松岡宮のおすすめリスト 2016年11月5日20時48分から2017年4月15日13時28分まで ---------------------------- [自由詩]やせほそる銀色のおひめさま/田中修子[2016年11月5日20時48分] 白い障子紙とおしてひかりチラチラ散らばって 立てなくなったばあちゃんをやさしく照らしてる 「食べとうない もう入らへんのや」 「そんなこといわんではよ食べて 愚痴いったらあかんよ おかあさんにおこられるよ」 「食べとうない もう入らへんのや」 匙を口につっこむわたしのちいさなてのひらかじかんでいる くつしたぬがせて足を洗う 灰色の目 ミドリのしみ、ムラサキに浮く静脈 すこし におう体 真っ白な髪だけがとてもきれいだ 障子紙からのひかりに銀色に光っていておひめさまみたい 小学生のわたしはお盆をさげたあと台所で歯を食いしばってうずくまる 暖房のきいた応接間で おかあさんと おとうさんが けらけらわらっているのがずっととおかった ---------------------------- [自由詩] 染み /小林螢太[2016年11月9日13時25分] いつのまにか ぼやけてしまった 染みが もう存在が消えようとする、その瞬間に ようやくこころの片隅に いろを 発生させて   うまれるよ うまれるよ、と 存在を主張し始める (そんざいのいぎを    全自動洗濯機に任せっきりにして 放り込む、前に 染み抜きを忘れてしまった からだ   まだ まだ、と そして、そのいろ (まだ、みたことのない   消えかけたその染みは 忘れてほしくない、 だけ なのだろうか   今頃 その価値を主張する   (いみはあるのか? ここうと れんたいを知った 今、だからこその   ぼやけて消えそうな 染みから 紡がれる、いろが少しひかり 透過、していて   (うまれたい   眩しくは、ないのだけれども   ---------------------------- [自由詩]ふたつ 冬野/木立 悟[2016年11月14日23時18分] 光を打つものの影が 空に映り揺らめいている 二本の穂の墓 影が影に寄り添ううた 切り落とされても切り落とされても 見えない部位は羽ばたきつづけ 音の無い風が生まれ 海へ下る 暗がりに硝子が立ち並び 亀裂だけをかがやかせている わずかに異なるかたちの木霊を 標のように重ねながら すぎる人 くちびるの傷 衣の裏地に満ちる言葉 金の波の見える窓 火の粉が宙に灯を描き 永い永い径を描く 半分の顔が目覚めずに 雨の符と陽を浴びている 荒れ野に立つ双つの影から 空へのばされてゆく腕が こぼれ落ちそうな滴のなかで かがやく穂となりたなびいている ---------------------------- [自由詩]不在の身体/シホ.N[2016年11月21日17時13分] 眼は 閉じるためにある 闇と親しくなるように   暗黒に潜む   閃光 耳は 塞ぐためにある 沈黙に浸されるように   静寂に沈む   音声 腕は 抱えないためにある 空中を掻けるように   手放すべきもの   もとよりない 足は 立ち止まるためにある 地に根を張れるように   歩むべきこと   前後もない 身体中の あらゆる不在こそが あるいは 在ることそのもの ---------------------------- [自由詩]本日開店「初雪屋」/もっぷ[2016年11月24日21時17分] あなたがさやかな詩(うた)をというなら 二歳の心にリボンを掛けて あなたがかなしみをと望むのなら わたしは現在(いま)を隠さない あなたが絶望のかたちをと、 それならわたしがこの身を燃べる あなたは耳を傾けたいと、 海に帰りたいなみだもあります 彼女の笑顔と同じ値札で さながら雪の降る音のごとく ---------------------------- [川柳]目をつぶり自転車/ふるる[2016年11月27日22時45分] なめらかなあなたの肩はバニラ味 すんとした風来坊になりたいな 音しない地球の自転速すぎて 秋のきみ産地直送されてきた 無理を言う机の角を15度に これならば癒されるのか五寸釘 この気持ち生きて腸まで届きます 