高濱 2012年1月4日0時41分から2015年3月25日0時06分まで ---------------------------- [俳句]時間とは/高濱[2012年1月4日0時41分] インスタントダヴィデの彫像 菩薩聖誕祭イコンの聖母子 完全球体理想の人体エエーテルよ、エエーテル! 第六元素創造フラスコ宇宙 ---------------------------- [俳句]食事に於ける紙ナプキンの折り方/高濱[2012年1月4日0時51分] 地球内天球仮説外か内か 卵は完成され雛鳥は死ぬ飛立たぬまま スクリーンの裏側に部屋あるといえばあり 虚妄の五階それは奈落へと続くホール ---------------------------- [短歌]蜻蛉記/高濱[2012年4月21日3時38分] 小鳥の羽根を毟るのは、愛がわたしを手招いて、これほらごらん、籠の鳥、羽根をなくした籠の鳥。 流されてゆけ、地獄まで、数えて十三夜の弔い、菩薩の鳥がやってきて、慈悲賜れとおっしゃれど。 あたしにゃ羽根はござんせん、鈴降る夜行もありゃしない、紅殻鳥の羽根毟れ、紅殻鳥の羽根毟れ。 金切鋏振りかざし、後を追うとも火の海で、家もそれきり焼け落ちた、残ったあたしゃ地獄行き。 ---------------------------- [短歌]無題の為のコラージュ/高濱[2012年4月22日0時00分] 水レタスの頭部が割れて地を這う、すると麺麭がコインに代わるのが解るだろう。労働とは緩やかな死への街路である。 王冠を被った卵殻が謁見室に、楕円形の偏光器を置くと、歪んだ階段に天使の様な羽が生えて、纏い布を被った巡礼の姿が見られる。 希臘彫刻風の彼が建設現場に垂下すると、隣には首吊りが襤褸を纏い、顔の無い顔を向うに、死後の悲鳴に耐えている。 焼跡のパリ広場には、大工の釘打つ音、ひっくり返した様な音、蜂鳥の囀る球体が転がりゆく音などが溢れ。 広大無辺の砂漠の貯蔵庫には鳩麦の袋が、水中に次々と投げ捨てられる、すると沸騰した海はガラスで出来ていることが解る。 水面に燃上がる無数の櫂船が、古代の戦争が繰り返し上映されることになっている映画館が、処刑されてタブロイド版に一つの花を添える。 化繊工場に最新式の衣裳のアイデアが通達されると、不可能な曲線を縫製するための自動ミシンが稼働する。 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[短歌]失踪者/プラント/無蓋貨車/高濱[2012年4月27日1時20分] 靴工場の生産ラインに言い争う、彼らは神々の纏い布を靡かせて、誰が最も美しい曲面を描くか鷦鷯達に聞いてみようと提案する。 工業化戦争に敗北した綿花農場の黒人労働者たちは兵士になるより他はなく、スラム街には求人広告が張り出され、ごく一部のジプシーはその街を出てゆく。 紡績工場に浮遊する石臼の周囲には空の鳥が舞い戻り、天球儀の環に静止した人工衛星の、円筒のミルク色の肉体を、脊柱を掘り出す。 腐肉を処理するプラントが、換気扇を回して病苦の喘ぎを嘲笑する実験場が、彼の応接室とは切り離されている。 劇場の椅子に凭れる様に倒れたアンドロメダが海流の蛇に覆われると、暗幕の夜の影が波打ち、その襞に隠される。 精神分裂的傾向を呈す病人の寝台には誰も近寄らず、烙印を捺された羊が喉を割かれると血を流す眸から月が落ちてゆく。 予め実存を剥奪された白痴として、腕を伸ばすと乾燥花入りのボウルに歪んだ鏡像が微笑み、釣り上がった口角が喋り出す。 天然の眼球が水平線の上に視線を合わせると、そこには自動車に乗った男の上半身が窓より外へ乗り出しているのが見えるだろう。 両腕を差し出す夜盲症の婦人が導きに従い辿り着いたのは精神病院の廊下だった。 ---------------------------- [短歌]バベル/交通便/伝書鳩競売会/高濱[2012年6月3日4時03分] 「欲望がわたしの燃動機関なのです、言葉を失くした鸚鵡たちが、回転する眸を、彼の磔刑される翼の朱色に、捉われては墜落してゆきます。煉獄とはスクリーンに映された海の反射鏡なのです。」 贖罪が盲目にする罪の在り処を、代理磔刑人の署名の下に、贖宥状の印刷に輪転する工場は、二十六文字の福音記号である、彼らは口を揃えて言う、「約束は果たされない。」 