投稿者 2005年8月21日5時51分から2013年2月18日18時49分まで ---------------------------- [自由詩]アポロ/投稿者[2005年8月21日5時51分] 夜が映画を観ながら泣いている 僕は声をかけようかどうか迷う 夜のことはよくわからない 「アポロ、死んじゃった」 としゃくりあげている ロッキー4 かと思ったがプレデターだった 夜 そいつはアポロじゃない ロッキーシリーズではアポロクリードとして登場したけどこの映画はプレデターで だからそいつは元ヘビー級世界王者のアポロじゃなくてCIAのエージェントでディロンって名前だよ 役が違うんだよ ほらいまだに佐野史郎がテレビに出ると冬彦さん冬彦さんっていう人がいるけど 冬彦さんってのは役の名前で佐野史郎とは別じゃん それとおんなじ ジーパンもなんじゃこりゃあって死んだけど松田優作は死ななかったじゃん まあもう本当に死んじゃったけれど うまく言えないな 君の瞳に乾杯って言っても本当に眼にグラス当てられたら痛いでしょ そんな感じ だからアポロも死んじゃったし今ディロンもプレデターに変な照準合わされて頭打ち抜かれて死んじゃったけどさ あ プレデターってのは捕食者って意味らしいよ 怖いね でもね ディロンは食われちゃったけど カールウェザースは死んでないんだよ ここ大切なところだからよく聞いて  カールウェザースは絶対に死なない ね また必ず他の映画で会えるさ だからもう泣かないで 夜 と言おうか 僕は迷う 僕が本当にそう言ったなら 夜はこんな反応をみせるだろう 「うっさいボケ ガキやあるまいし そんなことぐらいわかっとんのじゃ アホにものいうみたいにべらべらしょーもないことばっかりぬかしやがって ケツかんでしねハゲ」 夜のことはよくわからない けれど こんなセリフがかえってくることは確実だ 重要なのは 僕の発言が夜をあたためるのかきずつけるのかということ 夜のことはよくわからない 「アポロ、死んじゃったよ〜」 と泣きじゃくっている 夜の傍らで 僕は何も言わずに ピアノをひこう と思う 泣きじゃくる夜の背中に やさしい音楽を奏でよう プレデターって要するにカニじゃん 静かな砂浜 月あかり かすかな音をたてて這うカニ カニのテーマ 安らかなカニのテーマを 奏でよう 少し悲しくなるかもしれない 死んだカニを他のカニが食べるからだ さ さ ささ 聞こえないような音をたてて カニは死んだカニを食べるだろう あんまり悲しくなるのなら タンタン タタタン タタ タン タタタン ロッキーのテーマを入れてみるのも悪くない 夜は 泣きじゃくる夜は 僕が思うほど不幸せではない 必ず 僕は夜のためにではなく ひとり 砂浜をうごめく 僕のためだけにピアノをひくのかもしれない タンタン タタタン タタ タン タタタン 立ち上がれロッキー ドラゴを倒せ シュワちゃんもがんばれ プレデターを倒せ 夜はいつのまにか泣き止んで 不思議そうに僕を見ている ロッキー3のクロスカウンター あのストップモーションですべてが終わっていたなら アポロは死ななかったんだよ と夜がつぶやいた 僕は 涙が止まらない ピアノの前に座り 鍵盤に手を下ろす カン と澄んだ音 ---------------------------- [自由詩]愛のソネット/投稿者[2005年8月22日2時27分] だいだいの色のこおろぎのかすかな声、いたむ右腕をさすりながら届くか届くかとうたう声、女の子はちいさく踏みつぶしてやろうかしらと呟くのだけれど、お月さまも知っている女の子はそんなことはしないと。 ブラジャーの中で乳房が笑っているので、おい静かにしろよと注意すると乳房はよけいに笑ってあら私注意されるすじあいなんかこれっぽっちもないのよ笑わせないで、などとぬかすのでこの女は脱がしにくいや。 天気のいいのを口実にして散歩にさそってみたのだけれど、道ですれ違うすべての交尾中の犬や虫や草花までもがようようおふたりさんアツイねひゅうひゅう、などとからかうのでどうやら手もつなげそうにない。 逆さに吊られた悪い人がのれんのように連なっている一角を過ぎると、見たこともないしあわせな花がいっぱい咲いている場所に出て、ふたりで小銭を出しあってまんなかの自動販売機でコップ酒を買って飲んだ。 窮屈さがとてもいいというのは誉めているのかけなしているのかどっちだ、というのが試験問題だったらこの国もいくらか潤うだろうなんちゃって、などと試験中にジャンクフードを食べながら考えるのはよそう。 結局、とか最後までイってないのに口にしないでくれるほんとに白けるわねえそう思わないの思わないからそんなふうに簡単に口にするんでしょうけど、と翻訳機は打ち出したけどたぶん嘘だきっと嘘に違いない。 お姫様は千年の眠りからようやく目が覚めたのにもはや肉も骨もさらさら何処かへ吹き飛ばされてしまっていたので、傍らで鼻をほじっていた男に命じた、さあいますぐに一刻もはやく私の全部拾ってらっしゃい。 