田中修子のおすすめリスト 2019年1月9日8時25分から2019年3月15日14時38分まで ---------------------------- [自由詩]新月/るるりら[2019年1月9日8時25分] 新月が穴のように開いている 月が巡ってくることをいのる いにしえの民のこころもちで 月の定めた晦日の夜に凍えて 聖なる薪としてくべた雑記帳 お気に入りの日記帳が炎と化すあの感じ 大切な人が私と結びつけていた写真を無造作に捨てたと知った あの感じ 筆圧の強い字ではちゃめちゃに書いた文字が涙の飛沫で溶ける あの感じ ふくみのふくらみを 口にすると朽ちてゆく みもだえたすえに 決心する すきなことをすきなだけしているつもりで すきなことがなにかをわすれ 穴のように開いている 新月 満天の空に ぽっかりあいた穴のよう 或るはずの天体は 時間と空間のなかに まっさらを示し わたしをふくらませようとしている みたそうとしている  わたしは いつも みたさそうとする月の力を裏切りながら きょうの新月と対話する すきなことをすきなだけするという軸ではなく できることをできるだけしていく軸で生まれ変わりますから だから月よ  明日の わたしを 満たしておくれ *********** http://golconda.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=5957127#12689686 即興で詩を投稿するサイトに投稿した作品です。同じ題名で詩を書き、みなが認めた作品を書いた方が 次の題名を示すサイトです。本作品の課題は、みうらのばでぃすきー様が 2019/01/01 (Tue) 18:42:00に出しておられます。 しかし、どなたの御投稿がなかったようです。大幅に指定時間をすぎましたが、今朝 本作品を投稿させていただきました。 ---------------------------- [自由詩]シティ/るるりら[2019年1月15日16時41分] 線路はどこまでつづくのか トンネルの向こうに 白い世界が見えるが ちかづいてくると どうやら画布だ トンネルの出口は大きな世界地図で塞がれている 列車は べつだんなんのアナウンスもなく 地図に突入してゆく 息をのんでおもわず目をつぶるまぎわに つり革の人の革靴の足に力が入り すこし屈伸したのを見たと同時に 風圧とともに画布の破れる音がして世界は広がった なんという地平だろう なんという明るさだろう しばらく列車は陽気に前に進んでいたが ふたたびトンネルにさしかかった トンネルの向こうに 白い世界が見えるが ちかづいてくる こんどの画布には 日本地図が描かれている 列車は とりたててさわぎたてるものもなく 地図に突入してゆく もう呼吸をあらだてるほどのことではない  すこし余裕ぎみに窓の外を見ると 風圧とともに画布の破れる音がして なにやら故郷の文字を確認した気がしたが、はて  日本のことを忘れた なんという水平線だろう なんという清々しさだろう 列車はより一層加速して またまたトンネルにさしかかった 列車の中に短い音楽が流れたあと アナウンスが入った 「いつも ご乗車ありがとうございます。 この列車は、あなたの心の中に向かいます。 つぎは こころの中 こころの中」 バシュという音がして列車は 自宅の家の近くの駅に止まった 遮断機があがり 家路に向かう 突き当りの家には 薔薇が咲きそうだ 今日は見慣れない車が止まっている  車体番号には【遠くから来た】と書かれていた。 表札をみると【薔薇は蕾】と、立派な明朝体で掲げられていた。 はてと思いながら そのお隣の表札を読んでみると【地域猫在中】と書かれている。 なんという名前の猫だったろう みんなちがう名前で呼んでいるはず 家にたどり着く前に 隣の人とすれ違って 聞いたことのない名前で私のことを呼んだが まちがいなく不思議なその名前が私の名前だということが、分かった *************** 即興投稿板参加作品です。 お題は、はさみさんです。まだ まだ 時間ありますよ。 http://golconda.