松岡宮のおすすめリスト 2017年10月5日12時03分から2017年11月21日20時47分まで ---------------------------- [自由詩]オフィスの死骸/葉leaf[2017年10月5日12時03分] 人のいない事務所では 書類から何から死骸のようだ 我々もみな死骸として 書類という死骸と 戯れているに過ぎない 事務所ではすべてが死んでいる やがて勤め人が出勤し 事務所は賑わいを取り戻す 書類は作成され手渡され 人々は活発に話し合う どんなに事務所が明るく活気に満ちていても やはりすべてが死んでいるのだ この私も同僚たちも 書類もパソコンもみな 百年前から死んだままだ ---------------------------- [自由詩]you焼け/やまうちあつし[2017年10月6日12時16分] あれは だれかを 思わせる夕焼け 非常口から 眺めていたっけ ベランダからも 眺めていたっけ 心の窓が 開いていたっけ 絵の具がこぼれて しまっていたっけ わたしらを造った者は どうして 日に一度 空をあんな色に 雲であんな模様に ねぎらい、だろうか なぐさめ、だろうか どちらでもいいよね あちらでもげんきで あれは あなたを 思わせる夕焼け それだけでいいよね ---------------------------- [自由詩]ウォー・ウォー、ピース・ピース/田中修子[2017年10月7日18時56分] 「せんそうはんたい」とさけぶときの あなたの顔を チョット 鏡で 見てみましょうか。 なんだかすこし えげつなく 嬉しそうに 楽しそうです。 わたしには見分けがつきません せんそうをおこす人と せんそうはんたいをさけぶ人の 顔。 ごぞんじですか、ヒトラーはお父さんに 憎まれて憎んでいたのだそうです。 それでお父さん殺しを ユダヤ人でしたのだ、という説があります。 ヒトラーがお父さんに ぎゅうっと抱きしめられていたら あの偉大なかなしみは 起こらなかったのかもしれません。 お母さんこわい、あなたの顔はどこにいったの ちかよらないで、わたしまで吸い込まないで。 (ウォー、ウォー、とわたしは泣き叫んだ) あなたは幸せですか。 おうちのなかはきれいですか。 玄関のわきに花や木は植わっていますか。 メダカや金魚を飼ってもかわいいかもしれません。 あなたの子どもは むりやりでなく、楽しそうにしていますか。 わたしにながれる カザルスのチェロを 聴いてください。 (鳥はただ、鳴くのです ピース、ピースと) 春、おばあちゃんが フキを 薄口しょうゆでしゃっきりと煮て きれいすぎてたからものばこに 隠しちゃいたい。 夏、おばあちゃんといっしょに いいにおいのするゴザのうえで お昼寝をします。 寝入ったころにさらりとしたタオルケットをかけてくれるの ないしょで知っています。 秋、いそがしいお父さんが、庭の柿の木の落とした葉っぱをあつめ たき火にして焼き芋を焼いてくれて メラメラととても甘いのです。火の味です。 冬、ときたま雪だけが ふわふわめちゃめちゃ生きていて 寒いだけだし 松の葉をおなかいっぱいに食べて冬眠しちゃいたい。 それでうっかり起きちゃってスナフキンと 冒険しにでかけるんだ。 そんなわたしも、お母さんになりました。 今日、じゅうたんを近くの家具屋さんに 買いに行きました。 薔薇とナナカマドの実で染めたような色をしているよ。 夕暮れの空を見ます。 水色とピンクと灰色が入り混じって ひかっていました。 秋の虫がきれいに鳴いています。 わたしはわたしの顔をなくすことなく あなたが羽ばたいてとんでゆくまで このちいさな巣箱を ふかふかにしていたいな。 ほんとうにたいせつなのは 静かに流れてゆく はるなつあきふゆ あたりまえにあってききおとされる 鳥や虫の鳴く。 ---------------------------- [自由詩]黄色い階段/宮内緑[2017年10月8日18時25分] 遠回りをした先の 二度と通ることもないような裏通りで 黄色い階段をみた 幾重にも黄色く重ね塗りされたような階段 色合いもさることながら どこへ通じているのか、そもそもここを上る人がいるのか 侘しくもどこか懐かしい、黄色くまばゆい階段 なんのことはない、脇にはイチョウの古木 落ち葉の丹念に敷き詰められた階段 二度と来ることもなさそうだから その階段を上ってみたり スケッチがわりに写真を撮ったり 近くにあったいつでも珍客を待ちわびているような 古びた自販機で何か買ってあげたり そうしようと思ったが、少しの間立ち止まったきり 浮かんだことをなにひとつ遂げずに立ち去った 家に着くと小さな後悔が残った いつかあの裏通りのことも忘れるのだろう 滑りやすそうな階段も 型式の古い自販機も その場所がどこであったのかさえも そしてまた似たような路を通るならば 由来の知れない郷愁にいざなわれるのだろう ---------------------------- [自由詩]灯台回転光/おっぱでちゅっぱ。