服部 剛 2017年12月8日23時22分から2018年5月26日0時29分まで ---------------------------- [自由詩]小さな箱/服部 剛[2017年12月8日23時22分] あの頃 布団に包まりながら 小さな糸口を探していた 抱えた頭の中で 絡まる悩みを こねくりまわしては 豆電球のぽつり、灯る 薄暗がりの部屋で 見上げた 時計の針はすでに 午前一時 何処へ腕を伸ばせども 手のひらに掴む答もなく (長い間、陽は昇り、陽は沈み) 布団からむっくり、起きて ラジオのスイッチを ON にする 小さな箱から中島みゆきは 「時代」を唄う 歌の途中でフェイドアウトしてゆく CM前の――静寂 窓外の何処か遠くから 貨物列車の夜明けへ走る 微かな音が聴こえた   ---------------------------- [自由詩]自らを脱ぐ/服部 剛[2017年12月8日23時59分] やがて夜は更けゆき 恐れと不整脈は 徐々に…消去するだろう 私はゆっくり「扉」を、開く (微かな光は隙間から洩れ) まぶしい彼方から 誰かの影が 一通の手紙を携え こちらへ歩いて来る 仄かな明るさに充たされた 脳内に除夜の鐘は鳴り響き 呪文は繰り返される 〈私ハ私ノ主体ヲ、棄テル〉 〈私自身ヲ 空洞ニスル〉 〈私ノ中デ 誰カ ガ生キル〉 今まで 自分を覆っていた虚飾の皮は ぱらぱら、剥がれ落ち めくれゆくほど 肉体に宿る 裸の心 輝きを増す   ---------------------------- [自由詩]愛染めかつら物語/服部 剛[2017年12月14日19時41分] 突然の突風! で、かつらの飛んだおじさんが とってもイケてる男である 可能性について ある夜、僕は考えていた クリスマス前の何故か切ない 歌舞伎町を漫(そぞ)ろ歩きながら     * 「 その昔、頭の秘密を   女にばらした告白の部屋で   美人は微笑みを浮かべ   無邪気に2回、地肌に優しくたっちした   膨(ふく)よかな指の腹で撫でられた時   おじさんの頬に   一粒…ぽたり   ズボンに沁みた、熱いもの    」     * エエ男はきっと顔じゃない エエ女はきっと中味を見抜く そんな人知れぬ路地裏の部屋に 隠れた 物語の場面を脳裏に浮かべ ほろ酔いながら 頬を赤らめる僕は ネオン街の生ぬるい風に包(くる)まれて 足のつま先の向くまま 賑(にぎ)わう人波をすり抜けてゆく 12月のホワイトクリスマスを 背後のBGMに…聴きながら   ---------------------------- [自由詩]陶芸家とわたし/服部 剛[2017年12月14日20時14分] わたしは回る器 道を歩くとき 佇むとき 疲れた夜、布団を被り目を瞑るとき いつも わたしの存在の中に立つ芯は、回転している 目には見えない陶芸家の 血液が流れる透明の手に ふれられて 形造られてゆく わたしの回転は緩(ゆる)やかに加速する    * 陶芸家の住む家の 土壁の窓から 和(なご)やかな日向(ひなた)のそそぐ朝も 豪雨の声が地に騒ぐ昼も 冷えた風の吹き抜ける夜も わたしという器は回り続ける 生きる歓びにもがきながら   ---------------------------- [自由詩]一行詩 5/服部 剛[2017年12月20日17時26分] 日々の舞台で、僕は自らを奏でよう。 ---------------------------- [自由詩]日々の対話/服部 剛[2017年12月20日17時46分] ファミリーレストランで 空いた皿を テーブルの隅に、置く ウェイトレスが歩いてくる 音楽は 旋律のみでなく 日々のセッションにより 織り成される ---------------------------- [自由詩]新しい家/服部 剛[2017年12月21日21時22分] 我が家の隣の空き地に 新しい家は建ちつつあり 向かいの古い家は解体されている 隣の現場は和(なご)やかな空気が流れ 向かいの現場は罵声ばかり、飛んでいる 同業であれ、空気の色は違うようで きちんと仕事はすべきだが 急がず、弛(たゆ)まず、声を掛けあい (すくらむを組み) 着々と…日々 家のからだの形作られる 隣の現場が好ましい 作業が始まり二ヶ月 青いメッシュシートに覆われた ベージュの落ち着いた家 何処かほのぼの陽に照らされ がらん、とした庭 やがて玄関の口は開き 新たな日々へ訪れる家族を 静かに迎え入れるだろう   ---------------------------- [自由詩]或るピアニストに/服部 剛[2017年12月21日21時48分] ((快晴ノ日)) 友の死を越えて 飛躍する 我が魂 深夜の只中に 包(くる)まる (sanaka) 開かれる ひかりの世界 疾走せよ この一度きりの道を 自らのからだを忘れるほどに 無重力の時へ 滑走路の日々を、走り抜ける わたしの goganfuson なほどの・・<<岩>>の只中に 碧い光を放射する 御魂(みたま)が 宿る (分解セヨ) 言葉を 人を 世界を 我を    * ピアニストよ 鍵盤から 夢を奏でよ お前が指を置く時 世界は音楽になる たち昇る waveのからだの核に 小さな丸い 真空の穴が空いている 旅人の足音は 同時平行の 二重奏 ゆけ せいれーんは 木枯しの 只中に  〜  〜  〜 mieru  〜  〜  〜 (あの女(ひと)の・・瞳よ) やがて 全ての物語は 機織(はたお)られてゆく わたしは生きる 見エナイ宇宙に 繋がりながら た・た・た・た・んのリズムで ピアノと 人間は 一つになる 軽やかな限界の線を往く者が この世の平均台を伝うだろう 両腕の tsubasa をひろげて    * 今宵、わたしは視る この夏に旅立った 義父の 右手を   ---------------------------- [自由詩]王さんと会った日/服部 剛[2017年12月21日22時16分] うぉるふがんぐという店で お茶を飲みつつ詩を書いて ふと顔を上げたら 王さんが食事をしていた ユニフォーム姿の頃より 齢を重ねて今年喜寿の 王さんは 大柄でもなく 素朴な姿の内に 揺るぎ無い「一本足打法」の 筋金が通っている ――懐かしのテレビ画面が甦る 四十年前の後楽園球場の 夜空に舞い上がる 世界一の白球 (打った瞬間の感触は無かった) 諸手を上げる王さんは 一塁…二塁…三塁ベースを ゆっくり走り ホームベースで 待つ仲間に迎えられる ――その夜、昭和の日本は湧いたのだ しゃがんで渡したメモ帳に 漢字三文字のサインを もらった僕は そっと名刺を渡し 世界の王さんは 気さくに、尋ねる 「ペンクラブって何を書くの?」 「野球の魅力も伝えるようにがんばります」 「そう、がんばってね」 「ありがとうございます」 深く頭を下げた僕は コートを羽織り 店を出た   ---------------------------- [自由詩]歩行者の唄/服部 剛[2017年12月26日21時31分] 旅人は今日も漫(そぞ)ろ歩いてゆくだろう 「良い」と「悪い」を越えた 地平を目指して 脳裏を過(よ)ぎるいつかの別れは 忘我の歩調と 風に紛れて すでに 体の無いあの女(ひと)は 密やかな唄を囁いている 今日も 鼓膜に消えない唄声を聴きながら 旅人は繰り返しの日々を通過してゆく 明日も出逢う旅の仲間と 目と 目の 合う、瞬間を求めて 無数の鏡をすり抜けて また一枚 すうっと足を踏み入れる 我を忘れて闊歩するほど 玉葱の皮の剥かれゆく <聖玻璃(せいはり)時間>の――只中へ   ---------------------------- [自由詩]風呂敷のなか/服部 剛[2017年12月26日22時03分] 風呂敷の歴史を遡(さかのぼ)ると 古の都栄える奈良時代 唐草模様はなかったが 目には見えない<宇宙ノ心>とやらを きゅっと包み 人間は、運び始めた 平成二十九年の師走という 少々冷えた時代の夜道を 僕は「けせらせら」の鼻歌まじりに歩く (路面にのびる自らの影と共に)  すまーとふぉんから  しょーとめーるをひとつ、送信 腹を割って話せる友人宅の玄関へ向かって 足の向くまま 気の向くまま 風呂敷包みの一升瓶を、ぶら下げて   ---------------------------- [自由詩]カレンダーの絵/服部 剛[2017年12月28日18時19分] 先月までの重たい日々を 払うように えい! と カレンダーを千切ったら なんとまあ 「奥行き深い海の夕焼け」 ただの紙っぺらであるようで されど紙っぺらであるようで もしや 世界は捨てたもんじゃない のでは? 