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=5961091#12698062 ---------------------------- [自由詩]小さな散歩/そらの珊瑚[2019年1月18日11時51分] いとしいといわない 愛しさ さみしいといわない 寂しさ 祖母と行く畦道 ふゆたんぽぽを摘みながら 手は 手とつながれる 枯れ野には 命の気配がして 墓所には 命だったものの気配がした ささやかなあの時間が 遠くなるほど 近くなり 見えないどこかに 無言のままで宿っている ---------------------------- [自由詩]ゆび /るるりら[2019年1月18日20時54分] 水面の雲がながれるように 素足で湖の上を歩きたい  つめたく 人をさす ひとさしゆびのことは 忘れてしまいたい わたしは くつしたをぬいで はっとする わたしの あしのひとさしゆびは だれのこともゆびささずに まえだけを見つづけてくれていた 人をゆびささない ひとさしゆび 私を にくんでおられる あの方も きっと 持っていらっしゃるに違いない指 ひとささん指 ---------------------------- [自由詩]誰に弓を習ったの?/mizunomadoka[2019年1月20日2時07分] はじめて書いた文字は まどかの「ま」だった うれしかった 母がほめてくれたから 不思議の国のアリスを読んでもらって 気に入った言葉を 画用紙に集めて色を塗った コタツに入って クリスマスカードを書いた 住所が母で、イラストが妹 Merry Christmasが私 夏休みの工作で 雲の上に住んでるネコの絵本を描いて 銀賞をもらった 共同墓地のスケッチは 校長室に飾られた チェストーナメントのジュニアの部で 2位になってDCに行った 恋人ができて星のようだった日々も その子が死んだ12月23日も 過ぎてもう大人になった あんなに好きで楽しかったのに 今は文字を書くのが怖い 悲しみや後悔や孤独を塞ぐのに 使ってしまったから プラスのエネルギーが無いんだと思う 枯れたオレンジの庭を出て 冷たそうなモナ川に沿って歩く 老夫婦がベビーカーを揺らして ロボットの子供をあやしてる 目が覚めると飛行機の中だった 真っ暗で乗客は誰もいない 歪んだ鉄柵に繋がれて 抱き合う姉妹 どうして本当のことを話してくれないの? 嘘のほうが綺麗なのよ 竜巻から隠れて息をとめたとき 砂と海の匂いがした 幹線道路の車灯 岩に積もる雪、死者たちの声 絶対に私を忘れないで もう食べたいの ギリギリジージー お母さんっ! 泥濘に跡が残らないくらい ゆっくりと這いながら沈む たぶんもう私はいない ほら空をみて オリオンの火も消えてる ---------------------------- [自由詩]田中修子さんの作品、置手紙への返詩として/足立らどみ[2019年1月22日21時47分] 置手紙を開いたら 一編の詩 あら、懐かしいや詩とメルヘン 欧州の古城の裏庭で 子らは真面目に呪文を誦えている 起きて起きて、ピンクの血に染まる妖精よ 遠い東の国からやってきた永い眠りにつく妖精よ 古さびれた城に生命を 落ちぶれた人には笑顔 運んできてくださいね もう一度、 手紙を開いたら 文字はなく 押し花ひとつ ---------------------------- [自由詩]秘法(第一巻)ほか九篇/石村[2019年2月1日12時06分] (*筆者より―― 昨年暮れ辺りに自分のかくものがひどく拙くなつてゐることに気付き暫く充電することに決めた。その拙さ加減は今回の投稿作をご覧になる諸兄の明察に委ねたいが、ともあれかいてしまつたものは本フォーラムに全て記録・保管しておきたいので、前回投稿以来フォーラムに載せてゐない複数の作を一度に掲載することにした。さうすれば読者諸兄にあつては詰まらぬ作品をひとつひとつ閲覧せねばならぬ面倒も省けるといふものだらう。)   秘法(第一巻)    ? 骰子蹴つて鍋に放り込む 万華鏡のアンチテーゼ 漆黒。    ? ばら瑠璃(月夜のトランプ) 「ペルシャンブルーの砂漠がですね、  象の骨を磨いてゐたのですよ。」 キャラバン隊のポスターを剥がす少女の初恋。    ? 薄荷ラッパのせいで桟橋落ちたのには困つた。 そこで 幽玄。 (宝船を解体してからこの旅を終はらせませう) ドビュッシーの蒔絵は未完成でしたが――気にしません、私。    ? (クレーの帽子)    ? 虹の線形代数。    ? 蝶がプリズムの先端でゆれてゐる午後。 