西尾 2007年9月17日19時18分から2010年12月7日15時34分まで ---------------------------- [自由詩]幸福の置き場所/西尾[2007年9月17日19時18分] 幸福の置き場所は 海のにおいのするところ 大事な言葉が生まれたところ 風がとおりすぎて 小さな駅におりると 細い道の向こうがわ 手に持った荷物の 不安定な重さが 私であることの証 閉じられた胸の窓をあけて 見なれた街を飛びだしてゆく いくつかの思いを捨てて 闇の向こうがわを見る 痛みをこらえても 新しい空気を吸い込むために 歩き続けたい 古い電車を降りたら 夢で見た風景がある 風の向こうの明日と 立ちどまりそうな私と そのわずかな隙間にある 幸福の置き場所 ---------------------------- [自由詩]蝶の時間花の時間/西尾[2007年9月18日9時48分] なぜだろう あなたが ふり向く瞬間が わかる どうしてだろう あなたが 求めたものが ここにある   なぜだろう 私が   凍らせた言葉を 知っていて   たやすくそれを 解きほぐしてゆく   なぜだろう 私の   割れたガラスに わざと触れて   切れた指先を見ている   色彩も風も けして優しくはないけれど   冬の孤独が終わるとき   壊れてゆくものと   生まれてくるものと   ただ流れてゆく時間と   そんな季節のことを   息をひそめて数えてみる   あなたの時間と   私の時間と ---------------------------- [自由詩]白いハンカチについて/西尾[2007年9月21日21時42分] 白は 白である それ以外 なにがありえようか 何が起きようと そうあるべきである 筋肉を いからせ そう思い続けたころ ばかみたいに可笑しい時代 取り出した ハンカチの 縦糸と 横糸は ほどほどに ほつれ合い 口喧嘩などしてみたところで 間が抜けていて 言い争ってみたところで  しわしわで いまいましく 手のひらに だらしなくいる 白いハンカチ もう一度 握りつぶして ポケットにつっこんだ ---------------------------- [自由詩]折り紙の花/西尾[2007年9月23日19時39分] おりがみの花は 指先で生まれ おりがみの花は 手のひらで育つ 思うようには動かない きみの指先から 空の色をした 花が生まれて 思うようにはならなかった 私の手のひらを 四月の色で満たしてゆく 指先でなければ 生まれないものがあるよね 手のひらでなければ 育たないものがあるよね 思うようには動かない 君の足が 閉じた窓を開けたがってる 思うようにはならなかった この部屋が 四月の風で満たされてゆく ---------------------------- [自由詩]懐かしい場所/西尾[2007年9月24日18時19分]   胸の孤独に 居場所がなくなるとき   懐かしい場所に帰りたくなる   プラットホームの人混みに まぎれてしまえば   夢を見ながらでも行けるはず   時を止める力など ないけれど   時を戻せる力があることを   私は知っている   帰ろう   歩き始めたところに   そこに戻り   その場所に立ったとしても   生まれかわれるはずもない   けれど 帰ろう   すべてを許してくれる   懐かしい場所 ---------------------------- [自由詩]えんどう豆の花のころ/西尾[2008年6月7日18時59分] 母のいた畑に 花が咲いて 緑のつるが 今も空をめざす 木綿の空から雨が降る やわらかな しずくは ふくらみはじめた えんどう豆と 強い夏を育てるために 静かに 静かに あれは 白い花 それとも うす黄色 手のひらの えんどう豆 やさしい雨 どこかで呼ぶ声 神様みたいな六月だな ---------------------------- [自由詩]春を迎えるにあたって / 西尾/西尾[2009年2月3日18時36分]   北国の街でも   季節という名の急行列車は定刻どおりにやってきて   開いた扉に ベルが鳴って   早く行きましょうと 待っている   すべてを捨てて飛び込むことができた昔とは   何かが違う   乗らないのですかと いぶかる扉の前で   迷っている 冬の日ざし   捨ててゆくもの   抱えてゆくもの   何も決まらないまま   また今年も乗りこもうとしている ---------------------------- [自由詩]鳥の便り/西尾[2009年2月3日18時42分]   明日 でかけよう   あの人の街へ   もう冬が終わるからでなく   もう春が来るからでもなく  心揺さぶるものにしたがい   わずかな荷物で乗り込もう   鳥の名前の列車   舞いこんだ 白い手紙は   冬の終わりでもなく    春の便りでもない   ぼくの胸の鼓動も   かすかな希望も   背負った不安も   銀色の巨体にのみこまれてしまおう   鳥のようになれるだろうか   突き刺さる残冬の風に   目をとじずに行けるだろうか ---------------------------- [自由詩]秋の日は風の日/西尾[2009年9月13日18時43分]   さよならの日は 風の日だ   けれど 怖がらなくていい   雲はいつだって自分を壊してゆくし   空だって ためらうことなく色を捨ててゆく   こうして みんな秋になってゆくんだ   木々たちはきっと 何もかも信じているから   風の言葉で色さえ変えてゆくし   それさえも惜しげもなく捨ててしまう   みんな そうして空になってゆくんだ   あなたはもう風に抱かれているのだから   何も心配はいらない   風の日は もう誰もが秋の時なんだ ---------------------------- [川柳]夏の終わり/西尾[2009年9月13日22時04分]   妻の腹 しわにはさまれ 蚊がもがく 秋さびし 猫の声にも 堅くなり ---------------------------- [自由詩]一行詩 無題/西尾[2010年12月7日14時58分]   母が逝く朝ひとり リンゴの皮むく ---------------------------- [自由詩]一行詩 無題/西尾[2010年12月7日15時05分]   アパートの階段 上る靴音が彼の一日 ---------------------------- [自由詩]一行詩 無題/西尾[2010年12月7日15時34分]   もういいやと思う朝は起きられない 電車の音だけ聞く ---------------------------- (ファイルの終わり)