小川麻由美 2016年6月21日19時54分から2018年4月20日21時24分まで ---------------------------- [自由詩]小さな扉/小川麻由美[2016年6月21日19時54分] どんな噂をたてられようが 雨は お構いなし 降る時は降る  降らない時は降らない 誰ともひっつきたがる酸素は 水素に恋をし 焦がれて この地球を覆っているのか 酸素と水素の出会いは恋物語 焦燥感と言われれば 私はそれを否定できない むしろ肯定するかもしれない この世にもっと秩序があれば 水の恋物語のように しかしながら出会ってしまった 私はあなたと出会ってしまった これは幸福なのか不幸なのか かいもく見当もつかない こうべを垂れてみる 快楽に邁進できない弱さ 不幸だと言えない見栄 怖いと言えない小さな口 孤独だと叫べない閉じた扉 どんな噂をたてられようが 雨は お構いなし 降る時は降る 降らない時は降らない あんな噂をたてられたら 私は 動揺する 怒る時は怒る おびえる時はおびえる 小さな小さな小さな 私の閉じた扉からは 孤独だと叫べない 魂の合戦が常にある ---------------------------- [自由詩]大きな扉/小川麻由美[2016年9月17日11時02分] 門扉は放たれた 湖の水面 微動だにしない男 いずれ花と化す お約束事のように 湖に浮かぶ小舟 貴婦人の高笑い 耳障りな声帯 対するは少年の歌声 お見通しの声 湖で狩りする鳥 絹のような羽 釘だけで支えられた 繊細な絵画 または インスタレーション 大きく広がった門扉 今がその時  この現在が ---------------------------- [自由詩]過剰/小川麻由美[2016年10月4日4時57分] 彼女は猫の名前を呼ぶ ジャニス・ジョプリンが お似合いの魅力的な声 猫には きちんと名前がある かわいいいね かわいいね 繰り返し聞こえる 彼女の声 ほんわかとした時間に 突如 亀裂が走る 「剥製にしたいな」 愛情の過剰な表れなのか 戸惑う私は冗談だと思う いや本気かもしれない 猫を剥製にして得られる 彼女は永遠を手にしたいのか 永遠の永遠の愛情 剥製の猫を撫でる そんな彼女を思い描く 過剰な愛情がそうさせるのか 私は彼女に問うことが できずにいる ---------------------------- [自由詩]ディオニソス的日本情緒/小川麻由美[2016年10月24日18時22分] 小粋な音を響かせる秋風に乗る 音の出所を見極めるため 後ろを振り返った私の目に止まった 見事な日本家屋が朝日に反射する その音とは日本情緒を たっぷりと含んだ楽器 三味線の音色と私は睨んだ その光景を心に浮かべてみる 背筋を伸ばした婦人が よろけ模様の着物に キリリと名古屋帯を締める いなせな女性像 私が想像した女性は一人歩きを始めた その女性は猫を溺愛していた 愛は歪みを生じる 歪みは留まることを知らない かわいいね かわいいね 毎日そう猫に話しかけた女性は 猫を手放すことができすにいる 三味線の音は女性の手と猫の皮と絡み合い 悲しくも歪んだ愛情を奏でる その音色はディオニソスの一角を 私に突き付けてきた ある種の美しき音色と共に ---------------------------- [自由詩]シンプル/小川麻由美[2016年10月28日22時22分] 気付きは、思考を削り鋭くしてくれる 取捨選択の作業の助けと成り それがルーティンとなれば 日々は豊かなものと成る そして 日々の連なりの最終地点である死をも 豊かなものとしてくれるであろう シンプルでいようとすることが 如何に難しいかを教えてくれる それが気付きであると 私は今日気付いた ---------------------------- [自由詩]扉の向こう側/小川麻由美[2016年11月19日12時24分] 私は、いかにも農家の家と言える灰色の瓦屋根の実家にいる。 庭に出てみると、白壁の土蔵の蔦に絡まった美しい男性がいた。 死んでいると思いきや、ビクッと動き私は驚いた。 その動きたるや、金粉を撒くような美しさである。 なんでも、突然私の兄が現れたと父は言うのだ。 その兄は、何がしかの障がいがあり、父母は途方に暮れていた。 私はその兄を気に入りもっと兄の事を知りたくなった… 聖セバスチャンの耳元で、兄の事を聞いてみるのも得策かもしれないと思い、 それが可能なのかさえもわからないが、そうしてみたいという程、私は混乱していた。 庭の横の扉の向こうが気になり開いてみると そこに木々と池のある日本庭園の風景が広がった。 上流階級らしき婦人達が身分の高い方が好きな庭園だから観に来たと言うのだ。 