アテネの路傍では哲学の授業がつづいてゐます。    ? (まだ歌つてゐますね!)  Einsatz! それからクレタ島に行つてきます。 鳩を取り返しに。    ?    ?    ? (ユピテル魔方陣でお別れします) 姉さんのリボンの裏に刺繍されてゐた秘法です。 「光あれ」と 二度と云つてはならない。 (二〇一八年十一月二十七日)   十二月スケッチ とほい国のひとから 今年も はつ雪のたよりが届きました 今日はきれいな朝です すんだ まるい空に たかく フルートがきこえます モーツアルトがかき忘れた音符です いろんなことが 思ひ出されます さよならあ と云つて その子は落ちていきました かへりおくれた鳥のやうに おぼえてゐますか もう 冬です (二〇一八年十二月四日)   太陽の塔 退屈で残酷な世界は 知らないうちにほろびてゐた 神さまは 人間をこさへたことさえわすれてゐた 太陽の塔をみあげて 「よくできてゐるな」と感心し 二百五十六万年ぶりの定期巡回を 終へたのだつた (二〇一八年十二月五日)   冬の室内 ふりつむ雪を温める 優しい姉妹の憂愁(メランコリア)   琥珀 ちひさくなつてゆくいきもの (白亜紀の蝶がしづかに目をさます) (二〇一八年十二月十二日)   銀世界 雪に埋れた日時計が時を刻む 終末まであと二分。 (二〇一八年十二月十五日)   墓碑銘 どうしやうもなくて 笛を吹いてくらしてゐた王様が 楡の木かげで 息をひきとつた 家来たちが宮廷で グローバリズムと地球温暖化について ながながと議論してゐる間に 行方不明となつてから 十年後のことだつた 会議は今もつづいてをり 解決を見るけはひもなく 十年すぎても家来たちは 王様が行方不明であることに 気付いてゐないのであつた 森のきこりの息子がひとり 楡の根元に穴をほり 王様のなきがらと 笛をうづめた それから小刀をとりだして 楡の木の幹に 「ぼくのともだち」 と彫りつけて 目をつぶり 手をあはせた (二〇一八年十二月十七日)   降雪 冬の底にかさなつて行く沈黙 ああ さうか これは ことばのない いのりのやうなもの 白くなつた世界に 目をつぶりたくなる (二〇一八年十二月二十一日)   冬支度 星あかり しづかに おろかなる 男ひとり 影を置く 月は凍つてゐて ものみな息を凝らし 時の刻みに 耳傾ける (硬い空気に何とも  良く響くのだ それが)  幼くて逝きし者たちの  明澄さこそ羨ましい!  何をか云はん  俺よ 何をか云はん?  老いさらばへた病み犬の  今はの際の呟きか    はたまた  三匹の羊どもに逃げられた  冴えない羊飼ひがこぼす  愚痴でもあるか?  どつちにせよ  似たやうなもんだ  冬の落葉にうづもれた  こがね虫の乾いた死骸が  ときをりからつ風に吹かれて  立てる音みたやうなものだ  俺よ  おまへはつくづく駄目なやつだ  駄目なやつだから  とつとと命を仕舞ふ  支度でもするさ…… 星あかり しづかに おろかなる 男ひとり 影を置く 月は凍つてゐて ものみな息を凝らし 時の刻みに 耳傾ける 冬だ 支度をするがいい (二〇一八年十二月三十日)   罪 いいんだ 花は さかなくてもいいんだ いいんだ 麥の穂は みのらなくてもいいんだ いいんだ うたは うたはれなくても 笛は ふかれなくても 絵は えがかれなくても 木は 彫られなくても なみだは こぼれなくても 空をふるはせ ひびくものらよ どうして うまれてくるのか その罪に をののきながら (二〇一八年一月二日) ---------------------------- [自由詩]夜想/帆場蔵人[2019年2月2日1時24分] 雨の夜の窓のなか 遠くに灯る赤い傘 赤い灯台、雨のなか 近くにゆけば遠ざかり 遠くにあれば懐かしく 夢路の窓は滲みます あの灯台はなお赤く 赤子の?