[2017年10月11日22時55分] 灯台回転光 遠くを見ています 見えない人に 私はここですと 夜中に見つけて下さい 灯台回転光 星たちよりも ずっと正確 気まぐれに 流れいく事もないから 少しずつでいい ゆっくりとゆっくりと 灯台回転光 見失なわないように 目を向けていて 夕日の沈みきる頃 こうして 二人ここで会えたから 灯台回転光 あなたの心に灯をともす ---------------------------- [自由詩]あめがふる/星丘涙[2017年10月13日21時35分] あめがふる ゆめのなかにも 部屋の中にもあめがふる あめがふるふる あめがふる おもいでとかして あめがふる トイレの中に あめがふる あめがふるふる あめがふる あたまのなかに こころのなかに あめがふる あめのなか きみの名をよぶ わかれたきみの名をよぶ よびつづける あめにぬれ ぬれつづける どしゃぶりのあめ ふりつづける きみのまちにも ぼくのまちにも あめがふる かばんのなかにも ポッケののなかにも あめがふる あめがふるふる あめがふる ---------------------------- [自由詩]秋の雨/感傷として 五編/ただのみきや[2017年10月14日16時08分] ひび割れ 雨音は止んだが 雨はいつまでも 乾くことのない冷たい頬 満ちることも乾くこともなく ひび割れている   悲しみの器 天気雨 泣きながら微笑むあなたが 眩しくて 背中を向けた やがて七色の架け橋鮮やかに 遠く近く 届きそうな明日へ 勇んで振り向くとあなたはいない 今は昔 もういつまでも 覚悟 冷たくされすぎて 色づいた樹々の くびれに滴る 秋の睦言 諭すように浸みて 固く秘めた 覚悟 通学路 カラフルな海月の傘をさし 熱帯魚たちはフリフリ歩く 街路の珊瑚サワサワ揺れて ナナカマド蔦に銀杏 桜も真っ赤 ほら気を付けて 大きな回遊魚! 右見て 左見て 動機 濡れたアスファルトに 倒木のような一人の男 雷に打たれたわけじゃない 今しがた道路に飛び出した 現場検証はできても 本当のことは分からない 滑りやすいし見えにくい 冷たい雨の中 清流の魚みたいに どうして急に身を翻したか        《秋の雨/感傷として 五編:2017年10月14日》 ---------------------------- [自由詩]卒塔婆を背負いて山をゆく/渡辺八畳@祝儀敷[2017年10月18日20時31分] 県道沿いの山は粘土質だ。 いつも湿っていて、 一歩ごとに靴底へべったりと張り付く。 私は墨染みた卒塔婆を背負っては、 暗き夜に忍び歩く。 夜露は私の身体をぬらす。 ぬれながら、泥で汚れながら、なおも忍び歩く。 木の葉の隙間をかいくぐって、 向こうの街から熱電球の明りが刺してくる。 トラックが轟音をうならせて県道を通過する。 鉄塊のようなその音がアスファルトに反響している。 卒塔婆は盗んできたものだ。 あまりにも古くて、朽ちつつある。 私に書かれている文字は読めなく、 まるで卒塔婆を這う無数の小さな蛇にしか見えない。 その卒塔婆を背負って私は山をゆく。 半分腐った草の感触が足を侵す。 湿った卒塔婆は私の背に吸いつく。 墨染の蛇たちは私を冷たく見下ろす。 街からの鮮やかな喧噪は葉で遮られている。 ねっとりとじめじめした山肌を踏みしめ、 闇に溶け込むが如く忍び歩く。 そして誰も見ない山奥に着いたら、 私はそこに深々と腰を下ろす。 草葉からの湿気でひどく息苦しい。 背中の卒塔婆を両手でがっちり掴み、 高々と上げた。 板目は月の光に鈍く答える。 私は卒塔婆を、墓に刺さっていたほうから、 文字の書かれている先のほうへと、 ゆっくり順々に舐めていく。 黒い蛇たちは私の唾液にぬれてつややく。 卒塔婆に付いた泥が口の中に入っていく。 泥は粘膜を汚していく。 ---------------------------- [自由詩]白髪の朝/ただのみきや[2017年10月18日21時42分] 手稲山の頂辺りに白いものが見える ――書置き 今朝早く来て行ったのだ 見つめる瞳に来るべき冬が映り込む 雲間の薄青い空 氷水に浸した剃刀をそっと置かれたみたいに 張り詰めて でもどこか 痺れて遠くなる 一年が老いて往く 艶やかに紅葉を纏いながら白髪を増して 一年二年と数える人もまた老いる 季節の回廊を巡りながら レコードが回る 繰り返される歌声に 頬杖をついて 煙を見つめるような素振り どこをどう巡り歩いて来たのだろう 会ったこともない昔のシンガーの歌声を何年も 酒みたいに空気みたいに 猫みたいに抱いたり無視したり 馴染み過ぎている 老いることもない時の止まった声 こっちはすっかり白髪も増えたというのに 青年期と変わらず 否それ以上に 絶えずイラついて噛みつきたい衝動と そんなこと全く介さず他人事のように 生の収束と来るべき死をぼんやり眺めた 冬というよりは春を待つような心持ちが 不可分だけれどはっきり層を成して 流れを下っている とある庭先の薄紅の薔薇が芯まで凍え 微笑みすら死の接吻のよう 振り向く日差しに弛むこともなく褪せ 縁から濁って往く 容姿はゆっくりと損なわれるもの 香りが 色彩が みなぎる花びらの張りが 静かに燃えていた見えざる命の炎が ある時を境に微かな熾の残り火のよう ただ冷めて 失われて往く  美を競いあった蝶たちも落葉に埋もれ見分けられない それぞれがそれぞれでありながら 誰かの夢の一節のように 手稲山の頂辺りに白いものが見える 季節はゆっくり早足で 待つ者には勿体付けて嫌がる者の寝込みを襲う やがて裸の樹々は黒々と叫び踊る女たちのように 吹雪のベール纏うだろう 冬の歌声は鎮魂歌ではなく 消え去る生の灯の祝い歌 一瞬激しく震え 吹き消される誕生日のキャンドルにも似て 生は死によって全うされる その死に 春こそが手向けの花 野晒しに塵芥と化したものたちのため 祭儀の原型として 幾つ目かは数えられても残り幾つかは数えられない 白髪は増えるばかり あの山のようで あの山よりも遥かにおぼろ一介の人に過ぎず いまだ体温を惜しむ ほどけつつある命よ                《白髪の朝:2017年10月18日》 ---------------------------- [自由詩]公民館が笑っている/moote[2017年10月21日13時52分] 板は沈まないようだ どうしてそこに靴があるのだろう 夢が泳いでいる 私は空を飛びもがいている 靴を履かせてくれ 黒が白に力を込めて 草だらけだ 草を二つ用意してよ そして私を粉々にしてよ 喉が来ると 黒が白に魔物と呼ぶ 見たいようだね 絵って何だろう? 例えば空に星がいることだろうか 身体が水の上で白になってる 床よありがとう 見たまんまのテレビ 美しいね 十円玉が死んでいる 虫のような足音 暗いところで飛ぶ烏 避けよう一つ一つ 触ろう一歩一歩 光は光を触れないから 赤い靴に赤い扉に どこまで行けば赤は消えるのだろう 歌います草のベランダ ヨーロッパは沈まないよ 苦しくてもがいている 悩みはこの腹の中 ペットを横切ると 真ん中に白がいて 公民館が笑っている 渡り廊下の残骸に 今日と今日が 私の中でくつろいでいる ---------------------------- [自由詩]汁/山人[2017年10月28日19時27分] 薪ストーブが煌々と燃えている その上に遥かな時を巡った鋳物の鍋 穀物と野の草と獣の骨肉を煮込んだもの それが飴色に溶け込んで ぷすりとぷすりと ヤジのような泡を吹かせている 端の欠けた椀を掲げ 木杓子でよそう 穀物が汁と共に椀の中でばらけ 汁で膨満している その汁を飲め 老人は言った 見たこともない逸品を欲しがる生き物のように 私は唇を椀にあてがい、汁をむかえた 体中の髄に収まる密着とはこのことなのか うまい汁である 悪癖をこそげ落とすように食道を落下していった汁 私の根元からこみ上げる息吹がある 吐き出した息を再び飲み込み 唇を柔らかく横に伸ばし まっすぐ前を向き うまい汁ですね 命の味がします 私は老人に言った ---------------------------- [自由詩]星を眺めて/無限上昇のカノン[2017年10月31日10時31分] 縁側に転がってみれば 満天の星空 その輝きの一つ一つが 