クローバー 2014年9月1日23時11分から2015年7月7日22時47分まで ---------------------------- [自由詩]ここにいてもいい/クローバー[2014年9月1日23時11分] ここにいてもいい なんて言葉は卑怯 選択を奪え ここにいていい と言葉にしろ も、がいらない そんなやさしい主導権はいらない ここにいなくてもいい も、も、も もももももも もももももももももももももももももももももももも 真っ暗な深海に マリンスノーが降り積もる も、の形した プランクトンの死骸が積もる ここにいてもいい と ここにいなくてもいい とは、矛盾しない 光は届かないでも 君がいるからそれでいい なんてことを書いて 照れくさくなって一度消す また水に沈んで水面ばかり見上げている自分を見つける ここにいてもいい この間は宇宙の端っこに椅子を置いてきたばかり 土星の輪をサイクリングする、も、を眺めながら ここにいてもいい ここにいてもいい 自問する、こことは何処ですか 一週間は速い できることの量は変わっていないのに 意識を認識する機関が劣化している 最適化、ともいう ここにいると意識するために使われるコマ数が減っている ここにいてもいい ここにいると信じています 夢でも仮想現実でも、それでも自分を失うことはできない ここまで書いて一度消す ここにいてもいい が ここにいることが 居心地が悪くなって消す どこへでも飛び立っていいよ と、開け放たれた鳥かごの扉に気づかない そんな自分に ここにいてもいい、と言う 場所と時間と次元も入れて こんなにも広すぎる ただ一点で固定する ここにいてもいい こことは何ですか ここにいなくてもいい そのほうがずっとやさしい。 ---------------------------- [自由詩]明日から学校/クローバー[2014年9月13日10時37分] あなた方の形が白い制服に浮かんでいる ぼやけた輪郭線とともに その世界が眩しいことを主張している きっと僕らもそんな世界にいたんだよ 整えられたあなた方を飲み込んで 同じ方向を向かせるために 校舎が消化不良を起こすまで 僕らも時間がかかったもの。 ---------------------------- [自由詩]インクを新しく買ったので印刷に熱中中/クローバー[2014年9月13日10時41分] インクを新しく買ったので印刷に熱中中 言葉が無限に吐き出される インクがなくならない限り もう一枚、また一枚 刻むリズムで夢見心地 埋まる、紙と言葉が僕を埋める 空白、部屋の床 身体と世界の隙間 言葉が無限に吐き出される 紙がなくならない限り このペースで砂漠に雨を降らせたら 水たまりは何面できるだろうか 暗く重い雲が 頭の上に広がっていくのを 幸せそうに眺める砂漠の少女に 笑顔で挨拶ができるかもしれない もう一面、もう一面 言葉が空を映している 僕の隙間を吐き出して 言葉がいつまでも印刷できる 白い雲が部屋に充満する インクの匂いが、止まない音が 吐き出された紙が、言葉が 僕を包んで埋めてしまう 腕も身体も固定されて ズレも隙間もなくなっていく 安心が生まれる 安心して印刷できる 安心が欲しくて印刷し続ける インクを新しく買ったから 買い置きの紙もまだまだたくさん。 ---------------------------- [自由詩]PLANET NEWS LEVEL 7/クローバー[2014年9月13日10時44分] 布団を敷いて目を閉じる 床を抜け、土に触れるイメージをする 地球の表面に触れているイメージをする イメージを実際と摺合せよ 1.7mの自分を立たせているのは 直径12756.2740mの球体の上 750369人の自分が縦に並ぶと裏側へぬけられる その小ささで自分をイメージする、地球:人 皮膚が外気に触れるとき 宇宙まで接続していることを意識して歩いている人が この世界にどのくらいいるんだろう 涙袋へ溜まっていくほどに 身体が宇宙の塵であることを意識して泣いている人が この世界にどのくらいいるんだろう 目を閉じてイメージをする そのイメージよりもっとずっと広いところが そのまま四方八方縦横無尽に すこしひんやりとしたこの空から 繋がっているのを、、日本国、アジア地区、地球、太陽系、、 自分までつなげる言葉を並べて 拡張して イメージが追い付いていけたら 深呼吸して心を閉じる 外宇宙の限りなさが人を撫でても 触れたことに気づくこともない そんな太陽系の第3惑星、地球:人 だから大丈夫 本当に取るに足らないのだから 宇宙にとって何にもないのと同じだから 安心していい 安心していい。 ---------------------------- [自由詩]Tシャツでは、すこし寒い/クローバー[2014年9月18日22時02分] 両腕を広げて カモメの真似をする あなたは白く美しい両翼で 柔らかな曲線を描いていく 航空力学が及んでいない 理想的な空気の流れが あなたの後ろで渦を巻く 僕は数をかぞえて 数は少しだけ迷った顔をして 後はゆっくりと昇っていった Tシャツでは、すこし寒い あなたはそう言って 顔の配置を円に近づける 白く白く光るUFOみたいに。 ---------------------------- [自由詩]出会いの散歩道/クローバー[2014年11月12日20時55分] meと鳴く君のことを 追いかけてはいけなくて つごうの良い、どこか、を僕は選択する その先はきっと猫の世界 ただその先をじっとみている君の その視線の先を僕もみている 世界に気付かれないように そっと、さみしさ、を選択する 三人称にしかお互いなれなくて 視線の先の世界を二人称にして お互いに顔をみることもなく 横向きのまま 聞こえていることに期待して 人差し指でも口の前に立てているかのように 音も立てずに口角を持ち上げる ただ僕であろうとしても ただ君であろうとしても 時間を同時に所有するあたたかさがあったような気がする それがたとえ一方的な別れの最中であっても。 ---------------------------- [自由詩]青が崩壊する。/クローバー[2014年11月12日21時02分] しずか と表現された沈黙は 「し」「ず」「か」 と音になって響く だから 無音であることは 音を飛び越えることは 速さの中にしかない 普段ぬめりついた空気を意識することもなく 私たちは生きているのかもしれない そんなことを思う コントロール ロール 皮膚の表面から剥されていく 先端から剥けていく空気を洗い流す 光しか知らない 方向は 上しか示さない ターン 重力加速度このまま 青が崩壊する 生まれたてのぬるぬるとした部分が 新たに触れたひりひりと痛む全身を 赤子以来に感じ取る 音を置き去りにする それは 言葉になる意識をも遥か後方に 羊水を吐くのが先か 息を吸うのが先か 叫んだはずだ そう 叫んだはずだった 旋回する 計器は正常に稼働する 音が無い 白いのは全て剥がれ落ちた青。 ---------------------------- [自由詩]新しい一日/クローバー[2014年11月12日21時14分] 今日のことは指に任せて 一日のことを愛していく 翌日のため生き残る誰かの声に歌うのだから さあはじまるよ、と誰かの声で 懐かしさからつくられた美しさに埋もれていないで 日向の集まりが辛くなる前に 日陰のほうがなにもないよ 軽さにはばたく翼の下に蓄えられた空気のように 私の心はとらえられ 押し戻されて弾むもの カチンと割れるガラス玉のよう そいつの綺麗な破片には、割れなきゃずっと会えないけれど さあはじまるよ、と誰かが言うよ 新しく朝 頭痛と吐き気と眩暈とが愛してやまない朝が来た だから歌うよ私は歌うよ 腕も身体も声も心も抱いたすべてで楽器になって 祈りくらいしかほっといてくれない 忘れたすべてを忘れていていい そんな軽さで身体を捨てて。 ---------------------------- [自由詩]童話(ラジオ体操のうさぎ)/クローバー[2014年11月16日23時06分] ゼリー色の夏休みだから 子供うさぎたちは公園に集まってラジオ体操をします 大きい子から小さい子、耳が垂れてる子からピンと伸びてる子 重そうなお尻の子や、軽くて風で転がりそうな子 大人うさぎがラジオの電源を入れます 言葉と音楽が流れます 思い思いに子供うさぎたちは体操します 草を食む子、重いお尻をよいしょと揺する子、耳がちらちら動く子 鼻をひくひくさせている子、かけっこする子、様々です ラジオの電源を入れた大人うさぎも 本当はラジオ体操がどんなものなのかわからないのです 昔大人うさぎを飼っていた人間のまねをしているだけなのです ちゃんと体操しましたか と大人うさぎは子供うさぎたちに聞きました みんなうれしそうにバラバラな動きをしました たいへんよろしいです 大人うさぎは前足で 子供うさぎたちの背中にスタンプを押していきました。 ---------------------------- [自由詩]冬、はじめました。/クローバー[2014年12月2日22時43分] 世界が沈むことを早くしている 今日を忘れないようにしよう 魚は寒くないの だいじょうぶよ 鳥は寒くないの だいじょうぶよ 並木道には自転車と五十代と思われるジャージの夫婦 手を引かれている子供とその母親、部活帰りの若者 人の見本市 私はいない マイナなんだろう 体感気温は心の在り様で変わる そうなのか そう あの子ぐらいの時には寒さは母によって和らいでいたような気もする 主観的な過去はもう全て憶測 ぬくもりと光を供給していた太陽が赤くなっていく 悲しいことは物理的な喪失から生まれる 夕焼け 初めから持っていなければ、まるでそうともわからないまま 母の手を求めてしまう 木は寒くないの だいじょうぶよ 聞こえる 名前を呼んでいる 名前なんて記号、特別な記号、メリーゴーランドの電源の鍵 ママ 小さな影が大きな人影に吸い込まれる もうそろそろ帰ろうか もう帰るの 寒くなって来たしね 冬がはじまるの そうよ 冬、はじめました。 質量の大きいものを軸に主観が落ちていく 世界が沈んでいく そうだね、帰ろう ジャンパのポケットを探る。 ---------------------------- [自由詩]海と星/クローバー[2015年1月16日23時48分] ぽかりぽかりとうかんでいく 呼吸を見上げて たましいはあんなふうに揺れるのかな と君が言う 小さい手で何でもつかもうとするのは おなかの中に忘れてきたものを探しているんでしょう 仲間外れのプルート 体が沈んだらヴィナスの土地をセメタリーにして売り出すつもり。 ---------------------------- [自由詩]口をぽかんと開けて/クローバー[2015年1月16日23時51分] 道路わきで見かけるほとんどの獣は 車に引かれてしまった獣 口をぽかんと開けて 横たわっている 腹が裂けたり 頭が割れたりしているものもあるが たいていの獣は毛むくじゃらで 血が大きく飛んでいることは少ない そんなところで寝ていると風邪ひくよ と声をかける子供がいてもおかしくないような そのまま剥製にしても事故で死んだとは思えないような きれいな体をして横たわっている 命が抜けて落ちているのに気配だけが強くあり その不安定さに怖いという言葉が浮かぶ 事故にあう瞬間の獣の頭に浮かんだ恐怖が その場所に染み込み 空気を伝線しているのだろう 獣は ただただ、ひたすら体を横たえている 口をぽかんと開けて そこがまるで、たましいの通り道であるかのように。 ---------------------------- [自由詩]「あんたたちのせいでわたしいつまでたっても大人になれない」/クローバー[2015年1月16日23時54分] 「あんたたちのせいでわたしいつまでたっても大人になれない」 を使って文章を作りなさい (10点) あんたたちのせいでわたしいつまでたっても大人になれないなんて大人になれないことを他人のせいにしている時点で大人にはなれっこない と、ある生徒は答えに書き 来たる未来、人類はついに不老を手に入れた、それは、ある天才によってなされた、ナノマシンの―(略) 「あんたたちのせいでわたしいつまでたっても大人になれない。」 少女は、博士を睨み付けて言った―(略) と、ある生徒は小説を書いた 条件が不足しています「大人」とは何ですか、あんたたち、わたし、いつまで、なる、語句の定義付けが必要です。 と、ある生徒は回答を放棄し 校長は、大人になったなんて思ったことないんだけどな、と、つぶやいた 「大人」のみが漢字表記であることに着目し、この暗号を解いた生徒が こっそり教室を抜け出し これはどこで区切って読めばいいのだろうか、と句読点を打ちまくる生徒も現れた またある生徒は 問題を作成した国語の先生に後日、精神科への通院をすすめた その全てに○をつけ あんたたちのせいでわたしいつまでたっても大人になれない と国語の先生はうれしそうに笑った。 ---------------------------- [自由詩]今夜は何を召し上がりたい?