もまた赤い 雨の町かど霞む丘 同じ道行き傘、紅く 絡めた指に流れる血 いまひとたび思う道のり ---------------------------- [自由詩]かなしいおしらせ/そらの珊瑚[2019年2月2日10時44分] 大きな欅が伐採された ものの半日かそこいらで 姿を消した あっけないほど たやすく 死んでしまうことは こんなに簡単 雨を飲み 光を吸収し 息を繰り返し いくつもの季節をその身に刻みながら 樹は育ち そのまわりに ぐるりとしつらえられた 円形のベンチで 枝葉が作った木陰で 夏の人は ひととき やすらいだ 精密でランダムな枝と葉の たわやかな隙間から 光が優しい速度で 落ちてくる 「かなしいおしらせです」 欅の死を 風が知らせてまわる 鳥が来てほんとうだと騒ぎ 誰が殺したと蜂が唸る 猫は切り株を見た 或いは いなくなったものをじっとみつめた 地面の下の幼虫は まだ死んじゃいないと泣いた 朝が来て かなしいおしらせを おひさまはてらします いつものように ---------------------------- [自由詩]あなたの夢をはじめて見た/ただのみきや[2019年2月11日13時18分] 夢の中となりに座ったあなたと話すことが出来なかった 夢でもいいから会いたいと願ったあなたがすぐ横にいて あなたはもはやあなたではなくわたしの心の影法師なのに あなたを知りあなたの心を慮ることで虚像すら燐光を放ち 清流の魚を掴むかのようそこに在りながら躊躇して深みへ 消えてしまうことを恐れては手をこまねいて見つめていた 目覚めても諦められずに再び眠りの中へ追いかけて いつもより長く 次から次へと夢の中 あなたを求め どんなに夢が変わっても表象が変わっても 失くしたものを探すように 決して間にあわない待ち合わせに急ぐかのように 飛び乗った船の人込みに恋人の姿を見つけられない若者 初恋の相手が知らぬ間に引っ越していた少年 記憶を失くした巡礼のように 言いえない衝動にかられ彷徨い続けやがて 日も高くなったころ 見慣れた天井の下で目を覚ます 岸辺に打ち寄せられた男の中から 共に身を投げたはずの女の顔形が白く溶け 絵具で描いた夏の太陽のように輪郭すら失われて往く時の 泡立つ狂おしさが一瞬過ったかと思うともう 時は時計が磨り潰す塵芥の原料でしかなくなって 感覚は同期する何事もなかったかのように けれどもポケットには一枚のメモがあり文字は滲んで読めないが ただ香りだけが置いて来たものを未だ炙る熾火なのか 遠くて近い痛点が座標も得られず彷徨っている――そう 夢の中となりに座ったあなたと話すことが出来なかった 夢でもいいから会いたいと願ったあなたがすぐ横にいて            《あなたの夢をはじめて見た:2019年2月11日》 ---------------------------- [自由詩]永劫の蕾/新染因循[2019年2月14日0時50分] この花は永劫の畔にゆれている。 あまたのうつろいをながめ 蕾という名の一輪となって。 風よりもとうめいなあなたの声が、 水面をやわくなでている。 どことも知れずに吹いてきては。 あなたの落としていった種は 油彩のなかに秘められた 空のかなたの青色をしていた。 ああ、永劫に 枯れることもない花のあわれ! 日よ、暮れよ、 吹きすさぶような夜よ、 この花が枯れてしまうように。 手折るではなく、 ただ、日よ、暮れて枯れよ。 だがあなたは在るのだ。 この花は永劫の畔にゆれている。 あまたのうつろいをながめ 蕾という名の絵画となって。 ---------------------------- [自由詩]沈黙のなかで/帆場蔵人[2019年2月14日1時09分] 誰もがそれとわかるように 名前をつけてみましょうか 花と名前をつけます 蜂と名前をつけます 光と名前をつけます だけれど君がそれを指さすとき 花と戯れる蜂や蜂と戯れる花を 輝かせているひかり、その光に 名前など必要だろうか ただただ耳を澄まして ただただ眼を見張れば ただただ美しい世界を 別ちあえないだろうか めいっぱいの孤独の底 君と僕は名前さえ忘れ ただただ一瞬の永遠を 望んでいたんだ、光を ---------------------------- [自由詩]恥ずかしい自称詩人の日曜/花形新次[2019年2月17日8時12分] 日曜の朝っぱらから くだらねえこと 書き込んでる暇があったら 自分で味噌汁でもこさえやがれ おまえらのクソカキコに 決定的に欠けているのは 日常性だ 普通に働き暮らしている人の習慣だ 働きもせず ダラダラダラダラ 何の変化もなく暮らしている だから日曜の朝に 愛だの何だの サブイボ出来そうなこと ほざくんだ 恥ずかしくないのか? 