石原ユキオ 2007年7月22日19時55分から2008年4月26日18時22分まで ---------------------------- [俳句]去年今年/石原ユキオ[2007年7月22日19時55分] ピアス穴に通すえんぴつ去年今年 門松に祖父の植わっておりにけり 探偵は白紙の賀状握りしめ 雑煮餅世間知らずでござんすよ この町は海市に合併するんだとか 春らんまん桃色うんこのモーツアルト 母の日に母が着たがるメイド服 次の世も主婦で結構罌粟の花 木曜はゆる巻きにするかたつむり 五月闇彼氏を充電器に戻す 姉の背にほくろ数える午睡かな ママ僕の右手で蝉が羽化してる タバスコの瓶振り切って残暑かな 宦官は弁髪ほどく夏の月 銀河系ぎゅんぎゅん回るかき氷 ヒーローの目は穴だらけ夜店の灯 盆提灯何から話しましょうにい 知らん子が浴衣の裾へさばっとん 十六夜を板金塗装しています 背中にはケロイド一面の鰯雲 なめ茸は意外とはやく歩きます 秋の夜を順番待ちの羊かな いっせいに墓が振り向き曼珠沙華 抱きしめた彼女は菊人形だった 冷まじや首を引き抜かれしペコちゃん 忍び寄り首にぶすりと赤い羽根 この海鼠さっさと腸を吐きなさい 母さんとニートの僕と根深汁 靴下に幼女を詰めている聖夜 このわき毛フェイクファーです触ります ---------------------------- [俳句]阿部サダヲ/石原ユキオ[2007年7月23日19時31分] 年下の夫に穿かす白タイツ 闇鍋や阿部定を呼んだのは誰だ 涙目で火事を見ている阿部サダヲ ほっぺたのにきびをつぶす初鏡 初夢の母がガメラを噛み潰す 恋愛に逃げ場はないぜ貼るカイロ 節分の赤信号に照らされる ---------------------------- [俳句]春昼/石原ユキオ[2007年7月24日21時04分] 父さんが履歴書を書く春炬燵 ホテルXOの看板黄砂降る ままごとの包丁洗う万愚節 春昼やゴム手袋が落ちている 歯ブラシを真っ赤に染める受難節 小橋中橋京橋渡る花疲れ 姉さんは綺麗ぶらんこ蹴っ飛ばす ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]シュウちゃん/石原ユキオ[2007年7月24日21時16分]  シュウジはもう随分飲んできているようだった。隅っこのテーブル席で、コート着たまんまで細長い身体を丸めて、携帯電話のクルクル部分をクルクルいじっていた。(つか何年前のだよ。いい加減機種変しろ)目はケータイを見ていない。視線は店の壁に掛けてあるビアズレーの絵のあたりに向いているけれど、たぶんそれも見ていない。お得意さんだからあたし出るね、とバイトのまみちゃんに言って、私はカウンターを出た。 「シュウジ」 シュウジは、顔を上げた。にっこりと笑った。いい笑顔。赤らんだ頬にニキビあとが目立つ。また、痩せたかも。シュウジは親指でケータイをいじりながら、 「ビール」 と短く言った。  右手の甲に、赤い擦過傷がある。さっきは気づかなかったけど、壁側のこめかみのあたりに痣を作っている。首にはキスマーク。この人は傷をアクセサリーか何かと勘違いしているんじゃなかろうか。 「シュウちゃん。今日は一滴も飲ませてやんないかんね」 「おや、久々に来てあげたのに説教かい? ここは、説経バーかい? 店を間違えてしまったのかな」 シュウジはイタリア人みたいに肩をすくめてお道化てみせた。 「奥さん泣いて電話してきたよ」 「その話はまた今度聞こう。とりあえず、ビール。ないなら帰るよ」 「話聞いてくれたら店のツケ、全部チャラにしたげるけど?」 「取引ですか。しかし、こっちは分が悪すぎる。他は別としてあなたのとこには大したツケはないからね、ふふふん♪」 じゃあ、さっさと払えよこの死に損ないの文学青年崩れのニート野郎(しかも既婚)!! という言葉は飲み込んで、「ビール、少々お待ちくださいね」とカウンターに引っ込んだ。  冷蔵庫からノンアルコールビールの缶を出して、グラスに注ぐ。本物のビールを、ほんのの一口分混ぜる。(こんなので騙されるかしら。でもフォアグラ状になりきった奴の肝臓をこれ以上酷使したくはないのだ)ミックスナッツを小皿に盛って、シュウジのテーブルへ運んで行った。 