雪が降り君の食べ方大人しい 古本屋火星みたいなレイアウト 目をつぶり自転車こいで激突し ---------------------------- [自由詩]知らない土地に差す陽の隙間で/noman[2016年11月28日1時02分] ありきたりな建物の影から 熱がすっかり移動して 遠くの景色が少しずつ 確かな輪郭を持ち始めた頃 黒く細長い支柱が切り取った背景は 穏やかに収縮していた 後から来るものは皆 他愛のない悪意を持っていて 一つの図形を何度も 躊躇うことなく素手でなぞっている その手に移動して来る熱を 手袋で 遮ることができるだろうか ---------------------------- [自由詩]親父/ホカチャン[2016年11月30日14時17分] 僕は親父が大の苦手だった 悪い人ではなかったが 説明しない人だった 子どもの頃よく怒鳴られたが 怒鳴られたわけがわからなかったので いつも不安を抱えていた 親父が仕事で帰ってくると 同じ屋根の下におれなくて 近くの祖母の家にいつも逃避していた いつもやさしく元気だったおふくろが 突然亡くなったときは さすがの親父もこたえた いつも口荒く命令ばかりしていた親父であったが おふくろが亡くなってからは 泣いてばかりだった 親父も泣くんだ、と思った それでも 子ども、兄弟、友だち、地域や施設の皆さんに支えられて 十年一人で生きた 僕が電話すると 「早く帰ってこいよ!」が口癖だった 来年は親父の七回忌だ ---------------------------- [自由詩]小さな太陽/服部 剛[2016年12月2日21時49分] 先日、職業というものを 脱いだ僕は これから日々遍在する 小さな太陽になろう ――〈今・ここ〉に日溜り、在り。 本当は誰もが 小さな太陽を宿すという 昔々のヒトの記憶を 互いの瞳の内に、交信するように   ---------------------------- [自由詩]曇り空の向こうに/Lucy[2016年12月4日16時58分]   分厚い雲のはるか向こう 白く明かりを投げてくるのは まるい太陽 アスファルトに吸い込まれながら 乱れ舞う淡雪 踏みつけようとすると消え 歩こうとすると 視界にまとわりついてくる 眩暈のように 吹雪にまかれ 細く流れる一筋の地下水脈だった それが支えた 白くまるい夢の明かりを 油断だったのだろうか それとも覚醒 あるいは風化による 単なる変質 地表に滲み出てきたとき 毒の水だった 井戸の蓋を開け 汲み上げると腐臭がした そんなはずはない これは清らかに澄んだ水 泉に石の蓋を被せて 水を封印したオンディーヌ 暴かれることを恐れ 真実は濁りを拒み 誰の目にも映り得ないもの ただ一杯だけ もうひとくちだけと 抗いがたい誘惑に 体中が毒に染まる 真実はそんな毒の水 一つの罪を贖おうとして また違う罪を犯し 罪の上に罪を重ね 守りおおせたしろい夢 大事にあたため隠し持ってきた 秘密をひとつ 井戸の底深く捨てました 誰も知らないから 知られないうちに捨てたのだから 今までと これからも何も変わらない だからかみさま と言いかけて 振り仰ぐ 私の上にゆっくりと 今 石の蓋が閉められる ---------------------------- [自由詩]優しさから優しさへ/印あかり[2016年12月6日19時06分] 小指の先から優しくなっていくのかも 浩然とした冬に 無邪気に傷つけられても まあいいか。と笑っている 髪の毛のすみずみまで 風にさらわれる少々にまで愛おしげに 流れていく 流れでる源はあたしで 流れつく先にあたしがあります。 嘘、 本当は小春日に溶けた 厳しい父母のこころが 染みだして源になっているの ---------------------------- [自由詩]釦/為平 澪[2016年12月9日22時26分] 天花粉の丸い小箱にはいっていたのは 祖母や母が立ち切狭で廃品回収に出す前に 切り取った釦 鼈甲仕立ての高価なものもあれば 校章入りの錆びた金釦や 普段使いのプラスチック釦 そして 焦げて曲ってしまった玉虫色の婦人服の釦 けれど  三つとして同じ種類のものはなかった 少し埃立つ畳の部屋へと斜陽が、 僅かな障子の隙間を潜って私と手のひらの上にある釦を射る。 