揃いも揃って、貴婦人達は厚化粧である。 特に紅などは、ピジョン・ブラッドの色で 指輪までピジョン・ブラッドのルビーを付けている。 鳩にとっては、いい迷惑かもしれない。 一本の矢が刺さった鳩がいた。 それこそ、聖セバスチャンの耳元で、矢について聞きたくなった私である。 厳密に言えば現実世界に一本の直線は存在しない。 しかしながら、直線を表現したいと思った私は 母校の小学校へ赴き、体育倉庫から無断で道具を拝借し 石灰でもって、グラウンドの端から端まで慎重に直線らしきものを引いた。 額を拭い後ろを振り向けば、渇ききった土に引かれた石灰は 空気の動きである風によって、宙に運ばれて行く。 直線の存在についての儚さを表現できたと感じた私は 危うい位置に居る、聖セバスチャンの耳元で、存在について聞きたくなった。 存在に思いを馳せる恐怖もしくは安堵感を味わった私であった。 *初めて書いた詩『扉』を、かなり文字数を増やし改稿してみました。 ---------------------------- [自由詩]渇望/小川麻由美[2016年12月1日17時24分] 黄金比のような あの男性は 昨日も 今日も 明日も 明後日も 腕から 手から スティックから 小刻みな速さでもって 残像のようにシンバルを震えさせ あの空間にある空気達を震えさせ 震えを受けた私の瞳を潤ませ 喜びさえも伴いつつ 現在も罪を作り続ける 罪は留まる事を知らない 美は罪である なんて言葉 今更ながら 認識させられるなんて 困惑した私だけど 否定なんてできない もう美しくなんてない私だけれども 美を渇望する事は留まることを知らない 月が恥じて隠れるような あの男性は 昨日も 今日も 明日も 明後日も 美と呼ばれる罪を作り続ける 深まる美 深まる罪 そんな事などお構いなしに震えさせる それこそが真骨頂である事を 私は認識しているのであるが 凝りもせずに 日々 美を渇望する ---------------------------- [自由詩]芸術/小川麻由美[2016年12月6日12時07分] 噛みしめている 染みてくる 気付かされる ---------------------------- [自由詩]輪郭に関する考察/小川麻由美[2016年12月7日23時32分] 文字をしたためる時 思わずため息が出る 感嘆のため息 消衰のため息 息には変わりないけれども 色が違う息たち 私の口からこぼれる息は 一体 どんな色だろう 嫌いな色などないから どんな色でも構わない 受け止めてみせる 迷いは 無くなりつつある ひとつ こだわりがある インターナショナル・クライン・ブルー あるいは IKBとも呼ばれる 青 IKBには 白 これは揺るぎない IKBのマチエールは マットに限る そうそう 文字の話に戻らなければ 文字をしたためる時 思わずため息が出る 私の口からIKBがこぼれる時 そんな時は訪れるのだろうか マットな仕上がりのため息は 無限を察知できるはず 軽はずみに無限なんて 言っていいはずはない けれども 夢を託すこと それは私にも許されるはず 無限の境地に至る思慮 そんな境地に至れば 私の口からIKBがこぼれることだろう IKBの色をした私のため息は この世も あの世も 境界のない 中心もなければ 周辺もない 輪郭は滲み消えて行く なんたる深淵! ---------------------------- [自由詩]癌患者の日常/小川麻由美[2016年12月17日0時20分] 私に挨拶する時 「お元気ですか?」と言わないで 返答の言葉は用意されていない 戸惑う私は 「色々ありますね」 そんな的外れな事を言ってしまう 骨と腹膜は自己主張して 去っては また来る 胸と肝臓はほぼ無言のまま 変形し 背中を向けたまま 私は挨拶する時 「いかがお過ごしですか?」と言う 返答の言葉に選択の余地があるから 「まあまあです」 そんな言葉を聞ければ十分 ニコニコしてる旦那のそばで こんな言葉を綴っている ラーメンを食べてる旦那のそばで 「美味しい?」