「ありがとう、ハルコちゃん」 シュウジは素直に喜んだ。いんちきビールに口をつけて、「新しい銘柄かな」などと言う。私はシュウジの向いに座って、ナッツに手を伸ばした。店が込む時間帯は過ぎた。カウンターには常連さんが一人、カップルが一組。まみちゃん一人にまかせて大丈夫。 「シュウジの新作、読んだよ」 「そこらへんの本屋には入ってないだろう」 「ネットで買えたの」 「へぇ、最近はすごいね。文明の利器、パーソナル・コンピューター、か」 「シュウジって、私生活をネタにするじゃん」 「ええ。才能の乏しいためですよ。この身を切り売りして糊口をしのいでいるのさ」 「小説のために無茶ばっかりやってるように見えるのはあたしの気のせいかな?」 シュウジは、ピーナツを奥歯でカリ、と言わせて、 「そんなの、ハ! あなた以外にもみんながみんな、そう思っていることですよ」 鼻の先で、笑った。 「まだ、何か?」 お道化た調子だったシュウジの声が、外の気温並に冷たくなってる。シュウジはグラスを一気に干した。酒くさいゲップを一つ。計算された下品。 「おかわりを、くれないかな?」 「……あのね」 「続きを言いたいなら、」 シュウジは不意に私のシャツの襟をつかんで耳を引き寄せた。火照った頬がぶつかる。熱い息が耳にかかって(鳥肌が立つ!)私は身を固くした。 「その先は、ベッドの中で、聞いてあげます」 ゆっくりと囁くように言って、シュウジは手を緩めた。すとんと腰が落っこちた。シュウジの笑顔。嘘くさい。泣いているような目。女はそれに騙される。騙されたふりをしてやりたくなる。私はカウンターを見た。まみちゃんがファイティングポーズを取って、「殴れ! 殴れ!」と合図している。思わず吹き出した。ナイス。私の理性は君に負けるほど脆くはないのだよ、シュウジ君。 「あのさ。無理しないで。ドン・ファン気取りはいい加減にしろっての。シュウジがあたしみたいなの全然タイプじゃないってことぐらいとっくに察しがついてますから、残念」 「そんなことはないさ」 「わかるよ。あたし、良い読者だもん。あるいは、誰でもいいのか」 シュウジは胸元から煙草を取り出して、火を点けた。深く吸い込んで、盛大に煙を吐いて、目を瞬かせる。 「シュウちゃん」 「なんだい?」 「今日あんたが死んだら、あたしのせいだって言いふらすよ」 「そうかい」 「当分死ねないね」 「そんなことは、ないさ……」  シュウジは結局、店のテーブルに突っ伏して眠ってしまった。私は店の片付けをしながら、かねてから聞いてあった奥さんの連絡先へ電話をかけた。明け方、イトヨで3000円、といった風の薄っぺらいコートを着た女性が迎えにきた。背の小さい、印象の薄い人だ。油気のない黒髪。タクシーを見送って店に戻ろうとすると、ぱらぱらと雨が落ちてきた。  春近きや、か。 2005/08/16 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]ギンガムチェックだった頃/石原ユキオ[2007年7月25日19時09分]  真っ暗な部屋の中で赤や青や緑色のLEDが光ってて、クリスマスみたいだと思ったら嬉しくなった。コンピュータはそれぞれに低いうなり声を上げていて、ときどき何かをかじるような音を立てる。お化けみたいだと思ったら、ちょっと怖いような気もした。  男の人はわたしの服を器用に脱がせた。スカートのホックを外し、ジッパーを下げて抜き取り、リボンのゴムを広げて首から抜き、ブラウスのボタンを一つ一つ外して、ブラジャーとパンティだけにした。男の人の手は滑らかで温かくて、それ自体はまったく嫌な感じはしなかったのだけれど、自分と同じような中学生がここで何人も同じことをしたのかと思うと、嫉妬のような嫌悪感のような、よくわからない変な気持ちになった。  男の人の耳たぶは薄くて、乾燥して粉をふいていた。舐めると粉っぽい感じがした。首は汗で塩辛かった。キスすると、刺激のないわさびみたいな味がした。静かに息をする人だった。とくに興奮した様子もなく黙々とわたしのからだを舐めたりいじったりて、コンドームをつけたおちんちんをゆっくりと中にねじ込んだ。 「痛そうなふりを、してみてくれる?」 男の人は、私の耳元に口を寄せて、少し照れたように言った。 