厚地のコートについてたであろう変色した重々しい大きな釦、 その穴を庭先に向けて内から覗いてみる。 この家に嫁いできて、主や子供たちの釦を、 そっと切り取ってここに残してきた女たち。 いつか、役に立ちたいと思いながら、 消えていった女たちの、俯いた顔が縁側に浮かぶ。    胸の釦に通された針と糸の行方    固く留められていた結び目と糸の解れ    転がっていった釦たち    要らなくなった釦たち どれ一つとして同じものがないボタンホールが見せた景色 断ち切らねばならなかったもの。 その隙間を埋める術もなく、こぼれおちていったもの。 先立たれた者や失った者の声や骨を拾い集めるように、 私もまた、誰かの釦を見つけては、自分の小箱に入れて、蓋を閉めるのか。 座り込んでいた時間が 縫われるよう覆われて 陽射しはどんどん弱くなり あやふやな手つきの中で 釦が一つ、転げて落ちる ---------------------------- [自由詩]瞬く聖域/もっぷ[2016年12月12日21時04分] 見た目に少なくとも毒はないらしい わたしの顔立ちを思ってのこと とにかくおまえは黙っていろとのアドバイスは おとこ友達からしばしばもらっていた ちゃんと頷く、そしてみんなで遊びに行った 飲み屋だったり もっと大勢の見知らぬ人々のなかへだったり わたしは忘れっぽいし 言いたい言いたい言いたいことは たくさんできる その場で過ごせば過ごすほど ゆるされる時代が終わってさいわいなことに わたしはアルコールが先天的に無理だった つきあいからは自ら遠ざかりそしていまさびしくてたまらない あと一つのアドバイスも思い出す たばこは似合わないよ 老若男女を問わずに気にかけてくれたことだった 案じてもらえて それを 蹴っ飛ばしてきて いまさらどこへ、かあてもない ブラームスの話をぶち壊してクセナキスだケージだ言う場は 失ってしまってから ブラームスのほうがよくなった けれど いつの頃へもとくには 戻りたいとも思わない そしていまさびしくてたまらない ---------------------------- [自由詩]凍る世界に/レタス[2016年12月14日17時10分] 此処には見えない風が吹いている どうしてなのかぼくには解らない 失った物も失われた物も解らない 石が転がり 葉は失われた ぼくにはそれしか解らない 落ち葉がトランプのように散らばり 北の風に舞ってゆく 社会という組織から放たれ 自由を得た 渓流の魚のように透明になり 誰にも見つからないようになってしまった 孤独を恐れない存在になってしまったのだ 冬の渓流は冷たく 生死を賭けた世界だが 多分来年の春は迎えられるだろう ---------------------------- [自由詩]二十年/水宮うみ[2016年12月19日13時57分] 彼が世界を美しいと思えるようになるのに二十年かかった。 冬の風呂の暖かさを知るのに、夏の風の心地よさを知るのに、 青空の透明さを知るのに、草原の輝きを知るのに、二十年かかった。 ---------------------------- [自由詩]臼の陽の目/朧月[2016年12月25日12時01分] 外に臼がほしてありました もうすぐもちつきだからです 家族はそれぞれに白い息をはいて うったり うたれたり 白くて柔らかいもちを 家族の手でまるめて 少しいびつなそれは 部屋に飾られるのです だれの手で編んだもちか なにを包んであるもちか お正月には それぞの碗の中におさまるのでしょう 臼はただ 毎年の光景を思い出しながら陽をあびているのです ---------------------------- [自由詩]病巣/ひだかたけし[2017年1月16日19時38分] 月見草 銀に揺れている 透明な水流になびき 引き寄せられ 傷んだ身体 俺は引きずっていく 引きずられていく 寒風吹き荒ぶなか 青、蒼、碧 陽光余りに眩しいこの真昼 俺のジガは弱り果て 腹底から突き上げ 皮膚を内から 引き裂こうとする、 不安恐怖 恐怖不安 剥き出し顕わ シシシと笑う嘲笑う 己の喉ウゥと呻き 俺は苛立ち焦燥に駆られ よろけゆらゆら歩み行く 立ち止まったら最後 を自覚しながら ひたすら前進 脂汗のなか足運ぶ 消えはしない 肉の痛苦は軽減されても 決して消えない この病巣、魂の深淵。 ---------------------------- [自由詩]狂馬/春日線香[2017年1月29日10時17分] 懐で古銭をじゃりじゃりさせながら 暗い大通りを歩いていく 多くの脇道が横に伸びていて かつてここを一緒に歩いた人が 上から見ると「馬」の字になっている と教えてくれた町 何百年も前に大火のせいで 見渡す限りの焼け野原に変わったという その大火の前日に 大通りを北から南へ一頭の狂馬が駆けた 町人、武士、子供、乞食などなど 多くの者がそれを見送った ようやく火が消えて落ち着いた頃になって あの馬は災厄の前触れだったのだと まことしやかに語られた 今その大通りを 懐で古銭をじゃりじゃりさせながら 北から南へ歩いていく 幻の狂馬が駆けた 馬の字の町 ---------------------------- [自由詩]はれるや/次代作吾[2017年1月30日2時44分] 照るもる 本懐セルカ試合 もうてんの ぱっついちのちの 本懐セルカ試合 らーめん チャーハン 餃子の安穏 経て経て のいちのやりとり それがにちにち じゅうねん にじゅうねん ポケットのなかには 静脈とさんぴん茶 ぐるぐる ぐいんぐいんに 流れる音に みみをあてて ドドドド ドドドド 音階は贅沢 下水と、んさ おんなび おんなじ、 めるけるは はいしんけるてる のーてんの はれるは はれるや ---------------------------- [自由詩]+2℃/青の群れ[2017年2月6日16時38分] そうや、おらんかったね 自分以外の人がいる居間は暖かかった 冷えたこたつの中で丸く、眠るその影に小さく蹴りを入れても 明日もそうだろうね、言い訳することもないよ 灯油を乗せた車の音楽が響く町 厚手のニットを着たり 長袖のヒートテックを着込んだり ウールのコートをまとったりする わたしたち寒さに抵抗するすべを持っていないから 無意識のうちに冷えていく 冬の寒さにも、夏の暑さにも 血は流れ続けて常に温度を交換している 7年もあれば体の細胞はすべて入れ替わるらしい お昼の情報番組のことなんてすぐ忘れてしまうけれど 忘れられないとおもっていたことを考えない日が増えたこと ブラウン管のテレビが点いたときの音 チャンネルを変えたときのノイズみたいなものに気づく 今観てるんやから変えんとって 観てへんかったやろ そんなやりとりをしていたはずだったのに ゴシップにも非常事態にも興味はなかったからテレビはつけているだけだった 人の話し声やCM前のジングルがBGMになって 朝の占いだってそう当たらないから 出来ないこともそうやって確かめたいだけ 階段の下から聞こえない声、軽々と割り切れないな 古紙回収の車のスピーカーにガムでも詰めておこう 埃の被った古い姿見に映る姿に記憶を重ねている 目を瞑って夏の日の時計の針が小さな穴を空ける うずくまっていたひとはいつのまにか姿が見えなくなった エアコンの付いた部屋、空気の音 4Kディスプレイは静かにニュースを伝えているけれど 暖かい部屋、注がれ続ける光たちが遮る ---------------------------- [自由詩]ひかり 言葉/木立 悟[2017年2月22日11時38分] 水音のなかに 時間が並ぶ どこを切っても 倒れゆくもの 耳元の螺子 洞の夢 すぎるかたちの声たちが すれちがうたびに語りあう 勝者も無く花冠は増え 言葉も無く言葉は増える 針の雪 川に降り 流れない 鳥の影 亡き草が 原と砂をすぎ 夜明けの街の ひとつの窓の灯りを見つめている 風と羽のさかいめに 壁と壁と壁のはざまに 封じたものを解くように 枯れ木は重なり 身をくねらせる 川の水は増し 緑になり 金になり 呑みこまれるかけらたちの 変化に呼応し かがやいてゆく 動く音 ゆうるりと 曲がる音 ゆらめくものを振り返る影 流れに映らず 飛び去ってゆく ---------------------------- [自由詩]悲しみの展開図/ただのみきや[2017年3月1日18時06分] 