田中修子のおすすめリスト 2018年10月29日21時10分から2018年12月15日0時36分まで ---------------------------- [自由詩]けだもの・部屋/石村[2018年10月29日21時10分]   けだもの ひとの声がする 空がなく 土もない 紙の色の月がうすく照らす このわづかな世界に やさしく 神々しく いつくしみ深く ひとの声がする 《祈りなさい》 《目覚めなさい》 《愛しなさい》 うるさい わたしはけだものなのに (二〇一八年十月二十三日)   部屋 昨日まで、うつくしいひとが座つてゐた部屋です。 きちんと畳まれた制服の上にオーボエが置かれてゐます。 文机には音楽の教科書がひらかれてゐます。 床下にはきつねがうずくまつて、まだ次の曲を待つてゐます。 お母さまが入つてきました。これからお掃除です。 きれいな月の、秋の夜です。 (二〇一八年十月二十九日) ---------------------------- [自由詩]祝福の日に/服部 剛[2018年10月31日17時56分] 今日はわたしが生まれた日 まだ仄暗(ほのぐら)い玄関の ドアの隙間から 朝のひかりは射している 幸いを一つ、二つ・・・数えて 手帳の暦(こよみ)を ひと日ずつ埋めながら わたしは歩く 日々の笑いと涙と憤りさえ 人々の間を巡るエネルギーに 変換するように 今日も 何処からか吹いてくる 風を受信するように わたしのなかの 窓をひらく ---------------------------- [自由詩]一粒の麦よ/帆場蔵人[2018年10月31日22時32分] 埋もれた一粒の麦のことを 考えている 踏み固められた大地から 顔も出せず 根をはることもなく 暗澹とした深い眠りのなかで 郷愁の念を抱いているのか 夏天に輝く手を伸ばし 希望の歌がこぼれんばかりに 大地を豊穣の海へと変えた あのころを 冬天の下、霜枯れていく山里よ 幼き日に友たちと駆けた 黄金色の迷い路の夢も枯れて またひとり、またひとりと人々は去り 整然と均された荒野と鬱蒼と茂る緑が ただ広がっている 農夫よ何処に行ったのだ? わたしはかえりみる 縁側で眠るように座していた あの年老いた農夫を 節くれた傷だらけの手の厚みを あの埋もれた一粒の麦の声に その耳を傾けていたのか わたしには聴こえない どこで間違えたのか あの黄金も希望の歌も忘れてしまった 失くしてしまった わたしは農夫になれなかった無能もの 真実を求め麦酒を飲み 言葉のなかで一粒の麦をさがして 酔いつぶれていくのだ ---------------------------- [自由詩]触れ合う/帆場蔵人[2018年11月1日20時15分] 右の頬を叩かれ 左の頬も叩かれ まったく叩かれてばかりだ 女に叩かれ振られ 男に目つきが悪いと叩かれ ふらふらして肩がぶつかり叩かれ まったく叩かれてばかりの人生だが ぼくだって毎日地球を叩いている 歩いて、走り、たまに密やかに 人知れず踊ってみたりする そうすると地球が叩き返してきて 鼓動は高鳴り、どこまでも飛べそう しかし雨だ、雨が降ってきて 百万回は叩かれて ふらふら 肩がぶつかり叩かれる あぁ、まったく上手く出来ている ひとは大地を耕し、牛馬が草を食む 工場地帯の黒雲はいつか嵐を孕むだろう 生命は叩き叩かれ、どんどんと草木の芽は 息吹いてゆき、密かに交わされる密談が マンホールの蓋を揺らして、ひとが落ちる まったく上手く出来ている ふらふらしてたら だれかにそっ、と抱擁されて鼓動が 打ちあい、心臓の歌が聴こえた 下水道やそこに生きるどぶネズミの糞 街かどでだれかが無造作に咀嚼するパン 死にゆくひとの吐息から 指さきにふっ、と止まる 秋茜のように ちろちろ、萌えて掠れて ひゅるりら、ひゅるりら、流れ 流れ、流れて、雪崩れ、泣かれて 心臓はなる、歌え心臓、耳を地に落とし あまり無造作に地球を 抉らないでくれ、奪わないでくれ 垂直に地球を見下している ぼくらが言うことなのか あぁ、わかっている同罪なんだ なんもしてねぇ、からさ だから、せめて優しく叩いて 叩き返されよう、それは抱擁になるのか? 