聞いてみる 私がしなければいけない事は 治療を受けられる体でいる事 維持できていれば それで良し ある意味 健康の証 はじめまして お久しぶりです 私はまあまあです ---------------------------- [自由詩]折り合い/小川麻由美[2017年2月10日19時37分] メニューから食事を選択 贈る花を選ぶ 余生をどう生きるか 表現困難な領域 臨界に留まる 口ごもる 瞬間 瞬間 何事につけ 折り合いをつける 生と死の根本にある 意識あるいは無意識 折り合いをつける ---------------------------- [自由詩]閉塞感/小川麻由美[2017年2月18日7時34分] 開け放たれた窓に向かい 今朝の私は おびえる 容赦なく冷気が 室内に充満する 窓を閉める事ができない 閉塞感の囚われの身だから 朝の目覚めは予測できない グレゴール・ザムザだって 虫になりたくなかっただろう ゴドーをを待ちながらを 体験したい心でいっぱいだ 閉塞感の囚われの身だから ここから抜けたいとは思う 成す術を探そうにも 閉塞感が行くてをはばむ 沈められた閉塞感が頭をもたげた 向こうに黒々とあるものに 嘘をついてはいけない 歴史が雄弁に語っている ロウで塞いだ耳は 届くことを知らない そもそも閉塞感に雄弁になれはしない 語った瞬間に すでに嘘になる 誠実でありたいと思えば思う程 身を潜めたり 無言になる 冷気に身をさらし うなだれ 成す術もなく 一本の道をゆく ---------------------------- [自由詩]貨幣/小川麻由美[2017年3月26日15時02分] お金の話って好きじゃない お金に捨てられ お金に拾われる お金が触媒になり 化学反応を起こして 人々が交流する 価値の差異 貨幣の流通 嗚呼 まだ私は1984年に生きているのか? ビッグブラザーが出現しない事を祈る 甘い呪縛 ---------------------------- [自由詩]自己嫌悪/小川麻由美[2017年3月29日16時53分] 久しく遠ざけていた言葉 自分と他者を比べてしまった時 根底を揺さぶられ 成す術もなく 流れるがままの涙に身を委ね 平常に成るのを待つしかない 素晴らしいものに出会ってしまった 甘い毒のように 舌では快楽を与えられるのだが じわりじわりと浸透すると 倦怠感に襲われる 諸刃の剣の振る舞い 宙の一点を凝視し先を見据える ふたたび覚醒した 自分が成す事ができるのは いったい何かと思案する 言葉の選択を繰り返して来て 更に繰り返すプロセスを辿る 自分にしか出来ない思案を成す 書く喜びこそ  自分を?ぎ止めて来た事実が在る またもや宙の一点を限りなく凝視し 見える事のない未来に焦点を合わせ 今日も文字を連結させた ---------------------------- [自由詩]分解?/小川麻由美[2017年4月30日4時51分] ほう そう ですか そう ならば さよう ならば さようなら ---------------------------- [自由詩]凝視/小川麻由美[2017年6月15日16時09分] どれでもないどれか 力を振り絞って目を開き 真ん前にある一点 それを凝視することに 価値を見出した 私はあなたでもある 目を開く 網膜に何が映っているのか それは重要ではない その行動が第一歩である 一点を凝視する 繰り返し繰り返し 自分で自分に言い聞かせる その作業は重要である 価値を見出す 集中した脳は 私を強くさせる 気付きこそ価値がある どれでもないどれかは なんでもないなにかでもある 私はあなたでもあり あなたは私でもある ---------------------------- [自由詩]表現/小川麻由美[2017年6月20日21時48分] あの目を見てごらんなさい 衝動に駆られている 誰とは申しません あなたたちかもしれない 特定不可能 表現者となった目 込められた何か 何とは申しません 遥か彼方に居る 眼前に居る表す者 特定不可能 まさにそうなのです まさに表現者のそれ 全身で行われる 全身で受ける 目で一瞬のうちに了解 了解いたしました 観る者と表現者の大きな距離 観る者と表現者の密接な距離 表現の尊さ あの目が見えますか? 全て了解したうえ それは逸脱しています 素晴らしい逸脱こそ表現 飢えているのです あの目を見てごらんなさい! 剥き出しの表現 これほど甘美な出来事 そうそう在りえない それは事件なのです ---------------------------- [自由詩]名前/小川麻由美[2017年6月30日5時49分] 時々開けられる引き戸から差し込む明かりは 身じろぎもせずに居る私にとって迷惑この上ない 引き戸ごしに聞こえてくる喧噪も静けさも 今のこの私にとってはなんら関係ない 徐々に変色してきた体に始めは違和感を感じたが もうどうでもいいことで 私の一部が粉となり 周囲のもの達を染めることに何も抵抗がない 色づいたもの達は不平をこぼすこともない 不平をこぼすには口というものが必要だからだ 時々やってくる地震で私は寝返りをうつ その日は突然やってきた 私とは質感が違う柔らかく動くもので いとも簡単に明かりで満ちた場所に引きずり出された その明るさに慣れたころである 今度は記憶に残ってるのが不思議なほどの 陽光にさらされ のっしのっしと運搬された その場に着き 投げ出された私は声を出すこともなく ただただ陽光を感じ これが痛みというものかと思う せめて日焼け止めを塗る時間くらいはあっただろうに 私を運搬した者は随分と大きくなったという印象である いや逆に私が小さくなったのかもしれない 周囲の気配を感じるとそこは茶褐色の世界だ 私もその一端を担っていたのだ いつかどこかの映画監督が茶褐色の映画を撮りたいと思えば 私達はうってつけなのかもしれない なんら関連性もないような事を思い行動もしない それが私の日常で取るべき態度くらいはわかってるつもりだ ---------------------------- [自由詩]癌。