何十年も何百年も前のものだと分かってはいても 今、この星々は 消えてしまっているのかもしれないと分かってはいても その美しさから目が離せない 縁側は寒く 天体観測には不向きで 私はくしゃみを一つする 流れ星を探してみてもなかなか見つかるものじゃない 流れ星は星ではなくて 地球の重力に引き寄せられた隕石が 大気の摩擦で燃えている姿だと 教えてくれたのは誰だっただろう 私の心も流れ星のように 燃え尽きてしまえば 全ての悩みから解放されるのに 満天の星空を眺めて ため息をつく そろそろ寝ないといけないけれど 美しい星空が目の前に浮かんで眠れない ---------------------------- [自由詩]受容と共有/青の群れ[2017年11月2日18時09分] 飛んでいったコンビニ袋が 最近見なくなった野良猫に見えました 木枯らしが渦を巻いて? 去っていく名前のない怪物は 耳の端を赤く染めている そのうち冷めるからといって 一瞬のぬくもりを抱きしめずにいられない ウールを選ばない日は カシミアを選ぶこともできる、わたしたち ただ包まれた記憶だけ 母親のような日差しも、日曜日も、人混みも 父親の背広姿がすり抜けていく 誰にも触れられないビルの隙間に 色褪せた花弁が吹き溜まっていた 紛れてしまう、冬の小さなつむじ風 ---------------------------- [自由詩]埋めたてて/渡辺八畳@祝儀敷[2017年11月5日16時50分] 暗く淀む沼があって、 底のない沼があって、 死体でそれを埋めたてて、 若者達の死体で埋めたてて、 死体はどれも血まみれで、 瞳は濁って光が無くて、 なかには首が折れているのもあって、 そんな無残な姿をした死体達で、 それを一体一体ひとりひとり沈めていって、 暗い沼に沈めていって、 死体で沼を埋め尽くして、 その上に家を建てて、 家は小さくてかわいくて、 そこに若い夫婦が住んで、 笑顔があふれる夫婦が住んで、 家の床板を外すと骨があって、 埋めた死体の骨があって、 長い年月で真っ白い骨になって、 血まみれの肉は腐り落ちていて、 だけど骨だけは残り続けていて、 その上に夫婦は住み続けて、 いつまでも仲良く住み続けて、 ---------------------------- [自由詩]かたち くぼみ/木立 悟[2017年11月5日20時42分] 床の瞳 傷の瞳 階段の球 水の震え 櫛の先が 標に刺さり 白く白く 咲いてゆく 流木のはざまを流れゆく 骨の行方をひとつ知るとき 咆吼を 雑音を 群青の浪が呑みこんでゆく 落ち葉を避けることもできずに 言葉は径に倒れゆく かがやく球と 双つのまばたき 雨が去り また 雨が来る 褒美の夜のひと呼吸 きらびやかな傷 水のつらなり どこまでも区別の失いものが 重なりそしてかがやきながら 光のしずくを落としながら 羽と手と花の姿に昇りゆく ---------------------------- [自由詩]トロント行き623便/乱太郎[2017年11月6日21時10分] やがて知ることにだろう  わたしの真実 毒の入った林檎をいくつもしまっておいて いつ胸の奥から取り出そうか 考えることはそのことばかりになってきた 沈黙の呪文がひしひしと忍び寄る わたしを目覚め起こさせる 漆黒の二時半 カナダ行きの国際便に 今日もまた遅れてしまいそうだ ---------------------------- [自由詩]ゆーらりと/星丘涙[2017年11月8日21時41分] ゆーらりと 死のただ中で生きている 明滅するたましい 骸骨が怯えている カタカタと音を立て ボルトが緩まり 腐食する身体 錆びついた心に映る闇と光 絶望か諦めか  すべてを受け入れ 救われた魂は舞い上がる 赦すなら 赦される 決して裁かず 人知を超えた激愛の啓示を待つ ひかり ひかり 天使の乱舞 嗚呼 心を広くしてください 怒らず 苛立たず  穏やかな海のように 深く 静かに そのような者になりたい 幸せは そこに 空気のように見えない それでいて なくてはならないのだ あなたは優しい どこまでも赦し 広い心で包み込み 見つめる 私の使命は まだ終わらないようだ 完成されたのなら すぐにでも旅たつ 骸骨が笑っている ゆーらりと 死のただ中で生きている ---------------------------- [自由詩]20171110_work0000@poetry/Na?l[2017年11月10日8時06分] ああ 