昔の偉い方が 右の頬を叩かれたら、左の頬を 差し出しなさい、などと言われたので 叩かれてばかりなのである そんなわけでぼくはちぃ、と ばかし馬鹿になってしまい 馬鹿だから、とりあえず悪賢い考えも 浮かばない、人畜無害なやつに なってしまえたら、どんなに幸せだろうか 優しく頬を叩きたい、叩かれたい いつだってそっ、と差し出すのだ ---------------------------- [自由詩]秋の部屋/えあーぽけっと/そらの珊瑚[2018年11月5日9時10分] 足で漕ぐのは オルガン という名の舟 音符の旅 息でつなぐ ときおり苦しくなって とぎれる 生きていたという波の上 気配だけになった猫 ふんわり鍵盤の上を渡る 秋の日は すこしづつかしいで オレンジ色の光でうすまる 指先の輪郭 耳に中に残る音 生きているという実感 冬を待っている毛糸の群れ あれらはみな 獣の生まれ変わり ---------------------------- [自由詩]少々早い辞世の歌/石村[2018年11月6日20時39分] 色画用紙をひろげて 影をうつす 木炭でなぞる しばらく眺める 笑いがこみあげてくる なんと へんなかたちなのだ 俺といふやつは 俺は笑つた 笑つて 笑つて 笑ひ尽くした いい気分だつた ああ すがすがしい日だ もう 終はりにしても よからうか ---------------------------- [自由詩]波の子/帆場蔵人[2018年11月8日1時54分] 常夏の陽が波にとけ 波の子生まれ遥々と この島国へ流れ流れて 夏を運んで、春を流して 波の子ゆすら ゆすら、すら 鰯の群れや鯨の髭を 気ままにゆらし ゆすらすら 浜辺に埋めた悲しみを 夏の波の子、あやします 寄せては返し、ゆすらすら 口を閉ざした貝たちも 唄いはじめる、ゆすらすら 浜辺に埋めた悲しみも 遠い海へと運ばれて いつしか波に還ります ---------------------------- [自由詩]小春日和/帆場蔵人[2018年11月8日1時56分] 枯れ葉がからから 秋の子どもたちの 足音、からからと 町ゆくひとの足を いたずらに撫でて 風のような笑い声 枯れ葉を燃やせば 秋の子どもたちは 舞い上がりおどり それを見たひとは 懐かしい日を想い 憂いの衣をまとう からからと笑って 秋の子どもたちは そらにふわり遊ぶ ---------------------------- [自由詩]美しいもの/新染因循[2018年11月8日18時08分] 美しいもの。 鉄塔のあいまからこぼれ落ちた夕暮れ、 逆光のなかに貌のない雑踏、 砂時計をころがす赤児、 美しいもの。それは指揮者のない調和、 影のない演奏の旋律。 ---------------------------- [自由詩]鳩/帆場蔵人[2018年11月11日13時18分] 一羽の鳩は飛びゆき 一羽の鳩は堕ちゆく 空を見上げる子らは 羽ばたきしか知らず 星のかがやきに浮かれ 草葉の陰に横たわるものは 人知れず退場するだろう さめざめと僕はたたずみ 見知らぬ子の笑い声は遠ざかる ---------------------------- [自由詩]シュガー・ブルース/帆場蔵人[2018年11月16日0時00分] 命を頂いて生きている だから頂きます、というらしい けれどそれはそんなにありがたく 