AquArium 2012年8月23日1時12分から2019年12月13日21時39分まで ---------------------------- [自由詩]熱帯夜/AquArium[2012年8月23日1時12分] なにも変わらなくて 加速していく、 愚かさを携えて 滑らかな鎖骨の線を 辿っていく途中に 君を見失う ねえ 熱くて どうしたらいい 残らず全ての角度を記憶して 現像してみたい 不確かさを形にして なにかひとつでも 確かさを感じたくて 切り取る瞬間 ねえ なにが 映っているの 少し生えてきたヒゲ 時計の針は、 八回廻って 射し込む光の憎さに 少しばかり、 世界を恨んだ 沈んでしまいたい 二度と這い上がれなくても 窒息して、 最後の景色が君だとしたら 世界一幸せかも、 しれない ねえ 接している 面と線が ねえ なぜこんなに 悲しいの そっと 触れたくちびるの 湿っぽさがまだ 身体中を支配している もう、 動けないよ それでも、 目を背けずにはいられなくて 指を、 絡めた じわじわと迎えに来た痛みの正体を 教えて ねえ 嗤わないで いいから、 ねえ 熱くて どうしたらいい すり抜けていく あたしの言葉をぬるくする視線、 いらないのに 目を逸らさずにいる あたしは 誰よりも弱い 肋骨を、 ひとつひとつ なぞっていく過程に愛がないことも まぼろしみたいな 触れあいに溶けながら ぼんやり、理解している ねえ 脈が速くなって 心臓が届きそうなのに ねえ どうして まんなかは冷たいの 透き通るくらいの 細くて白い腕 もう、目を覚ましたくない 起き上がることを 本能が、 許さないでいる あらゆる窪み、ふくらみ その先にある血管に あたしの血液を 流し込んで ほら、 全身で震えてよ ねえ 熱くて 熱くて どうしようもない どうせなら ひどく噛みついて 派手に棄ててくれたら この先の歩き方が 見えてくるのに、 残酷ね ねえ、 どうしようもない 好きです 熱くて ねえ どうしたらいい すべての思考 ねえ 置き去りの ことばたち 背中に、 つけられた足跡が 粉雪みたいに すっとなくなる、 儚さにただ 永遠だけを願う ねえ いつまでも 熱い 髪を、 掻き分けて眼を 踏み抜いた 突き刺さる、 切れ長の視線が 泳いでいて掴めない ねえ 答えて でも ねえ 聞こえない ふりをして 切り返す 身体の端から 蝕んでいく、 これまでの記憶 右肩に、 夢中で口をつける (もう 誰の湿っぽさも 呼吸も温度も なにもかも いらない いらないから この瞬間に 殺して じゃなきゃ 殺しても、 いいかな) ねえ 軋んでいく 身体の重みと こころの軽さ 確かなものが 見つからないから 目を、 伏せて ひたすら、 ひたすら、 君を想う ねえ 枕に顔を埋めた はじめて 涙が 止まらなくて 声を上げて 叫んだ ---------------------------- [自由詩]愛しいひとへ。/AquArium[2012年9月3日23時32分] そのくちびるが どんな形で動いていくのか 最後まで見届ける勇気が、ない 今にも飛び出しそうな心臓 耳をすまさなくても聞こえる 生きている証 あたしの左肩は 心地良く鉛を背負う いっそ温度さえ棄ててしまいたい モスコミュールの 爽やかさも既に消えてしまう 炭酸よりも儚いゆめ ー沈黙、 やめてね 現実がきちゃうじゃない 都合のいい世界で 永遠を信じてよ せめて今はー その指先が 示す未来にあたしは存在しているのか 遠くを見ることが、できない 絡めた手脚に伝わる 同じ体温くらいでしか 感じられない繋がり 静かに目を瞑り 寝息さえも聞こえない朝 あたしは呼吸を飲み込んだ あまりにも 優しい顔をしているから 右手をそっとあてた心臓 ーもう、 世界は新しい 古くなっていく時間 虚勢を張り合って いたとしても、 明日を信じてみない?ー すべての 一秒先が怖くて 時間を止めてしまうのは、あたし 遅くなっていく なにか悟ったような あたしを見たあとのまばたき 知らないことが 不安より安心を もたらすなんて、切ない マルボロの苦ささえ まるでなかったかのような 飄々と迎えにきた朝 ーもし、 気まぐれな淋しさが またあなたを襲うとき 一番に思い出してくれたら あたしの世界を 信じてみませんかー あなたの世界を見てみたいです。 ---------------------------- [自由詩]ねがい/AquArium[2012年9月9日21時45分] 振り切れてる キャパオーバーのきもちが 行く先はどこなんだろう 飲み込んでも 零れてしまったことばたちは もうこの世にいないのかな ここで会えたら奇跡だと 新宿の街を彷徨い 見知らぬ人影に心おどっては ため息をつく 最大限の視力と聴力をもってしても きみは、いない (今朝の微笑み  熱いくちづけ  仄かにマスカットの匂いがして  必死で目を瞑った  9月のカレンダー  なぜか18日にハートマークをつけたきみ  絶対だよって  ぼやけていく顔、  いやだ  待って、  景色はいつもの散らかったあたしの部屋  …夢) もういらないと 何千回も思うたびに どこまでも、 意地悪に夢で笑うから きみの匂いを 忘れられない   「ねえ、    気づいていないと思うけど    たまにするメール    必ず絵文字がクローバーなこと    知ってる?    ハートマークなんて使ったことないけど    ねえ、    無駄に流された    言葉たちの居場所を教えて    ぜんぶ掻き集めて    閉まっておくから    知らないふりするのは卑怯だよ」 振り切れてる キャパオーバーのきもちが 行く先はどこなんだろう 飲み込んでも 零れてしまったことばたちは もうきみには届かないの? ここで会えたら奇跡だと 新宿の街を彷徨い 見知らぬ人影に心おどっては ため息をつく 最大限の視力と聴力をもってしても きみは、いない どこ 会いたい ---------------------------- [自由詩]焼き付ける/AquArium[2012年9月16日21時32分] 何気ない被写体を探す 互いのファインダーの向こうに 映るのがまた、 ふたりでありますように                       大切なことを気づかせてくれたあなたへ ---------------------------- [自由詩]C'est .... à moi./AquArium[2012年9月30日18時51分] 何度もかき消そうとした 浮かんではそのたび 残暑の滲む空に放り投げた 危うさ すべて不必要の時間に変えて 逃げることすらせず 甘んじた堕落の日々に 差し伸べられていた大きな手も 振りほどこうとした脆さ だけが私の魅力だったのだろうか    分からないことが  曇り空を連れてきて  いつの間にか  青が消えてく  曖昧なことが  冷んやりした夜を呼んできて  気づいたとき  涙がこぼれて  灰色に染まる 嘘をこころに撒き散らして その場しのぎ それだけで 温度を実感できたのに いま、 氷点下になる 影がのびる 蜃気楼のなか歩いた日も ひと月まえのこと もう 薄暗い空が早くて 差し込む光も見えないまま 夜を連れてくる 息を吸う間もないくらいに 朝が迎えにくるけど 変わらない景色に 胸を撫で下ろしたり 意味もなく涙が零れたりしています 足音だけで分かる 胸がきゅうと泣くのに 気づいて欲しいことに気づいてしまって 笑いあえなくなる もう完全に引き返せなくて 肌寒さが教える 眠れない理由や ぎこちない距離のわけを 蝉の声が聞こえなくて 暑いですねと 間を繋ぐ術をなくしてく 程よく混み合った中央線 触れるか、触れないか その曖昧さが 撫でる感触に記憶だけ鮮やかで いま、 驚くほど不快な満員電車に揺られている 探してみる やさしい声を 誰も気づかないような微かな叫びを 居場所を確保するための 愚かな歩みだとしても 言い訳を必死で考える たいして欲しくないものを せがんでは 湧き上がる愛しさに 泥を塗ってしまう 何度もかき消そうとした けれど けれど、 目に映るのはどうしたってあなたで 秋空の下求めているのは その柔らかい温もりだった ---------------------------- [自由詩]かたちのないもの/AquArium[2012年11月2日9時05分] 射し込む光に 身体を向けて 同じタイミングで 息を吸う、 ただそれだけの 仕草がやさしい また目を瞑る 絡めていたのは指ではなくて 互いの古傷だったと思う 知らなくていいことを そのままにして 確かな温度を上書きしていく、 覚悟 僕にはあるから 夜が運んでくる 頬を撫でる冷たい風も 一瞬で真っ白な朝が 新しい温度で包んでくれる このまま、 じゃだめでしょうか 首すじにかかる 熱い息の湿っぽさや 鼓膜の奥で鳴る 心臓の音 速度は、 きみの方が速い 歪んでくる 表情を少し切りとって 目の奥に焼きつけていく いつだって きみを感じられる気がしている 月曜の朝 * 一週間が始まる ページを捲っても、 終わりのない 秋から始まる物語を 日比谷線を待ちながら 描いている 背中のずっと先のデスクで 難しい顔をする きみを、 左目の端っこから見る だらしなさのかけらも 此処では見せない * 毛布がまとわりつく 脚先のいたずら 季節さえ愛おしくて 子守唄みたいな寝息に 僕らの関係は許される 気がしている 土曜の夜 ** 「お疲れさまです」 ありふれた言葉の色も 変化していく 朝の占い みずがめ座までチェックする 引き返せない 分かりきっていて 