冷たい床の上に裸足で佇む 私の脳内に 深夜の思想が白い弧を描く 午前〇時〇一分   ---------------------------- [自由詩]古書店のカウンターで/服部 剛[2017年12月28日20時27分] やあ、とふらり訪れ 古書店のカウンターに 腰を下ろし ぶれんど珈琲を一杯 久方ぶりの店主の友は 外出中だけど カップが空になる前に 間に合うかな? じっくり苦みを味わうひと時に 身を置いて、待ってみる (何処かで烏がカアカア鳴いても  帰らずに「パリの悟り」の頁を開けば  ずっと探していた  旅の秘密が  幾千の文字の裏側に隠れている) 無精髭ものびたまま ヒマ人を装い 珈琲カップを傾ける 夕暮れ時 カウンターの隅に置かれた 小さなツリーに 浪漫の欠片が、明滅する 店内に流れる ゲーリースナイダーの 呪文の朗読に、呼応して   ---------------------------- [自由詩]詩とジャズの夜 ―ドルフィーにて―/服部 剛[2018年1月5日18時40分] ジャズの老舗(しにせ)・ドルフィーで 朗読会の司会をした 詩人達は数珠(じゅず)の言葉を…紡(つむ)ぎ 休憩時間に賑わう 暗がりの店内に紫煙はたゆたう カウンターの隅に目をやると 頬に影差す白髪(しらが)の男が 目を瞑り、グラスを傾けている   僕はマイクを手に ジャズ奏者のトリオを紹介し 舞台脇の段差に腰を下ろすと ライブは始まり ピアニストの無数の指は 鍵盤の上に踊り ギターの旋律とドラムの鼓動は あ・うんの呼吸で絡み合う 司会者であるのも忘れ ハイボールに火照る顔のまま 閉じた瞼(まぶた)の裏の?0コンマ1秒?に ドラムのスティックから弾ける 闇の火花が、視えた 日々の重たい宿題に 両手で頭を抱え 不格好な役に縛られていた がんじがらめの夜の部屋から ゆっくり腰を上げ 僕はメッセージを受信する ――思考よりも、速く 演奏が終わる トリオは舞台を去り 拍手の波が静かに引いてゆく ---------------------------- [自由詩]神保町の酒場にて/服部 剛[2018年1月10日0時42分] 夜のカウンターは、自由 グラスを傾け 黙するも 語らうも 頬の赤らむ頃 脳内は緩やかに時を巡り 僕は世界に、恋をする 僕は形見に包まれて 白い肌着は 幼稚園の頃の先生の亡き夫のもの ブルーのYシャツは 空の上の詩人の恩師で きつねのネクタイは 体の無い○○さん 隣の空席に 昨年の夏に旅立った 同居の義父の酒に酔う 面影は浮かび 語らいたく…なってくる ――なんだか僕は   体の透けた人々に囲まれて   不思議な気分の今宵です   グーデンベルグの革命   以来の   印刷革命を成した   お義父(とう)さん、   あなたの求めた浪漫に   今夜僕は、気づき始めた   初めて行った文藝家の集いで   ワイングラスを手に   <心の宿る名刺>を静かにばら撒いて   人と人の間に   細く光る縁(えにし)の糸を   密かに育み始めたことを   お義父さんに、呟き      (レトロな店内に    「愛の賛歌」は流れ始める)   思えば   結婚前の嫁さんが僕を紹介した   あの日のサイゼリアの長椅子に   あなたは、引っくり返りましたね   今年の僕はぽーかーふぇいすの面持ちで   静かな炎の人になり   通り過ぎた誰かが   幸いにも   引っくり返るやも…知れぬ そんな青写真を 脳内のスクリーンに浮かべ カウンターに肘をつき 目を瞑り 只、耳を澄ます 我が胸に、繰り返す   心臓の音   ---------------------------- [自由詩]歩く本/服部 剛[2018年1月13日22時44分] 私が今、ここに立っているのは 素朴な一つの謎であり 今日の場面を、静かにみつめ 掌にのる 