明日から きちんと働け そして モノトーンの 1週間を変えろ ---------------------------- [自由詩]犬たちへ/帆場蔵人[2019年2月17日22時13分] いつか真夜中に犬たちの遠吠えが 飛び交っていたことがある あれはいつだったか 野良犬というものをいつからか観なくなり 町はひどく清潔で余所余所しくなった リードに首輪、犬たちも主人によりそい しおらしく、家のなかにまで入れてもらい お前たちの遠吠えは何処に消えた? 遠吠えが響く夜にわたしの心は野外にあり 星よりも夢中に夜の果てへ尾を引く遠吠えを 空を駆け上がるお前を、酒よりも女よりも 本すらも投げ捨て遠吠えに手をのばしたのだ それはもう夢の中にしかない しかし、犬たちよ いつかその円らな瞳に、綺麗にカットされた 毛並みの奥の血潮が滾る夜がきっと来るのだ リードも首輪も引きちぎり、遠吠えする夜が 約束されているのではないか わたしの猫たちが鳴いている、遠吠えは 夜明けの稜線を越えてわたしたちの心から 遠ざかっていく ---------------------------- [自由詩]VOICE/もとこ[2019年2月18日22時24分] あなたは少しだけ震える声で 言葉を世界へ解き放っていく それは遠い未来の記憶だ 空のこと、風のこと、涙のこと 夕焼けのこと、無くした恋のこと あなたが生まれた朝のことだ そんなことは無駄だと誰かが言う くだらないし何の意味もないと 彼らは否定するために否定する 空っぽの器を虚栄で満たすために そんな彼らの身体は穴だらけで あちこちから嘘が漏れ出している だから気にする必要なんてない 失い続けるだけの人たちなんて あなたはやっと卵の殻を破り 小さな窓から顔を出したばかり 俳優のような声量はない 歌手のような美声でもない 自信もなければ確信もない だけど伝えたいことがあるなら 夜の中を漂っているあなた 教室の隅に隠れているあなた 自分を傷つけ続けるあなた 人の海で孤独に溺れるあなた あたしは言葉を待っている 飾らない剥き出しの言葉を どうか、あなたの声を あたしに聞かせてほしい ---------------------------- [自由詩]がっかり自称詩人/花形新次[2019年2月18日22時33分] 自称詩人の投稿には 毎日がっかりさせられる よくもまあこんなに 才能ないもんかと 普通こんだけ書き続けりゃ ちっとは上手くなるんじゃないかと 思うけれど これが成長のせの字も見られない そもそも上手くなろうなんて気は これっぽっちも無いんだろう 字面は同じがっかりだとしても 才能あって期待されている人へのがっかりと 自称詩人へのがっかりでは 雲泥の差がある それに 自称詩人の無駄に丈夫なところが とても憎々しい ---------------------------- [自由詩]はじまりは揮発していつしか空が曇る/かんな[2019年2月20日13時04分] 生命線をなぞる 左手のひとさし指でいちど君と 出会った気がした真昼に やさしく訪れるように降る雨が こころに刺さる氷柱を一欠片ずつ 溶かしていく夜に冬が泣く 何度も読んだ小説の 一行目のことばを 思い出せずにキッチンでお湯が沸くように 世の中のすべての出来事の はじまりは揮発していつしか空が曇る 小鳥が奏でる朝の楽譜の 音階を上るように二階の君にキスをする 湯気を立てるマグカップの取手に仕掛けた トーストにうすく塗り込む いくらかの愛を 畳んで大切に引き出しにしまい込む日々に 虹を駆け上がる我が子の 右手が明日の端っこに届くと 風になびく春の匂い ---------------------------- [自由詩]五十音の石/服部 剛[2019年2月20日20時48分] 暗い部屋で 胡坐(あぐら)をかいている 私の上に  ? が ひとつ 浮かんでいる なぜ人間は 言葉を語り 言葉に悩み 言葉に温(ぬく)もる のか たとえば「あ」のひと声も 口から放つ ひとにより 違う音色で…相手の胸に届き 笑いと涙を誘う だろう 日々を営む 人と人の間で 互いの糸はこんがらがることもしばしばで あの日  私は呟いた 魔法の言葉はない と ――私は今も探し続けている 巾着(きんちゃく)袋に、手を入れ 五十音を記す玉石をかき混ぜ 熱をもつ文字のパーツを取り出し 今日出逢う あなたの胸の深い所に そっと置く  ---------------------------- [自由詩]横顔/花形新次[2019年2月22日0時01分] 