「おはよう」 ** 眠たい日曜の午後 きみの心音を右耳で聞きながら かすんでいく視界が とてつもなくやわらかくて 僕は永遠を 信じてみたくなる 信じてみたくなる 信じたいんだ ---------------------------- [自由詩]ただ、愛を/AquArium[2013年1月20日20時49分] 愛を送る そっとあなたを包む やっと、 気づけたから 愛を送る エゴではなく 身体中であなたを包む だから、 先を、 先を見ようよ 愛を送る ---------------------------- [自由詩]愛/AquArium[2013年4月15日12時54分] 流れている あの冷たい鋭さも 巻き上げるすこし生ぬるい風に 変化という言葉の意味を知らされる 数多の言葉をもちながら いちばん汚い形容詞を選んで 残る、取り残されたような感覚に 停滞した季節 でさえ、もう風が吹いている なぜ気付けない すでに在る愛に より確かさを求めて傷つけあう道を 歩んでしまうのだろう 確認しあう無意味さと その行為の奥にある危うさが 恐ろしく強い力で僕らを包んでしまって 抗えない運命に啼いても 流れている 最後に残るのは ただ 愛であることを知る 桜が散っていたことに 切なさと共に胸を撫で下ろして、 生きてきた時間を実感する また新しい季節に あなたと縁を紡ぐことを 信じて 信じて 生きる ---------------------------- [自由詩]ふたり/AquArium[2013年9月1日20時51分] 何度描いた場所だろう 震えて息が詰まりそうな ドアの前 ここで最後に見た景色が フラッシュバック 一瞬だけ目を、閉じた 何食わぬ顔で キッチンに立つ背を 瞬きもできずに見つめながら 部屋中の空気を吸い込み 配置の変わったソファーで 息を、吐いた 知らない時間が どれだけ流れていたのか 共有できなかった大事なことを ひとつずつ ひとつずつ 紡いでいく あたしの心の奥にある ほんの少しの尖った部分に 届くのを躊躇っているような 核心の束たち 些細な言葉尻にさえ 神経が、鳴いていた ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ どうしたって近づけなかった 最寄り駅 徒歩2分のスーパー 右折した先にある あなたのマンション 街のシンボル、犬の像 東横線を待つ駅のホーム あなたの横顔 揺れてよろけた あたしを笑って 改札を出る 涙が滲んだ、自由が丘 些細なやり取りを 思い出させる 口癖も歩く早さも 変わらないことが 余計にギュウっと 胸を締め付けた ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 気づかれないように 何度も抓った頬 あたしではない脈が 聞こえる奇跡に ただただ ありがとう、と呟いた ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 新しい朝を迎えたかった 少し重たい身体に 飲み込んでしまった言葉を 弔う間もなく 靴を履いて ぼんやりと、微笑んだ 足早に向かう駅までの道のり また出会えると そう強く刻んで 一度も振り返らず 電車に乗り込んだ もらった炭酸水の泡だけが、口の中ではじけていた ---------------------------- [自由詩]2012.12.21 あたりに考えていたすべてのこと /AquArium[2013年9月3日22時22分] そのすべての色があたしを創っている 特定の足音が近づいてきて背中がキュッとなる 慣れることの安心と不安定さが行き来する日々の真ん中で右往左往している 取り囲んできたあらゆる世界をまるで同じものにしていくように知らない世界を教えようとする 指し示す場所がすべて正しくもないけど願う、 あたしとあなたの世界に共通項があることを あなたしか知らない色を全身で教えて 願わない時間がもう、ない ないから 「塗りつぶさないで」 訪れた場所 触れた温度 見えた景色 少しでも新しい色を名前のない色を 一滴でも残して、描いて この世界をすべてあたしたちの色に変えるくらいの気概で なんて 無理な願いだけど すれ違うたびにこの世界が終わってしまうような気分になっている 確かなことが欲しい ひとつでいいから欲しいです ---------------------------- [自由詩]世界が終わった朝/AquArium[2013年9月8日23時56分] きみの薄い膜がやぶれる理由や まなざしが冷たくなっていくときを ぼくは近くで見ていた さいごに聞いたきみの笑い声は お笑い芸人のコントだったね 年の瀬 新しく歩んでいく(はずだった)世界 (同じ屋根の下  