小さな巻物を開いて 設問を解き明かしながら 歩きたい 重力に支配されるこの世界で 私は、軽やかなステップを探す  教科書は何処にも無い 私自らをひとりの本として 歩けば 道の向こうから 歩いてくる 不思議な本のあなたと、出逢う   ---------------------------- [自由詩]家康公/服部 剛[2018年1月19日18時22分] 不安定な天気に 心模様のゆらぐ時 わたしは自らの存在の 「奥の間」に 小さな家康公を据える 信長のように、要らない者を斬るでなく 秀吉のように、天下を取って豹変するでなく ――鳴かぬなら鳴くまで待とうほととぎす の姿で わたしはじっと、鎮座する 静かな炎を瞳に認(したた)め 雲間から 時勢の兆しの、射す日まで   ---------------------------- [自由詩]足音/服部 剛[2018年1月25日20時18分] キーツが本の中から語る 細い川の流れが、視える 道を歩くわたしの影にも 細い川の流れが、視える 時代も国も 異なる二人の間を 結ぶ ときの川のせせらぎに 耳を澄まして歩けば 会うことも無い 見知らぬ誰かの 足音が わたしと似た歩調で 遠い明日からこちらへ歩いてくる   ---------------------------- [自由詩]空ノ声/服部 剛[2018年2月8日18時13分] 遠くに数羽の鳩が舞う あの泉を目指し 時の川をのぼりゆく (空ノ青サガ 私ヲ 呼ンデイル) 夢の鞄をずしりと背負い 快い逆風を裂きながら いつしか爪先は方位磁針になる この足は もう、停まらない   ---------------------------- [自由詩]子守唄/服部 剛[2018年2月8日18時42分] 風呂で溺れた ダウン症児の周ちゃんが 救急車で運ばれ 一命を取り留めた 子供病院 入院後の回復は順調で 3日後に人工呼吸器は外れ ゆっくりと目を覚ました 日が暮れて、パパは スーツ姿で面会にゆき ベッド柵に囲まれた 周ちゃんは 今夜も寝つけず 昨日ママが、家から持ってきた 歌の玩具のボタンを押すと 静まり返った病室に バッハのアリアは流れ出す 300年前の 遠い異国の御魂(みたま)は メロディとなり 時を越え 幼い胸へ流れる 小さな耳をぴくり、傾ける 我が子を ベッドの傍らで見守りながら (不滅なもの)を想う 子供病院 消灯の時刻   ---------------------------- [自由詩]日曜日の公園/服部 剛[2018年2月9日0時05分] ゆっくり育つ息子が 五歳にして 歩き始めたので 日曜日の公園へ連れてゆく 小さな影は、日向(ひなた)にのびて ひょこひょこ歩き 地べたに尻餅をついては 砂を、払ってやる ふたたび立ちあがる、小さな影は ひょこひょこ歩き 枯葉を踏みしだく上り坂で ゆらりとバランスを崩した所で、手を繋ぐ 日曜日の公園で さりげなく活躍する若いパパ達 女の子のブランコを、押す 男の子の砂場に、山をつくる 息子を滑り台の頂上に、立たせ 素朴な幸いに賑わう公園を見渡す まだ言葉を知らない息子の あどけない肩に、パパの手を置く ――ここは君に与えられた世界   ---------------------------- [自由詩]涙の先/服部 剛[2018年3月19日18時26分] ダウン症をもつ書家 金澤翔子さんの展覧会で 母親との二人三脚で書いた 「涙」という文字が壁に掛かっていた 隣には 今は亡き父親と、手を繋ぎ 道を歩いてゆく 幼い頃の写真が掛かっていた 何故か「戸」の部分のみ 濃く書かれ 「涙」の乾いた後に開く 「戸」の先に 何処までも余白が広がっていた   ---------------------------- [自由詩]下駄の音/服部 剛[2018年3月22日18時06分] 僕の部屋の片隅に 久しく再会した 幼稚園の頃の先生が呉れた ご主人の形見の下駄が 置いてある 夜の部屋で、ひとり 黒い鼻緒の下駄を見ていると あの大きな背中と共に からん、ころん、と鳴る音が 何処からか聴こえくる もはや体の無い人の 形見を履いたこの足は 自らの運命を下駄に預けて からん、ころん、と鳴り響き これからどこへゆくだろう   ---------------------------- [自由詩]春の門/服部 剛[2018年3月26日20時59分] 「周ちゃーん!」 