蔑まされて 交渉 早朝の 便器に またがり 用を足す 脚が無いから 片道 1時間のトコロ を 多めに見積もり 頭を垂れて 浮く 無人の島では 骨折したガイドが 輪姦され 100円均一 の 袋の中で 助けを 求めている 私は 大手を振って謝罪し 心のなかで射精した 車に轢かれたのだ ポケットから香水を取り出し振かける 「俺は大丈夫」  ---------------------------- [自由詩]洗浄/乱太郎[2017年11月12日11時51分] 払い落とされるのが 私自身の精霊と言えるものであるならば もう悩む必要はあるまい リンゴが落下する 画家は決して筆を取らない これに関しては逆らえない伝手はないし 永遠の壺の中身は空であることに気づかない 私はいずれ埋められる 生きている意味という 正解が見つからない数式の森で 赤い林檎を手にした魔女 無色な生地に二本の針が泥を付け コインランドリーでの洗濯機の中いつの間にか 一件の一人称が消滅した ---------------------------- [自由詩]て・き・べ・ん/乱太郎[2017年11月14日14時03分]  て・き・べ・ん              邑輝唯史 丁寧に入れた人差し指を肛門の中でくねくねさせて 気持ちいいものだと思っていたら 息を吐いて次は息を吸って言われて これはもう陣痛の苦しみ 高齢出産で何を産もうとしているのでしょうか おかしいな 摘便と言われ 昨夜からの苦しみは もう安定期に入っているはずと 首を傾げられては もう桃太郎伝説やかぐや姫を超えている 明日どんな子供抱えているのか 僕は今夜落ち着いて眠れそうにない ---------------------------- [自由詩]イージーオープン/奥畑 梨奈枝[2017年11月15日18時34分] イージーオープンがイージーでない ひとり笑って寒くなる 目が覚めてすぐ目が西陽にやられて ちかちかしながら インターネット動画を見続ける 朝ごはん昼ごはん晩ごはん 昨日の夜も風呂に入らなかった 平日が平日でない平日 陽が徐々に翳っていく中で 部屋が徐々に暗くなっていく中で イージーオープンがイージーでない 平日が平日でない平日 俺が俺でなくなる日の俺 劣化してボロボロのゴムになって 千切れる ---------------------------- [自由詩]ぬ/若原光彦[2017年11月17日18時38分]  私の仕事は「ぬ」である。  なぜ「ぬ」が「わ」だの「た」だの「し」だの「の」だの「こ」だの「濁点」だの「と」だの「は」だの「かぎカッコ」だの使いやがるんだ、とおっしゃるかもしれないが。それは貴方にしたって同じではないか。貴方は全ての言葉を使うことができる。  何を「ぬ」ふぜいが生意気な、一緒にしてくれるんじゃないよ、とお思いだろうか。それならそれで仕方がないのだろう。私は「ぬ」である。私がいなければ、沼も、塗り絵も、ヌートリアも、アフタヌーンティーやベルヌーイ、イヌイットやカリブルヌスも存在できない。だが、それに感謝する者が果たしているか。いやしまい。それでいいのだ。私達のなりわいとはそういうものだ。  もちろん個別によるところはある。「あ」や「い」はその存在感たるや著しい。タ行の連中もサ行の連中も、その仕事量は尋常でない。またハ行に一目置かれるのももっともなことだ。彼らにはそれだけの華と、個性と、なによりニーズがある。「ぬ」にはない。  貴方がたが、たかが「ぬ」と思う、それは勝手だ。お前なぞいなくても、ウェヌスはビーナスとして通用するし、むしろお前がいるからボツリヌス菌もあるのだと、そう思うならそれも勝手だ。私にしてみれば、かような時期はとうに昔だ。幾ら蔑もうと自棄を起こそうと、私が「ぬ」である事実が変わるわけではない。  私の仕事は大半が否定の末端である。ならぬ。たりぬ。せぬ。こぬ。どちらかといえば気の重い役目だろう。「ない」や「ず」では勤まらないケースが私に回ってくる。そして私がとどめを刺すのだ。問答無用に撥ねつけるように。ひと文字「ぬ」と言うとどうしても気の抜けた印象を持たれがちだが、実務はいつも厳粛だ。  もちろん「ぬ」の出番が全てが暗い役目ばかりというわけではない。絹のあるところに私はいるし、私なくては絹も成り立たない。シルクと呼びたければそうするがいいが、それで絹の何が揺らぐわけでもないだろう。  