「ふりじゃなくて本当に痛い」 と、わたしは言った。それから遠慮なく顔をしかめて、ごく自然にうめいた。ふりじゃなくて本当に痛いということは、なんだか誇らしいことのように思えた。男の人も満足げに腰を動かした。この痛みが本当じゃなくなるとわたしの価値は下がって、その頃にはきっと高校生だからそれだけで価値というか値段そのものがぐっと下がって、やがてオトナになったらタダ同然になって、誰もわたしを買わなくなるのだろうか。オトナになってまでこんなことを続けている人は相当変な人だと思うし、そうなりたくはない。価値が下がったら、はなから売り物じゃなかったようなふりをすればいいんだ、と思った。  男の人は終わった後もわたしの頭をなでたりして、とても優しくしてくれた。粘膜が少し切れてティッシュに薄桃色がついたのを見て、嬉しそうにしていた。せめて痛いのが嘘になる頃ぐらいまでは、ここにいさせてほしいような気がした。  家とか、学校とか、塾とか、戻りたくないと心から思った。 2005/11/12 ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]岡山の妻/石原ユキオ[2007年7月26日0時14分]  目を覚ますと、視野いっぱい夫の顔だった。「おはよう」と夫は言った。「おはよう」とヨリコも言った。のどが少し痛むのは、裸で寝てしまったからだろう。夫はきちんと背広を着て、髪を櫛目も鮮やかな七三に整えて、枕元にチョンと正座し、ヨリコの顔をのぞき込んでいた。  ヨリコは寝転がったまま、枕元の携帯電話に手を伸ばした。ハイビスカスの造花と、サンリオのキャラクターと、それからビーズ飾りのどっさりとついたストラップを引っぱって、たぐりよせる。サブディスプレイで時間を見る。午前六時三分。 「今日仕事早いん?」 「いいや、いつも通り。早く目が覚めてしまったから、早く支度したんだ」 「よう寝れなんだん?」 「うん」 「なんで?」 夫は少し微笑んで、ヨリコの隣を指さした。 「ぼくが寝るはずのところに、その人が寝ているから」 ヨリコは寝返りを打って隣を見た。皺だらけの老人が穏やかな顔で眠っていた。お爺ちゃま、眠るように穏やかに亡くなったのよ、と言いたくなる表情だが、呼吸のたびに鼻毛がそよいでいるので、おそらく生きているのだろう。  ああ、と、ヨリコは思った。そうじゃ。昨夜は、この人と寝てしもうたんじゃ。ヨリコは茶色いオカッパ頭をがしがし掻いた。 「君は、ときどきこういう過ちを犯すね」 夫が言った。 「ひと月ほど前は、全身イレズミの男と一緒に寝ていたね」 ヨリコは匍匐前進で少しずつ布団から這い出しながら言い訳を考えた。 「三ヶ月前は、『琴欧州』の浴衣を着た太った男と一緒に寝ていたよね」 そんなこともあったなぁ。ヨリコはずるずると土下座の態勢に入った。 「その前は、ピザの配達員と寝ていただろう」 そうじゃ、そんなこともあった。なんと物覚えの良い夫だろう。夫はヨリコよりもよっぽど詳しくヨリコの浮気遍歴を記憶している。 「もっと前は……」  夫が話し続けている内に、老人は目を覚まし、よっこらしょと布団から出て、天突き体操を始めた。夫は過去四年、つまり結婚して以来ヨリコが家に連れ帰った男たちを覚えている限り(つまり全員分)語り続けた。その間、ヨリコは土下座し続け、土下座の形のまま再び眠りに落ちていった。 2005/05/31 ---------------------------- [短歌]岡山県岡山市駅元町1−1/石原ユキオ[2007年7月27日21時06分] 「ありえなくない?」「ありえない」「やばいよね」「22なんてもうババアじゃし」 ぬりすぎてひじきみたいになるまつ毛「ひじきって何?」「虫じゃねんかな?」 なーなーなー修正ペンだけ貸してーや化粧ポーチ忘れてきたんじゃ 「どこおるん?」「オモテ」「何しょん?」