パパとママと手をつなぐ息子の 後ろから、女の子が呼びかける 周が、まだ言葉を知らなくても すぐに反応がなくても 女の子は小さな春風と共に 保育園の門へと、駈けてゆく 卒園式は始まり お友だちと一緒に壇上に並ぶ周の傍らに 若い先生はつき添い やがて園長先生から名前を呼ばれ 二人三脚でひょこひょこ歩く周に 卒園証書は手渡され 他のパパやママたちも、拍手する 周よ お前が6歳なら パパもパパとして6歳であり お前がゆっくり成長するように 穴ボコだらけのパパも ゆっくりパパになっていく 式は終わり 「今日は周ちゃん、がんばりましたね!」と ねぎらってくれる先生たちの 瞳に光る宝石を、胸に たくさんのプレゼントを抱えるパパと 周を愛しく抱っこするママは 五年間を過ごした保育園に、手をふり 新たな季節へと続く 卒園式の門を出た   ---------------------------- [自由詩]坂道の風景/服部 剛[2018年5月23日23時33分] この部屋の窓外に まっすぐ上りゆく 街路樹の坂が見える いつか旅した函館の風景 のようで ここは都内だ 今日もこの街で 人々は語らい キッチンの皿は音を立て 車は行き交うだろう それら全てが音楽ならば この世にも少し 頷けそうな気がして 僕の脳裏を思いは巡る 坂道のもっと先にある 風景について ---------------------------- [自由詩]鎌倉日和/服部 剛[2018年5月23日23時59分] 晴れた日の鎌倉は 緑の木々の間に立つ お墓さえ 明るく見える あの日、体を脱いだ君は いつから 若葉をそよぐ 風になったろうか 何処かで鳥が鳴いている それは円い空から 鎌倉の道を往く者への 小さな合図 ――あなたに宿る   方位磁針の指すほうへ   ---------------------------- [自由詩]広瀬川のほとり/服部 剛[2018年5月24日22時19分] この古びた階段を登ってゆけば あの宙空が待つだろう    * 何処までも細く真っすぐな緑色の道 私がどんな哀しみに歪(ゆが)んでも あの空は この胸に結んだ ひとすじの糸を、手繰(たぐ)るだろう    * 柳よ、何故そんなにも風に身を揺らすのか 川よ、何故小さな流れの渦は この胸奥(きょうおう)の 血管を――巡るのか    * 背丈の高い木が、無言で歓ぶ 密やかな午後と 遠い町の喧騒    * 私はまだ知らない ほんものの陽が いともか弱い、自らの影を くっきり立たせていると    * 今日も水車は からから…廻り 川の飛沫(しぶき)は頬に、跳ね 私の中も廻り始める    * 空に白い月が膨らみかける 午後 土蔵の暗がりに入ると 朔太郎の澄んだ宇宙の瞳と 目が合った   ---------------------------- [自由詩]埴輪ノ声/服部 剛[2018年5月25日18時28分] 空洞の目から 風景を吸い 真横に向く耳から 音を吸い 手も足も無く がらんどうの体で立つヒト 薄く口を開き 遥かな命の記憶について 旅人の僕に 今にも?何か?言いそうだ   ---------------------------- [自由詩]風にのる/服部 剛[2018年5月25日18時42分] 利根川の畔(ほとり)に佇み 川の流れと 人の歩く時間について 思い耽っていた 風が吹き ふり返る僕の方へ 無数のタンポポの綿毛が秘めた笑いを響かせ 降ってきて――今日の景色は、夢になる 目の前を 小さな一つがゆき過ぎて 緑の芝生に、着地した 僕も 誰かの 小さな種になりたい 自らの日々を、風に任せて   ---------------------------- [自由詩]空の声/服部 剛[2018年5月26日0時29分] 人と人の間の カキネのカベを、壊す時 遠い空で 合図の笛は鳴るだろう   ---------------------------- (ファイルの終わり)