愛の言葉を囁き交わす、その三姉妹の胴は繋がっており、紡績機の上に一輪の花が飛び廻り、ペーパーナイフに引き剥がそうとする、その運命の自動車の軌道から。 交通事故の十字路に四人の運転手が、裁鋏の羽根が飛び交う沼に沈めた、紳士の杖から青色の花の渦が生まれる。それは夢を呑み込むと、毒々しい斑色の糸切鋏を吐き出す。 肖像の半身は塗り潰されている。傍らには大輪の花束と雀蜂があった。腕が生えてくる鏡台と棚から、幾つものコインが見つかる。 衣裳棚の残像が部屋に浮いている。彼らはもう帰ってはこないだろうか?様々な道化人が靴を鳴らし、肉と果物の飽食を嘲弄した、あの棺桶は硬く、広がってゆく侭なのだろうか。 陶器製バレエ人形の両脚器が、幾何学模様の夢を見る嬰児を、居留地修道院の箱庭に繁殖させ、柘榴の知恵が燭台に灯るバベルに、理想国家に変革の自動車を走らせる。 「連続的新時代の反復を、既視観の眩暈に幻視する、形態類似学の蝸牛も、回転運動の象徴的力学が、不滅の歯車を夢想するために。」 ---------------------------- [自由詩]養鶏場の背景・工場処理の紅花油/高濱[2012年6月4日2時01分] 二十一世紀初頭を繰り返す狂人たちの病院に狂ったわたしたちの心臓が拍動しています。 わたしにはこの世界のすべてが一個の巨大な丘陵病院に見えるのです。 医師は何処に行ったのでしょう、彼らの病院は何処にあるのでしょうか。わたしたちは取 残されて、メシアの再来を信じています。それはどれも真実であり、嘘でもあるのです。 饒舌は罪でしょうか、 羊と狼の混血児が見世物小屋に飼われています。 あの蝸牛の様な顔をご覧になってください。 まるで渦巻でしょう、眸は鰈の様です。 鳩の卵を割る紳士のスープ皿には、 黄緑色の模様がありそれが羽化する筈だった 蝶を磨り潰した物だと解ると、 偏執狂染みたその両眼から、 次々に羽ばたく瞼の様な食事ナイフ。 窮屈な部屋に閉じ込められて、 窓を探す青年の背中には 腕が伸びており足下の骸骨を 指差している。 ---------------------------- [自由詩]改悛と葡萄・悲歎の幻視/高濱[2012年6月10日1時08分] ああ、主よ、葡萄酒製造樽の中の数学者よ、 黄金比の幾何学の理想形の球形の塵よ、 此処彼処に蹲る地獄の岩石の似姿よ。 私は殺されて、夢を見ました。 抉れた両目の花が咲き綻ぶ滝となるのを見ました。 聖人達の骸骨が法衣を被り回転するのを見ました。 私は悪でしょう、人の言葉を操る恣意でしょう。 天罰は下り、浮遊する身となり、消えてゆく、 暗澹の顔を覆す花粉の飛散する五月の歩哨の長銃でしょう。 あなたの死を悼みます、主よ、四辺形の視線よ。 断片化した記憶の中の百合の花は青色でした。 ドアから半身を滑り込ませ、奇跡の十字架を運ぶ、 丘陵に多くの銃剣が突き立っています。 精神病院の中庭に大きな銀杏の葉が落ちています。 発狂した青年の旅行鞄には夜が詰まっていました。 それが溢れ出すと黒い洋燈の光が覆ってゆく市街地に、 青み掛った羽根が降り、橋梁に敷き詰められた骸骨が、 次々と河へと流れて、顔の表面を覆ってしまいます。 ---------------------------- [自由詩]官能の夢・枯葉の渦/高濱[2012年6月16日3時07分] 「魂は何処へ行くのでしょうと、神父様に尋ねました。 解らない、今や誰も解らないと神父様は仰いました。 壊れた向日葵が黒く咲いていました。 主に頼み、祈りました、私の病を取り除いて下さい。 悪魔は哂って仰いました。貴方の物は貴方に帰るでしょうと。 ああ、天地が分轄し、十二月の後の十三月は、 蛇に咬まれて踵に打ち砕く、無花果の稔る黄昏の、 水盤に浮く方位磁針が、私自身を指し、その罪を、裁いて下さい。 私への告別、召喚状が警邏官に携えられて、 エデンの河を昇って行く、花々は黄金色に咲き、 小舟は流れる銀髪の水面を滑って行く。 恐ろしいその言葉を聞く為に、私は拡がって、 一枚の鞣革と成るでしょう。」 オリュムポス山だった土地には巨大な工場が煙を吐き、 ダヴィデ像の大量生産に追われている。 棺の様な鋳型からセラミック製の翼を搏って 虹色の天使像が跪き、工場視察官の到着を告げるベルが鳴響く、 鳥の死骸を掃き清める作業員の手から、 真鍮製のペンダントが落ちる、誰もが奇跡を信じている振りをする。 でなければ、如何して貴方は青い十字架を背負うのか。 