/クローバー[2015年2月15日22時31分] 今夜は何を召し上がりたい? と、バクが聞いてくるので やっぱり君は夢が食べたいのだろう? と、彼は答えた ええ、そうですの と、バクはスカートの端を持ち上げうやうやしくお辞儀をし 上質な悪夢には、なかなかお目にかかれませんことよ、おほほ と、言った 彼が無言でいるとバクは彼の肩に指を這わせ 首筋にキスをした すっと目が合う 君の用意するものなら何でも と、彼が答えると 薄く切られた肉が盛り付けられた白い皿が彼の前に置かれた 彼は肉を口に運ぶ、そして ちょっと脂が強すぎるね、美味しいもんじゃない と、感想を口にした バクはソースで汚れた彼の口を舐め そうね、美味しくない と、答えた もう少しいただきたいのだがあるかな? と、彼が聞くと バクは彼の背中に大きなナイフをかざし シュラスコのように彼の背中の肉を切り分けた この肉は僕だったのか、悪くない 彼は一口含むと笑いだし はは、輪廻転生も最短だね と、冗談を言った するとバクは あなたもまた循環しているのよ と、澄まし顔で答えた。 ---------------------------- [自由詩]水溶性キネマ/クローバー[2015年2月15日22時39分] 僕が書きたいのはこんなものじゃなくてと、主人公を消した 君はヒーローではない、そして、ヒロインとヒーローは別にいるのだ 両親はとても優しい、そして、君はとても優しい 正義とは何かを、サンデルに聞いても、もう少し脆い方が本当なのだ 鋭い切っ先ほど早く欠ける、細さに強度を持たせることは 材質が同じである以上、限界がある それを無視して、愛してくれてもいいのだ 恐れを知らずに純粋さを突き詰めてしまったのだね 宇宙船のネジになるために進化してきた地球の生命は新しい地球を作れるのかな そう言って自分の死んだあとの生命の心配をする君が 愛しくて馬鹿らしい 水溶性キネマだよ しだいに溶けて忘れ去られる物語だけど、そこで生きちゃってるんだな 達観したふりをして泣きそうになる。 ---------------------------- [自由詩]少年よ我に帰れ/クローバー[2015年2月15日22時44分] すぎていく日々 目を覚まして パンを食べ 労働をし 眠る いつか大志を抱いた少年は 疲れたと呟く機械になる 少年よ我に帰れ 隠れていないで 出てきて。 ---------------------------- [自由詩]ひきだしあいた(他2作)/クローバー[2015年3月5日22時37分] 「ひきだしあいた」 ひきだしあいた あいたがしめた しめたしまった むしがわらった ひきだしあいた あけたらだした ちいさなふくと あかいおぼうし ひきだしあいた こえだしないた あながあいたの おきにいりたち ひきだしあいた ぼびんをつめた いとをとおして でででとぬった ひきだしあいた あいたがしめた あながしまった わたしわらった 「うまれかわ」 うまれかわって うまれかわれず うまれおちても うまれおちない うまれかわいい うまれかわるい うまれかわろう うまれかわれば うまれたままの うまのすがたで 「みのなるきのみ」 だれかがうえた みのなるきのみ だれかがうえた きになるきのみ だれがうえたか わからぬきのみ だれがたべるか わからぬきのみ きになるみだけ あかるいいろで みのなるきだけ ぽつりとたって だれももがない さみしいきのみ ---------------------------- [自由詩]チェック柄の日/クローバー[2015年3月6日23時47分] 太陽を沈めながら筆は白を染めていく 君は手前から横しまに 熱い赤を重ていく 熱の帯が地平を燃やしている 僕は上から下に縦しまに 静かな青を乗せていく 宇宙は粛々と熱を奪っている 近くから遠くを描く 明るく暖かな君の空は横しま 遠くから近くを描く 暗く冷たい僕の空は縦しま 今偶然に空が出会う中間点にキャンバスを並べている 熱量は中心から外へ 寒い世界は外からやってくる だから たぶん さよならへ、暮れていく前日のこと あたたかだったチェック柄の日。 ---------------------------- [自由詩]バニーガールの二等辺三角形/クローバー[2015年3月6日23時53分] 充分な準備とやる気をもってお越しください 子供たちから歓声が上がる 風船はいつの間にかウサギの形をしている ロングタイムアゴーで始まる物語の住人になったかのように シルクハットと燕尾服、ステッキと白い手袋 追いかけられるのがウサギだけれど どこで混ざってしまったの バニー、今日を繰り返しているなんて思ってなんていないだろうね うまくハートがつくれずに 指が二等辺三角形になったら ペラペラペラと折りたたみ 飛行機にして乗りこんで月の世界まで飛んでお行き ウッドペッカーがコンコンコン 頭をノックしていたら お返事はきっと未来に向けて ステッキとタップダンスしよう 終焉は音もさせず ガールの肩をたたくけど 綺麗なハートを描けるまで 旋回飛行を続けよう おかえりなさいと言わなくていい 只今だけがあればいい ただただおかしく笑って駆けて 楽器の音もいつまでも きっと止まないんだから。   ---------------------------- [自由詩]美しいって何ですか?/クローバー[2015年3月6日23時58分] 美しいって何ですか? 1 卯月と鬱屈の間 2 空白、あるいは無意識における想像力 3 機能性に優れ好ましい様子 4 自然現象に見出す数式、規則性 5 平均(バランス) 6 主観的で曖昧な当てにならない基準 7 感傷。「失われた」という質感 8 美しいものは強いんだ、と、あの人は言った 私は美しさの意味を知らないのだろう 成分構成においては、あまりに綺麗に素直に結びついたものの方が、一定方向からの圧力に対し脆かったりすることもあるし、一概に美しい=強い、にはならなかった また一般的な広義の「美しさ」とは自然現象、であったり、姿形が整っていること、であったり、大多数が好ましいと感じる物語、であったりした 吐瀉物、汚物、そういったものからは美しさを受け取れなかった、その血痕が鮮やかな赤で記憶されても、美しくはなかった のだろうか、私の主観がおかしいのか 酸化してしまえば濁る、滞れば失われる、命を循環させるという意味での死は尊く美しい、が、それは人の想像力が、高高度から観測した現象にすぎない だから、あの人は自分が美しく見えるのかもしれないが、足のある私にはまったくわからなかった、だから私にとってあの人は醜い 器が美しいのか、中身が美しいのか、あるいはそこに宿った物語こそが美しいのか しかしそれに強度は全く関係が無かった あの人は言った 蜂や蟻の美しさはその社会にある、個別の生命でありながらコミュニティを生かすために感情を排除している(かのように見える)その規則性は数式のようであるし、また、個体が失われることによって崩壊するようなことはありえない、繰り返しに摩耗しない強度をもった社会なんだよ 人間社会も相当美しいものだ、という事を、あの人は証明したかったのかもしれない 残念だけれど、私は、回転を止めない地球が理解できないし、時間が流れていくことも不可解だった パンを食べ、仕事をし、眠る、あの人はいないのに、当然のように回っている、世界が維持されていることがグロテスクであった という、よくある話を、打鍵して、僕は思う 予定調和も様式美 ワルツの三拍子、八時五十分からのストッパー、印籠をかざす助さん、カラータイマーが鳴ってからのスペシウム光線、天才には悲劇、サスペンスには船越、生クリームのパイは顔におさまり、日は沈み、昇ったら降りるし、入ったら出る 美しくないものなんて、あるのだろうか 気持ちの良い違和感を頬張って、少年は言葉を音にできない だよね、言葉にしたら、この胸の辺りにあったもの全部、ウソみたいになってしまうんだもん ってまた別の人が出て来たけれど、君は誰 そろそろ、終わりたいんだけれど これで、登場人物は、あの人、私、僕、少年、そして、君、きみ。 そうか君を忘れていたね、と僕は納得し 少年は、だっせえなぁ、結局それかよって顔で抗議した。   ---------------------------- [自由詩]シティポップで今日はいこうよ/クローバー[2015年4月26日21時15分] メールを待つだけの時間 もうすぐいつものような夕焼けになる 飛んでる電波も焼かれるのかな 安い車と汚れた靴で どこまでも行こう 言葉なんてなくても シティポップで今日は行こうよ パワーウィンド 外を見ている 髪が跳ねる横顔 最近見ていないな 約束を取り付ける前に閉じていく 帰らない言葉を恐れて 置き換える文字を光らせないまま 言葉なんてなくても シティポップで今日はいこうよ エンジン音を奏でさせてよ 車が羽を伸ばしたがっている。 ---------------------------- [自由詩]君に触れるということ/クローバー[2015年4月29日9時42分] 君に触れるということ 忘れられた空にアクセスするということ 君に触れるということ これから記憶する海をダウンロードすること 君に触れるということ 再び希望が芽吹くということ 君に触れるということ 古い時代が安眠を覚えるということ 君に触れるということ 境目が失われるということ 君に触れるということ 新たな国境ができるということ 君に触れるということ 拡張されていく気配に身をゆだねること 君に触れるということ 宇宙ということ 君に触れるということ 新しい国が、おぎゃあ、と生まれるということ 今、新しくなった、ということ。 ---------------------------- [自由詩]いついつまでに、なになにを/クローバー[2015年5月6日23時23分] いついつまでに、なになにを どこどこいって、だれだれと なぜなぜときき、どうしても  いつもこうやって生まれる   いつもこうやって生まれてくる いついつまでに、なになにを どこどこいって、だれだれと なぜなぜときき、どうしても  わたしのなまえは物語   最後のオチはうそばかり  愛の言葉は弾き語り   わたしのなまえは物語  奇抜で難解で斬新で   心の前にひざまずき  わたしはわたしをわからない いついつまでに、なになにを どこどこいって、だれだれと なぜなぜときき、どうしても  それが最初の声ならば   わかるようにして飲ませたい  それが終わりの声ならば   意味のない音で流れたい  それがわたしの声ならば   BGMでもかまわない  それがあなたの声ならば   両手ですくい飲みほしたい いついつまでに、なになにを どこどこいって、だれだれと なぜなぜときき、どうしても。 ---------------------------- [自由詩]シロ君/クローバー[2015年5月17日8時01分] 世界を嗅いで生きる方法もあるよって、シロ君が教えてくれた ジャンケンは67%負けないって言うけど、67%勝てないんだって だけど、それでも、勝ち負けついちゃう世界だから、ポン、と出されたその手をね 目を閉じて鼻をスンスンやって ちょっとその指をなめちゃえば、チョキでもパーでもグーでもなくて ただの指なんだね だから、もう勝たなくていいんだって。 ---------------------------- [自由詩]「冷えていく鉄」他6作/クローバー[2015年5月20日21時19分] 「冷えていく鉄」 鉄だとわかっている 何度目かの純情だから 素直に信じる うん、わかっている その熱では溶けてしまう事もない 背中が曲がる前の、愛しているは、信じない 少女の熱は放射して あなたに伝導した 逃げたいって、クリームを塗る 錆びないために、表面ばかり眠たい。 「ショパンを聞きながら」 この牛舎の牛たちはショパンを聞きながら過ごす この牛たちを腹におさめる人間もショパンを聞きながら過ごす ショパンを消化しながらショパンを脳に刻む 人々はみなショパンになりショパンでないものはベートーベンだった 耳が不自由という意味ではなく何となく似ているという意味で ショパンがつくった街に住むショパンで満たされたショパン ショパンでできたショパンがショパンでショパンしている 子犬はワルツを踊り、雨だれも跳ねている ショパンは、苦しそうに咳き込み 牛たちは肉になるまで、幸せな夢を見つづける。 「マイガーデナー」 白いものを植えてもいいと思うのですが と、白衣の女性が言うものだから それはあんまりですよ、求められるのは無くなったものの再現ではなく わかっています、理想の構築なのでしょう そうです、しかし、では理想とは何かを問われるとわからないのですけれど 禿げた頭を前にして いっぽんいっぽん、植えていく作業はあと2時間続く。 「にくしみ(要冷蔵) 」 ドリップが漏れていますよ 白い服を汚していますよ ほらなんだか 雲までも染まって、いえ、違いますね 心の底からドリップに浸って 罵倒を続けたい 消えてしまえ、お前なんか、消えてしまえ、消えてしまえ そんな少女を描いて 僕の憎しみを、冷凍していく お前の消えた世界は、嬉しくて幸せで、晴れ晴れしている と少女に言わせて 僕を冷凍していく 白いシャツの裾からぽたぽたと赤 でも消えないで と、言わせ    。 