想うほどに傷つけあう夜は  不快な暑さに魘されて  確実に乖離していくすれちがいの愛  正当化することで精一杯だった、ぼくらのうそ)  なぜひとつになったのか  相変わらず熱くなったきみを  なんの疑問もなく受け入れながら  ツナギトメル  2012年さいごの朝  ―ぼくが欲しかったのは     許容できるおんなじ温度の細胞― きみの薄い膜がやぶれる理由や まなざしが冷たくなっていくときを ぼくは遠くで無視した 剥ぎ取られるベッドシーツと せっせと身支度するきみの背 焦っていたね とても  掻き消すように  包んで離して吸い込んだきみを  半分嘲笑い泣きながら  ツナギトメル  2012年さいごの朝  ―ぼくが欲しかったのは     ぼくが欲しかったのはそのままのきみ― (同じベッドの中  少し怖い寝息に刻む秒針の音は  夜明けが恐ろしい速さで  襲ってくるのを手助けした  寝たふりをして噛み殺す、ぼくのいたみ) ---------------------------- [自由詩]春へ、/AquArium[2014年2月13日19時40分] 吐く息の白さを 何度も確かめることに 慣れてしまって あなたのいない夜に 泣くことも、 もうない だって世界は進んでいて あたしの上にも 朝が降りてくることを知ったから 思い返しても 鼻の奥がツンとなることはなくて、 嬉しいような寂しいような 絶対的に必要だっていうのは 今思えばとても窮屈で 雁字搦めだったな あなたの迎える朝に 昨日より少しでもいいから 柔らかな光が差しますように このくらいの温度で 合わせた視線には 驚くほど棘がなくて そうしたら次の春は 微笑みさえ、 分けあえるような気がしたの ---------------------------- [自由詩]愛が喜びも悲しみも分かち合うものだとしたら、あなたは卑怯だ/AquArium[2014年4月21日0時42分] 風のように去って行った 悲しみを数値化することができたなら きっとね、 表示しうる最大値で あなたに見せたはずなんだ 痛みを与えることができたなら きっとね、 あと少しで死んでしまうくらいの強さで あなたに返したはずなんだ 風のように去って行った ---------------------------- [自由詩]罪/AquArium[2014年12月7日22時32分] もともと正しさなんてないとすれば あなたも罰せられることはないね はじまりも不明確なら 終わりはもっとぼんやりしているでしょう 倫理や道徳という文字面の正義ほど 力のないものはないことを あたしは知っているよ 守るものと 失いたくないもの 持ち合わせた2人なら欲望の渦から 大した痛みを伴わなくとも抜けられるはずで あたしとあなたの間に流れるものに 意味を見出すほど無駄な作業はないね 不安も疑いも存在しない世界がある そう思っていたけど あなたほど冷酷にはなれなくて それが、 とても、悔しい。 正直なあなたの隣で 少しの物足りなさと引き換えに 一瞬の温かさを全身で受け止めた翌朝 独特な柔軟剤の香りや 寝返りを打つタイミングを 覚えてしまって憎い 気怠さがあたしたちの罪を証明させる朝 カーテンから射す光のまばゆさに また、目を閉じてしまう ボトルキープしたウイスキーが 減ることはあるのか、 なんて思い浮かべたら最期 ―どうせなら、  複数いる彼女たちの中で  一番になりたいの― 決して口には出さないですが あたしのすべては あなたのすべては 解らないままがちょうどいい 均衡を保つのに その場限りの甘い言葉さえも不必要で どんな眼でお互いを踏み抜いているのでしょう 笑ってしまうほど 滑稽な姿で重なり合っても 何を得られるでもなく、 体温だけが真実 決して嘘のない真っさらな夜明けを あたしたちは信じている いつでも、信じている もともと正しさなんてないのだから あたしも罰せられることはないね ---------------------------- [自由詩]なまえを呼ぶ。/AquArium[2014年12月22日0時05分] 名前を呼んで欲しい、 たったそれだけの欲が この先の安定を不安定なものにしていくことが分かっているから、ずっと黙っていたんだ (源氏名さえも 入店の指名時にしか呼ばれたことないんだから。) 「そっち」とか「ねえ?」