「綺麗事は死を告げる、庭には繁縷が咲いている。 あなたは継子です、主よ、葡萄色の血を滴らせる、 磔刑執行人よ、その御使いよ。鉄の十字架に懸けられた 鷲を解き放つ赤銅色の兵士達よ。だれが死に、だれが生残ったのか、 見なさい!」 偽りの葡萄樹に羊が稔る。それらは成長して、 修道院の記録に載る、奇妙な胚嚢を持つ球根が、 切断器に肖像を掛ける、絵画の中のドアに、 捻れた人影が立っている。額縁の外へと続く、 郵便受から十二匹の蜻蛉を、採集する虫取網と腕が伸び、 ガラス瓶の中には羊の胎が収まる。結末はない。 ---------------------------- [短歌]旧約の時計/高濱[2012年6月26日0時20分] 「約束の時は何時になったら訪れるのでしょう、ドアを開けてあなたの来訪を待っていましたのに。」 洋燈を片手にナイフの蝶を羽ばたかせ包帯の腕解け跡形もなくなりぬ 頭部の空洞彫像の腕回して石臼の周りに花散りぬ海馬の悲鳴 奇妙な果実硬き殻持ち鉈包丁にて割れど甲虫類の脚 頭蓋骨薄きヴェールを被り婚礼の十字架前の宣誓に黒き喪服引く 二十世紀の暗闇に閉ざされて聖遺骸あり横臥せる請求書の棚引きて タイプライターの亡霊脇に瓶抱へて蹲る二十一世紀の電気照明に ---------------------------- [短歌]天文館の時計/高濱[2012年6月26日0時22分] 工場の螺旋を切る黄昏時の産業機械ばらばらに捻れたる彫像立たしめて 工業機械展に完璧なる円弧を描画せる美術家ありぬ機械の勝利として 電球の裡の研究室アメリカの腕が詩を書き原子時計と鼓動せり 死後の額縁に飛ぶ蝶の翅は青斑骸布を纏ひ踊れる骸骨の皇帝 天使の午睡愛の時は去りぬ葡萄酒造りの樽転がしてゆく労働夫 「百の悪夢をたったひとつの物語に編み込む運命の三姉妹よ、ぼくの鳥を何処へ閉じ込めた」 青の悪魔微笑み給ふ十字架に一瞥の後燃え上る柘榴を掌に ---------------------------- [短歌]安インク氏の独白/高濱[2012年6月27日1時53分] 安インク零して新聞紙の痣の上に蟻の集れる蜂蜜の匙 商工会議所の椅子に花籠置きてゐなくなり老婆は前世紀の夢を見む 葡萄樹に月光の降注ぎ汝との離別蝶が飛びて眸に呑まれゆく 引き裂かる二人の吾が 影絵の果物ナイフに躍るひとひらの走馬灯 生きてゐるのにゐなくて鏡像の花瓶と果実皿の上に載せし黒のポラロイド 長椅子に横臥せり影の彫像捻れたる襤褸の頭抱へて ひとさらひ 悪霊の影深くなり自罰の狂ひ肖像画には新しき冬の向日葵 「ぼくはあなたの奴隷であり、自由は何処にもありません。この足枷を外して下さい。」 ---------------------------- [短歌]無題/高濱[2012年6月27日1時55分] 鳥の恋花粉の蜂鳥丸まりて睡る 蛇呑む棘の露草の水辺 遅き時計早き時計を追ふ 免罪符掲ぐ奇跡の 十字架に刺疵 暗殺の基督 生まれなき絶望をして死せり レマ・サバクタリと叫び哂ひたり 自由とは罪の等価概念なれば 囀る小鳥 空へ舞ひ上がる羽根 罰に ---------------------------- [自由詩]頭蓋と埋葬穴・四角錘の猟犬群/高濱[2012年6月30日3時12分] 安洋燈の光の暈の中心に聖女の頭部があり 斬首刑の頭蓋骨を抱えた首なしの聖人達の 行列が縫製職人に首を挿げ、既製服から 四肢を伸ばし河を漂っている。 狂った男がマネキンを横抱きに抱え、防腐処置の水銀に 放り込むと忽ち骸骨に戻る筆記者の手首が、 まるで葦の様に水中に靡いている。 嘲笑の時限式装置の自然停止が羽根を引き摺り 飛行する羽蟻の餌食になった黒揚羽を 葬列に磔にされた翼を拡げるイカロスに 擬えている、まるで屍骸の様に白い腕が 額縁の裡を撫で回す、林檎の実が描かれてあった 黒い切り抜きの空洞には牡蠣の殻が置かれている。 室内装飾に蹲る首の無い天使は、 外部への裂目である。 衣裳箪笥の司祭たちが瞑想する、 比類ない愛の為に両目を潰した善人が、 緑の鈴蘭を化粧棚に振り撒く、 雑種の犬が吠えている、 純血種の猟犬が地底を駆け巡り 一羽の巨大なモアを持ち帰る。 眼球投射装置を備えた男性が 壁に様々な昆虫をスライドさせ、 活火山性の噴煙や、大砲の発射、 塹壕兵の半分に吹飛んだ顔、 青緑色の鸚哥の心臓などを 無関係に配列してゆく。 