「ピアス屋でベロの先割る相談しょーる」 エクステの落ちた毛束を踏んだ日に汚サムのツレは事故ったんじゃて よし汚君そんな煮肛糞しな痛゛よあ嘔吐汚萌えばいつで藻あえる うちなんもわからんあたまわるいけん おなかすいたん? えっちしたいん? (2004年) ---------------------------- [俳句]錯覚/石原ユキオ[2007年7月31日1時06分] 猿股の 月の輪熊 鎌倉で くすぐられる 最新型 通信衛星 カマイタチに 苦しむ 散歩する 罪深い 完璧主義の クラムボン 桜咲く 釣堀で 確認された Q(クー)資料 裁判所で 捕まえた 髪の長い 蜘蛛 さりとても つらにくし かめれおんこそ くちおしけれ 五月雨を 積み込んだ 金田氏の 車 三番線 通過する カール=ルイス 黒々と 魚焼く つみれ煮る 火事場での クッキング 作家の 妻として 懐疑的な 薫陶 さあ 連れてって かまわないのよ 組み敷いて (2004) ---------------------------- [自由詩]あんた九州男児だ/石原ユキオ[2007年8月17日22時27分] あんた九州男児だため息が倍音になるからわかる氷河期から掘り起こされた男根をくるくるとひらいて首筋をぬぐうがいいさ親父はシャンソンが好きだったとりわけ新春シャンソンショーが好きだと言った口の軽い男だったが死ぬまで一度も俺の名前を教えてくれなかった3−Bと書かれたバケツに腐った魚を掬えるだけ掬って昇降口にぶちまけたそれが人という字の起源ついこないだの戦後だったあんた九州男児だ女と見れば速攻ユニゾンだ女にしてみりゃやられ損だどうだ蟹丼食うか待て待て待て俺の地層は外付の記憶装置だ甘く見てもらっちゃあ困るぜ憎しみはゆっくりと温めた方がとろみがつく今から試してみろ山椒を混ぜたらおじゃんだ麻雀だアジャンタのセックス寺院だ女優に踏みつぶされたなめくじ長屋で一番の隠居生活アドバイザーだった国家資格があれば逮捕はされなかった初夜の下着を聖骸布のように温度管理して青春忌なのめならず軽薄なコミックボンボンだったチャンドンゴンだった海坊主のプラスティネーションだった奥歯に挟まるから政治性なんかで誤摩化すなよあんた九州男児だ揺るぎないまばたきを数えさせてくれ笑わんでくれ笑ってくれ飲んでくれもう一杯俺の耳汁は焼酎でできてるんだ ---------------------------- [短歌]おとなには/石原ユキオ[2007年8月28日19時58分] おとなにはいろいろあんだ父さんは今からHAS(YMO)のライブだ うん/ううん以外の返事身につけてまた三つ編みが似合わなくなる ---------------------------- [自由詩]とぅるとぅるのそうめん/石原ユキオ[2007年9月14日21時40分] とぅるとぅるのそうめん 「嫌!」 とぅるとぅるのそうめん 「嫌!」 鉄棒 片足でぶら下がる 逆さまに赤く ひらく 襞 スカートの 膝小僧(すねぼんさん)に産毛 砂山を 砂鉄と 海砂と 黄砂と に分ける遊び 途中で 箱庭のふちが迫る 首の後ろに 無い筈の穴を 探る ぎょりぎょりのぼっちゃん刈り 「嫌!」 ぎょりぎょりのぼっちゃん刈り 「嫌!」 ぼっちゃん刈りの老婆が 鬱蒼と 目を閉じて 矮性の夕陽は 横丁をたなびかせる 袋とじされた 小学三年生 「まいごになるための歩き方」 を 破く 切り出しナイフ ページいっぱいに 猫の毛え生えて どど、 と脈。 とぅるとぅるのそうめん 「嫌!」 とぅるとぅるのそうめん 「嫌!」 泣きょんは誰 ぎょりぎょりのぼっちゃん刈り 「嫌!」 ぎょりぎょりのぼっちゃん刈り 「嫌!」 夏があると知っていれば よもや生まれようなどとは思わなんだろうに ---------------------------- [自由詩]BUTTE/石原ユキオ[2007年9月27日0時40分] ぶってぶって 右の頬をぶって ぶってぶって 左の頬をぶって 痛い ぶって いた ぶって いたぶって 打って打って でかいバクチ打って 売って売って 顔と名前売って のし上がりたいのは 男だけじゃない じゃろう? 射精をコントロールする手練手管で 枯渇をもって満タンとした胃袋 なめずる舌の赤さに透かし見る真夏の太陽 あらゆる善意は検疫を免れない あらゆる悪意は消毒を避けられない いとも平らかに湾曲する大衆とふぬっへっほふよ 高分子吸収体を街路に散布せよ 常闇の回廊に注入せよ 阿鼻叫喚に膨張した空とぶざぶとん しかも花柄! ヒョウ柄! ハート模様! ニコちゃんマーク! 