日に、金色の埃を浮きたたせ、影を濃くしてどこまでも続いていた。  さいごにだれかが放ったさようならの声だけが、耳のおくに痛いほど響いてくる。  つらなる廊下を私は、あんまりに大きい、獣の黒い影から逃げていた。獣の影は、うしろの廊下をすべて食べて飲み込んでぐちゃぐちゃとかみ砕き、青ピンクの夕日も金の埃も、数十人が使って壊した笑い声や鉛筆のさらさら鳴る音のつまっている机も椅子も、すべて光を吸い込んで反射させずに、ほんとうのねっとりとした闇にしてしまう。深海に泳ぐ魚の、誰もしらない腹のなかの闇と同じ。  食べられたら、私も骨も残さずに闇に同化してしまって、次の犠牲者をいっしょになって追いかけることになるだろう、この獣の影はそうやってできたのだから。自分が飲み込まれることよりも、自分が飲み込む側になることが、おそろしくてたまらない。  命がけで、ほんとうに必死に逃げているつもりだったが、子どもの追いかけっこのように、奇妙に遊んで笑いだしたくなるような気がするときもあった。必死に誰かの顔色を窺ってまじめな顔をしようとするとき、なぜだか自分でもぞっとするくらい卑屈な笑い方をしてしまう、あの感覚とおなじ。  ともかく体は、走っていた。  ただ、どんなに走ったって、まったく同じ距離で、私の通っている女子校の汚物入れから匂ってくるあのにおいと同じなまぐさいを放ちながら、獣の影が迫ってくる。人の掻き切られた喉からヒュウヒュウと呼吸が鳴らすような音を、獣の影全体がさせている。    走りながらどこかに入れる扉はないかと両目で左右を探していたけれど、どこにも扉はない。  「1-梅組」のクラス札が下がっていても、「理科準備室」のクラス札が下がっていても、本来引き戸があるところには、防音ガラスの窓がはまっている。ふつうの錠のほかにも、ごちゃごちゃと補助錠がいくつもあって、あける余裕はない。その間にガジリと噛み砕かれてしまうだろう。  さきに、大きな窓があった。  まるで宗教画のように額のされたきれいな大きな窓の前を走り抜けるとき、中の風景が、時が止まったようにくっきりと見えた。  なぜか、そこの窓のガラスは、ほかの窓のガラスと違って、触れればすぐに割れてしまうプレパラートのように薄いのが分かった。叫べば外に声も響くだろう。  きれいに整えられた芝生、赤い果実が実っている木々のあざやかな緑を背景に、幻の蝶のように淡いやさしい色合いの花がポンポンと咲く、手入れされた中庭が見える。その中庭だけは昼の光があかるく差し込んでいて、まんなかで黒い服の神父様がひざまずいて祈りを捧げているのが見えた。胸もとには、十字架がしずかに光っていた。  神父様!  獣に追いかけられて声も出せず、その薄い昼の窓の前を駆け抜けた。  するとまた、すぐに不思議なことに、おんなじ昼の中庭の見えるふたつめの窓があって、どれだけ遠ざかっても大きさのかわらない月のように、やはり神父様は態勢を崩さず、祈っていらっしゃるのが見えるのだった。  「神父様!」    今度はおおきな声が出た。この薄さであれば、声はプレパラートの窓をとおって神父様に聞こえているはずだ。けど、どうしたって、彼の耳に届いていないことは、分かった。  神父様は、目をとじていた。お祈りを唱えているのが、私にはしずかだけれどはっきりと聞こえてきた。  -わたしたちの罪をお許しください。-  みっつめの窓が見え、また昼の光の陽射しさす、あかるい緑の中庭の神父様が見えたとき、私は、立ち止まった。  走れなくなったのではなかった。  このところふくらんできた乳房が痛い。すぐうしろに獣の影がせまっているけれど、気持ちはシンと静まり返っていた。    「私があなたを祈らなかったのではありません。あなたが私を祈ろうとしなかったのですのです、けっして」  なんて私は、偉そうなことを言うのだろう。シンと静まりかえって、涙をこぼしているのに気づいたのは、くちびるに塩辛いのが垂れて舌ですくいとったときだった。  獣の影が私を飲み込んでゆくのが分かる。  私は骨と肉に蕩けながら、裏切りのくちづけをしなければならなかったあわれな黄色い衣の男の涙の味、無実の魔女が磔にされて燃え上がった炎の熱さや、黒い分厚い本に許しを希い殺し殺しあう兵士たち、そんな二千年のうらみに抵抗なくすんなりと交わっていき、黒い闇として生臭い息を吐きながら、次にこの廊下にやってくる子羊を待ちかまえてひっそりと蹲る。 (他サイト様に投稿したものを少し手直ししました) ---------------------------- [自由詩]つるりんちょ/藤鈴呼[2017年11月24日21時19分] お前の美しさに業を煮やす 少し下界の風に晒されると良い パタンと閉じることの出来ぬ雑誌の 下世話なコーナーに佇む 昔ながらの 電話ボックスに告ぐ 悪夢と灰汁湯を 一緒くたにするな 図らずも 鴉が追って来るだろう 翼を?ぎ取られぬよう 確りと 準備だけは 怠るな ぷるんとしたプリンのような艶やかさ 瞼の裏に 何時迄も残る幻影 光の奥で犇めき続ける漆黒と漆 指先が どちらで被れるか 今宵 試してみようか お前のシナヤカサとツヤヤカサ 鼻歌の向こうで 何処までも 歌い続けると良い 輪を乱すような不協和音も 不思議な笛の音に気圧されて 蹴落とされてお終い ぷっくりと腫れた 金の十字架 火傷の痕よりも 少し大きめな愛 ハート型のクッキーよりも 少し 砕け易いけれど 大丈夫 バニラエッセンスを垂らしたら 世界一 微妙なニュアンスのコードが出来上がる どんな和音も 黙らせるような 新しい コードが ★,。・::・°☆。・:*:・°★,。・:*:・°☆。・:*:・° ---------------------------- [自由詩]ひとりぼっちのこころは栗/凍湖(とおこ)[2017年11月25日2時25分] ひとりぼっちのこころは 栗だ かたいトゲトゲ その下に カブト虫の羽のように さらにかたい皮 もひとつ下に 渋皮につつまれ虫食いにあっている 虫食いのあなから、ひゅーひゅーと漏れている 死にかけの喉のようにさみしさが鳴る 誰だ、こんなアナを あけたのは どうやったって埋まりやしない 誰だ、こんなアナを ふさぐのは どうやったって苦しくてしかたない ひとりぼっちのこころは かたくなな栗だ トゲトゲで すかすかの 虫食いの栗 ウニとも違う、ハリネズミとも違う 地面でじっとしてる青い毬栗(いがぐり) ---------------------------- [自由詩]踊り/ふるる[2017年11月28日19時55分] 最高に忙しい時期は終わって寂しさが獣のように駆け抜ける胸の真ん中めがけて 午後、やわらかい日差しの中一番で映画に行こうポプコーンを買おうアイドルがかわいいだけの映画でも脇役の個性は光る 走る、足の裏は地面を蹴るし地面が押してもくれていてよかったまだ君は来ていないし泣いてもいない バイト先が悲しいほど暇で立ってるだけでお金はもらえていい時代なのかな今は あのとき見たのは幽霊かUFOかっていう経験はきっと誰にでもあって打ち明けられたら仲良くなった証拠 インスタ映えを気にして頼んだ料理が不思議な味でシェフの気合の入れどころを聞いてみたい 僕たちはまあまあ友達だから30年後に会ってもタメ口で話せるよねきっとね 絶望を握りしめるこぶし 結論を言えば 僕たちの爪は色とりどりに光った、握りしめた手の暗闇の中でこそ 河では耐えず子どもたちが流れていて それを見ながら僕たちはいつだって最高の踊りを ---------------------------- [自由詩] どらびだの駅/「ま」の字[2017年12月3日20時47分]    いま どらびだの駅だ むかし おなじ名まえのくにを紀行したが もうずいぶん前だったので ぼうぼうとした かぜの中あたりで 周囲を見まわす 駅舎があるとは知らなかった いや とうの 昔に放棄されたものでも おうい。 おうい いるかぁ。 だれも いないと知っている おうい。 林檎のかたちの石 をなげるように よびかけるのだった そもそもが 荒いみなみ風が 次々おしよせる 土地だった ながく ちいさい草の穂が 思いおもいにゆれるなかを ずいぶん荒れたなあ と 歩きながら 呟く 海がちかい とおもえば殺風景な海岸があらわれる この国 領域の終わりはくぎりもなく たしかに やわらかく ながい眠りに落ちてゆくばかり ここは夜に囲まれた 広大な昼のくにだった 夢は現(うつつ)に勝てない そろそろ 貨車に載せられそうだ こうやって、けりも付くかつかぬかわからぬうちに 引っさらわれるように、連れ去られる どうだふかふかと いっぷく喫わせてもらいたまえ 予感だけは すこしある、夢とは そういう寂しい者の たわ言だ現実は そりや先がみえないからね と もの陰で なにかが無粋につぶやいた 駅舎にもどる道ばたですこし吐いたけれど いっこう その記憶がのこっていない まあ、このいろの剥げたベンチにすわれ (臭いもない) この国は どこまで夢で いつから醒めたのか おうい。 