罪深いのだろうか 鶏が産み落とした精の無い 卵をいくつも使ったケーキは 悪徳の味がするのか 命を失った肉は血も冷たい サトウキビたちを殺して作った 砂糖のなんと甘いことか 甘さゆえに積み重ねられていく シュガー・ブルース 廃糖蜜さえ酒に変え 菓子に紅茶に仔羊に ラムをひとふり なんと罪深い シュガー・ブルース いつまで耳を塞いでるのさ 血が流れる音がしているよ 父を、母を、祖母を、兄妹を 友人を、見知らぬ人を、異国の人を 犬を、猫を、鳥を、蟻を 太陽を、星を、宇宙を 殺して、滅ぼし尽くし 路地裏で飢える人を 戦場で潰える生命を 親を亡くした子供を みつめながら歌うのさ 血が流れてるその傍らで シュガー・ブルースを歌うのさ 耳を塞いでる暇はねぇ 夢だ希望なんて玩具箱にしまって 蛇の潜む草叢に踏み出して 精のある卵を手に入れてごらん バロットを噛み砕いて血も肉も骨も 余さず食べ残さず、きみが生きる糧から 目を逸らすな、そいつもきみを観ている 互いの首を締めあうような生き方が 生きてるってことじゃないか そんな労苦のあとの 食事は美味いだろうさ、甘いだろうさ そんな時、シュガー・ブルースを歌うのさ 耳を塞いでる暇なんてないよ 歌えよ、シュガー・ブルースを 前奏は頂きますから始めようか 罪深くもありがたくもない、互いの 生命を晒しているなら、ただ断るだけ 頂きます、と否応もなくね ---------------------------- [自由詩]世界は泣いている/由木名緒美[2018年11月16日13時34分] 糸を伝わる震えとぬくもり 声の往信が私達をつがいの鳩にする 時間が道路なら振り返って走ろう 白線にそって回顧の草を摘みながら あの白い家屋に飾ってある 陽に焼けた一枚の写真を目にするため 夜には熱い夏をくべて 朝には青い誓いを杖にして ひたすら走ろう 廃れた風景に光の粒を植えながら 蜃気楼を振り仰いで悲しみを叶えよう 喜びよりも尊い涙を抱きすくめて 不知とはまだ見ぬ過去を洗う発掘 何度醒めても覚えない夢の足跡 悪夢で変わり果てたあなたの指先を もう一度掴みにいこう あなたがまた牙をふるうなら 眠りの中で何度でも微笑んでくれるだろう 幻視は世界の写し鏡 誰かが泣くかぎり私は傷を負う それで癒される瘡蓋があるならば もうそれでいいよ 世界は泣いている 世界は泣いている その声が産声で満たされているのならば 伝書鳩は優しい周遊に世界の夢を伝えるのかもしれないね ---------------------------- [自由詩]秋にとどいた手紙/石村[2018年11月16日15時42分] 手紙がある うす桃いろの 手ざはりのよい 小ぶりな封筒の 崩した文字の宛て名も品が良い 封を切つて なかを開けるに忍びなく 窓際の丸テーブルに置かれてゐる さて 何がかかれてゐるのであらうかと あれこれ想像をめぐらす楽しみを もう少し 味はふことにしよう そんなことを思ふうち 機会を失ひ 昨年の秋から そこにある さあ さらすか さらすまいか たつた今 この秋の昼下がりのさはやかな空気に 一年前の秋の言葉を それとも 来年の秋の空気にするか 俺に何度も秋がのこされてゐるなら 十年後 いや二十年後にでもするか その頃でも俺がまだ ひんやりとしたこの秋の空気を 吸ふことができるとしたら 二十一年後に開封された言葉は さぞかし鮮やか 爽やかだらう さて どうしたものか この手紙を (二〇一八年十一月四日) ---------------------------- [自由詩]いつものこと/帆場蔵人[2018年11月21日18時30分] わたしは悲しみを拾います だれの悲しみだろう なぜ悲しいのだろう 取り留めなくおもいます 掌で包んでみたり 