それから/小川麻由美[2017年8月8日1時57分] ある者が私に病という糧を渡して以来 無駄なものはないという方向に 気持ちが移行してきたのがわかる 温かい経験も冷たい経験も 私を形成する一部となる 言うまでもないが病は辛いもの 冷たい嵐は不条理を突き付けて来る いったい私の非はどこにあるのだろう 自分が癌だと偽って何を得るというのだ! 私の内では炎が立ち上がり 待てば消えると信じたが叶わない やり場のない炎に薪をくべる 孤独の極みに身を置いたあの夜 忘れもしない忘れることなどできない ひしひしと迫る絶対なる孤独 私は這い上がってきた。 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]『今宵の開花』出版にあたって。/小川麻由美[2017年9月12日21時17分] 「私は幸福である」と人は如何なる場合でも感じる事は可能だろうか? 以前、テレビで寝たきりの老人が「生かされているだけで幸せです」とおっしゃったのを見た。そういった心理は多幸感と言うそうだ。 私は驚いた。何がこの境地に至らせたのか、未熟な私にはわからない。 ただ謙虚という重要な言葉がある事だけはわかる。 この詩集が、力強いドローンに支えられ歌われるブルガリアの民謡のような美しさを少しでも感じさせるものであれば、私は満足するだろう。 ---------------------------- [自由詩]道化師/小川麻由美[2017年9月15日14時30分] 道化師は幕が上がってる間 闇を見せることはない スポットライトの影は とても濃く床に映る 道化師は幕が下がっている間 自分を取り戻しているのか 彼のそんな姿を想像してみる とても濃い闇かもしれない 光と闇 対局にあると思われがち しかしながら真相はいかに 闇があってこその光 光があってこその闇 光と闇 光は深い闇によって成り立ち 深い闇の向こうにかろうじて 表面が輝く光を見い出せる ここに二項対立は存在しない ---------------------------- [自由詩]静寂が意味する所とは/小川麻由美[2017年9月21日0時17分] 夜にアポロは眠りにつくだろう まばゆい輝きはどこ? 夜空の裂け目に祈りを捧げる 彼らは湿地帯を彷徨い 鏡のような水面を呈した 池の畔に辿り着いた 王の前で繰り広げられる 燃え盛る炎のように 挑発するサロメの乱舞 地の底から聞こえる ヨカナーンの抵抗の叫び ヨカナーンはサロメを魅了する 血の滴るヨカナーンの首 満足気に唇にキスするサロメ 盾は時として凶器になる サロメの願いは叶った 王の命令に皆が従う 凶器になった盾によるサロメの末路 打って変わって静寂が訪れた 夜にアポロは眠りにつくだろう まばゆい輝きはどこ? 夜空の裂け目に祈りを捧げる 静寂はそのものなのか この世のささやかな音を聞く そのためにあるのか 4分33秒間の静寂について 鳥籠に問うのもよかろう キノコの胞子の模様の意味とは    * ピアノの弦は異物に脅かされた    * ヨカナーンの首はサロメのもの    *    今夜の宴はディオニソスに捧げる *『静寂』を大幅に改訂したので、新しいものとして投稿しました。 ---------------------------- [自由詩]忘却/小川麻由美[2017年9月25日5時38分] 忘却が善か悪かという命題を 立てる事は考えなくても良い 人は忘却に救われ そして忘却に苦しむ 別れを告げた事は散り散りになり 別れを告げられなかった事は 重く沈む 沈んだ忘却は ことあることに 浮上して ことあるごとに 人をさいなませる さいなまされた人は またもや忘却を経験し 重く沈む    * 昇っては沈む太陽のような 忘却ならば 私は歓迎するだろう 私達は照らされている その事を忘れなければ 何とかなる そう思う 朝日と共に 私は強く そう思う ---------------------------- [自由詩]本とは/小川麻由美[2017年10月3日10時13分] 静かな佇まいのその本を眺め