ことは私だけではなく、それぞれの仕事で皆それぞれにありうる。たとえば「ん」は「ん」なりに、自分を抜いては腰砕けだと自負しているかもしれない。「と」は「と」として、安易な登場をしぶしぶこなしているのかもしれない。しかしそれもまた勝手な考えだ。私が思うに、消えていったものもいるなかで、ただ残るものが残るべくして残った、それだけのことなのではないか。 ---------------------------- [自由詩]11月18日秋葉原で/ただのみきや[2017年11月18日16時31分] 十一月十八日 江戸 秋葉原 野次馬たちの視線を七色に乱反射させ 聳え立つは巨大なギヤマンの壺 その目もくらむ頂上の 縁を走る 影二つ 永久脱毛された花魁姿のゴリラ 追いかける血まみれの巡査 幅二尺半ほどの滑りやすい壺の縁を 追って追われてグルグルと 掴み合ってはまた離れ もう半時も捕り物は続いていた 太陽はゴッホだったが 巡査はムンクのようには叫ばなかった すでにサコツもアバラもやられ マエバを空にまき散らし ヒダリメもだめになっていたが 《――十一月十八日が殉職記念日になっても構わない これ以上生きて恥を晒すよりは良い――》 ゴリラと対峙した時そう思ったが  それが俄かに現実味を帯びている 殉職するために警官になったと言っても過言ではない 子供のころテレビドラマで次々に殉職して往く刑事を見て 始めて 恋をした  殉職する 未来の自分の姿に 生き残る刑事は醜い 生きたまま逮捕される犯人と同じくらい 美しい片言の台詞はみなほつれて 河原の芒のように空しく月に触れようとしたが 《――転落だけでは単なるミスだ 格闘・説得・致命的出血・不可避で不幸な偶然が必須だ》 秋晴れの空にオーロラの輝き ギヤマンの壺の中は血のようなボージョレー・ヌーボ 酔っ払いの生首がいくつも浮き沈み なんともウラメシヤな流し目でこちらを見上げている 《神曲・地獄編 第十歌「あたし飲み過ぎちゃって」地獄 ――酒に酔う人が落ちる地獄ではない 酔っぱらったふりをしてやりたい放題 後から「酔っぱらっていたから覚えていない」なんて言う 好き者の男女が墜ちる地獄――んふっ……んふふっ……》 息を吸いながら笑う巡査は朦朧とし いまや一町角もある白紙の広がりに 辞世の句を書き連ね句集がいくつも出来上るほどだった 戯言すべてが自由律の虫となって這いまわっている 世界は極度な散文化の果て分子構造そのものが緩くなり 海の真中で筏がバラバラ 離れて漂う流木と化していた 降りてくる海鳥たちに啄まれ 眼孔も乾いて見上げる白い雲 ――一瞬 別の誰かの人生を生き終えて巡査は 《自分の喀血を裏表紙に散らして落款代わりにしよう……》 ギヤマンの壺の外側にはお江戸の老若男女が押し寄せる 「十年に一度の見世物だってよ! 」  「これを見逃したら次は2027年だって! 」 エログロ猟奇でどこか歌舞伎チックな二人の絡みを 人々は五平餅やみたらし団子を食べながら見物していたが  挑みかかる警官が血飛沫上げて吹っ飛ばされる そのたびに拍手喝采巻き起り みなが御捻りを投げるものだから  ギヤマンは くぐもりつつも涼しげな  風鈴とグラスハープを合わせ持つような声で  過ぎし日の夏を歌った 夏祭りも 盆踊りも 夏フェスも すべてが作り物の脳内バーチャルに過ぎない民衆が いま自分自身に放火して一つの物語を炎上させていた ギヤマンの二人も 遠目には ペアで踊っているようにも見えるのだ ゴリラは遠くアフリカのツガルから連れてこられた ローランド・ゴリラの豪族の一人娘だった 悪い男たちに麻酔銃で撃たれ  全身剃毛の末 永久脱毛され 人間の女として吉原へ売られた  その種のマニアにはアニマとしてすぐに売れっ子になったが ゴリラは武家より遥かに誇りが高い すでに十五人 グシャッと殴りベチャッと潰しブチっと千切り さんざん殺していた いま彼女はギヤマンの塔に登り かつて偉大な族長がエンパイアステートビルでしたように 激しいドラミング・ソロでシャウトしながら 人間の人間による人間のための馬鹿げた文明のアンチテーゼとして 転落することを予感しながら尚 清々しくさえあった 《――あとはこの目の前の男が拳銃を発射すれば わたしは美しく螺旋を描きながら落下して 大地との衝突で肉体という牢獄を壊し 魂は自由の翼を得て故郷ツガル・コンゴの森へと還って往く 早く撃っておくれ さあ 早く……》 拳銃があればとっくに撃っている  