という言葉で お互いを確認するくらいの距離でいたのに この前あたしを抱いたとき急に名前を呼んでくれたもんだから 心臓が、少しキュッとなった 憎い 壁ドン、頭ポンなんかが流行ってるって 家に置いてた女性誌見ながら 「それはないだろ」だとか、 「これがきゅんとする」だとか意味のない会話が どれだけ楽しいものであるのかを きっとあなたは気づいていなくて (ほんとうにだいすきな人が誰なのか 自分でわかっていればそれでいい 悪いことをしているだなんて考えた時点で終了することくらい 賢いあなたなら分かっているはずで、) 遊び人の携帯には絶え間なくLINEが入り たまには席を外して電話をするあなたの目に浮かぶのは誰なんだろう? …そんな思考が一瞬でも過ぎったあたしは馬鹿だな 誰? なんの電話? なんて一言も聞かないのに かくかくしかじかでトラブルで 仕事の電話だったっていうのは それだけで自らの嘘を露呈しているようなものだよ。 それが事実であろうと、 あたしにとっての優しい嘘であろうと、 どちらでもいいけれど。 2軒目を後にして乗り込んだタクシー もうお腹は十分に満たされているのに 「腹減ったな?」と言うあなたは、 まだ帰りたくないんだろう 本当はもたれ掛かりたかった 遠慮してしまう自分の小ささに腹を立てている間に タクシーは順調に家の前に止まっていて 勝手に目的地を決めたあなたを睨んでみたけど あたしも、 まだ あなたと いたかった * 小さめのバスタブに浸かる 水はいつもの2/3くらいでよかったのに 一人暮らしの癖でいつも通りに溜めてしまったから 溢れ出ていくお湯に生温い愛を感じて 左後ろを向いて、そっと、目を、閉じた ー指先がふやけていくー 限りなく近づける場所は 狭い狭い あたしの家 気づけば太くて硬いあなたの胸に 耳があたって心臓の音を聴く 瞼には吐息がかかっている あなたは3回 あたしの名前を囁いた うん、って声にならない声で応えたとき 込み上げたのは寂しさなのか嬉しさなのか 分からなくなって ただあなたをズルイと思った どうせすぐ脱いでしまうのなら 最初から部屋着貸してなんて 言わなければいいのに、 またあなたの匂いを覚えてしまうじゃない 悔しいくらい温かくて柔らかい唇に触れて 今夜もまた、 あなたを上書きしていく。 ** あたしのだいすきな人の話を 面倒くさそうにしながらも笑って受け止めてくれるあなたと あなたの守るべき人の話を 1ミリの嫉妬心を持たずに無邪気に聞いているあたしの 間に流れるものはありますか? あたしは一度も あなたの名前を呼んだことはない。 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ひとりじゃないんだ という現実を噛み締めて 温かさを感じながら 何とも言えない歯痒さに包まれる 恋人らしく振る舞うのは 26時を過ぎたころ その瞬間は誰のものでもない その瞬間だけは 語尾がやさしくなるタイミング 少しだけわかってきた わたしの名前を呼んでいいのは この時だけだから なんの制限もなく進む あなたの奥の 奥の方へ、 本能が呼吸している わたしはそれでも 常にもうひとりの私に 監視されていて 私はふたりを見て嗤っている 絡ませて わざと離れて 背けて 引きつけて ーゆっくりと沈んでいく大きな身体にこれでもかというほどの力を込めて、離さないでいる。冷たくならないように全身を使って必死で掴んでいる。限りなくゼロ距離に近いこの瞬間を少しでも、少しでも長くー 光が射す前に 落ちそうな毛布をかける 子どものように眠る 罪深い大人にキスをする 少し目を覚まして あなたは心臓に引き寄せ またやさしい顔をする やさしい顔で残酷なことをする ---------------------------- [自由詩]聡明であるべきふたり/AquArium[2015年6月3日1時44分] 目が覚めた時に触れた 手の先がジンと痺れていた理由は 握った力が強すぎていたからなのか 心地よい鈍痛に包まれて 寝息を聞いている朝 無言のまま身体ごと引き寄せては 暑さのせいなのか 朝がきたという事実のせいなのか わたしはまた、 苦しくなって寝返りを打つ 分厚い身体の重みと 憶えてしまった匂いに やけに安心して、 ゆっくりと額をつけては、 朝を盛大に無視してみる 微睡みの中つぶやいていた なんの夢を見ていたの?と たずねても、 …分からない…と 微笑みながら瞼を閉じる そんな無防備な顔が 憎たらしくて可愛いから 不覚にも切り取ってしまった1枚を 見せるか見せまいか 悩んで保存するにとどめた しがみつくことをしないために 上辺の言葉たちを捨てた 聡明なふたりであるはずなのに 言葉は要らないということを 証明する視線や仕草の ひとつひとつが 手に入らないものへの 執着を生んでしまいそうで 夢中で 求めることしか、 できずにいるね そのときは なにもかも 忘れたフリが、できるね 離れたくは、ないな。 ---------------------------- [自由詩]告白/AquArium[2015年8月30日19時58分] どれだけの言葉を用いても 伝わらないでしょうが 今わたしはとてつもない力で あの日の時間を刻み込んでいます すべてを 幸せだとか切ないだとか そんな表現が陳腐に感じてしまうから 必死で探しているけれど 見つからないまま あの日は 今も1秒ずつ過去になって あなたもわたしも 確実に老いているのです 現実はいつだって追いかけてきますね ひとつだけ 正直にお伝えしていいならば 擦り切れるまで あなたと 過ごしたいです ---------------------------- [自由詩]晩夏/AquArium[2015年9月6日1時00分] + 外はあいにくの雨模様 遠くの空が見えなくて きのうお祈りしたのに、神様 小雨だから許してあげる + ふと口にしたことばが引っかかって、本当か確かめて笑ってみたけど 突然、宿を取ったと連絡がきたときは、すこし怖さすらあったんだ。 行く先も分からないまま 会えるというカウントダウンを始めてみる。 + わざわざ家まで迎えに来た理由 スーツを着替えたかったこと ここは現実と夢の分岐点 本当は出張なんかじゃない どこまでも空は重くて 新調したツバ広帽の出番はない そんなことも知らずに あなたはミスチルの鼻歌を歌う 目的地が決まっているということは ときに残酷だと知る 安心と寂しさが交差して もはや宙に浮いてしまいそうな昼下がり 靄なのか湯けむりなのか たまに未来のようにも、思えた カーナビの表示は物寂しくなり 空気がすこしだけ冷たくなる -----強羅って強そうな名前ですね。    そうだな     由来なんだろう?      調べてみて----- 檜の匂いで包まれた今宵の宿 池の水が流れる すこし早い鈴虫の声 あなた、わたし 水色とピンクの浴衣 おとことおんなを 感じることが果たして正しいのか 分からないふりをしたままでいよう バルコニーのデッキチェアで 乾杯をしてから 神妙な顔つきでつぶやいた ただ黙って頷くだけで十分だったのだろうか お湯の中で触れる背中が いつもより大きい 赤みがかった?にふやけた指先 静かに目を瞑る -----ボーっとしていたいな。    そうですね。     気持ちいいな?      うん----- いつもより少しだけ強めに圧力のかかる上半身 できれば見えないままでいたいわたし、明るい照明を好むあなた おなじ匂いのする髪 この世界がもし、ただひとりしか映らないとすれば 誰の悲しみも怒りも生まれないのに いつだってここには、新しい命を宿さないための儀式があって 静寂が通り過ぎる、何度も通り過ぎる 湿っぽい空気が交じり合う瞬間 わたしたちは一瞬だけ、世界に赦される気がしている 熱を帯びてどうしようもないあなたを遠くから見ているわたし それが唯一の正しさで、わたしの中を泳げるあなたの細胞はない これまでも、これからも、きっと、ずっと + 小さく息を吐き 落ちてきた汗の粒 瞼の上で溶けてわたしの涙みたいだった 深夜2時ごろのこと + 朝日 夕暮れ 夜明け 一緒に迎えられた尊い夏 あなたも どうか忘れないで、神様 ---------------------------- [自由詩]1460日/AquArium[2015年9月22日14時53分] あの日、890km先を目指して捨てた、街 4年ぶりに歩いてみる 泣き崩れた昭和通りも あなたと歩いた警固神社も 何も知らない顔で佇んでた 行きつけだったBARの店長は 独立して自分の店を構えていた 就職氷河期に出会った戦友は お腹が大きくなっていた 変わらないものも 変わるものも混在して 時のスピードに追い越されそうで 追いつけなさそうで 本当は怖くて 誰かに忘れら去られてしまうのも 誰かが遠くに消えてしまうのも 本当は怖くて 私が選んだ、たまに息がつまりそうな、街 六本木ヒルズから 行き交う人波を見下ろしては まだ描けない夢のことを 四六時中考えている ひとつずつ手に入れればいいのに まだかまだかと 現実に愛想を尽かしてしまいそうになる なんでなんで 掴めたものと 掴めずにいるものの境界線が たまにあやふやになったり あやふやにしてみたり 本当は怖くて あなたを忘れてしまうのも あなたが変わってしまうのも 本当は怖くて 確かなことを、ずっと求めてた ---------------------------- [自由詩]祈り/AquArium[2016年9月4日21時10分] ーあなたとのことを書くのはこれが初めてです わたしを汚くて醜い世界から 引きずり出してくれたあなたは わたしよりも随分若くて 素直さが眩しくて直視できなかった わたしには綺麗すぎると 見て見ぬフリをしようとしたけど あなたはずっと強い力で わたしの身体を離さなかった (実を言うと生ぬるい恋愛は楽でした 叶わないことも報われないことも 当たり前に転がって 歯がゆさにも慣れていたのに) . たくさんの悲しみを あなたは食べてくれた あたらしい世界を