おういむかし みんなでここで 遊んだね!  ・・・・・・・ ここは夜に囲まれた ひどく広大な ひるのくにだ ---------------------------- [自由詩]disillusion/mizunomadoka[2017年12月9日20時34分] ソファで眠るあなたの指から 灰になった煙草を外す ずれ落ちた毛布を掛け 散らばった睡眠薬を戻す 教会の鐘が冬の朝を告げ 絨毯に零れたワインが香る 妹とあなたと3人で 病室にスナックとソーダを並べて セットリスト通りに作ったカセットの 再生ボタンを押す 18時30分開演 アンコールをやめない私たちのために あなたはギターで歌ってくれた 妹はあなたのことが本当に好きだったのよ 私はね、森のお茶会に集まった動物たちの後ろで 静かに笑う大きなクマになりたかった ---------------------------- [自由詩]砂の月の鼓動/秋葉竹[2017年12月11日15時41分] 空からぼくを狙って、 夜を、彷徨った、 眼鏡をかけた月の顔が、 平らな海に、映っていた。 観覧車から雲に手を伸ばし、 星を捕まえた。 その星に、手をかけて、 月と見つめ合い、 絡み合う、視線の障害、 月の眼鏡を外してみたら。 裸の方が可愛いや、その眼。 砂は流れ出すが、 熱い闇の道に、 聞こえない砂の月の音、 ぼくの孤独を置き去りに、 白い熱砂は汚れない。 蛇と蠍が星座から ぼくに会いに降りて来たので、 砂の月は少しだけ微笑んだ。 そうしたら急に、 ぼくは感じた、 裸眼の月の、 甘い、恥じらいの鼓動。 ---------------------------- [自由詩] Airport/宮木理人[2017年12月13日3時42分] 木製のテーブルの上に、陶器のカップが置かれる時に鳴る、固くて温もりのある音がひとつ鳴って、向かいの席に座る君が、同じくカップを置こうとして、ふたつ目のその音が鳴ろうとするその間に、どこかの空港では大きな旅客機が、コンクリートの滑走路に着陸して、機内を揺らしながら減速をはじめている。機内には、番号とアルファベットで割り振られたそれぞれの人生がすし詰めにされていて、飛行機が完全に停止すると、客室乗務員が火を吹いて、機長は裸踊りをはじめる。そしてひとしきり踊ったあと、ゆっくりと着替えて、パチンコへ出かけていった。 それなのにテーブルに向かい合うおれらの人生は、どこにも割り振られることはなく、静かで穏やかに、そして未だに君のカップは着陸できないまま、なにかトラブルでも発生したかのように、テーブルの上をしばらく旋回しながら、そして結局はテーブルに置かれることのないまま、全てを飲み干してしまった。 ぞろぞろと降りていく客たちは、ぐるぐると回るベルトコンアーの前で、がらがらと出てくるそれぞれの荷物たちをじろじろと眺め、先ほど火を吹いた客室乗務員は、灯油の量が基準よりもオーバーしていたらしく、機内を降ろされ爆弾処理班に降格させられた。 そして、自分の荷物が最後まで出てくることがなかった客は、その爆弾処理班が処理できなかった爆弾の処理班に任命されている。自分の荷物を真っすぐに受け取れた人物だけが、無事に家やホテルに辿り着き、こうして大切な人とテーブルに向かい合いながら、コーヒーを片手に会話をすることができる。だけれどなんだか、おれらのほうが、処理しなければならないものが多いのではないのか。 テーブルの上のカップをわざと倒して、中のコーヒーをぶちまけてみる。 広がったコーヒーが新しい世界地図のような形になった。 この世界のどこかの空港で今、爆弾が爆発したことを想像する。 君はいつの間にか席を立って鞄に荷物を詰め込みはじめ、パスポートを確認しているが、いや、ちょっと待ってくれ、おれは今、たった今、長い旅を終えて、ようやくここに帰って来たばかりだというのに。 