だが今日に限って拳銃を忘れて来た 否 いつの間にかホルスターが空になっていた 持っている武器は警棒だけ  それもあまり硬くならない大人の玩具のような警棒で  花魁姿のゴリラと殴り合う 殉職したい警察官 転落死したいゴリラ どちらも決定打を欠いたまま 放り投げたコインが墜ちて来るのを待っていた  日も傾きかけた頃 野次馬一人一人がみな松明に姿を変え ついに ギヤマンの壺は炎上した 炎上は珍しくもなく 恵みもなければ は組もない 祈る者すらいやしない 遠く 天守閣から遠眼鏡で覗いていた 将軍様は 『生類憐み症』の発作で 脇の下から烏賊の脚をブラブラさせながら お抱え力士(相撲警察)に殉職甚句を歌い舞わせ 燃え上るギヤマンの頂上決戦を見つめていた おもむろに右手を差し出すと小姓力士が拳銃を―― ニューナンブ・リボルバー・二十二口径 昨夜 隠密力士に盗ませた 巡査の拳銃を手に握らせた そうして左手を差し出すともう一人の小姓力士が 拳銃と一緒に盗ませた警察手帳を手渡した 将軍は動物愛護の心と この あまりに直向きで熱心な 巡査への愛(う)い思いに引き裂かれそうになりながら ミシミシと奥歯を噛み締めるように言った―― 「たとえ北の将軍がミサイルを撃とうとも 余は 野蛮で醜い兵器は使わない! 美しい国民こそが美しい国をつくり国を守るのだ! 」 言い終わるや否や試し撃ちとして力士を一人撃ち殺し むっちりとした 腰元力士の白い腹から 流れる血を 視線でぺろりと舐めた そして 老中力士に警察手帳を持たせると カッ と目を見ひらいて―― 「その手帳を余の前に放り投げよ! 」 老中力士は力加減のあまり脱臼するほど気を遣い  弧を描き 将軍の構えた銃口の数間先に落ちるように 絶妙に 丁度良く 放り投げた―― 黒い手帳 あの巡査の 警察官としての良心が パラパラページは捲れ 巡査の記憶と心の 襞を 風が梳かすように 手帳が いま銃口と 一直線に―― 弾丸が手帳を撃ち抜いた時 巡査は死んだ 振り上げた 硬くならない警棒を  下ろす間もなく クルリと半身  踊るような動きで 視線も 墨も付けず宙にひと筆 たゆたうように 残光の油膜が脳裏を染め 落ちて行った―― 炎と煙の中 残されたゴリラは 黒く灰になる魂の向こう側に 真白な空白が広がるように感じた いま此処に己が違和として存在し 相殺される相手を欠いた以上 ピリオドを打つためには何等かの転位が必要だった 生き残るものは悪 殺されるものも悪 転落死はもう売り切れている 結論は出さない 出さないが良い 放棄せよ 考えることを 放棄せよ 内側へ 内側へ 収縮し 己の核へ ゴリラは琥珀石となり 蕩けたギヤマンの中で胎児のように時を止めた それは秘密裏に 大奥の奥の奥 その奥の間へと運ばれた 全身が眼で満ちたお世継ぎを抱いて 顔のない奥方が琥珀を見つめている 《美、醜よりいでて 醜、美よりいづる――》 お世継ぎが笑った ――万の三日月 一斉に                     《2017年11月18日》 ---------------------------- [自由詩]過ごした/間村長[2017年11月20日15時58分] 神事なさいと言う内奥の声を 聞いて私は急発進の車を 避けながらプールに飛び込んで 禊(みそぎ)潔斎(けっさい)を 水垢離(みずごり)で済ませてから ちんちんの熱いお湯を何気なく 口に入れて火傷を負うと言う 神事を行った まるでモンスターに追い立てられているみたいに 私は少しオーバーだったのかもしれない 痒(かゆ)かったのかもしれないし 沙翁(さおう)(シェークスピア)見たいに 劇的な神事にあこがれて居たのかもしれない いずれにしろ物々しい雰囲気で 神事を行った私は厚顔無恥ではあるけれども 明らかに正しいオーラを纏(まと)って 江戸時代にタイムスリップした様な 少しおかしな時間感覚で しばらく過ごした(昨夜の夕餉の湯豆腐) ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]夢夜、四 獣の影と永遠の放課後の廊下?/田中修子[2017年11月21日20時47分]  ここはひそやかな放課後が続く学校の廊下だけが永遠につらなってできている。壊れて積み重ねられた机と椅子が、防音ガラスの窓から差し込んでくる青みをおびたピンクの夕日に、金色の埃を浮きたたせ、影を濃くしてどこまでも続いていた。  