表情筋引きちぎれるまで声上げよ 叫べ! すべての豚は背割りに あらゆる鮟鱇は吊るし切りに あまねく一切の女は股裂きされている 拍動する血の海に泥舟 むしろの帆をかけて たたえよびるぜんまりあのM字開脚! ぜすきりしとの肛門アレルヤ! エネマグラ ぶってぶって 右の頬をぶって ぶってぶって 左の頬をぶって 憤怒したたる実存の密林デンタルフロスで研ぎすまし 懐かしきはあの夕間暮れ 朋友と交わせし雑巾絞り のたうつ荒野の果てに悲哀の弓を引き絞り 笑わば笑え 大地を茹で尽くす無精卵どもよ! ---------------------------- [俳句]矢印 β版/石原ユキオ[2007年10月2日0時06分] AIという類人猿が支配する町で プレカリアートたる我々の無抵抗不服従単純労働 ここは湿り気があるから白い虫 わたしには栄養があるから白い虫がわく クリトリスをこねる要領でひねりつぶす 日曜日のキャッシュコーナーでひねもす 無い金を出し入れする 手数料を払い 出して入れて出して入れて出すたびに手数料を払い 入れて出して入れて出して入れて出すたびに手数料を払い 「一ヶ月で5キロの減量に成功しました!」 ベルトコンベアで運ばれてくる 記号の中から不適切な因子を正確に排除し ときにこっそりと持ち帰る ときにこっそりと見上げる緑色の男 非常時に憧れて階段を踏み違えるような人生だった 今までも そしてこれからも   (先輩顔が赤いです   (鼻から湯気が出ています いいえ後輩 これは鼻毛です 五十年後のなけなしのわたしからのびてきた 真白き蜘蛛の糸 夢と言える程のものもないですが 敢えて言うなら 少女として一生を過ごし 世の中に害をなしたい 父はこの惑星を星型に削る工事に参加していました 人類がよりわかりやすく輝くために 切り立った崖にはりつくいもりの黒焼き のような父を見た 遺伝的に あるいは当然の権利として 都市部の一般的な人間が年間に浴びる約五十倍の罵詈雑言を濃縮し わかめと呼ばれる 誇らしくグンゼの下着を露出する 出して入れて出して入れて出すたびに手数料を払い 入れて出して入れて出して入れて出すたびに手数料を払い    矢印の通りに歩く油照り 辛酸を 舌頭に 千転せよ ---------------------------- [おすすめリンク]週刊俳句 "落選展"/石原ユキオ[2007年10月29日1時46分] ウェブマガジン「週刊俳句」10月28日号に、角川俳句賞に落選した15名(一次予選通過者3名含む)の作品が掲載されています。 http://weekly-haiku.blogspot.com/2007/10/2007_28.html ★角川俳句賞ってなあに?? 昭和30年に角川書店により創設された新人賞。角川学芸出版「俳句」誌上で発表される。 俳壇の芥川賞と呼ばれている割に若者が受賞するケースはごくごく稀。 今回の受賞者津川絵里子さんは9年ぶりの30代女性だそうです。 週刊俳句10月28日号には津川さんの10句も載ってます。 ---------------------------- [携帯写真+詩]デリヘル抄【自由律俳句】/石原ユキオ[2007年11月3日17時57分] たいていのものは飲み込める歳になった 鞄の中でイソジンがこぼれた 五センチの隙間からチェンジと言われている 携帯小説読んでも文学少女と呼ばれ なじみの客がとってくれた宅配のピザ 新入りが傷だらけの腕見せてはにかむ 過去はラメ入りのプリクラ 待機中回し見るPJのカタログ 痛すぎて手を挙げた ボトル緑茶で苦味をごまかしている 路地で殴られていた浮浪者父に似ていた 江古田ちゃん読んで泣く休日 生理休暇のぬるいビールだ ロリ系の熟女とは私のことか 胸のないゆうこりんとは私のことか 泡立ちの悪い男だ 陰性ですよと言われて木漏れ日の待合室 また二歳若返らされる誕生日 指名なくて一週間終わる ---------------------------- [散文(批評随筆小説等)]日記/石原ユキオ[2007年12月28日17時18分] 某月某日(土)  句会に出席する。三上先生、毒猿さん、ゆりえさん、ディエゴさん、吉村夫妻。万寿夫さんはウランバートル出張のため欠席。兼題「魂」には皆さん苦吟難吟だったよう。