どうしたものかと悩む毎夜 恐る恐る手を伸ばし 紙の感触を確かめるかのように つかみ私の近い所に引き寄せる 一連の動作を繰り返し続ける まるで誰かに指示されてるような 義務感に追われているような そんな感覚でもって手にする その本の装丁に魅惑されつつも 心なしか嫉妬が含まれているようだ 果たして私は扉を開ける事が できるのであろうかという困惑 本は自分を開いてもらうのを待つ 色んな手法でもって待っているのだ 私はその事を知っている なのに石膏像のように静止する 静止した私 静止した本 平行線を引きながら 決して交わる事はないのか 実った本は収穫を待つ 待てる事は本の長所と言える 仲間と集まり粛々と待つ 精かんな姿に惚れ惚れする 本とは そういった姿をとる ---------------------------- [自由詩]かけら/小川麻由美[2017年12月22日18時57分] 沈みかけた かけらをすくおうと 水に手を入れてはみたものの 指の隙間から落ちる水しかない かけらは空中を舞う羽のよう 水中を浮くとも沈むともしれず ただただ舞う姿に魅了される ただただかけらを求める 水草となり流れに任せれば いくらか かけらに近づける かけらは水面に映る月なのか ---------------------------- [自由詩]死びと/小川麻由美[2018年1月5日18時27分] 満月を花で飾ろうと その術を問うてみる 太陽は月を照らす あらわになる絶大さ 幾重にも花に囲まれ 蛍光灯に照らし出される 死びとの丸い艶のない顔 目を閉じ雲に脅かされず 抗うことのない表情 花を持つ我々の手 決して届かない手 温もりを忘れた手 断絶された手たち 死びとの目は赤い目に 脅かされない ---------------------------- [自由詩]制御/小川麻由美[2018年1月11日23時56分] 森には絶えることなく 動物達の声が充満する 捕らえた耳の奥は 三半規管の居場所 真っ直ぐ歩く歩き方 特に滑らかな関節を 楽しむしぐさなど 脳との関係でいうところの 制御された身体の恍惚 浸りきることは いずれ 薄らぐと容易に想像がつく 時刻の連なりの現れだと 気付く時 まさに時刻の到来 ---------------------------- [自由詩]うねり/小川麻由美[2018年4月5日23時43分] 産毛に当たった風は示す そこかしこにもたらされた 水蒸気の束 拝借された通り道は皮膚 花びらが通る度わずかに香る 花畑の猥雑さ 耳元で囁く大気の運動 今年の音色も活性する 強弱そのもの 抜け出せ 目指せ 舐め尽くせ 巨大な変成を ---------------------------- [自由詩]みんな幸せになればいいのに/小川麻由美[2018年4月13日3時52分] みんな幸せになればいいのに 暴力的な春風に耐えながら 詰まりそうな呼吸を必死に続け 目に入った砂粒で泣き 砂粒のノスタルジーを聞かされ 更に目からは涙が止まらず 涙が止まる方法を あちこちに それこそ あちこちに 電話で問う 今月の電話代が気になってくる 涙を止めたい 電話代がかさむ 頭でふたつの事が旋回する みんな幸せになればいいのに 言った瞬間ダッシュする 責任なんて持てる訳がない 春風に耐えながら銃殺される 春の空に それほど青を求めない 崩れる瞬間そう思うに違いない 重要な事は重要でない事にずらされる 世界の回り方なんてそんなもの うそぶいてはダッシュする 幸せについて無知だと気付き 赤らんだ頬をファンデーションで隠す みんな幸せになればいいのに 私から 私たちから あなたから あなたたちから 幸せに気付いてみよう こんなにも難しい事 そうそうないと春風が吹く 長すぎる沈黙が続く みんな幸せになればいいのに ---------------------------- [自由詩]いとおしさ/小川麻由美[2018年4月20日21時24分] 陽光に花びらが透ける いずれかの方向から来る花の香り 比較的晴れた日の出来事 雨の日といえば 水たまりの数々の輪 雨音という楽器の音に耳をそばだてる 曇がもたらす 色の変化 ふたつとない形に見入る 雪の白 雪の無数の結晶 穏やかな天候はなぐさめてくれる これは ひとつしかないんだよ これは 今しかないんだよ これは はかないんだよ 何かが囁くように告げる あなたの横顔 あなたはたったひとりだと教えてくれる 感情のメーターが動きを示す 切ない喜びにあふれる 日常が神々しく思えるが 日常に変わりはないという驚き いとおしきものは日常に無限に在る そう思えた瞬間  いとおしい ---------------------------- (ファイルの終わり)