「無季」 デートに誘う口実が見つからない。 (さらに言うなら、デートに誘う相手も) 「キリ/サク 」 春がつぼみを切り裂くから 花は咲くのです ダジャレじゃん と君が言うから 僕の気持ちは咲くのでした。 「出口はこちら」 長々とお付き合いいただきありがとうございました と言いながら、真剣な表情をして卵とご飯をかき混ぜる 出口はこちらとなっております そう言うと大きく口を開き、その中に卵かけご飯を掻き込む その卵はひよこになれなかったんだよ と冗談めかして悲しむと これ無精卵だから と、悲しみの出口を用意してくれる 出口はこちら 扉の向こうから光が漏れている。 ---------------------------- [自由詩]グッドモーニング トゥー オール/クローバー[2015年6月2日22時51分] グッドモーニング トゥー オール ねぇきみって、って言うきみって誰のことだい 正直者の花が裂けている アンラッキーとでも呼べばいいの、きっとあなたもそう 宇宙の前に正座してごらんよ あいさつだってしたらいいよいつも 始まりはグットモーニングトゥーオール そりゃしょうがないよ 朝が来るには、地球にいないと 私の中から裏返って咲いていく体の前にいつか オールの中に含まれてますか、と聞く ねぇきみって、って聞くきみの中身に僕らは含まれたくて、泣いているんでしょ そうなのかもしれないって、言ってほしくて、ほらみっともない いつかの為にいつもを殺して愛せよって、こんな時間に 本当のことでも創作でもない 打つしかないでしょ、まだ半分だと魔法が言うよ 助けるために世界を塗り替えて嘘をついて染め直して、ブラウンに映るの、いろは、みたいね 私の前にたくさんの私がいても私は私に耳を貸さない オールに含まれているの 今日の私が、昨日の私を起こしに行くよ きみって言う誰かのいない世界から、今日の私が起こしに行く。 ---------------------------- [自由詩]雨の日のお迎え/クローバー[2015年6月2日22時54分] 雨の日が、迎えにやってきた 長靴も傘もカッパもなくて、雨の日に失礼なことをした みんなは、赤とか青とか黄色とかそんなのになっていった それで帰っていった 僕には鍵があって、それしかもってなくて、だから 雨の日が、帰るまで、僕は待った 先生が丸い六角形のキラキラしたやつで7月の飾りを作っていたから それが欲しくなって、ほしいと言った 部屋には明かりがついていて、僕と先生しかいなかった。 ---------------------------- [自由詩]「白紙にむかって歌うんだ」他6作/クローバー[2015年7月4日0時05分] 「白紙にむかって歌うんだ」 返事のこない手紙を書くつもりでいい 短冊を前にして何を願えば、誰も傷つけないで済むのだろう 白いホール、病院の入り口に飾られた笹 僕が何も書けないでいると 宝くじが当たりますように と、さらっと書いて じゃ行くよ、と君が目くばせをする そこは大金を手に入れたいでいいんじゃないかと思うんだけれど 嫌だよ、自力で手に入れたいの 神頼みなのに、宝くじなのに、それを自力と言う 買ったのは私、私の金 世界平和なんかより、よっぽど叶ってほしい 君は正しい、そんな気がした。 「ポスト/ドラマがはじまる前に」 たぶん世界で一番美しいのだと勘違いをしている ドラマが始まる前にもっと平坦で大事なことがある まず、少しお腹を減らそう 新しい靴を買おう 文字を書けるものをいったん遠ざけよう 帽子をもってできる限り広い場所へ出かけよう 目を閉じよう 目を閉じたまま目についたものを数えよう 物語にしないで、創造の中で組み立てよう 組み立てたらポストに投函しよう ドラマが始まる前に 書き始める前に。 「奥の堂、風の堂」 とても遠いところから、手紙が届く。理解できますか、と英語で言う。蒸留された感情が劇薬に認定される。ボールの空気が抜けたまま、ふてくされている。奥の堂、風の堂、そんな文字化け今更あるのか。オレンジジュースの池。泳いでいる。添付ファイル。あ、確かに堂。 