私の「たましいの毛玉に氷柱ゴルゴンゾーラ」は逆選ばかりでマイナス三点に。何故。構造が単純すぎるのか。  遠回りして帰ったら、ホーカン町の八百屋の裏にメガネ屋ができているのを発見。話には聞いていたものの、まさかこんな田舎にメガネの店ができるとは。コンビニまで戻って手数料を惜しみつつお金を引き出し、一匹買ってみる。一番安い飼育セットも。 某月某日(日)  朝起きて、まずメガネの箱を開ける。メガネはセットの布切れにくるまって眠っていた。頭をなでてやるとうっとうしそうに首をふって布の下に隠れてしまった。布を持ち上げるとメガネも一緒に持ち上がった。キュウとも鳴かない。かわいい。布団から出ようとしないのは飼育箱の気温が低すぎるサインです。そのままにしているとカゼをひきます。サーモヒーターで温めてあげましょう。服を着せるのも良い方法です。と、メガネマニアのサイトに書いてあった。明日、会社帰りにメガネ屋でお洋服を探そう。サーモヒーターはネットオークションで買うか。午後からは嘉助とデート。嘉助の新しい人力車に乗せてもらう。ひくほうは暑かろうが、乗る方は寒い。途中から交代。良い運動になった。 某月某日(火)  昨日メガネに服を着せてみたらなんとも良く似合うのでいじり倒してついつい夜更かし。日記も書かず、電源が切れるように寝てしまった。  タンクトップ、ボクサーブリーフ、ロンT、セーター、ジーンズ、ソックス。小さいのでものすごく着せにくかった。サーモヒーターがない分、部屋を温かくして布団からはがし、着せた。寒い思いさえさせなければたいがいの事は嫌がらないようだ。  以前はペットに服を着せて悦に入る飼い主の自己満足を軽べつしていたものだけれど、こうしてペットを飼ってみるとその気持ちがよくわかる。っていうか、そもそもメガネは着せ替え遊び用に作られたようなものだから、べつに恥ずかしいことではないのだ。 某月某日(水)  事務所に本社から監査。社員さんたちにはメープルシロップの保存方法について指導があったようだ。お茶をいれて持っていったときにチラッと見えた。本社の人、ストッキングみたいなオヤジソックスを履いていた。それもラインストーン付き。むしろショート丈のストッキングか。しかしスーツのズボンがホットパンツ状なのは如何なものかと思う。  仕事帰りに駅で小桃ちゃんと会った。羽根につやがない。心配だ。 某月某日(金)  昼休みに嘉助から矢文が届く。矢文なんて中学以来。嘉助もたまにはロマンチックなことをする。「ぬばたまの黒豆ごはんボナペティ  嘉助」との事。いつのまに俳句のスキルを身につけたのか。あなどれぬ。  嘉助の家で黒豆ごはんをごちそうになってそのまま泊まる。つもりが、メガネのことを思い出して家へ帰った。 某月某日(土)  昨夜からメガネに元気がない。箱の隅でひざをかかえて座っている。ネットで検索していて、餌をやっていなかったことに気づく。いきなりたくさん食べさせるのは危険だそうなので、少しずつ、無印良品の6番のCDから聞かせ始めて、under world・武満徹・テイトウワ・駅前旅館・ガレージシャンソンショーなども与えてみる。電子音はよく食べる。母の書斎から姫神を借りてきて与えたところ、これはひどく嫌がった。   姫神や紅葉鍋噴出する郵便受けの強姦   奈良三山眠らせ後ろ髪引くテイトウワ 某月某日(日)  小桃ちゃんから矢文。(最近はやってるのか?)メガネを買ったので見に来ないかと言う。メガネなら私も飼っている、と電話で返事をする。今度互いのメガネを遊ばせてみようという話になる。  今日のメガネはよく遊んでいる。リカちゃん人形に蹴りを入れる遊びだ。さしずめデートDVごっこ。ひげが伸びたので、専用のかみそりで剃る。つるんとすると幼く見える。化粧水と乳液をつけてやると、アルコール成分に酔ってますますリカちゃんを蹴っとばすのだった。かわいい。 某月某日(火)  メガネに新しい服を買う。ハイネックのセーター。着せてみると、 某月某日(水)  昨日は日記を書きながら寝てしまった。布団にインクの染みが広がって新婚初夜のよう。そういえば最近まぐわいらしいまぐわいを行っていない。 メガネがジーンズを脱ぎ捨て、ボクサーブリーフの中に手を入れてもじもじしている。メガネが私と同じぐらいの大きさだったら犯せるなあと一瞬思った。 