さいごにだれかが放ったさようならの声だけが、耳のおくに痛いほど響いてくる。  つらなる廊下を私は、あんまりに大きい、獣の黒い影から逃げていた。獣の影は、うしろの廊下をすべて食べて飲み込んでぐちゃぐちゃとかみ砕き、青ピンクの夕日も金の埃も、数十人が使って壊した笑い声や鉛筆のさらさら鳴る音のつまっている机も椅子も、すべて光を吸い込んで反射させずに、ほんとうのねっとりとした闇にしてしまう。深海に泳ぐ魚の、誰もしらない腹のなかの闇と同じ。  食べられたら、私も骨も残さずに闇に同化してしまって、次の犠牲者をいっしょになって追いかけることになるだろう、この獣の影はそうやってできたのだから。自分が飲み込まれることよりも、自分が飲み込む側になることが、おそろしくてたまらない。  命がけで、ほんとうに必死に逃げているつもりだったが、子どもの追いかけっこのように、奇妙に遊んで笑いだしたくなるような気がするときもあった。必死に誰かの顔色を窺ってまじめな顔をしようとするとき、なぜだか自分でもぞっとするくらい卑屈な笑い方をしてしまう、あの感覚とおなじ。  ともかく体は、走っていた。  ただ、どんなに走ったって、まったく同じ距離で、私の通っている女子校の汚物入れから匂ってくるあのにおいと同じなまぐさいを放ちながら、獣の影が迫ってくる。人の掻き切られた喉からヒュウヒュウと呼吸が鳴らすような音を、獣の影全体がさせている。    走りながらどこかに入れる扉はないかと両目で左右を探していたけれど、どこにも扉はない。  「1-梅組」のクラス札が下がっていても、「理科準備室」のクラス札が下がっていても、本来引き戸があるところには、防音ガラスの窓がはまっている。ふつうの錠のほかにも、ごちゃごちゃと補助錠がいくつもあって、あける余裕はない。その間にガジリと噛み砕かれてしまうだろう。  さきに、大きな窓があった。  まるで宗教画のように額のされたきれいな大きな窓の前を走り抜けるとき、中の風景が、時が止まったようにくっきりと見えた。  なぜか、そこの窓のガラスは、ほかの窓のガラスと違って、触れればすぐに割れてしまうプレパラートのように薄いのが分かった。叫べば外に声も響くだろう。  きれいに整えられた芝生、赤い果実が実っている木々のあざやかな緑を背景に、幻の蝶のように淡いやさしい色合いの花がポンポンと咲く、手入れされた中庭が見える。その中庭だけは昼の光があかるく差し込んでいて、まんなかで黒い服の神父様がひざまずいて祈りを捧げているのが見えた。胸もとには、十字架がしずかに光っていた。  神父様!  獣に追いかけられて声も出せず、その薄い昼の窓の前を駆け抜けた。  するとまた、すぐに不思議なことに、おんなじ昼の中庭の見えるふたつめの窓があって、どれだけ遠ざかっても大きさのかわらない月のように、やはり神父様は態勢を崩さず、祈っていらっしゃるのが見えるのだった。  「神父様!」    今度はおおきな声が出た。この薄さであれば、声はプレパラートの窓をとおって神父様に聞こえているはずだ。けど、どうしたって、彼の耳に届いていないことは、分かった。  神父様は、目をとじていた。お祈りを唱えているのが、私にはしずかだけれどはっきりと聞こえてきた。  -わたしたちの罪をお許しください。-  みっつめの窓が見え、また昼の光の陽射しさす、あかるい緑の中庭の神父様が見えたとき、私は、立ち止まった。  走れなくなったのではなかった。  このところふくらんできた乳房が痛い。すぐうしろに獣の影がせまっているけれど、気持ちはシンと静まり返っていた。    「私があなたを祈らなかったのではありません。あなたが私を祈ろうとしなかったのですのです、けっして」  なんて私は、偉そうなことを言うのだろう。シンと静まりかえって、涙をこぼしているのに気づいたのは、くちびるに塩辛いのが垂れて舌ですくいとったときだった。  獣の影が私を飲み込んでゆくのが分かる。  私は骨と肉に蕩けながら、裏切りのくちづけをしなければならなかったあわれな黄色い衣の男の涙の味、無実の魔女が磔にされて燃え上がった炎の熱さや、黒い分厚い本に許しを希い殺し殺しあう兵士たち、そんな二千年のうらみに抵抗なくすんなりと交わっていき、黒い闇として生臭い息を吐きながら、次にこの廊下にやってくる子羊を待ちかまえてひっそりと蹲る。 (他サイト様に投稿したものを少し手直ししました) ---------------------------- (ファイルの終わり)