テーブルの上では先ほど倒した陶器のカップが転がって、床に落ちて割れそうになったところを、間一髪でキャッチして、ギリギリセーフ、と思ったその瞬間、おれの口からは、真っ黒で芳醇な香りのコーヒー豆が、フィーバーしたパチンコ台のようにじゃらじゃらと溢れ出し、目はチカチカと光って、カップのなかにじゃらじゃらと注がれて、ぼろぼろと零れだし、テーブルの下ではその零れ落ちたコーヒー豆に、無数の小さな機長たちがアリのように群がっていて、君はすっかり準備を済ませて大きなカバンを引きずりながら、おれの姿に構う事無く、そっけなく、家の玄関から出て行き、おれはいってらっしゃいも言えないまんま、じゃらじゃらと、溢れるカップに豆を注ぎ続けて、足下の小さな機長を払いのけながら、目をチカチカとさせ、繰り返し、繰り返し、じゃらじゃらと、していて、 ---------------------------- [自由詩]僕の少年/山人[2017年12月16日8時59分] 薄くひらかれた口許から 吐息を漏らしながら声帯を震わす まだ 生まれたての皮膚についたりんぷんを振りまくように 僕の唇はかすかに動き なめらかに笑った 足裏をなぞる砂粒と土の湿度が おどけた動きをリズミカルに舞い上がらせ 僕はその 遊びの中で くるくる回りながら気持ちを高揚させていた 土埃の粒子が何かにエネルギーに吸着され 一度残酷に静止した 世界はやはり 僕の回りで凍り始める --あなたから発せられたひとつの言葉-- 静かに細胞は壁を破砕し 平らに横たわっている ジャングルジムの鉄の曲線に 僕の眼球は一瞬凍りつき やがて ぐらりとそのまま土の上に落下した 僕の中の仔虫たちは惨殺された 緑の林縁はオブラートに包まれ 目はしなだれた 複眼に覆われた ぼんやりとした視界があった 土を丸く盛り 仔虫をひとつづつ埋葬し目を綴じた あの日 僕の中の少年は --あなたから発せられたひとつの言葉-- によって撃墜された * たおやかに流れる豊年の祝詞の声 村々にたなびく 刈り取りの籾の焼けるにおい はるか昔の 少年は 薄く染められた秋の気配に どこかの葉先の水滴に 映し出されている 僕の中の少年はまだ死んでいるけれど 少しづつ僕は ながい呪縛から抜け出そうとしている ゆるやかな階段を降りるために ---------------------------- [自由詩]山と月/灰泥軽茶[2017年12月22日10時52分] 月明りに照らされて 山によじのぼって行く人達 小さな粒はきらきら光り暗闇に吸い込まれていく 私も地面をしっかりとつかんで 山と月に包まれて きらきらとした星々のような一瞬の 喜びと悲しみを放ち 山をよじのぼっていると うっすらともやが流れてきて だんだんと太陽の光が生み出されていく 私は嬉しさがこみあげじっとしていると 月はくっきりまだ私を優しく照らしていて さあさあと言っているようだった ---------------------------- [自由詩]いとなみの川/唐草フウ[2017年12月27日8時55分]   川が近づいてそっと入っていく 金属くさい くさい 私と その鎖のつながりあるところまで この世が終わるなら私ひとりだけ終わっていいと いつも思っていた        いつも思っていた どんな流れでも私は魚になったようでなれるわけはない 手のひらは鰭と化すようで一瞬のうちに骨になり砕けていく 御免ください お待ちしています 誰を? 私の知らない川のなか (いいえ知っているはず なぜならばここは) 奥底で招き引っ張る手はきっと幻視だろう くるくるくると回ってる 「あなたはいい人ね」 いいえ私は夢の中 誰かのラップフィルムになっていただけです 温めたり冷やしたり包んだり便利だっただけです 終わってしまえばただの紙の芯 ふやけて 誰かここから釣り上げて 針が見つかればよろこんで咥えます ただ難しい演出家のひとじゃなければいい かんたんに息を絶えさせないよと言わない人 流れが解決してくれるよとは言わないで 川なのに波が誘っている 波の中に個が 子が たくさんいる 本当になりたい姿への切り札たちだよと手を振っている 私はもうその中へ入って掴む程の気力がなく 釣り上げて打ち上げられたまま 意識の滑り落ちていくのを待っている   ---------------------------- [自由詩]無題/よーかん[2018年1月8日22時09分] ズンズンずんと行きましょう。 