某月某日(木)  毎日音楽を与えてみたところ、舞踏を排泄するようになった。エネルギー源は音楽、カスは舞踏。臭わない、掃除の手間がかからない理想のペットだなんて、なんてご都合主義な。薔薇から精気を貰う吸血鬼の一族もいいとこ。リアリティの無いことこの上ない。  ところで今日初めて係長のネクタイが自立するのを見た。貴重な体験。 某月某日(金)  句会報が届く。頁数が増えて豪華になった。 道端の易者に骨盤の歪みを指摘された。母も若い頃は庭師やポルノ映画のスカウトマンに骨盤の歪みを指摘されることが多かったと言う。家系か。   つぬするす雪どぬすてんるるポルノ 某月某日(土)  午前五時起床。まだ眠っているメガネをブラジャーのすき間に入れて、前開きの服を着て、コートをはおる。六時半のバスで小桃ちゃんの家へ。小桃ちゃん、やや血色が良い。門扉が紙製になっている。メンテナンス大変でしょ? って聞いたらママが株でひとやま当てたから平気とのこと。家の中は前と同じだった。玄関に生えているおじいちゃんに挨拶をしたら酢こんぶをくれた。小桃ちゃんはおじいちゃんを恥ずかしがるが、私は羨ましい。うちはおばあちゃんばかり三人だもの。  小桃ちゃんは鴨居を器用によけながら家の奥へ案内してくれる。小桃ちゃんの部屋へ近づいたら突然メガネが動き出して、胸からもぞもぞはい出てきて、私の身体をすべり降りて、走って行った。逃げた! と思って追いかけたら、メガネは小桃ちゃんのメガネの飼育箱に飛びこんでいった。小桃ちゃんのメガネは私のより耳たぶ一枚分小さい。疲れたので続きは明日。 某月某日(月)  昨夜は嘉助の家に泊まった。嘉助の人力車(古いほう)で会社に送ってもらった。社員さんたちには見つからなかったけど、守衛さんにひやかされた。嘉助はそのまま営業。  昼休み、小桃ちゃんのママがくれた株主優待のチケットがあったので、ほとけ弁当へ。牡蠣のシュルレアリスト風を買う。美味。ほけ弁くんキャンディをもらった。 某月某日(火)  夕方、三上先生から電話。矢文を飛ばしたので読んでください、と。なんか最近矢文が多い。矢文は二階の窓の下に刺さっていた。広げるとA3サイズ。太字の万年筆で大きくLOVE・9と書いてある。暗号か。  メガネの様子がおかしい。箱のすみでひざを抱えていることが多い。あまり排泄しない。音楽を聞かせようとしたら耳をふさいでしまう。飼育箱の下に人間用の電気ざぶとんを敷く。温めても元気がない。 某月某日(水)  メガネ屋からDMが届く。英国風の背広が入荷したとのこと。うっかり一着注文してしまう。  小桃ちゃんからメガネが体調を崩しているとメールあり。小桃ちゃんのメガネは踊り狂っているらしい。メガネマニア言うところの「下痢」。うちのは「便秘」なのだと返信。  やたら冷えるので鍋を出す。なかなか温もらない。温もったら熱すぎる。これで寝たら低温火傷だ。そろそろ新調せねば。   コンシリエーリを解雇せしめよ甲状腺が火事   冬銀河赤乳首青乳首陥没乳首 某月某日(木) ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ BoB vol.2 掲載 ---------------------------- [俳句]矢印/石原ユキオ[2008年1月17日23時59分] 黒鍵の押されて戻る五月闇    桜桃忌知らない人と手をつなぐ   火取虫それは愛かもしれないし   まっさらな手首でかきまぜるプール   かさぶたのやわくなるまで水遊び   水着脱ぐ片耳はまだ水の中   夏蝶を留める休講掲示板   意地悪じゃなくてわがままパイナップル   曝さるることなき「球根栽培法」   ディエゴ・リベラのお腹みたいな西瓜割る   ひっくり返してかけざん青林檎   矢印の通りに歩く油照り   着信は十件白玉をゆでる   鉛筆と消しゴムの百物語   日に焼けて月刊少年ジャンプかな     ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 黒鳥 秋季号(平成19年10月1日発行)掲載 ---------------------------- [自由詩]傾斜するラブレター/石原ユキオ[2008年1月22日21時28分] あんたは何様なん尊大 な態度時には感謝する とかまるで無いけどま じで超超いけずって程 もSでないって本当に 半端じゃと思うわけよ 微妙に傍若無人だしみ ょうに空気読まんゆえ に居心地最悪!