不細工さが 窺い知れる その横顔 億が一、正面から見たら 広瀬すず似かも知れない 淡い期待を胸に 回り込んでみる ムーンウォークで ・・・・む〜〜ん(感情シャットアウト) くそー! こんな日に限って 空がやけに青いと来てやがる! ---------------------------- [自由詩]消えた自称詩人/花形新次[2019年2月23日17時04分] クソゴミみたいな自称詩人は ある時からパッタリと姿を見せなくなる うだつの上がらない現状から ほんの一時でも解放される気がして クソゴミみたいな自称詩を投稿し 一所懸命他のクソゴミにイイねして 薄っぺらな関係性に 活路を見出だそうとするけれど やがてこんなことをいくら続けても うだつの上がらない状況は変わらないし いたずらに時間だけが過ぎて行くことに気付く バンドもやった 絵もやった マンガもやった 変なパフォーマンスもやった アーティスティックなことなら ほとんど手を出した でも、何れもものにならなかった (実利的なことは もともと勉強が出来ないから やらない) 最後にたどり着いたのが 自称詩だった もう何もない 残された道は プロ市民しかないので 取り敢えず 当たり障りのない 安全なデモに 参加することになる ---------------------------- [自由詩]冬の墓/帆場蔵人[2019年2月24日21時39分] 枯れてゆく冬に名前はなく キャベツ畑の片隅で枯れてゆく草花を 墓標にしても誰もみるものはいない ただ今日一日を生き抜くことが 大切なんだと、うつむきがちに言う人に ぼくは沈黙でこたえる、ただ春が来ると ただ冬が終わったのだと、言うことはない 食卓に並ぶ皿に ロールキャベツ 春だねと 呟いてもひとり ただ今日一日を 生き抜くことだけが 大切なんだと うつむきがちに 今日一日と噛みしめる 枯れてゆく冬に名前はなく 墓標は春に萌えでる草花にのまれて 畑ではキャベツの頭を仰け反らせ そっ首に鎌を吸い込ませていく そうして春もまた少しずつ 刈り取られていくのだ ---------------------------- [自由詩]ヤモリ/そらの珊瑚[2019年2月28日11時09分] 最近ヤモリは現れなくなった 夜のはめ殺しの天窓に映させている 流線形のシルエットが好きだった イモリだったかもしれない それとも風に導かれて降り立った 小さな神様だったのかもしれない 便宜上ヤモリとうちでは呼ばれているけれど そもそもヤモリは自分が誰なのかなんて興味ないだろう 好きといいつつ ほんとのことなんてなにひとつ知らないまま 季節は閉じられていく 生きていることと死んでいることの間に リボンがゆらゆらとはためいていて 機械ではないわたしたちは日々 細胞を分裂させている 奇跡のように ---------------------------- [自由詩]最終電車/石村[2019年3月5日15時45分] *筆者より―― 旧稿を見返してゐて、本フォーラムに掲載してゐなかつた作品があることに気付いた。以前のアカウントを消して以降、復帰するまでの間にかいたものは随時掲載していた積りだつたがどういふわけか洩れていたのである。人目に触れる価値のない作品とも思へないので今回掲載することにした。前のアカウント消滅時に消えた旧作もいずれフォーラム上でアーカイブ化しようと考へてゐる。いつくたばつてもとにかく作品は残ると思へば安心できるから、といふだけの理由だが。 あたたかな春の日の午後 なくしものをさがしにいつた 一両編成の電車に乗つて なつかしい駅へ 無人改札を抜けて 翳のない あかるい駅前通りを まつすぐあるいて海岸へ そこから駱駝に乗つて 砂丘を越えて また砂丘を越えて もひとつ砂丘を越えて エメラルドブルーの水辺へ 黄色い櫂のついた 薄桃色のボートに乗り込んで 水平線へ 空と海とが出合ふさかひ目で 姉さんから借りてきた 銀のかんざしをこの星にさす 乙女のためいきのやうな音がして 四囲をかこむ青い風船はたちまち小さくなり わたしは引力をはなれる ほら ミルキー・ウエイ マントを羽織つた少年が 玉乗りしながら 私に目をやり につこり笑つて 「よくきたね」 ありがたう しかしわたしは先をいそぐのだ おぢいさんにもらつた羊皮紙の地図をたよりに もくもくと漕いでいく いつしんに ひたすらに