火花が散る車輪を停車させ、 馬車より十四世紀の骸骨が降りてくる。 ---------------------------- [自由詩]花粉科学・哺乳魚類論/高濱[2012年7月31日0時48分] 教会、鐘楼、様式、偶像、大理石、ゴシック 狂院、中庭、様式、噴水、鉄錆柵、グロッタ 聖堂、尖塔、様式、正面、薔薇窓、ゴシック・リヴァイヴァル 教堂、箱庭、様式、飛梁、骨細工、ルネサンス 僧院、櫓楼、様式、聖像、玻璃窓、バロック われはしせずしせるそれのなきがらをほねとなりけるまでおきたまへ 柱廊、回廊、大理石、建築、堆積、思想の歴史 円柱、回廊、鸚鵡貝、化石、構造、構築の歴史 角柱、回廊、瀝青塗、石棺、近世、機能の歴史 錐柱、回廊、人造石、曲面、現世、抽象の歴史 列柱、回廊、古代貝、炭化、蘇生、進化の歴史 あああアムモニタル、螺旋建築柱の古代、蘇生せずかならずならずらず 時間の飛躍、翻翻と書物、蝶蛾の栞、両開きの扉 閉鎖の旧館、錆柵と手指、荊棘の冠、幻視の眩惑 新築博物館、機械と美術、円盤の環、葡萄樹の竪琴 神学の終焉、数理と必然、錫杖の虹、甲冑のアレス 偶然の支配、神々と理性、房飾の紅、アプロディテ あああ理想郷の国家、様式復古の骸骨、法皇は躍る、黄昏色の十字架の丘 機械欄、空白欄、行列欄、登録簿、記名 選択欄、空洞欄、数式欄、抹消簿、記名 鋼鉄欄、空気欄、蒸気欄、記録簿、記名 升目欄、空想欄、改行欄、洗礼簿、記名 月光欄、空疎欄、遊戯欄、除籍簿、記名 空間格子、十字座標、不滅の不可能性、あああくづれくづほれてくづれおつるをとこのかほ ---------------------------- [自由詩]天堂球体仮説・箱庭考/高濱[2012年8月4日0時48分] 堕天使眩惑眼球標本、熾天使血統位階論、ああ「無辜」 草木図譜観察記録、修道院箱庭遺伝論、ああ「有罪」 悪魔答弁系統発生学、軍天使鉄鑓甲冑論、ああ「無実」 動物図鑑絶滅目録、孤島北端的進化論、ああ「有為」  精霊嘆息変身譚百花、群天使真鍮喇叭論、ああ「無稽」 天上位階論、天使名、聖像佇立、啓示、楕円 空想的動植物、花弁鱗魚、葉翼鳥、複合蘇生 図像象徴学、使徒名、鶏頭花群、最後、半円 架空質量物質、白色矮星、黒の穴、消滅誕生 堕落悪魔論、唯物者、偶像破壊、破滅、真円 城砦、橋梁、尖塔、教会堂、ゴシック、鏤刻 海峡岩、三段櫂船、文様、陸地、広陵、山河 荷車、藁束、麺麭、修道院、現代建築、曲面 個人劇、独白形劇、崩壊、歌劇、喜劇、悲劇 乳香、白檀、檜木、黒檀香、仏壇両扉、炭化 雌雄天秤懸架十字、両性蘂花洞窟様式、そは「奇態」 鋼鉄柩体熾天使塑像、飛梁石像悪魔鼓翼、そは「偶対」 柱時計裡使徒束縛、枷鎖脱出術奇跡式、そは「奇術」 壁龕骸骨蘇生花標本、橋梁彎曲鋼線放射、そは「偶然」 液晶硝子月球儀体、眼底地球運動機械、そは「奇癖」 ---------------------------- [自由詩]雑草の花・鯨の皮膚/高濱[2012年8月5日1時43分] 梨の実が旧い館の椅子の上に置いてある。 静物画を描く青年がブロンズ製の髪の毛を流しながら、 河のマネキンを浚い取る掃除夫に腕を授け渡す。 それは広間へと続く廊下の壁掛時計に引っ掛かっていたもので、 機械仕掛の神の指先にあまりに似ていたものだから、躊躇しながら掴んだことを、彼は憶えてはいない。 時折その館では七不思議の一端が、 誘い掛ける蒼白い馬の幻覚として目撃されては恐怖を呼び起こした。 その館も今は無い。絨毯爆撃を逃れることができなかったのだ。郊外の森の中だというのに。 焼夷弾は忽ち燃え広がり、炎の髪した婦人の絶叫が私室のカーテンに燃え移り、 黒焦げた死体は萎縮した胚の様であった。 種子の成長が停止する。 卵が楕円の影を落し、 円卓の水差は銀製の工場から羽ばたき、 果実皿には血塗れの肝臓が脈打ち、 鷲鳥の羽根が壁に釘打たれている。 二十日鼠の水死体が何か美しく膨れ上がる。  鉄道職員は警笛を鳴らしながら、蒲公英を吹き散らす。 雉鳩のソテーが鉄路の上に置かれている。 旧官邸をオレンジの果樹園に変えたのは 一瞬のカーテンが裏返る窓辺の蔓に咲く雑草の花々が燃え上り 青い炎の円を白い画布に描くのを監査員が赦さなかったから。 監舎の窓は閉ざされていた。鳩が足と羽根を奪われて鳴いていた。 