ねえ私のことあいしてるおいおい勘弁してくれ首筋がむず痒いぜ、と穏便に返したつもりだったのにこのやろう痒み止めなんて常備してやがったもんで、仕方なく首筋にそれを塗りながらあいしてるよマイハニー。 ガスだ紛れもなくガスだ、とても重要な部品がガス漏れを起こしているに違いないと思う、求愛中にそう返されてこれは受諾だろうか拒絶だろうかもしかしてもう一度やり直したほうがいいのだろうかと私は思う。 するりと全部脱がされてしまったけど別に嫌な気はしないのむしろ心地よいかもしれないあなたのその指で私のこころの鎖もほどいて欲しいわ、なんちゃってぷぷぷあははは、女の子が笑いすぎて行為にならない。 お月さまにふたりのあいを誓うの明日になったらお日さまに誓うのねえそうしたら永遠よ永遠だわ、お星さまじゃ駄目なのかい、だってお星さまはいっぱいあるから私いつかふたりのあいを見失ってしまいそうで。 かん高い金属音で交尾をしているかぶとむしをひやかしてみてもむなしいだけだわ奴ら快感の信号も出ていないのだわ顔を赤らめることもしらないのだわ私も明日かぶとむしになればいいのに、ねえ、キスしてよ。 全部捨てて来ました自分不器用っスからいろいろまんべんなく出来ない男っスから裸のそのままの自分みてほしいんス自分しゃべるのも苦手で上手に気持ち伝えたり出来ない男っスから、って、全裸で来ないでよ。 擬音語でしか愛を表現できない人と擬態語でしか愛を表現できない人とがいま出会い恋に落ち手をつないで歩きはじめる、ふたりの背中には夕日、ゆうやけの中ふたり笑いながらきらきらと笑いながら歩いてゆく、 ---------------------------- [自由詩]マシンガン・ストリートの少女/投稿者[2005年8月22日3時40分] ディック(スラングで男性器のこと) ディック 原色の街で出会った少女 国道から七面鳥までを許し キャンディから微酔までを憎んでいた 深海の瞳と嫋やかな脛と ディック 拷問の最中に水 アボガドの咽喉に花 黄泉平坂(よもつひらさか)で舞い 不確かな羅針盤を放ち ディック 呼んでいた 確かに私を呼んでいた 折り紙で作った戦死体を曳き 降り積もるポテトチップスを砕き ディック ディック! ディック!(私の名 ) ゆらゆらする空気をつかむと 少女が頽れるのが分かった ---------------------------- [自由詩]クリスマス・カロル/投稿者[2005年8月23日4時24分]  自動販売機の傍ら  うずくまる人かと思えば  ゴミ箱だった TAXIは高いから 終電で帰るよ それって私よりお金の方が大切って事? 違うよ ほら また明日会えるしさ うそ ちょっといじめてみただけー (零れる笑い、殻カラカラ) じゃ また おやすみー おやすみ 転びながら遠ざかる影 美しい紙を 一枚、二枚、と数えている この夜は 不思議な紙と引き換えに うまい食事をして やわらかな酒を飲んで 高い部屋に高いオンナを呼んで 朝がくるまで 死ぬ気で 呆けようか 歓声 歓声 群れが離散してゆく 巣に 還るのだろうか TAXIが割れて 一匹、二匹、と飲み込んでゆく 夜に耽りながら ある掌は腰に ある掌は腿に またある掌は秘部を弄っているに違いない 夜に耽りながら 割増料金が支流へ還ってゆく 不埒な雪 電子音 盲獣 獄 街 贈り物を探しています 喜ぶ顔がみたいので ほら このとおり 綺麗な紙をたくさん持ってきました 素敵な贈り物と交換してください それとも この紙を贈ったほうが 良いでしょうか? 歓声 幸せなのは不幸せが無いこと 不幸せなのは幸せが無いこと 尾を飲む蛇を輪投げのように放ること 水澄ましの視界に悲しみを教わること 過去現在未来という言葉を創って 袋小路でめそめそ泣くこと 歓声 指揮棒が激しさを増す 最高潮が近いのだろう 光の中で耳をすませば おおお 零れる声、殻カラカラ と ひとりひとりの声が 夜の街を編み上げてゆく 夜ごとうまれる街の歌 この この光の夜には 紛れずに響けよCAROL 大きな声で ありったけの声で ありったけの声で  自動販売機の傍ら  うずくまる人かと思えば  それは ---------------------------- [自由詩]M氏のためのエチュード/投稿者[2005年8月23日4時32分] 技巧は情熱に負ける 情熱は閃きに負ける 閃きは技巧に負ける せえの じゃんけん ぽん あいこで % 奴のあだ名は「最低」 文字通り最低なチンカス野郎。 俺のあだ名は「最高」 文字通り最高のジェントル。 だ。か。ら。 一番高い酒をもってこい。 おらおら。 ぐずぐずしてんじゃねえゴミ虫が。 世界は最高。 最高の世界。 俺のためだけに最高。 急げ。 より急げ。 そしてはやく俺にカレーを食わせろ。 %% 天然ボケの偽善娼婦 今日もせっせとセーターを編むヒーターを食む ビデオ買ってビデオ買って 馬鹿ボケ少しは考えろ 少しは考えろ な? %%% M氏は最近食傷ぎみだ 会社のパソコンから昼下がりの殴り餓鬼をご所望だ OKなんだってOK アイドルは本日18時から都内のホテルで記者会見だ OKまかせとけ なんだって言わせてやるさ より大きな声で より重要っぽいフリで 「うわぁランバダが降ってくるぅぅ」 ってな! %%%% 「試合終了かもしれない」 さして重要っぽくないフリで審判が告げる 互いの人生をかけた一世一代のビッグゲームが終わる カーン そんなもんさ 挙動不審な発狂生物がさっきから俺を凝視してる バーカ 奇跡が起きるのはいつだってこんなとき だから人生はthe修学旅行さ パフー パフパフパフー ---------------------------- [自由詩]過酸化水素の夢/投稿者[2005年9月18日7時47分]  H   \ ながれるべきものたち ながれ そよぐべきものたち そよぎ ひかるべきものたち ひかり うたうべきものたち うたい  H   \    O― つちをつなぐべきものたち つちをつなぎ あめをひらくべきものたち あめをひらき  H   \    O―O       \        そこにあるべきものたち そこにあり  H   \    O―O       \        H みずのおと そして まどろむものたち ---------------------------- [自由詩]ブロウジョブ/投稿者[2007年1月4日6時29分] 刺青は溺れる 暑い 静かな 暑い 午後 静かな 雲は走る 片言の 静かな 午後 心臓のおと 汗に 刺青は溺れる 産毛は 光り 静かな 陽光は縦に 産毛は 暑い 午後 静かな 心臓のおと 取り残された 熱気と 汗に 暑い 静かな 午後 陽光は縦に 刺青は溺れる 雲は走る 至れよ ---------------------------- [自由詩]デート/投稿者[2010年9月4日23時47分] そんなこんなで 今日は    君って人を もっともっと好きになったんだ 「僕とデートをして下さい」 「はい」 一週間前、 君はあっさりとOKをくれた。 僕はこっそり、 あんな事やこんな事や、 ……そんな事まで考えてしまって。 ただ悶々と過ごして、 今日はデート。 デート、デート、初デート。 「今朝方、愛人が死んでしまいまして…」 ドキッとするセリフとともに、 君は遅れてやってきた。 「愛人」というのが、 君の飼っていたクワガタムシの名前だなんて、 知らなかったものだから、 僕は気が動転して、 「ごめんなさい」 なんて言っちゃって。 「いえ。貴方のせいではありませんので」 「でも…」 聞けば、 昆虫だと言う。 「愛人」という命名は、 「だって、とても愛しかったのです」 だから、 と言う。 そうして、 君の一時間二十五分の遅刻で、 僕たちの初デートが始まった。 「何か食べたいものはありますか?」 と聞くと、 「かっぱ……」 と言いかけて、 「いいえ。貴方の食べたいもので」 と言う。 あれは、 何だったのだろうか? 「かっぱ巻」だろうか? 「かっぱえびせん」だろうか? それとも本物の「河童」だったんだろうか? 今度、聞いてみないといけない。 食事の最中って、 他のカップルはどんな話をしているんだろう。 とりあえず僕たちは、 お互い全然知らないのだけれど、 言葉の響きが素敵、というわけで、 「おろしや国酔夢譚」 の話をした。 二人して想像して、登場人物を決めたりした。 話の途中で、君が突然、 「昔西武ライオンズにいた、テリーという選手は、  いつもヘルメットが汚れていました」 と言うので、 僕は思わずスパゲッティを吹き出してしまった。 お返しに、と思って、 「阪急ブレーブスにいた、アニマルという選手は、  あれは本名なんでしょうかねえ?」 とやったが、 君は、ふふ、と笑うばかりで、 優雅に食事を続けるのだった。 そして、 「おろしや国酔夢譚」に、 タケカワユキヒデが、聖人として登場して、 キャラメルマン7号を倒し、 荒れ果てた国土に恵みをもたらす、 といった辺りで、食事が終わった。 なので、 適当にハッピーエンドにして、 店を出る。 二人して、 ぷらぷらと街を歩く。 君はまた不意に、 「最近、漢和辞典を読むのですが」 と言う。 僕はまた小さくスパークする。 君は続ける。 「一、二、三、までは許せるんですが」 「え、なんですか?」 「画数ですよ、画数」 「ああ、はい…」 「四が五画で、五が四画というのが、どうしても許せないのです」 「それは……」 「ねえ、おかしいでしょう?」 君の瞳を見てしまい、 僕はまた小さくスパークする。 「何処か行きたいところはありますか?」 と聞くと、 TSUTAYAのAVコーナー、と言う。 「一人だと、恥ずかしいのですよ」 二人でも、恥ずかしいだろう、と思ったが、 するすると連れて行かれてしまった。 僕は一人より、よっぽど恥ずかしかったよ。 