なくしものは まだそこにあるのか すてられてはゐないか ぬすまれてはゐないか わたしの気はひどく焦るのだ ふりしきる 粉雪をつき抜けるやうに 乳白色の星々がとびすぎてゆくなかを せつせと漕いで また漕いで やがて さみしい外れのあたりにくると 川幅がだんだんほそくなる おぢいさんの地図はここまでだ 大丈夫 ここまでくればもうわかる あとは一本道だ 七十六兆の引力ベクトルが 相殺される空白に沿つて 通じてゐる ひと筋の透明な航路 やがて星々がまばらになり ぽつり ぽつりときえていき みつつ ふたつ さいごのひとつ そして終点 ひかりもなく 暗闇もない ゼロと無限が たがひにぐるりとまはつて ここでくつついてゐる たしかにここだ はじめての夢がわき出した ひろがりも ふかさもない ひとつの点 やうやく着いた かるく眼をとぢ ひと息吸つて それからくるりと向き直る とほくにひろがる 銀河の全景 やあ このせいせいした気分はどうだらう この星々と そこに棲む  生きとし生ける あらゆるものたちを まとめて抱きしめてやりたい さうだつた 時がうまれたその瞬間 わたしはたしかに さうおもつたのだ これでいい じゆうぶんだ なくしたものは もうなにもない さあ かへらう わたしはまたくるりと向き直り 姉さんの銀のかんざしを さいしよの点に突きさす わたしをとりまく黒い風船はみるみる縮んで かんざしの先に吸ひ込まれ 水色の春のそらが頭上にふくらみ 波がゆするボートの上で  わたしは潮の香を嗅いだ まだ日は暮れてない 浜辺へ戻らう 駅へ急がう 最終電車に遅れないやうに 姉さんにかんざしをかへしに とうにほろびてゐる 春の日のまちに (二〇一七年二月十六日) ---------------------------- [自由詩]虐待/印あかり[2019年3月12日9時54分] 死にゆく蛍がかじった、かもがやの隙間の細い風 すっかり軽くなった腹を抱え 夜霧の中をしっとり歩いている 大きな風に 人の声が洗われて、草木の本当の 美しさを見る日を待ちわびていた 蛍は一匹、二匹、死に、生きたものも光るのをやめた 埃の甘く匂う本が好きで 積み上げては崩していた 両の頬に詰めこんだ言葉でにっこり笑ってみせた 無邪気に罅が入り、羊水が零れて 生まれたものがわたしの目を見つめ返してくれるまで 灯りもつけずに待っていた そのうち 壁に書きつらねた数が振り子をぶちはじめた 声にすることを怠ったから わたしは痛みの中に閉じられた 露をまとって震えるそれを 読みあげた人から飛び立ったらしい 風の吹き抜ける朝へ 知らない人々の声が降り注ぎ 夢のようなさようなら あれから何度声をあげて泣いたろう 何に惹かれて、何を恐れたのか 細い風を噛みながら考える 眠りに守られる夜をやめたこの頃は 風の脆い朝でも美しいと思える ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]なぜ詩を書くのか/石村[2019年3月15日14時38分]  詩は生きるために必要なものではない。  例えば貧しく混乱した世の中では人々は生きていくことに必死で、詩どころではない。豊かで平和な世の中になると今度はしなくてはならないことが多すぎて、やはり詩のことは忘れられる。誰にもやるべき仕事、こなすべき用事、読むべき本、考えるべき問題、喰うべきもの、飲むべきもの、見るべきもの、聞くべきもの、べきべきものがいくつもあって、その中に詩は含まれない。生きるためにやるべきことが多すぎて、生きるということに使う時間などないから、詩を読む時間はもちろんない。  日常生活の中で、詩はよほどの暇人以外には必要とされていない。詩を書くなどというのはこの世の中で最も不要不急の所業のひとつで、詩を書く以外に能のない私などはこの世の何の役にも立たぬ無用者だ。詩は生きるために必要なものではない。それでいい。ひとが己のいのち以外のすべてを失った時、生死の狭間に呆然と立ち竦んでいる時、いつか心に刻まれた言葉だけがまだ残っていてその人に響き、語り掛けてくる、そのような言葉があるとしたらそれが詩だ。  いのちひとつだけの素裸になった人間の手元に残された唯一のものであるような、そういう言葉を残すために、私は詩を書き続けている。 ---------------------------- (ファイルの終わり)