地獄には鳥はいないと語る収監者が、羽根を生やした機械の様な物を作働させ、 皆喰尽くされてしまうからだよ、と微笑む。白木蓮がその眼球を動かすと、眸から花が零れる。 眠りに就いていたのはわたしか、あなたか。描かれたのは誰で描かされていたのは誰だったのか。 不敵な微笑を浮かべる安化粧品のポスターの様な眦だ、何が洗顔油に溶けていたのか、 顔の画布の上に混沌とした枯葉の蝶が渦巻いている。あなたは誰の贈り物なのか。 「わたしは死者よ、ずっと昔からの」噴水の縁を歩きながらそう伝える、ガラスはあなたを愛するだろう。 それ故にショウウィンドウの衣服が煤けた二十世紀の火薬を点火し、絨毯爆撃の憂目に遭うようなことがあってはならない。 私達が、或は私が、郊外へ避難してゆく自動車のトランクには紋白蝶の燐粉が敷き詰められていたし、 ここにはもう駄目になった機械類しか集まらないのだし、あなたとは上手く踊れないだろう。 ---------------------------- [自由詩]オートマタの黄昏・分離の左右/高濱[2012年8月10日1時03分] 燻製卵、地球儀、機械人形、行列、大理柱 蘇生記、天球儀、機械鍵盤、行列、花崗柱 雛鳥卵、卵殻儀、機械書記、行列、石膏柱 死滅記、古生儀、機械動物、行列、雪花柱 誕生卵、新生儀、機械植物、行列、血漿柱 あああ割れてゆく顔、種子が発芽するその地下茎に嬰児の胚を飼い殺し、干乾びた胚乳の海に浮かべた首ひとつ 天体望遠鏡、自働書物、拡散分裂、胚割球 葡萄種、全的堕落、最終審判、絶望果実 肉体望遠鏡、自働人物、集合離散、桑実胚 麺麭種、一般恩寵、最終救済、希望果実 流体望遠鏡、自働海月、凝縮膨張、人体胚 天地が裂けてゆく、麺麭の粉を零しながら、わたしの肉体、殖えた麺麭、消えた球体、閉じた円 工場道具、生産果実、天秤秤量、遊戯台、ああ悲劇 工場人員、生産時計、天秤銀河、渦巻花、ああ喜劇 工場製品、生産機械、天秤種子、運搬記、ああ悲劇 工場孵化、生産部品、天秤重錘、鉄錆橋、ああ喜劇 工場停止、生産石油、天秤星雲、螺旋雲、ああ悲劇 ラベルの青い花の名は、蓄音盤の病院の。鳥を集めた中庭の、銀杏の枯葉に降りる霜が、冬を知らせる 楕円盤、劇場発生、特徴形成、振子、歯車運動「中芯点」 天変地異書、災禍骨牌、悪人名、仮象、漆黒棺窓「球宇宙論」 真円盤、劇場成長、哲学形成、発条、紡車運動「同心円」 天地蘇生書、福音骨牌、洗礼名、現象、純白棺窓「枠宇宙論」 角円盤、劇場消滅、円環形成、捻子、滑車運動「世界線」 万象範疇、不可解な謎、わたしは似姿、誰のドッペルゲンゲルなのか、自分自身の影が水に落ちて死ぬ 地球論、電燈内蝶蛾、人工繁殖羊、球体内伽藍 浮遊人体宇宙服、硝子球、二十二世紀、博物館 月球論、銀鏡内化石、人工繁殖花、円錐内教会 浮遊人体潜水服、硝子球、二十五世紀、水族館 天球論、空洞内仮説、人工調節期、角柱内講堂 壊れた世界に傾く教会堂の、繊細な鏤刻塔群の切先に佇立する彫像の十二人は、乳白の肌に血を流し ---------------------------- [自由詩]鋼鉄の棺・機械式の蜂鳥/高濱[2012年8月16日1時31分] 虹蜺眼球説 錯葉標本 花芽儀 胚卵世紀術  積乱雲球説 天体手記 水滴群 鉛体作成術  渦巻螺旋説 円環散開 凝縮圏 幾何学蘇生  星月夜概説 鐘楼影像 死点粋 手術儀脳裡  異界創世紀 植物図譜 花蘂点 雌雄弁論術    奇形満月行 蟷螂編纂 朽葉体 蛹繭切開術      運命輪転紀 魔術論 言葉遊戯台 真実空洞 「地球」  腐乱死体 美術残像 柱廊石像 眼球運動 「月球」  繊維質花茎 写実論 即物的観念 造物構造 「振子」 建築残骸 構築死骸 鉄骨瀝青 無限格子 「円盤」 放射線写真 金属線 抽象的果実 球形梨実 「銅鑼」 赤錆橋梁 時間歪曲 死者 秘密 格子窓 窓外投擲 教会建築術 洞窟様式 鍾乳 石柱 円錐形 三階落下  修道院庭園 交配新種 豌豆 莢房 半月形 衣裳人形 王城城砦門 繁栄都市 衝突 竜骨 鑓穂先 樫製運命  上水道管脈 羅針水盤 旧約 美術 球体鏡 死の運命 温室植物 五月暴動 改革 鉄櫓 薔薇鏡 薔薇偽証 署名登録簿 洗礼 誕生 水泡 球形 天使審判書  生存通知書 不在 堕胎 水滴 楕円 悪魔翻訳書 存在調書 現実 白痴 水糊 幾何 天使契約書  約款捺書 空想 幻視 水藻 平面 悪魔調印書  死亡通知書 空洞 盲目 水禍 