大きな箱だった 膝を抱えてすっぽり隠れられるほど そんな立方体を展開図にして 悲しみの正体や理由 いちいち解説してくれるけど 「まったくなぐさめにならない」 そう言うと  《なぐさめる気などサラサラない》 と返してくる 工作道具を持ち出して 先生みたいに偉そうに指図する  《そこハサミで切って そこテープ貼って―― 》  《切って/貼って/切って/貼って/斬った/張った/斬った/張った/ 》 小学生じゃあるまいし 小学生から苦手だったけど 「面倒くさい あんたやれば」  《自分でやらなきゃ意味ないだろう》  《その辺のことば全部マジックで黒く塗りつぶして あとそこのシミも》  《そことここ こんなふうに書き込んで―― 》  《汚い字だな……ペン字でも習ったらどうだ》 ――うるさい 「キーを叩けばJIS級だよ! 」  《じゃあ仕上げだ 大好きなものを三つ選べ そして  その絵を空いているスペースいっぱいに描いて描いて描きまくれ》 絵は苦手だけど  まあ いいか 雲だな ひとつ目は ずっと眺めても飽きないから 次はリンゴ こどもの頃から大好き 真っ赤なやつを丸かじりするのが最高に幸せ 最後は 猫 かな 一度も飼ったことないけど アパートで育ったし 大人になっても結局アパートだから ――よし できた  《――なんで太陽から棒が出てるんだ? 》 「リンゴ! それは」  《雲とリンゴは分かるけど どうして悪魔なんか…… 》 「悪魔じゃねえ猫だよバカ! 」  《――猫? どう見ても地獄の鬼だろう》 「ネコ!ネコ!ネコ!ネコ!ネコだよブタ野郎! 」 四の五の言っているあいだに作業は終わり 展開されたものを もう一度 立体にする 悲しみの箱 少しだけ 小さくなっていた まだ両手で抱えるほどの大きさだけど もう中に隠れることはできないようだ 雑な切り口やテープの痕の不細工さが目立ったが ところどころで 大好きなものたちが励ましてくれていた 不器用にだけど 生きて来れたのだ そう思うとなんか笑えて  スンときた 「ねえ もっと悲しみ小さくならないの? 」  《悲しみだって大切にしろ》 私のフィールドに春はまだ来ない だけど冬将軍だってもうヨボヨボなんだ 重ねたものを一枚ぬいでみた ここちよい冷やかさが 頬を  張るような 撫でるような                 《悲しみの展開図:2017年2月28日》 ---------------------------- [自由詩]音楽/DFW [2017年3月13日22時09分] 音楽は子供組が舐める風邪シロップみたいなものなんだって 遠い昔にいた偉い人がそう言ったんだって いつかのあなたがぶっきらぼうに教えてくれた わたしは中古の楽器を担ぐあなたについてまわった ずっときらいだった近所の遊歩道は あなたと歩くたびに好きになっていった あなたはきっとあのときもどのときも 斜め後ろにいたわたしにではなく 茜色に染まってビルの切れ間に燃え尽きてくオゾンや 夜空に散らばる星と星をでたらめに繋いで遊んだものに 問いつめた定義を その場しのぎに 安穏なアンソロジーから庇っていた わたしはなにもかもが台無しになるくらい粉々に風邪シロップを噛み砕いてしまい 最果てに揺らめくすべての音はあなたの声でしかなかった ---------------------------- [自由詩]悪夢再び/ひだかたけし[2017年4月15日13時28分] 内なる外が押し寄せて来る 外なる内が押し寄せて来る 誰もいない、繋がりはない  白い空間奥まる深夜 圧迫され窒息する 深みへ奈落へ落ちてゆく (揺れ震える肉の魂) ぬらりと赤い舌に呑み込まれ 機械工場鋼の響きの連打、連打! ゆらり迫る闇の工員 剥奪される私の自意識 空虚を埋める匿名の物、 物たちの侵入は無差別に 物物物物物物物物物物物物物 物物物物物物物物物 物物物物物物物物物物物 物物物物物物物物物物物物物物物物物物 物物物物物物物物物物物物物物物物物物物物 埋め尽くされ埋め尽くし 恐怖の裂け目開く 乾き切った舌を出し 叫んでいる、叫んでいる 誰かの口が叫んでいる! ---------------------------- (ファイルの終わり)