きすし て貰えるかもと思うな ---------------------------- [自由詩]祖母ジュース/石原ユキオ[2008年2月1日21時34分] 長年患った糖尿病の悪化により、祖母石原みよしの尿はパイナップルジュースになりました。寝台の横に置かれたポータブル便器よりこんこんとわきいづるアンモニヤ臭の中に仰向けていた石原みよしはいまや、ふんぷんたるトロピカルの中心に坐し、ウクレレを奏でています。 長年患った糖尿病の悪化により尿がパイナップルジュースになってしまった祖母石原みよしはいまや、一家五人の貴重な栄養源。ポータブル便器のバケツ部分から五つの湯のみ茶碗へくみ分けて、湯気の上がるそれをいただく我が家の朝食。祖母みよしを囲んでの一家団欒。 便座の裏側に結晶した祖母みよしの尿はパイナップル糖として売られています。ゼーエー岡山を通してお買い求めいただけます。パイナップル糖をお召し上がりいただいた方が、ジュースを飲ませてくれと訪ねてこられることもあり、祖母石原みよしお気に入りのムームーのハイビスカスも満開におめかししてお客様をお迎えするのです。 今日は神奈川から自転車で来たといういがぐり頭の少年。「みよしさん」と声をかけられた祖母みよし、おもむろにムームーまくり上げ、きねつきもちのごときふとももに少年の頬をはっしとはさみこむ。少年の日に焼けた鼻の先が柔肉をかき分けて陰核押し上ぐるやいなや、ぢょおろりんぢょろんとほとばしる祖母のパイナップルジュース。ほとばしる祖母のパイナップルジュース。一滴ものがさぬようにこぼさぬように喉を鳴らす少年。陶然と天井を見上げている祖母石原みよし八十三歳、その手元でウクレレがポロン。 長年患った糖尿病の悪化により、祖母石原みよしの尿はパイナップルジュースになりました。ふんぷんたるトロピカルの音階を奏でる祖母の寝台の周りにはいまや熱帯の植物が生い茂り、猿なども住みつき、火山は隆起し、連日の猛暑となりました。 マラリアの熱にあえぐ石原家一家五人の楽しみは、祖母みよしの尿を焼けたアスファルトに流して作るべっこうあめです。あるいは、排尿途中の祖母みよしをタンブラー式乾燥機に放り込んで作るわたあめです。かき氷に冷やした尿をかければ完膚なきまでにお祭りの夜なのです。べっこうあめもわたあめも近くゼーエー岡山より販売予定です。 いま、蛍光灯の紐をかすめてツエツエバエが飛んでいきました。祖母石原みよしは、今日も新鮮なパイナップルジュースです。 (2007年) ---------------------------- [俳句]粗野、小火。/石原ユキオ[2008年4月26日18時20分] 鳥雲にアイロン崖下ルーデンス キュビズム芽キャベツ脅迫的求婚 ずんべらぼんで維持する牢獄や朧 暴飲暴贖罪四温にじむ産婆だ 母音なる子音やしかとかぎろえり ふり返る花曇りるるぶれ茶筒 金堂む海市求むる涙・情・恨 胸々しき野仏や艶、粗野、小火や 下血に菫ほどほどにしときなれ 黒潮や老体りくらぶれどベンツ逆突 銀山雪崩る唐獅子ボンビージャ 早春やぷぬりぽんぱるぺろみバス 馬並の鈴生りのほにゅうびん春蚊 茫洋タルタルす定期地獄の刑期 坂咲く枕木るど凡そわ乎 妙薬の切れ目微動だに卒塔婆 蟲(笑) 萵苣や繁茂墳墓独房の孤児 V%V V%V V%V 仔猫にギャル語ろくすっぽんたる革靴     第17回「大朗読」(2008年3月22日)にて ウロボロス高校第三演劇部として朗読 ---------------------------- [俳句]冬萌え。/石原ユキオ[2008年4月26日18時22分] 暖房やあなたは紐の多い服   おじさんは生きてって言う冬の蝶   朝礼の真中を進め砕氷船   冬眠や父は微妙に膨らんで   着ぐるみの覗き穴から初景色   袖口がほんのり臭い春隣   妹の傘に傘の絵春浅し 黒鳥 春季号(平成20年4月1日発行)掲載 ---------------------------- (ファイルの終わり)