螺旋 悪魔投獄書 無為贖宥状 空間 眩惑 水死 曲線 天使絶滅書 ---------------------------- [自由詩]第十二元素/高濱[2012年8月18日1時32分] 作成紋章 白唐草 十字 盾 双頭獣 砂漠花 ああ肉体作成 人工生命体 試験管内 エーテル地球 わたしの天然時計 崩壊 浮遊 幽霊装置 生れ変り 死に孵る 砂漠 球形 楕円 卵 椅子の上なる一粒の柘榴     鉄鋼 円形 水盤 針 華卓の上なる一対の螺旋    わたしの年齢時計 百年 世紀 平等 老朽 時在り 死に変る 深緑 旧館 火事 そして 実験 蘇生 泡沫の    偶像破壊 肉体機関 縺れ合う 引力 斥力 天文 あああ人物関係図   聖像破壊 受肉生誕 解け行く 球体 紡錘 車輪 あああ運命変転記   濃藍 海辺 波濤 そして 水蛇 継母 包丁の   継子 嬰児 胚乳 双子の降誕 力学 物理    あなたの誕生 水滴 胎児 進化系統学の末端 ああプラクティカリズム ---------------------------- [自由詩]私家版贋作・因果律/餓鬼譚/高濱[2012年12月19日1時20分] 死の手続 因果律 万象発達系統学 死の起源 因果律 万象発達系統学 万物帰趨 生物静物 聖像画 万象変化 配偶受粉 聖物画 胚 茎 双葉 花芽 莟  胚 胞 受胎 嬰児 眼球 円鏡 花瓶 香水壜 書棚 対の物質 偶像不思議 影像機 二重螺旋の母の面影 三重螺旋の父の面影 増殖配偶子 遺伝形質 衣装船 増幅磁力波 縦縞黒円 白縦線  オシログラフ 線形光度計  アア 符牒なる光線 アア 至聖なる礼拝所  凡ては音響機の影なれ光なれ 凡ては映像機の影なれ光なれ 実験室劇 枯野の起源 アア 茨藪の光 血潮滴る両肩のなべて十二の細指や 抱擁の私家版 秘私的系譜 叔母の囁き 血噴く家系図 阿弥陀如来 仏法僧の囁きや 六十七年 過去焼野 六十七年 過去焼野 六十七年 過去焼野 南無阿弥陀仏のそらごとや 地獄図 火炎 車輿 鶏頭花 天道図 盲人 白塗 坊主托鉢博打札 娑婆は地獄か 血吐の鶯 言葉餓鬼 宿業なりや 血縁の鶴の羽根 変身譚の家族殺し 斧研ぐ長男 絵花札   鉈研ぐ次男 骨牌振り 鑿研ぐ三男 艪掻き逃ぐ ---------------------------- [自由詩]鉄の裁鋏、蝶番/高濱[2013年3月16日3時43分] ワイングラスの双曲線、 横顔が解けて砂丘に、一擲の腕を展ばす。 塩の柱、砂糖漬の蜜蜂、良き教説、神父。 壜詰の色褪せた八月、 憂愁の貴婦人と砂糖工場。 産業革命、労働夫の銅版画、反民衆史の子。 第一次世界大戦の噂、徴用物資、徴兵検査。 人体実験、ノスタルジー病の最前線兵。 抽象芸術の萌芽、機械式写実、写真機。 三脚の上に敷設された地球儀標本。 錯綜する鉄塔の影、地に落ちた椿花。 等間隔の棺、親子。 喪服のヴェール被る向日葵。 白黒模様のタイル、二十世紀の回顧展、 細密画、写実主義、抽象画、超越主義。 フロイト式象徴主義、 サルバドール・ダリの。 鉄の裁鋏、蝶番、銀の皿、捜索願売ります。 立枯れた向日葵の影像、デジャ・ビュの 繰り返し。 馬脚有るピアノの、燃上る壁、セメント。 石膏漬の鋳型に西洋菊の一輪車。 花の図案集、病的嗜好の裁鋏、放射線写真。 点滴管と鉗子、病巣摘出後の空洞、私を喪い、 雨打つ窓の静脈が脈動する、私は五十年の間 呵責する世界の幻聴を、 即ち精神分裂病の国家、 神経病の国家を描写し、自然の隔絶、 反自然の産業史、機械装置の発生、自働機械、 歯車仕掛、燃焼室などを溺愛したものだ。 然し、狂っていたのは私だった。 ああ、赤紫色の肉塊よ、私の胸像を象る、 紫陽花の曲々しい花序の刀剣よ。 貫通の血塗れの襯衣よ。縫閉じられた瞼が 再び世界を、古典力学の暗闇を、 忽如、顛倒せしめる為に。花崗岩の石墓、 その雲母石の漆黒の列が、 私を引摺り、逼迫する。 プロテスタントの宗教理念が、 抽象主義の、懸架された十字を 概念化させる。 私は在るゆえに私は在り、 中芯点を求めるもの、又、 膾炙された純粋の球体を未完の卵形として、 螺旋画く翼の堅果の、 静物画を試み、 飛花粉の雀蜂の脚、蜂蜜の壜詰に匙を差込む。 ---------------------------- [自由詩]茹卵とオリブの腐ったサラダ/高濱[2013年8月4日4時22分] 魚が鳥を喰い神父の祈念は    向日葵畑に黒い映像機を置く         襤褸の巡礼の渦巻く顔が振返り           空洞が皺嗄れて喃語を喋る       地平は陰鬱な青の向うに    巨躯の天使達を走らせ空の眼球-蝕媒 鏡像の断綴のイマーゴは     四肢の再発見に拠り統合される自己を        曖昧な現象の綜合体として                  他者を通じて自者を察知し        自己像を歪曲する狂気の始原は       妄想の型式化に拠って固着する   世界の検閲者、存在する    仮想現実の原則は二つのリビドー       即ち卵殻の外向的力動と            内向的力動を均衡せしめ       球体卵の世界面は裂開し       他者として訪れる種種の欲動は契機を  自己の内在はナルシス的    攻撃衝動としての自死を指向して       作働するイドの破壊衝動は     《私》の形象を原初の嬰児の     未完成へと絶えず遡及する     一粒の種子は         葡萄樹の発端に稔り           眼球の様に黒い皮膜の果肉は        胚の胎児を包含する未発達の       円錐形の砂時計へ閉込めた     巻貝の殻と蝶形、七面鳥の鉤爪を   標本箱へ収める  砂の風景画の二重の隠絵は髑髏と淑女を   開闢する門扉に磔刑の基督教徒達に     開示し     変化と宗教の死を告げる通達人の                酷薄な電報を打つ手首を        空中に指標として懸架する         運命は局在し、気紛れに人間を嘲弄する        行着く時の流れは果てなる                  場所をあらゆる試論に     セミネールの受講人達へ掲示するが     椅子の下   螺旋の脚は縺れ合いひとつの 欲動機関となり自動機械人形の劇装置は   彌散曲の伽藍堂に     翻る洋蘭と青藍の唐菖蒲を       尺度に静止させ         純粋鏡像の胎児の卵膜      楕円の卓子並ぶフロアに垂下する           紡錘形の渦巻く巡礼者       夜と昼の挟間に郵便夫の        ベルを鳴らす手套が 影を残して消える八月     ああ、      あの火事の顛末は《現在形》より       忘却された瓦礫降る《黒の雨》 ---------------------------- [自由詩]肺結核の神学論/高濱[2013年10月16日3時40分] ピーテル・ブリューゲルの塔が部屋の中央に屹立し 周囲を侏儒の叛逆天使たちが蜻蛉の翅を以って飛び交す 絵画美術は幻視の領域にまで後退し 観念的な支柱を破壊された現代神学の修道僧たちは 科学的絶対抽象主義の潮流に幾何学形の黒を開く建築群に蟄居し その部屋部屋には死の影が濃く纏わり伝い 塗潰された黒薔薇の反転写真は縦横に引裂かれる 向う側には驟雨滴り落ちる切窓の 紫陽花がプトマインに白く褪色し 伽藍堂の縊死人は振子の往還に二重視され 暗喩の聖人群の捻れた裸体は 更地の葡萄樹を収穫する彫刻家の鑿と石蝋製軟膏を喚起する 二重螺旋階段の失踪した裸婦は静物の無花果をイコノグラフに象徴として浮遊せしめ 聖像破壊以降に誕生した嬰児の卵膜は 薄乳色の大理石に閉じ込められた アンモナイトの象を世界の秘密の如く堅持し 渦巻模様の綜合体としての蜘蛛の巣の板ガラスには 銃の跡の有り、 修道女の小銃が射ち落とした七つの脚 或は日曜日の聖なる燭台裡に 倒壊する鐘楼建築の幻燈装置 ---------------------------- [自由詩]紫陽花及び肺臓移殖手術/高濱[2014年5月6日4時25分] 懐旧には 花崗岩の石碑 夥しく十字架型の翳 無銘墓碑群には 褪紅の光芒の裡なる具象の聯なり 残酷劇が現実を越境する 克明に狂い往く 檻舎の鋼の鉄柵に 懲罰房に黴塗れの種入麺麭と 悪く為った牛乳を嚥下するのは 基督者の美しい愛憐は歓喜し―― ――死の讃歌を瓦斯燈に揺れる炎へ擲つ    忽ち純血色の遺骸櫃より 両腕を展ばす 老シュルレアリストの晩餐図に 十二の検死官 精神分裂病のメシア 牛の子宮より 呼ばう声すなり―― 偶像破壊運動煽動の青年は街宣車に喚き 抽象彫刻家達は 諷喩する 駅前広場の銅球さえも 概念的偶像に過ぎぬ 