「1/2」 片足では立てないよ、と言って、恋人に泣きついた ことを反省します 義肢も発展して今では実際の脚よりも計算上では速く走れてしまうらしいです 人類最速の称号の為に、その名誉とあなたのこれから先の未来の為に、もう少しでボルトに勝てる、というランナーの方、もし良ければチャレンジしてみてはどうでしょうか 恋人が僕の元から去って、1ヶ月が経ちました 計算上では、どうやら以前より速く走れるようです。 「うつけもののささえ」 メモの中に指示があります 忘れ物が多いです 食事は時間内に終わりましょう あいさつはきちんとしましょう 水はきちんとまきましょう 始めなければはじまりません 今日できることは今日しましょう だれか褒めてください エネルギーが不足しています。 「石ころを、たべる」 首長竜のように 石ころを、たべる そうすれば 君との間にある問題も 噛み砕けたかもしれない 喉を詰まらせた未来が 郵便受けに置かれている。 「トライアンドエラー」 間違えることを前提にしていなければならない 今日もまた 隠し味が隠れていない料理にチャレンジをしている 進歩が無い、と言うと 進歩しかない、と言い返す トライアンドエラー そうは言っても。 ---------------------------- [自由詩]How you doing!? /クローバー[2015年7月7日22時31分] 星新一をポケットに、宇宙に出た 窒素酸素二酸化炭素アルゴン 石油が無くなった地球は温暖化し水を奪い合う戦争が起きた 海が陸地を浸食し人類は指の間の皮膚がヒレのようになりつつある 空気中の二酸化炭素濃度が上がったため酸性雨が降り 文明の半分は海の下、半分は溶けかけのアイス 人口は一時増えすぎて、食糧問題の解決策として減少傾向にある ブドウとジベレリンの関係 人類はもう増えない そして それでも挨拶をする 「How you doing!?」 と、ここまで書いて、首を回す 「説明すると人類は生命の方向性である生殖し増える  という強力な枷を科学で取り除くことに成功した  そんな世界で、それでも、あいさつを交わし社会性を保つ、というところに  人としての尊さを見出そう、という、まぁそんな内容なわけ」  「でもさ、ようは同性愛者がそれに近いと思うんだけれど」 「うーん、書きたいのは男女間での、なんだけれど  要は、プログラムが無くとも、人は手を取り合うことができるのか  という、超越した人たちの話」  「え、後期高齢者たちの話じゃなくて?」 「じゃなくて、僕と君の話」  「は、種無し?」 「そうじゃないけれど、そうだとしても」  「そんな愛は嫌だなぁ」 「そう?というか、愛の話だったっけ?あいさつの話だよ」  「元気?」 「君は元気そうだね」  「決めつけよくない、元気でない、空元気かもしれないじゃないか」 「ダウト」  「その突っ込み方懐かしいね」 「逆に新しいでしょ」  「そこまで古くない、と信じたいね、乙女としては」 「ダウト」  「どこが」 「乙女」  「はいはい、悪うござんした、乙女って年齢じゃないですよー   あのさ、最後英語なのはなんで?」 「英語なのは、世界のどこでもない話にしたかったから」  「How you doing?」 「How you doing.」  「英語圏だけだよね」 「世界共通語になってしまっているんだよ」  「うわ、後付くさい」 「ついでに言うと、僕も君も、結局、一人なんだからね」  「それを言っちゃ、お終いでしょ」 ---------------------------- [自由詩]そんな気はさらさらないってつぶやく口のなかでだけ/クローバー[2015年7月7日22時47分] キラキラ光る夜空の星よ、そんな気はさらさらない もう死んでしまいたい、そんな気はさらさらない 二度と誰とも恋をしない、そんな気はさらさらない 今日は食べ過ぎた、そんな気はさらさらない 僕は君がいなければ生きていく理由がないのです、そんな気はさらさらない 将来的には本を一冊出したい、そんな気はさらさらない 牛乳切れたから買ってこないと、そんな気はさらさらない 映画に行きたいけど、一人で行くのはめんどくさいな、そんな気はさらさらない セカオワよりゲスのが好み、そんな気はさらさらない カラオケ行きたい、そんな気はさらさらない 君のことが世界で一番好きです、そんな気はさらさらない 「そんな気はさらさらないってつぶやく口のなかでだけ  これがあなたに与える最後の魔法です」 という手紙を残し君は行ってしまった。 ---------------------------- (ファイルの終わり)