「やっぱり女の子だから、みんなじろじろ見るのですか?」 と言う。 確かにそうかもしれない。 だけど、そうじゃなくて、 たぶん、じろじろ見られた理由の大半は、 君がタイトルをいちいち、 大きな声で読んでいたからじゃないかな。 あそこでは、 あんまり喋っちゃだめなんだよ。 今度、教えてあげないといけない。 でも、どこから探してきたのか、 「ミッション・チンポッシャブル」 ってパロディタイトルの洋モノを手に、 嬉しそうに走ってきた君。 その健気な笑顔。 「それは音読しないで!」 とは言えないままに。 小さな、 閃光。 TSUTAYAを出ると、もう日が傾いていて、 何をするでもなく、またぷらぷらと。 思いきって、 「手を繋いでもいいですか?」 と聞いてみた。 返事が無いので、見ると、 君は、 ぽろぽろ、ぽろぽろと、 涙を零しているのだった。 僕は気が動転して、 「ごめんなさい」 なんて言っちゃって。 「いえ。貴方のせいではありませんので」 「でも…」 聞けば、 今朝方死んでしまった、 クワガタムシの事を思い出していたのだと言う。 思い出していたら、 知らない間に、涙が零れてしまった、と。 「もう標本にしたので、悲しくはありません」 と言う。 そういうものなのかもしれない。 あらためて、 「手を繋いでもいいですか?」 と聞くと、 「駄目です」 と言う。 沈黙。 ああ、 嫌なこと言っちゃったな、 嫌な雰囲気だな、 とりあえずギャグで誤魔化さないと、 と思って、 あわてて、 「じゃあ、おっぱいを揉んでもいいですか?」 と言うと、 表情も変えずに、 「はい」 と言う。 嬉しいが、公衆の面前で女の子のおっぱいを揉む勇気は、 僕には無い。 それより、なにより、 その基準の仕組みがわからなかった。 聞けば、 「暴漢は『手を繋ごう』なんて言わないじゃないですか」 と言う。 「だから…」 迷路のような。 僕は、 「暴漢は『キスをしよう』とは言うかもしれない」 と思ったけれど、 それは言い出せなかった。 どきどき、どきどき、した。 君がまた急に、 海援隊の「贈る言葉」を歌い始めた。 静かに、 静かに、 ささやくように。 たしかに辺りは、暮れなずむ街そのものだったし、 僕は夜の街の上手な過ごし方を、あんまり知らなかったし、 そうして、 どちらからともなく、 僕たちの初デートはお開きになった。 いま、 こんなに素敵で、 こんなに素敵な君、 こんなにも素敵で、 こんなにも素敵な君と過ごした一日、の話を。    そんなこんなで 今日は    君って人を もっともっと好きになったんだ ---------------------------- [自由詩]夏のおわりに/投稿者[2010年9月28日0時04分] 夏のおわりに 大きなからだをゆっくりターンさせて 大好きな夏が帰ってく ぼくはさようならと手をふる 夏の尾びれのような雨の中 はじけとぶ鱗の中をかけていく いたいけど聴こえる あなたが聴こえる ありがとう 水しぶきと陽炎の季節 沸騰と蒸発の季節 あなたが帰ってく音が聴こえる ぼくは泣かない きっとまた会えるから いつからか気づいてる 変わらないのは季節で 変わるのはぼくたちだと さようなら 海の向こうへ 波の向こうへ 夏がはずかしそうに帰ってく ありがとう 精いっぱいさよなら よせてかえす波の音 あれは永遠なんかじゃない ひとつひとつがさよならだ ひとつの波がひとつのさよならだ さみしくない かなしくない きっとまた会えるから さよなら さよなら さよなら しずかに くりかえす さよなら! さよならさよなら!! 精いっぱい笑顔で 精いっぱい手をふる 雨が降りつづく砂浜で 砂のひと粒ひと粒に雨が透きとおる しくしくと砂浜が鳴く その上を蟹と小鳥がかけていく さみしい拍手のようなあしあと かなしいキスのようなあしあと さみしくなんかない さよなら! かなしくなんかない さよなら! 雨が降りつづく夜に あたたかい毛布にくるまれるように 夏は水平線めざしてかけていく よろこびの鱗がはじけとぶ その中をぼくもかける! 全力で! さようなら 力のかぎり手をふる さようなら!さようなら! わたしの鱗もみんなはずれて たくさんの鱗が空にかけのぼって太陽にかがやく 夏の太陽さようなら 夏の空さようなら 夏の匂いさようなら 夏の空気さようなら 夏の音さようなら 夏のくも! 夏のかぜ! 青い水しぶきと 陽炎と沸騰と蒸発と 世界はめまいがするほど美しい 夏のくじらは 夜になると地球から旅に出る 朝になると地球に着陸する そんな当たり前の魔法 くじらの目は太陽で くじらの細胞はぼくたちで くじらはきらめく星をどんどん飲み込んで どんどん吹き出して 花火みたいなシャワーの中で 踊るみたいに 笑い転げるみたいに 照れ隠しみたいに 祈るみたいに 人を愛するみたいに ---------------------------- [自由詩]夏の肌/投稿者[2010年9月28日0時58分] <1>    ぽこ ぽこ ぽこぽこ   アスファルトを沸騰させよう   ポコ ポコ ポコポコ ポコポコポコポジュワァァー   アスファルトを沸騰させよう   暑いし   眩しいし   何より君がステキすぎるから   アスファルトを沸騰させて   僕はクロールで迎えにゆく       こんなのって嫌い?           <2>     急降下してくる産婆だ   生えてくる綿菓子だ   呟く壁だ     よりによって一番とりとめの無い医者だ   回覧板とビート板をかんちがいしてやがる     アイスも溶けるし   ぐるぐる回るし     こうやって14.5km/hを保ちながら走るのも   誰のせいでもないのだ     意味があるなら教えてくれ、だ   勘弁してくれよ、だ   愛してるよーー、だ   よおく考えなさい、だ   ここ座っていい?、だ   かわいいね、だ   抱きしめていい?、だ   キスしていい?、だ   脱がしていい?、だ   入れていい?、だ   気持ちいい?、だ     この銃をどうしてやろうか?   ああ   暑い     音と風と弾丸(タマ)   オマエにやろうか?         <3>    レコード板には 音が刻まれていて 美しい演奏を再生できるのよ   と 教わったが   おれたちはみんな 「UFO!」 「ブーメラン!!」 「怪獣!!」 と てんでに叫んで レコードをほうり投げた   「あほぉーー!」 「ぼけぇーーー!」 「しねぇーーーーー!!」 と   大好きな夏に照れながら           <4>     ねえさん     ビアおくれよ     くわっと冷やしてよ     ビアガーデンでビアを流し込む日中     意味のわからない豆は塩味で     意味のわからない唄は塩味で     塩分や糖分や微分や積分やで   僕はだんだんと意味がわからなくなってきてる     怪獣ショーとかを探して歩きたくなってきてる     ぽうん と     たいよう     くっきりと地面に縫われた影を踏んで踏んで     あと二歩で倒れて それで         <5>   空が青いので間違えちゃった てへへ   と言って 彼女はあんまり見栄えのしない魚になって 泡のような雲の間をゆく   おーい   おおーい       笑いながら昇ってゆく           <6>     頑丈なバスがゆく     空調が壊れてしまい   好きほうだいに焼かれながら     頑丈なバスがゆく     乗客がひとり   またひとりと蒸発してゆく         夏の下を     みえないけむりを噴きながら     頑丈なバスが走ってゆく         <夏の肌>   この 確率は どんなだろう   あの人の肌にふれられる   この 確率は どんなだろうか       奔放な繊細な細胞に 惑いながら   誘うような拒むような仕草に 惑いながら   こうして 幾たびも 幾たびも   過ぎてゆくだけの夢       さよなら!   と   手を 振ったのではない       ふれたくて!   ふれたくて、ふれたくて、ふれたくて!   手を 伸ばしたのだ       離れてゆく必然など   理解できるか ばかやろう       ゆっくり しっかり       閉じてゆく ---------------------------- [自由詩]fiction/投稿者[2011年6月9日15時47分]  紫陽花を食べながら  あなたを待つ午後  雨はまだあがらない  太陽はもう沈まない ---------------------------- [自由詩]みなそこ(X)/投稿者[2012年4月5日9時18分] ≪さいごの夜≫         自動改札機は水槽で     中に魚が住んでいる                という夢       をみている魚が居て     自動改札機の水槽を     ふわふわ泳いでいる                という夢       をみている切符係は     男のようで実は女だ                という夢       から覚めた魚が歌う     だみ声のブルースが     自動改札機を揺らす                という夢       から覚めた魚が急に     切符に産卵し始める                という夢       から覚めた切符係が       とてもさみしそうに     とてもさみしそうに     コーヒーを零します           こぽ        こぽ  こぽ       切符をくわえた魚は       こぽ        こぽ  こぽ                という夢から覚めない                                  という夢       を一度みてみたいな                という                という                という?                    