耳をあててみたり 抱いて寝てみたり 机の上に置いてみたり 床に転がしてみたり 水の中や空に浮かべてみたり 地中に埋めてみたり 時には舐めてみます ひとつひとつ味も形も重さも違います 暗闇に投げ入れると輝くもの 潮騒に触れると震えだすもの 雑踏の中で人の足に絡むもの 時折、わたしはそいつらを料理しようかと 綺麗に腹わたを抜いて 出汁をとりスープにしたり すり下ろして薬味にしたり 天日に干して干物にしたり サラダスパの彩りにしたり カクテルの隠し味にしたり レシピを考えてみますが 他人の悲しみを血肉にすると 自分がわからなくなるので 食べることだけはしません ひと通りしてから わたしは落とし主を見つけて そっ、と気づかれないように 返しておきます それから黙ってそばに座ったり 笑いかけたり 離れていったりします 後はお気に召すまま 気の向くままに 時計がぼーん、と時をつげます ---------------------------- [自由詩]よしっ。いや、ちょっと マテ。 /るるりら[2018年12月1日8時49分] めざめると同時に 自由の女神になっていた すっくと立ち 右手を挙げ 情熱の象徴を高らかに天に示し 頭の中に声が響いていた「走れ!」 いや、ちょっと待て 忘れられないぢぁないか あの家の事を わたしは おそるおそる鍵穴に鍵を入れた ぢぁりと鈍い音がして穴は開けられることを拒んでいる じぁあ家に入るのを止めようかと 後をふりかえると 今来た門柱までの距離には 私が なぎたおしたヨモギがうなだれて 悲しそうだ なにもせずに帰る気か  深呼吸し  ドアを開けることにした  扉の ぢぁりが、がちゃと開くまで力を入れた  が  扉は おもいのほか軽い  孤独死寸前で近所の人に報告された家の主は 今頃、病院だ  なぜ 食べるものも食べず衰弱したのか  詮索したいのは やまやまだが  痴呆なのか銀行印や保険証などのありかさえ覚えがないらしい  鍵を借りて、この家の主の貴重品をさがしに来た  かみ かみ 紙 カミ 段ボール カミ  ふんわりと かるく 紙でできた箱と箱  天井まで積み上げられている無数の箱を指でつつくと、ゆうらり  幽霊のように動く埃の館  この家の家主を証明するものを探さねば  彼女は、保証されるのに値するのだ  引き出しを開けると 引き出しの中が直ぐには見えない  衣類文具や生活雑貨 全部のひきだしの中身の上に  広告紙がおかれて 中身は遮断されている  すべてのものが繭ごもっている 冷蔵庫の食品のすべても個包装され  なにがなんだか分からないが昭和の日付のメモも有るから すべて捨てる   ワカラナイ   うごかない時間が                  ユックリ揺レテイル   カワラナイ   保存された時間が死んだまま   シッカリ動イテイル     なにやら光った!保険証通帳印鑑の発見だ!これで 家主を証明できる!  彼女は れっきとした 私の叔母様だと証明できた  おばさまは、わかったようなわかってないかのような透けたような微笑で  ありがとうと 言った  そのようにしてやっと安心し  ねむった   誰かであるかと保証がされている あなたとわたし                             そして、たった今 めざめると同時に  すっくと立ち 右手を挙げ 情熱の象徴を高らかに天に示し 頭の中に声が響く「走れ!」 坂道を駆け上がれ 山の間から朝日がでた  ひさしく走ったことのない重く冷たい両足が足元から照られ血が通う 自分の体重を両足に感じつつ「走れ!」 ---------------------------- [自由詩]いきてえんだよ/新染因循[2018年12月5日8時12分] 月にいきてえんだよ 息ができねえとか 華がないとか 雲がうかんでねえとか 音がないんだとか そうかいそうかい、 どうでもいいんだって! おれも男だからさあ、穴が あったら突っ込みてえよ って思うみてえにさ 月にいきてえんだよ だって綺麗だろうがよ 仕方ねえだろうがよ ほら、昔の誰だっけか 文豪もさあ、月が云々って 言ってんじゃんかよ 美人抱く夢みるみてえにさ 月まで昇っていきてえんだよ 徳利ひっさげて熱燗傾けてよ 地球に乾杯してえな! ---------------------------- [自由詩]わかりやすい詩/石村[2018年12月5日12時45分] 暮れて行く秋 まつすぐな道 銀杏の葉のそよぎ 感じてごらん たつた今うしなはれた いくつもの命の分だけ 透けて行く風を たつた今うまれた いくつもの命の分だけ 澄んだ空気がふるへる かすかなひびきを 感じてごらん 二十億光年はなれた ひとりきりの星に そのかすかなひびきが 伝はる一瞬 そのやうに あなたのこころにとどく ---------------------------- [自由詩]傲慢の火/新染因循[2018年12月10日0時04分] 太陽がとおく大洋の彼方を翔ぶ。 あらゆる波には 千々の銀箔が散りばめられていた。 不滅の翼などはない。 宙に驕った罰であろうか、 この黄金には蒸発さえ赦されない。 落日。 あらゆる目が絶え、あらゆる影が消え、 波濤にくだけた一日という身投げを 海辺のわたしは、みる。 風も止むような静寂と わたしに打ち寄せる波、波、波。 わたしは叫んでいた。 大口を開けて叫んでいた。 かき消すように奔流が わたしへと叫びかえしていた! 海面は覆されたような黒の そのうちで悲鳴を反芻していた。 揺らめく幾筋もの手に吐き出されて わたしは空を見あげた。 波一つない空を見あげると、 押し固められた銀の輝きがあった。 覆されてしまった銀の輝きである! わたしの知った海の輝きである! わたしは 揺れていた、いな、 落下していた、いな、 飛びたっていた、いな、 燃えあがっていた! いかなる魔術の業ゆえか わたしの眼下ではわたしを 赦すことのない波紋の群れが つめたき銀色を幾重にも深めて わたしを、しずかに、睥睨している。 わたしはもう、叫ぶべき口も 伸ばすべき腕もなくして、 わたしという叫びとなって、 存在しようと、 その身がまるく捩れてなお わたし、は 存在しようと、 存在しようと、 燃えさかる。 空のすべてを焦がそうとしてなお、 焦がせなかったものすべてを 焦がそうと、 赫赫と燃えさかり、 ただ、 燃える。 ---------------------------- [自由詩]雨を降らせたくて/帆場蔵人[2018年12月10日1時00分] 動かない、くだらない 戯れ言が舌を翻弄して 降ったりやんだり、うまくない 雨みたいなもんだ、うまくない 嘘にまみれた言葉、うまくない 語りたいこと語りたくないこと 押し合い圧し合いつり合い過ぎて まったくうまくない、沈黙がふってくる アルゲリッチの演奏で沈黙を誤魔化して きみが眠ってしまったら 少しだけ雨を降らせて 朝が晴れることを もごもご、と祈りながら 朝に淹れる珈琲のことを考えている 同じくらい雨を降らせることを考えている 不揃いな珈琲豆たちを選り分けていく 貝殻みたいな豆や砕けた豆、虫喰いの豆たち 飲みたい一杯のためにお前たちを捨てる あるとき、お前たちで淹れた珈琲は そりゃぁ、美味くなかった あの味は忘れないだろう 生きる為に切り捨てた、たくさんの ものをお前たちは思い出させるから うまくない、だから忘れられない 不誠実なこの口に流し込む毒のようだ うまくない、息つぎをもごもごとして おはようとおやすみだけで生きていく