あなたは見せてくれた 慣れるということは恐ろしくて あなたが背伸びをしていたことに わたしは気づけないほど ふたりの世界は狭かった 愛のかたちに正しさも間違いもないけれど 明らかにいびつな空間で わたしたちは 手をとりあって泣いていた ほんとう、を 見つめる余裕もないくらい 方向の違う愛を押しつけあう 苦しさこそ愛だと自傷行為を繰り返した2人は やがて ほんとう、を 見極める目も耳も心も失った 別れを決意したあなたのなみだ . . お互い少しだけ休むことにした 失った大切なものを取り戻すために ほんとう、は何かを知るために あなたの提案した時間は わたしには十分すぎるほど長くて 朝と夜が通り過ぎるたびに あなたを忘れるのが怖くて 何度もあなたを描いた . . . 時が流れる 空白の夏が終わる 再会までもう少し どうか どうか やさしくあなたと過ごせますように 次の季節を一緒に歩めますように ほんとうに大切なあなたとのことを初めて書きました。 ---------------------------- [自由詩]かわらない/AquArium[2017年2月10日17時39分] あれからわたしもおとなになって (なったつもり、でしょうか)  ほんとうのことばを探しだしたり いつわりのたいどを思いだしたり あなたが笑っていた理由とか とつぜん怒りだしたタイミングとか いろんな記憶にごめんねとつぶやいて すべての時間にありがとうとつたえた あれからわたしはおとなになって それでもあなたを愛しています ---------------------------- [自由詩]答えを出すのが正しいわけではないということ/AquArium[2017年3月3日22時48分] まるで世界の中心だ、 と言わんばかりに虚勢を張っては わたしを試そうとする そんなところも 実にあなたらしく ただ微笑ましく見つめるだけで十分だった 久しぶりに感じたあなたの空気は わたしといた頃よりも 随分とくすんでしまったように、思えた 時折滲み出てしまう 弱さの先には まだ崩せない過去への執着が、見えた わたしの名前を頑なに呼ばないのは 鮮明なままの胸に疼く思いが たくさん秘められているんだろう あなたがたとえ どんなに落ちぶれていても あなたであることには変わりない事実で、 くやしいほどに現実で 右斜め上を見た 固く結んだ口元に 少し潤んだ目 ほんとうのあなたが 時折顔を出しては、 ますますわたしを動けなくする わたしはあなたを再認識する わたしはじぶんを再認識する どれだけ弱くて繊細な人間かを どれだけあなたの存在が欲しかったのかを 好き 大好き 愛してる ずっとそばにいて もう離れたくない どの言葉も当てはまらなくて わたしは途方に暮れた 途方に暮れたの ---------------------------- [自由詩]あたりまえの積み木/AquArium[2017年3月21日23時08分] 目の前にたくさん転がっていた あたりまえの積み木を 崩してなくしました わたしが積み上げたいカタチは 誰もが羨むような とても綺麗なお城で どうして此処に三角形を置くのか 納得のいくように なんどもなんども説明して欲しくて 積み上げるスピードや 選ぶパーツの違いに いつしかため息をつくようになりました 正解のお城はひとつじゃなくて むしろお城じゃなくてもよかったのに 一緒にお城を作りたかったんです 粉々になった あたりまえの積み木を ひとつひとつ拾い集めて 嫌いなものを先に食べるのか後に食べるのか 何かしてもらったときにありがとうと言うかごめんねと言うか 具合の悪いときにそばにいてほしいかそっとしてほしいか …そんな、些細な、置き間違い 理想のお城を作ろうと 必死だったあなたは いつしかひとりで作業を始めました どんなカタチでもいいから という言葉がやさしさだと信じていたわたしと 諦めを突きつけられたと思ったあなたの あたりまえの積み木を もう一度、積み上げたくて ひとつひとつ思い出しています あなたが其処に置く意味や わたしが四角形を選んだ理由を 理解できなくても これから、一緒に積み上げて あのとき捨てた積み木に ごめんなさいとありがとうを ---------------------------- [自由詩]夏の夜のこと/AquArium[2017年7月16日0時11分] 蚊取り線香の匂いが漂っていた あの夏の夜を 貴方は覚えていますか 時折天を仰ぎ 用意していた言葉を ひとつ、ひとつ紡いで 気づくと蚊に刺されて 痒みを帯びた足の甲 それくらい動けずにいたね どれほどの人が通り過ぎただろう 都会のマンションの下 人目を気にする余裕がないほど ただ、 ?