と い う って何さ?         ≪ふたつめの夜≫     駅の改札口には 自動改札機がたくさんならんでいました   切符を吸い込み 吐き出したり 吐き出さなかったり   自動改札機の中にはたくさんの機械が詰まっていました   切符の情報を読み取る機械 切符の向きをかえる機械 切符に穴をあける機械 切符に何か印字する機械   朝も昼も夜も ぱしゅ ぱしゃん ぱしゅ ぱしゃん 自動の名に恥じぬよう 正確に仕事をこなす夢のシステム そこには何の問題もありませんでした   ただひとり 毎日それを見ている切符係だけが 自動改札機を信じていませんでした   あれは機械ではなくて水槽だよ 中を魚が泳いでるんだ だから よく間違いが起こるのさ   男のように見えるその切符係は 実は女で 自分のことを俺様と言うのが好き   俺様の方がずっと切符の事を知っているのにな   いつも彼女はそんな風に考えながら うつらうつらと昼寝をするのでした         ≪みっつめの夜≫     手始めにきゅうりを作ってみた きりっとしまったきゅうり よく出来たのでこりこり齧ってみたが 所詮作りものなのでまずい   明日のために携帯電話を電動式のものに替えた やはり手動式より使い勝手が良い 充電の仕方が分からず 三日後に捨てた   右手と右脳で勉強しながら 左手と左脳でオナニーをしてみた なんだ案ずるより産むが易し 辞書を引きながら達した   自動改札機にチューイングガムを吸い込ませた この中は水槽で魚が住んでいる エサだと思って噛むだろう そしてちょっと不機嫌になるだろう         ≪よっつめの夜≫     コーヒーをあらかた零したあと 切符係は急に人恋しくなって顔を上げました あたりは薄暗く ただ自動改札機のライトだけがいくつか ぼうっと光っているのでした   ぱしゅ ぱしゃん ぱしゅ ぱしゃん   薄闇に自動改札機の音だけがこだましています いまも人が幾人も 往来しているのでしょう 外から内へ 内から外へ   ぱしゅ ぱしゃん ぱしゅ ぱしゃん   切符係には通り過ぎる人々が見えませんでした 思わず 誰か と声をかけそうになりました けれど返事の無いことが怖くて なにより彼女は切符係でしたので また黙って俯くのです   カップに残った冷えたコーヒーをすすり 男のように見えるその切符係は 今はもう使わなくなった切符鋏をかちゃかちゃさせて考えます   人の顔を見なくなってどれくらいになるだろう 喜んで 出かけてゆく顔 疲れて 帰ってくる顔 泣いた顔 怒った顔 笑った顔 顔 切符に鋏を入れるのが一番好きだけど 人の顔を見るのも好きだったんだ   いまは何も   自動改札機は実は水槽で 中を魚が泳いでいる 切符が大好きだからそんなところに住んでいるのか たまたまそこに住んでいるだけなのか   俺様はこんなところに座って 日がな一日ぼうっとしているだけ いっそ魚になって 自動改札機の中に住みたいものだ そうしたら 差し込まれる切符をきちんとチェックして 一所懸命に運ぶさ   人間の彼女が魚になるのは無理な話 まして自動改札機の中に住むなんて   自分のことを俺様と言うのが好きなその切符係は あたたかいコーヒーが欲しくなって 席を立ちました         ≪いつつめの夜≫     ありとあらゆる疑問形が流出してゆく 何故どうしてどうやっていつどこどっち誰 何なの? 何ナノヨ?   見えぬものを見ようとしていたのではなく 見えない と頑なに主張する私の心を壊したかったのさ   大きなプレス機に圧縮されて うすいうすい一枚になろう 綺麗に裁断されて 同じ形の幾千枚になろう   ヘリコプターが迎えにきて ちりぢりに吹き飛ばしてくれるさ   傷   切符係はじっと自動改札機を見つめた 何度見てもその中に魚が居るような気がした 水をたたえる直方体の中で すいすい泳ぐ魚が これが私たちの仕事ですよ と言わんばかりに 切符を運んでいるような気がした         ≪むっつめの夜≫     魔方陣のようなものを拾った                                  @            とっああああわ@@@わああああっと                  @ @ @         てけ弾     @  @  @     弾けて                @   @   @         ?いいゃりれ@を何に何@何に何を@れりゃいい?              @     @     @    のり去き置    @      @      @    置き去りの            @       @       @           @?いいばべ呼を誰@誰を呼べばいい?