そんなわけにはいかないから 口を開いて朝を呼びに行こう ---------------------------- [自由詩]初冬小曲/石村[2018年12月13日23時18分] くらい 翼をひろげて 古い調べから とほく紡がれ 凍てついた 水を恋ふ しづかな もの ひとの姿を 失つた日 ひとの心を おそれた日 雪を待つ 地へと降り立ち ひそやかに 宿る 遺され 忘れられ なほ命であれ! たけだけしく ほとばしり もだえ おののき 身をふるはせ ひとつきり 憧れの螺旋をえがいて はてることなく 高く うたひ出せ お前 遥かなもの しづかな ものよ ---------------------------- [自由詩]クロッキー 4 夜盗/AB(なかほど)[2018年12月15日0時36分] ちぃたかた 今朝発見された 言葉もない頃の手向けの花は やがてその形も無くしてしまう のかもしれないけれど それが僕らの世界のはじまり フランケンムース 年中クリスマスの町でもやっぱり雪が似合って 人々や馬車に踏みしめられた道路が陽に照らされると ドイツ風の建物が一層際立つ そろりそろりと歩くと、あれもこれも 終わってしまったことばかり思い出されて 知らない町なのに立ち止まったり振り返ったり ワールドアパート 新小岩駅から北東約十五分 すべての始まりはそこで やがて花火の夜に散るように マイクロバスからあせた国際色が帰る場所 すべての始まりはそこにあるよと 信じるものたちの終わりも始まる きろ、つきはなし ぼく、で始まる作文は良くありません と先生が言ったものだから ぼく、はとりあえず僕の事はおいといて まるで明後日の方から見た事を喋り出す ぼく、はほんとの僕が見えなくなるまで そんな事ばっかりやっていたので 世界中の誰よりも僕の事を知らない人間になって それなのにぼく、は、あいかわらずの僕は 先生が読んでくれる作文を書きたい 白の終わり 雪が溶けるように 君のなかから消えてしまう それは僕の意志でもなく らいららい と 誰かの春待つ鼻歌にも溶けて この馬鹿野郎 しめしめと詩を書いてみる なるほど、ひとりの夜にすることじゃない ついでに曲などつけてみる じゃかじゃ〜ん、ってさ ふ、ふられた夜にすることじゃあない ってこれも書き留めておこうか からくれない 君からくれない空に一番星 千年の恋で僕の全ては君に滲んでしまった というのに君は明日からくれないになる のだと言う その時僕は忘れてしまうんだろうか 夢にも明日にも 君からくれない空に二番星 空腹と夜盗 秋になると空きっ腹と夜を更かして ふるふるとする胸を抑え りんごのような君へ抱えきれない夜が こぼれ落ちてるよ りり り、 と秋になると空きっ腹と夜を更かして こおろぎのように鳴いてみる りんごのような君へ もう思い出せない夜にしておくれ エンキドゥが泣いている チグリスチグリスユーフラテス もう日が暮れたのかな チグリスチグリスユーフラテス 新しい日は昇るのかな チグリスチグリスユーフラテス バグダッドは迷子になったのかな チグリスチグリスユーフラテス 最初のお話に帰れるのかな チグリスチグリス最初の唄が聞こえたなら ユーフラテスと一緒に帰ろう はじめのお話へ はじめの国へ はじめの言葉へ はじめての魂へ   チグリスチグリスユーフラテス いつかは帰れる にせウルトラマン 早くお家に帰ろうと思うのだけれど 僕らのカラータイマーの単位は相対的で そんなもの付いてないのが本物だよ とつぶやきながらまだ帰れない 守るべきものなんか出来たらなおの事 たとえ胸の辺りで光り出しても 気付かぬ振りをしながら もう昨日の自分にさえも戻れない ---------------------------- (ファイルの終わり)