2018重たいノートパソコン カタカタと タブレットではね 文字の感じが変わるよ ね 明けましておめでとうございます 今年はさっきの 今年はいっときの 今年はまったく またオンナジでも いいじゃんべつによ またねと おしさしの 新しい年 ズンズンずんと カタカタかたです またいつか会いましょう 立ち飲みか焼き鳥で 会いましょう また ---------------------------- [自由詩]おおきなプリン/ただのみきや[2018年1月10日19時27分] おおきなプリンを見た まわりの商品が小人に見えるほどの こどもの頃出会っていたら 一目で恋に落ちただろう ぷるるんあまいときめきは すぐに終わってしまうのが常だったから 記憶の中の憧れは今も色あせず よどんだオヤジ心をも揺らすのか ああだけど こんなにたわわなぷるるんを 欲しがるのはきっと むかしのこども いまはもっと洒落た装いで 甘すぎない ぬったりした スイーツなんて名の 大人びた娘が流行っていて 親たちも砂糖とかカロリーとか考えて ぷりんぷりんのGカップなんか 買い与えようとはしない きっとだからたぶん むかしのこどもたちが それもダイエットなんか気にしない むかしのおとこのこたちが 面の皮で恥じらいを隠し買って帰り 家族のちょっと呆れたような視線を まるめた背中で受け止めながら おもむろに蓋を開け あるいは プッチン と 皿の上 あの縦長のやわらかなボディが むにゅっ と 重力で押しつぶされれば (きみって意外と あれだね なんてあたまの中でささやいて カレー用かと思えるような先割れスプーンで ふだん隠した嗜虐性を示しつつ 最後まで平らげてはみるものの かつての喜びや感動はすでになく 甘すぎては 腹にもたれ 同窓会で味わうような ある種の幻滅に ただ老けて往くだけの現実に 番茶で口を濯ぐ 粉薬みたいな顔をして 自分のカップに閉じこもろうとする だがもう手遅れだ 一度プッチンして皿に落ちた プリンは二度と戻らない 夢を見ていたのだ そう おおきなプリンの夢を            《おおきなプリン:2018年1月10日》 ---------------------------- [自由詩]遠い声/やまうちあつし[2018年1月13日16時38分] わたしのなかから 遠い声がする ふるさとよりも 遠いところから その声にさそわれて わたしはどこかへ 帰りたくなる 子供の姿に戻って 犬の姿に戻って 蝶の姿に戻って それとも 何の姿もしないで ごめんなさい あなたのせいではないんです すべてを あきらめたような夕暮れ わたしはどこかへ 帰りたくなる ---------------------------- [自由詩]TOWN FLOW/番田 [2018年1月14日20時35分] sと また会った 街の喫茶店で 人の流れる窓の外を見ていた 僕は いつもと同じ彼の話を聞いていた 街はいつもと変わりのない 一月の 終わりの 景色 海外ドラマを見ていた 僕は 食材を仕入れてきた 夕暮れに そんな生活を もう何年も続けている もう何年も 僕は そんなふうに プロバイダだけは入れ替わって その時々の特典を手に入れてきた 時々 僕は 引っ越した 年に一度 親に会った そしてまた 部屋に 帰ってきた 窓の外に 日が 沈んだ ---------------------------- [自由詩]別の幸せ/やまうちあつし[2018年1月28日19時58分] 冥王星に別荘を買ったんだ 有名なハート模様の ちょうど真ん中あたり 部屋の床下の 階段を下りてゆき 扉を開けると別世界 別荘といっても小さな平屋で あるものといえば テーブルとソファだけ そして部屋から持参した 何枚かジャズのレコード 君は15分 遅れてくるだろう 仕事の愚痴でも言いたいだろう だけどここでは 言葉はご法度 望遠鏡を覗いてみれば 遠くに小さく地球が見える あれは 別の星の幸せ コーヒーを入れる音 静かにペンが走る音 ワタシハアナタヲ 青い空 冥王星にも 別の幸せ ---------------------------- [自由詩]夕方の待ち合わせ/番田 [2018年2月4日21時16分] 土曜日にsと会った 代々木公園の 酷く寒い道を 土曜日に 彼と歩いた 道を 何も考えずに でも 僕は 生きるということを考えながら 憂鬱な時は流れる ぬかるみのない 地面を  公園は すでに緑が茂りはじめていて そして 緑が次の季節への助走をはじめていた  僕の雨のない季節の ステージへの そこにあるはずのいつもの売店は閉まっていた  そしてどこへ向かうのだろう 僕は 孤独だ 何も思い出せない 人気のないベンチで 缶コーヒーを開ける いつものテーブル そして人のすでに帰り始めている それを手に持ちながら だけど 僕の青春とは何だったのだろう 広場で見ている シャボンをふくらませる人を  水の抜かれた池を通り過ぎる 広場で 僕は 何も無い日々に そんなことを 考えながら  ---------------------------- (ファイルの終わり)