@          @         @         @         @つ嘘        @        嘘つ@        @           @           @       @ ?いいばけ聞を葉言のど@どの言葉を聞けばいい? @      @             @             @    の@ぢりち           @           ちりぢ@の    @            あ  た  ゆ            @   @              い け う              @  @                らやら                @ @@@@@@@@@@@@@@@@たけやぶやけた@@@@@@@@@@@@@@@@  @                みやゆ                @   @              い け う              @    @            ☆  た  ☆            @    の@の槽水           @           水槽の@の      @             @             @       @ たっ言とだみし楽が半後@後半が楽しみだと言った @        @           @           @         @し隠        @        隠し@          @         @         @           @とっずらか口札改@改札口からずっと@            @       @       @    のいしろ恐    @      @      @    恐ろしいの              @     @     @         さのるいでん@が魚に中@中に魚が@んでいるのさ                @   @   @         で動自     @  @  @     自動で                  @ @ @            さのいなら要も@@@も要らないのさ                    @               が   気持ち悪いので捨てた         ≪ななつめの夜≫     ぶいーん ぶいーん ぶいーん   ぶいーんぶいーんぶいーんぶいーんぶいーんぶい んぶい んぶい ん   いんぶ   いんぶ   いんぶ?       い ん ぶ って何さ?       切符係は駅員室のおもちゃ箱から おもちゃをひとつ取り出した 電池で動く仕掛けのおもちゃは 切符係のお気に入りだった   ひとり寂しくて 考えが堂々巡りで どうにもやりきれない時には おもちゃで遊ぶと気が紛れるのだった   俺様の悩みを聞いてくれるかい? どうも昨日も今日だったように思うのさ だから明日もまた今日なんじゃなかろうか? 昨日も明日もいつも いつもいつも今日で いつまでたっても 俺様はここで じっと座っているように思うのさ どうだい? 昨日もこんな話したっけかな? きっちり明日がくれば 俺様はもうこんな話 たぶん きっと 明日も今日で   だから   自分のことを俺様と言うのが好きなその切符係は 電池で動く仕掛けのおもちゃと話していた 人形の形をしたおもちゃは 何も言わずにただ震えるだけだった   なあ知ってるかい? 自動改札機は あれは機械ではなくて水槽だよ 中を魚が泳いでるんだ だから よく間違いが起こるのさ 俺様がいつか魚になって 魚になって そしたらば   こんな       人形の形をしたおもちゃは いつも 切符係が電源を切るまで 何も言わずにただ震えるだけだった         ≪やっつめの夜≫         自動改札機の水槽を     ふわふわ泳いでいる                という夢   男のように見えるその切符係は 実は女で   傷   切符係はじっと自動改札機を見つめた   自動改札機の中にはたくさんの機械が詰まっていました けれど返事の無いことが怖くて なにより彼女は切符係でしたので うすいうすい一枚になろう 綺麗に裁断されて 同じ形の幾千枚になろう             @とっずらか口札改@改札口からずっと@            @       @       @    のいしろ恐    @      @      @    恐ろしいの   薄闇に自動改札機の音だけがこだましています いまも人が幾人も       とてもさみしそうに     とてもさみしそうに     コーヒーを零します       切符をくわえた魚は       こぽ        こぽ  こぽ       をみている切符係は     男のようで実は女だ   ぱしゅ ぱしゃん ぱしゅ ぱしゃん 朝も昼も夜も ぱしゅ ぱしゃん ぱしゅ ぱしゃん   往来しているのでしょう 外から内へ 内から外へ   ぱしゅ ぱしゃん ぱしゅ ぱしゃん   自分のことを俺様と言うのが好きなその切符係は 自分のことを俺様と言うのが好き 俺様の方がずっと切符の事を知っているのにな 自分のことを俺様と言うのが好きなその切符係は 自動改札機にチューイングガムを吸い込ませた この中は水槽で魚が住んでいる    の@の槽水           @           水槽の@の         で動自     @  @  @     自動で なあ知ってるかい? 