いて、 探し続けた答え 貴方の嗚咽を聞きながら、 咽び泣く私の 今更こみ上げる愛しさが 憎い どうすれば、 潔く背中を向けられただろう 下手くそな愛情表現でしか、 気を引けずに 私たちは構ってちゃんだったね 同じ季節が巡って あの夏の夜を いつも思い出しています 本当は、 秋も冬も春も 思い出していました ---------------------------- [自由詩]あなたという光/AquArium[2017年11月15日22時59分] たまに全てが幻だったかのような ふわりとした感覚に包まれる 部屋の隅に置いてある 明らかにひとつ趣味の違うクッションが あなたという日々を確かなものにする 寝起きがすこぶる悪く 身支度に時間がかかり 髪型の仕上がりを気にしては 何度も鏡を見る お気に入りのライダースを羽織り 生意気にサングラスをかけ お決まりの革靴を履いて出る ようやく動き出す正午すぎ 冬を呼ぶ風に吹かれていると 目が乾いて鼻が湿っぽくなる 残酷だけど鮮明な匂いだけが そっと迎えにくるみたいで あなたという記憶を棄てられない 好き嫌いが激しくひどい偏食家で 毎回緊張した食事の時間 手酌をさせると不機嫌になり 乾杯の前に呑もうとする仕草や 熱々のご飯は食べられない猫舌 好きなメニューは先に食べ 嫌いなものは最後まで残す しばらくの間使えなかった食材たち 人の記憶は不確かなもので 都合の良いようにしか覚えられない 頭の中のどれくらい深い場所に 2人の景色が眠っているのだろう あなたという世界を探している 自尊心を傷つけられることに敏感な 強いエゴイズムの持ち主が 誰かのために泣いたり謝ったり 性に合わないことをした 承認欲求のかたまりを これでもかと見せつけてきては 手加減できない本音を晒してしまった 大人の対応は恋愛にも必要ね もう忘れてしまうのかもしれない そんな怖さがくるたびに 確かなものを思い出そうとする ラブレターやアルバムの奥に生きる あなたという愛そのものを ---------------------------- [自由詩]あなたという呪縛/AquArium[2019年11月26日22時35分] こうして想いを言葉にするのは 何らかの心境の変化があったからだと推察します 3度目の秋を超えた今 記憶が少しずつ錆びていくことを 寂しく思うか安堵しているのか 残された生活のにおいを 今なら風と共に消し去ってしまってもいいとさえ 思う自分に気づきました あなたという呪縛から解放される許可を 神様が与えてくださったのかもしれません 書きつづった手紙の束に 祈り続けた朝夕の日々を 手放すのが惜しいのです それは確かに愛だったと 認めてほしい歯がゆさの 抵抗も葛藤も放棄します 時間の経過だけではない 何かを失ったあなたの色 鮮明さを欠いたまなざし こうして想いを言葉にするのは 何らかの心境の変化があったからに他なりません 人間の記憶は都合よく塗り替えられ 綺麗なままにしておくために これ以上の日々に蓋をする 誰かと幸せになることに 賛成したわけでもなければ反対もしない 至って冷静な選択に少し寂しく思います あなたという呪縛から解放される許可を 神様が与えてくださったと今信じたいのです ---------------------------- [自由詩]1162日の旅/AquArium[2019年12月6日22時21分] 開封できなかった荷物を 第三者のように捨ててしまうこと 日記の続きに 手が止まってしまうこと 着信音に期待するのが 違う名前になること ここのところ眠れない理由が 贅沢な悩みであること 何度も超えた夜の色でさえ 一瞬にして朝に変えてしまうこと 幾多の祈りの先に あなたがいなくなること すべてがあなたでした わたしのすべてでした ---------------------------- [自由詩]嘘/AquArium[2019年12月13日21時39分] 真意を問いただす勇気がなかったあの夜 心に半分嘘をつきながら歩いた 「騙されてあげるね」と 大江戸線に向かうエスカレーター 後ろから囁くあなたは 想像より無邪気で、ずるい もう子どもじゃないんだから、と 何度言い聞かせても足りないくらい たしかな温かさを求めていた この空間に唯一邪魔者がいるとすれば それは私の猜疑心だった 核心に触れないあなたの言葉だけが、響いた 思う存分見つめ合った先に 見えた世界がせめて同じなら、いいなと わたしは目を開けたままキスをした 少し動いただけで目を覚ます 繊細さが似ている 寝ている間に本音を呟けそうも、ないね 「足りない、足りない」と キスをせがむあなたの素直さを 羨ましく思うほど大人になってしまった 手に入れた知識の数だけ 幸せを怖く感じさせるから 本当は、騙されるなんて御免よ ---------------------------- (ファイルの終わり)