醜く冀願せる教会伽藍の白痴のマリア ビスケット罐に画かれたる 爛熟の麦穂は 欧州的なる優美性 薇や花萼や僭越なる神々 平面幾何学形庭園や翼の型の飛梁を 否認し 絶対抽象的形象の唯一の具象 簡素なる椅子の展開図を 死より死へ去り行く巡礼の踵へ 錆釘の如く纏わり附かしめるであろう 強心剤を打つ 看護師達は 顔覆布掛る移動寝台の滑車へ糾う 白絹の繊維を 絞首刑の 同性愛者や 精神病患者 薬物中毒者の雨曝しの腐肉はこそげ落ち ユダヤ的教条の尊守者は 吐気を堪えつつ アメリカの宣い給える現実を 欺瞞と貧困と搾取の泥濘に抛り出すも 強制収容所への鉄路は 錆附きたる黒血を糊塗し昏かりぬ ---------------------------- [自由詩]眼球と蛹/高濱[2014年12月11日1時23分] 硬い枯葉を踏み拉きながら 散文的な午睡に遊ぶ、少年期  定規の下の眼球、 或は乾燥花を敷詰めた球瓶装置 靴の花瓶に一輪挿の薔薇があり 田舎町――それは不安の町だが私には一抹の安寧を与えてくれる  嘔吐する度にみずみずしく成熟する 梨の肉体は 綻ぶ詩集の果敢なる騎行を鋭角の残影に投射しながらも、 第七曜日の黄昏の 酷く苛酷な労働を美しいと言う様な 拘置室に断腸の焼身自殺を見届けることを看守に ――彼は鶏頭の人夫であるのだが――再三に亙り訴求するので 彼は時計を破壊してしまうだろう 窓に聯なる優美な魚は惑溺する水に於て 詩人達のサロンを俯瞰している 小卓には葡萄酒が零れ滴り落ちながらそれの一縷の血脈を酩酊する 放蕩は豚小屋に 絵葉書は鳩舎の檻に  単純機械の実象には網膜の撮影機材が縦横に梁を展ばす 扉に磔け緊め上げられる鸚鵡貝の殻は 覗窓のただなかに於て彎曲する建築物と閑散たる赤い市街地を嘲い 降り懸かる抽象と膠の人物像は アリアドネの熟睡に試みられる印象の紡績を凡その観念や諦観より劃てるのであろう ---------------------------- [自由詩]むつかしい詩/高濱[2015年3月25日0時04分] 気底花圏の馥郁たる相続、 常夜燈 その藍青の夜の臍に稔る畑 コリントの四季の修飾 つまり彫刻家達の唯美への指向へ狭窄して行く 石膏の残骸、 その薔薇の臓物が 裂罅より横溢し乍ら括られている 飢餓の存在、 安寧の表裏に 純粋化を果された環境前程に拠る淘汰などを 微視する網膜、 喩えば撓む薔薇物語の放蕩 そして絹に縁る存在の埋葬、 その悉くを髄液は 仮構し、 建築体と安息週間の著しい優越の、有限性 既に酵素反応的生化学とその諸々の種子は 現象の闡明に希釈され 脳髄と神経の樹 舞踏の偶然、 総ての感受と、熟慮は 精神の創物と呼ぶべき諸々の観念の、 抽象への親和性に許ずく 禽舎と謂う隠喩に 内在する死への契機であり、 非概念の為の城砦 痙攣する心像、 それは映像の時間的聯続性に 胸像の閑散たる美術展に縁り乍ら 何れ前鋭理念の、撤退以降に 骨董の幾許かは漂泊する、 世紀毎に終端を縫綴じる幾多の麗しい呪いへと ---------------------------- [自由詩]わかりやすい詩/高濱[2015年3月25日0時06分] 概念、 私からつねに対極にはばたくものよ。 しかし私は、 あの斥力に呪われた手筈がないならば、 ひとときとして、 存続することは叶わないだろう。 思考をすることが悪であるとは限らない。 尤も、思考に耐え得るほどに精神をみとどめるのは、 依然としてそこにある物象の愉悦を、過ぎ去るものとして手放す程に難しい。 私は、投薬によって抑制されてはいるが、 放縦な美しさと謂うものが実存をするなら、それを庇護する。 社会の敵として。 私たちを 敬虔且つ科学的な成果である以前に、 ひとりの存在として観留めてもらいたい。 私が私であると言う自明は、 戸籍謄本の 氏名記入欄にしか、保障されないのであるからには。 死に到る程に、 なにものかを美しいと形容することは、代償を必要とするものだ。 口にのぼらせてはいけない感情、それこそが流麗な柩。 私は私自身の血を飲むことでしか、 ひと時でさえも血の通った詩を繋ぎとめておくことができない。 例えこの夜が灼け落ちても、 その向うには運命では語りおおせないような真実の虚脱があり、 私はそれを眺めるためにやってきたのさ。 ---------------------------- (ファイルの終わり)