自動改札機は あれは機械ではなくて水槽だよ あれは機械ではなくて水槽だよ 中を魚が泳いでるんだ ヘリコプターが迎えにきて 何度見てもその中に魚が居るような気がした 自動改札機は実は水槽で 中を魚が泳いでいる 水をたたえる直方体の中で 中を魚が泳いでるんだ         さのるいでん@が魚に中@中に魚が@んでいるのさ いっそ魚になって 自動改札機の中に住みたいものだ そうしたら         こぽ        こぽ  こぽ     人間の彼女が魚になるのは無理な話 まして自動改札機の中に住むなんて 俺様がいつか魚になって 魚になって そしたらば              という夢       を一度みてみたいな                という                という                という? いんぶ   いんぶ   いんぶ?              と い う って何さ?         い ん ぶ って何さ?       たぶん きっと 明日も今日で         ≪ここのつめの夜≫     こころの鼓動鼓動 客席には誰も居ません 紙吹雪はもう 溶けてしまいました   古いドアを開けると いちめんの野原でした 化石と化石の隙間に たくさんの導線が波うつ野原でした   答を教えてください ここではない場所へと導いてください 夜を浴びすぎて 盲になってしまいました   自動改札機の鍵を開けました 中にはぎっしり機械が詰まっていて ぼとぼと 涙が零れました         ≪さいしょの夜≫     駅の改札口には たくさんの自動改札機がならんでいました 夢から覚めない機械たちが 時間を刻んでいました   切符係は 自動改札機の傍らで 半ば気を失ったかのように 眠りこけています うすい寝息が聞こえます けれども もしかすると もう 生きていないのかも知れません   彼女は夢をみていました   夢の中で彼女は 自動改札機の傍らで うつらうつらと昼寝をしていました そして その   夢の中で彼女は 自動改札機の傍らで じっと ひとつの考えに想いを馳せていました   『ジドウカイサツキハスイソウデナカニサカナガスンデイル』   おおきな断片はさらにばらばらになり粒子になり 粒子はやがて見えなくなって 見えなくなった粒子は   『SHEHOPEDTOBECOMEAFISHTOCARRYATICKET』   夢の中で彼女は 自動改札機の傍らで 笑みをたたえながら 静かに 静かに                                   雨が                 降りはじめました   駅の改札口にも 雨粒が舞い降ります 自動改札機に水が溢れて           魚は 運べるだろうか?   魚は 溺れないだろうか?   魚は 流れ出ないだろうか?   魚は 生きていけるだろうか?   魚は 泣くのではないだろうか?   魚は 苦しむのではないだろうか?           切符係はとても心配になって   自動改札機にさしかざす傘を   傘を探すために       席を立ちました         ---------------------------- [自由詩]明るい雨の夜に/投稿者[2012年4月24日8時19分] あかるい雨の夜に 空を見あげて ボウッと明滅して加速して 加速して それから、加速して 笑って、鼓動を数えて、目を細めて 空へ 飛び立つ タンクローリー 何台も 夜空へ 打ちあがって ボウッと明滅して加速して炸裂して 炸裂して それから 無数のオレンジになって、炸裂して 何も聞こえなくて。 あかるい雨の夜に 空を見あげて 静かに声を出して。 「ひとつひとつの光が」 夜が まばゆいひかりが 規則正しいこどうが 私はめいめつして雨になって あめはかそくして雪になって ゆきはさくれつして桜になって さよさよと降りつづけて 私は走りつづけて このしずかな うつくしい あかるい あめの 夜に 私は 二度と降り止まないさくらになる ---------------------------- [自由詩]人妻にキスした日/投稿者[2013年2月18日18時49分] 語らなくても 語っても 離れていく 降り止まない雨、私は 唇が切れるようなキスをした ---------------------------- (ファイルの終わり)